メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

文字の大きさ
27 / 60

帝国

しおりを挟む
◇◇◇◇


 聖教国アークグルトから北のワルチャード帝国。

 帝国の真ん中にある城の玉座の間。ローグ・ワルチャード王が座る。

 ローグの目の前には、頭を下げている老人が一人。その老人の両側に、男女四人の勇者が背中を見せた状態で待機していた。勇者は男が二人、女が二人。

 老人が顔を上げ、口を開いた。

「帝王様、準備が出来ました」
「やっとか」
「はい、『聖刻剣士パラディン』はアークグルトの勇者、賢者を優に超えています」

 老人が『聖刻剣士パラディン』と口にした瞬間に、勇者たちの背中が光り輝き、魔法陣が浮かび上がってくる。

「背中に刻んだ魔法陣を私は『聖刻せいこく』と名付けました」
「聖刻か」

 ローグは勇者たちの背中を見ながら、目を細める。

「はい。聖刻の力は、魔力路から直接純粋な魔力を吸い出して、空気中の魔素を動力源に、身体強化の魔法を発動します。
 この身体強化魔法は、魔法使いが使用する上級魔法をも超えた力があると確認できました。

 世界の魔法使いたちが目指している賢者の頂き、女神に愛された者にしか使えないと言われる伝説級の魔法。聖刻の力は、その伝説級の魔法と同等な強さがあるのかも知れません」

 ローグは笑みを深めて、クククも笑う。

「その聖刻の力があれば、アイク・エル・ファランドにも勝てるか」
「四年間の悪夢の元凶ですか。……それは分かりません。ですがもう十四年もアイク・エル・ファランドは戦場に出てないんです。もう戦場には出てこないと思った方がいいでしょう」

 老人の歯切れの悪い返答で、ローグの口角が下がり、眉間にシワが寄る。

「それでもしアイクが戦場に出てきたらどうするんだ! 勇者賢者よりも強い……笑わせるな! アイクを超えないと意味が無い!
 この帝国、ワルチャードはどれだけアイクに煮え湯を飲まされたと思っているんだ。帝国始まって以来の敗戦、しかも完敗ときている。

 十四年、その十四年間も、アイクが怖くて、アークグルトに攻めきれず、小競り合いを続けてきた。周辺国からは『ワルチャードはアークグルトに牙を抜かれて、痛ましい』とも言われているのだぞ。

 こんな屈辱に十四年だ。十四年も耐えてきた。だが、ギリギリのところで戦線の維持し続けた。それはなんの為だ!!!」

「は! 記憶消去魔法と洗脳魔法を使って、ワルチャードと仲間たち、勇者様のご友人、ご家族を戦争に利用しているけがれた国、聖教国アークグルトに、女神様の鉄槌をくだすためです!!!」

 ローグの力強い声に老人も両手を握りしめて、答えた。

「ゴーディアス! 聖刻剣士パラディンはアイクに勝てるか!」
「はい!」

 ゴーディアスと言われた老人は、シッカリと頷いて、そうハッキリと返事を返した。

「そうだ、最初からそう言えばいい。勝てるかじゃない、勝つんだ! 我々の背には怒りの女神、アグルメトリ様が付いている。燻った戦線を押し戻し、今こそ、アークグルトの喉元に、ワルチャードの牙を突き立てるだ!」

 椅子のひざ掛けを叩き、ローグの怒りの籠った視線はアークグルトを見据えていた。


◇◇◇◇


 ワルチャード帝国の玉座の間から出た勇者たち。

 その勇者の一人、高月たかつき歩夢あゆむは、前を歩いている勇者たちに向かって口を開く。

「この戦争が終われば、やっと輝夜に会えるんですね」

 歩夢の言葉に、前を歩いていた男の勇者、小林こばやし陸斗りくとは振り返った。

「まだ高月さんの妹がアークグルトに居るかは分からないよね」
「ん~、また陸斗は現実を突き付ける。良いじゃん、アークグルトに居る! ってなった方が理沙たちのモチベーションも上がるし、変なちゃちゃ入れないでよ」

 陸斗の隣に居た女の勇者、橋本はしもと理沙りさが陸斗と歩夢の間に入る。

「僕は……その可能性もあるってのを言いたかっただけで、別に皆んなのモチベを下げたかった訳じゃ……」

 陸斗の声がだんだん小さくなってきた所で、一番先頭に居た男の勇者、山本やまもと蒼介そうすけが「はいはい」と、拍手して雰囲気を切り替えた。

「子供を優先的にこっち側に召喚している国はそんなに多くないってゴーディアスさんは言っていたよ。だから『輝夜ちゃんはアークグルトに居る』って思うことにしない?
 もし、アークグルトに居なくても、その時は、その時に考えればいいでしょ」
「さすが蒼介、陸斗とは違う」
「なんだよ……ただ僕は今の現状を言っただけなのに」

 陸斗は理沙に背中をパンパンと叩かれている。

 蒼介は陸斗を気遣って、理沙に「程々にな」っと、軽く肩を叩いた。

「それにしても俺たちが神隠しにあうとは思わなかった」
「ほんとにねぇ~。でも元の世界でも神隠しは頻繁に起こっていたじゃない。事件に巻き込まれた~とか、人さらいの線が濃厚~、って、ニュースのコメンテーターは言ってたけど、まさか異世界に転移してるとは思わなかった」

 陸斗の背中を叩くのに飽きた理沙は、蒼介の話に合わせて喋る。

「理沙たちも、輝夜ちゃんが載ったチラシを配っている時に異世界転移しちゃったわけだし」
「僕たち、アークグルトじゃなくて、ワルチャードに召喚されたのも運が良いよね。
 兵の人がこそこそ話してるのを聞いたんだけど、僕たち、アークグルトに召喚されそうだった所を、ワルチャードが阻止したんだって」
「うっそッ! ヤバかったじゃん。アークグルトは記憶を消す強力な魔法があるらしいし、アークグルトに召喚されてたら、今頃、記憶を消されて、物言わぬ兵士にされっちゃって、戦争の道具にされちゃうよ!」

 陸斗が口をあんぐりと開けて、「理沙のバカ」と言いながら、ため息と共に顔を手で隠す。

「あっ」

 陸斗の仕草を見て理沙は、やっと自分が不謹慎な発言をしたとわかった。

「ごめん歩夢!」
「ううん、もし輝夜の記憶が消えていても、また家族の思い出を増やしていけばいいですよ。
 それに戦争に行くのは私だけで良かったのに、理沙たちも輝夜の為に立ち上がってくれて、私はそれだけで『ありがとう』感謝してます」
「理沙は、理沙たちは、感謝されるようなことなんて何もやってないよ。ねぇ皆んな」

 陸斗、蒼介も「うん」と頷いた。

「歩夢が困っていたら助ける。蒼介が困っていたら助ける。陸斗は……考える。理沙たちは昔からそうしてきたじゃん」
「なんで僕だけ考えるなんだよ!」

 理沙は陸斗の言っていることを無視して、

「ね、歩夢を助けるために、力がいるなら、背中に魔法陣を彫られることなんて、なんでもないんだよ。歩夢はさ、もしも理沙が困っていたら助けてくれる?」

 と、歩夢に投げかける。

 歩夢は、陸斗と理沙の掛け合いを見ると、ふふっ、と笑った。

「理沙が困っていたら、身体に魔法陣も彫ってでも助けるに決まってます」

 歩夢の答えに、理沙はへへん、と胸を張った。

「理沙は、良い親友を持ったよ」
「私もですよ」

 理沙と歩夢の照れくさい友情のシーンは、蒼介と陸斗が笑みを浮かべるのに十分すぎた。

「これは是が非でも、頑張らないとな」
「うん、絶対に高月さんの妹を助けよう」

 蒼介と陸斗は、隣り合いながら、決意を固めた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...