メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

文字の大きさ
2 / 60

魔法適正

しおりを挟む

 普段俺は仕事が無い日は昼まで寝ている。だから朝に起きられるか心配だったのは内緒だ。

 朝一で公園に来ると、少女はボロボロな紙を地面に置き、呪文を呟いていた。

『炎の精霊よ。我の声を聞き、応じたまえ、ファイアーボール』

 ボッと、火の玉が紙の真上で召喚される。それはまさしく炎の初級魔法『ファイアーボール』だ。だが綺麗な玉の状態はすぐに終わり、炎の揺らめきと共に火の玉は消滅した。

 少女は辛そうな表情で、はぁはぁと、肩で息をしていた。魔力量が少ないのかもしれない。


「あぁ、おじさんおそ~い。もう待ちくたびれちゃった♡」

 少女は「あっ!」と俺に気づく、俺が来たと分かった瞬間から辛そうな表情は見せなくなった。

「生気のない雑魚雑魚なおじさんに私が魔法を教えてあげようかなぁ~てっ♡」

 この長い暇つぶしの人生。俺の生きてきた人生を振り返っても、俺は誰かに魔法を教えて貰ったことがなかった。

「俺に魔法を教えてくれるのか」
「そう言ってんじゃん。耳もよわよわなの? かわいそぅ♡」

 少女は俺をあざけるように馬鹿にしている。俺の仕事は底辺な職業の自覚はある。魔術学院の生徒からも馬鹿にされるからな。

 奴隷みたいに土を食べて日々を暮らしていた事もある。何十年と、酷いことを言われ続け、馴れてきた。

 そんな俺が少女のこんな暖かい悪口にイラついたりもしない。

「何の魔法を教えてくれるんだ?」
「今日は『ファイアーボール』」

 今日は? ということは次があるということか?

「明日もあるのか?」
「もちろん! 私がおじさんを魔法使いにしてあげる」

 俺を魔法使いにか? 面白いことを言うもんだ。違う世界を経験してきた少女だからっていうのもあるのだろうか。誰かに聞いたんだろうか。

 いや違うな。この世界に居たら嫌でも分かることだ。

『魔法使いは儲かる』

 魔法の許可証を持っているとそれだけで『見習い魔法使い』の証明になる。晴れて魔法使いを名乗れる。

 魔法使いとして認められると、ランクによって異なるが、国から毎月のように莫大な報酬が配られる。まぁそれは簡単に言えば、この国に居てくださいということだろう。どっかの国に行かれたら国の戦力が減るからな。

 それで少女は金貨を貰った恩返しのために俺を魔法使いにしたいと。

「俺は魔法使いになれないぞ」
「そんなのやってみないと分からないよ」

 少女はあざけるそぶりすら見せず、真剣な目で俺を見ていた。やってみないと分からない、か。

 俺はやってみたんだけどな。はぁ、とため息吐き。嫌な想いを外に吐き出す。


 数日も経てば少女も飽きるだろうし、暇つぶし程度に付き合ってやるか。

「俺はまず何をやればいいんだ?」
「まずは魔法の適正をみないと」
「ほぅ」

 魔法使いになるには適正を知っていた方がいい。魔法使いを目指す魔術学院に入ると、まず始めるのが魔力適正を調べることだ。

 でも適正ってここでどう調べるんだ? 魔法の適正を調べる時には魔道具が必要で、主に『魔力の泉から作り出した水晶』などの高価な魔道具を媒介にして調べる必要がある。

 ここにそんな高価な物などない。

 少女の目が真剣で、俺を本当に魔法使いにしたいんじゃないかと思ったが、所詮ごっこ遊びの域をでないということか。

 別にごっこ遊びでもいい。この少女の想いは本気だったのかもしれない。その気持ちだけで、俺は嬉しい。

 どうせ俺の人生に魔法使いの道はない。俺が魔法使いになったりすれば、勇者を持つこの国と対立することになるけど、それは勘弁願いたい。


 今日は『ファイアーボール』を教えてくれると言ってたな。適正を開示しないと遊びが始まらないということなら適当に話を合わせるか。

「俺はずっと前に適正を調べたことがあるんだが、俺の魔法適正は赤と緑。火と風の加護がある。この世界の人間で二つの加護があるのは珍しいんだぞ」

 俺の適正は昔から知っているし、改めて知る必要はない。

「じゃあその適正は間違ってるね」
「ん? 何が間違ってるんだ?」

 少女の黄金の瞳が俺を見つめる。黄金の瞳?


「おじさんの適正は全属性と、あと二つ。これは加護? かな。
『大精霊に愛された者』『大賢者の頂きを越えた者』
 これが私が見た、おじさんの適正だよ」


 俺の経験した全ての適正が見えたってことか? マジか。これはヤバイ。

 加護にまで昇華された経験はどんなに高価な魔道具でも確認できない。だから俺が今、魔道具を媒介にして適正を調べたところで、適正無しのポンコツが出来上がる。

 それを見た、だと。


「お前……」

 ゴクリと喉を鳴らす。

「魔眼持ちなのか」

 それも最上級ランクの魔眼を……いや、『ランク外の魔眼』を少女は持っていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...