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正義の味方
しおりを挟む俺は俺の身体からごうごうと湧き出てくる白い炎に驚いたりはしない。ルナは白い炎に当たらないように俺から大きく距離を取った。
身体から湧き出た白い炎は最初こそ勢いが良かったが、ルナが距離を取ってすぐに白い炎の勢いは衰え始め、ついにはボッボッボッと音を残しながら発火を繰り返して、消滅した。
「最後の足掻きってやつ? 雑魚敵でも存外にしぶといのね」
ルナの口調には呆れの感情が含まれていると感じた。
俺はゴホゴホと咳を鳴らしながら、膝立ちから立ち上がる。左手の甲で口を殴り拭う。ピッと赤い液体が飛んで、左手の甲には血がべっとりとついていた。
白い猫が俺に立ち上がる力をくれた。俺はそれに答えなくてはならない。
油断なく、ルナを見る。
「諦めることを知らない瞳。その瞳、鬱陶しい。悪の組織の雑魚敵が、正義の味方みたいな顔やめてよね」
ルナから鋭い目と、キツい言葉を貰う。
「俺が、正義の、味方みたいな顔、だと? くだらねぇ。そんな奴らとは、一緒に、されたくない」
「そうね。正義の味方は、好き勝手に暴れ回る貴方たちとは違う。悪の組織の貴方たちが居なければ、皆んなが笑って、平和に暮らせる世界になるのに! なんでわかんないの!」
そう、正義の味方は『皆んなが笑って平和に暮らせる世界になる』そんなありえないことを平気で思い描いて、悪の組織を倒すために正義の力を振るっている。俺は笑いが出て、ゴホゴホと咳を鳴らす。
「悪の組織の存在していない世界が、皆んなが笑って平和に暮らせる世界になるとしたら、悪の組織はそもそも誕生してない。それぐらい分かるだろ。だからお前らは強い者の味方なんだよ」
俺は両の手で持った刀を身体の前で構える。刀を見ると、刀に纏う白い炎も小さく見える。白い猫も無理をしたんだろうことが伺えた。
「戯言ね、時間稼ぎはもういいかしら」
「正義の味方と、意見が合うとは、思ってねぇよ」
ペッと口に残る血を地面に吐き捨てる。
「さっさと、お前らの正義を確かめるための、それだけのための殺し合いを始めようぜ」
どうせどっちかが倒れないと正義の味方は気が済まない。そして俺は負けることが出来ない。この後には外せない用事があるからな。
「結月ねぇ、あの人さっきまでと違う。嫌な感じがする。油断しちゃダメだよ」
「えぇ」
ルナの後ろにいるキラが呟いた声が俺にまで聞こえてくる。キラはまだ戦えないみたいだ。服も元通りになっていないし、精神的なダメージが癒えてないんだろう。
ルナとキラが二人で一緒に戦えば、今のボロボロな俺では為すすべもなく、殺されていたな。
俺は目をつぶる。風の切る音が聞こえて、目を開ける。
ルナが俺との距離を詰めて来てて、至近距離で黒雷を纏わせた右拳を振り下ろす姿が俺の目に映った。
俺は目の前に構えていた刀をルナの右拳にコツンとだけ当てる。ボッ、と音だけを残して、抜き身の刀が白い炎になり、消失した。
「ッ!」
空中で狙いがそれて目標を失ったルナの右拳を、一歩、二歩と足を前に出して掻い潜る。
そして目と鼻の先にあったルナの首元に白い炎が伸びると、そこに白い炎を纏った刀が現れた。
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