メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

文字の大きさ
34 / 60

無力者

しおりを挟む
◇◇◇◇


 目の前に敵がいた。

 草に紛れて、俺に銃口を向けている敵に。


 まさか最初から居たのか?

「……ッ!」

 それよりも防御魔法をッ! いや間に合わない!

「ぐッ!」

 森全体に響き渡る発砲音が聞こえた時には遅かった。銃弾を避けるために左横に飛び上がってみたが、右肩に銃弾が当たってしまった。

 左手で右肩を押さえる。


 俺が人ひとりを感知できなかった、だと!?

 敵がどんなに隠れるのが上手くても、少しの魔力でもあれば俺は見逃さない。

 風の探知魔法『フィン・サークル』は完壁だった。周りにいる別部隊の魔力は感知できていて、魔法は機能している。

 この探知魔法は中級魔法だ。俺の魔法は上級の潜伏魔法すら看破する。だが、目の前の敵は感知すらできなかった。


 身体の中の魔力を加速させて、瞬間的に『フィン・サークル』の効果を最大まで高める。

 すると、答えには簡単に行きついた。


「なんでここにッ、『無力者むりょくしゃ』が居るんだよ!」


 無力者は、魔力炉がない人間。魔力炉がないということは、魔力が作れない人間ということになる。
 魔力炉がない人間は、この世界にまれに生まれて、生まれた瞬間から衰弱して、大人になる前には必ず死ぬ。

 敵国の兵はどう見ても大人だった。

 俺が住んでいるファランド家の領地でも、大人になれずに死んだ子供の無力者を二人も知っている。

 ……それなのに。

「なんでだよ!」

 俺の怒りは銃で撃たれたことを置き去りにして、敵国に向かった。

 この無力者は大人だ。その経験は、子供のまま死ぬ沢山の無力者の命を救うことだってできる。

 戦争の道具として消費されるのは、あまりに惜しい。

 なんでそれがわかんねぇんだよ。


 目の前の無力者は銃のカートリッジを開けて、銃弾を込めた。また俺の身体に銃弾を叩き込む気だろう。

 この無力者とは、敵として会いたくはなかった。どのように生きてきたかを聞いてみたかったな。


 肩から出た血が腕を伝い、地面に落ちる刹那。

 俺は初級の風魔法『ウィンド』を構築する。血液のように巡る魔力の流れに合わせて風が舞う。


 大きな発砲音が耳に届くと、俺の目の前でキュルキュルと止まって見える銃弾を見ながら、右肩から左手を離す。

「クソが! これでも」

 左手でグッと風を掴み、腰を捻って、敵にぶん投げる。

「くらえ! 『ウィンド』」

 止まって見える銃弾を巻き込み、俺の魔法は地面を抉り、螺旋を描きながら敵国の兵へと向かう。


 俺が地面に片膝を付いたのと同時に、敵国の兵に魔法が当たった。

 敵国の兵は風に遊ばれる葉っぱのように、なんの抵抗もなく空中へ浮き上がり、右腕と両足がちぎれた。

 敵国の兵の欠損部分から血が大量に吹き出し、視界が真っ赤に染る。


 風が収まると空中に浮き上がっていた敵国の兵は地面にドジャッと落ちてきた。

 無力者を相手にするのは初めてだが、これは死んだだろう。生きていても致命傷だ、もう長くはない。

 俺は初めて人を殺した。それはそうなんだが……。


「いってぇ!」

 痛みでそれどころじゃない。

 右手に力を入れてみるが、痺れて力が入らない。

 肩の痛みはジワジワとする痺れになって身体中に電波する。

 頭の中では『戦場で気を抜いていたからだ!』と、反省する言葉が繰り返し湧いてきた。

 気を抜いていなければ相手が無力者であっても気づけていた。俺の痛恨のミスだ。
 銃という武器は厄介だが、魔法使いには効かない。俺のようなマヌケじゃなければな。

 チッ、と舌打ちして、頭を切り替える。

 今更反省したって過去に戻れるわけじゃない。次から気をつければいいだけの話だ。もしも銃弾じゃなく、魔法を使われていれば、俺は死んでいた。
 そう考えたら今回は運がいい。


 片膝立ちから立ち上がると、立ちくらみがして、途端に身体を重くなる。

「マジかよ」

 この身体の状態には覚えがある。これは魔力炉の魔力を全部使い切った時のそれだ。
 反撃に使用した魔法で力加減を間違えたことが考えられる。咄嗟の魔法だったしな、肩の痛みで出力の感覚が鈍っていたんだろう。

 これでは回復魔法も使えない。

 今日は初めてのことばっかりだ。沢山のミスもあった。戦場でのミスは直接の死に繋がる。一番の致命的なミスは、戦場で魔力が切れたことだな。

「これで『俺が戦争を終わらせてやる』は言い過ぎだった」

 シフォンに大口を叩いたことを後悔する。

 今更、手が震えてきた。人を殺した罪悪感からくるものだろうか。



 重い身体を引きずるように歩く。

『さっさと拠点に帰ろう』

 そう思っていた矢先に、

『殺してやる』

 耳についた言葉は、掠れるほどに小さかった。


 強い殺気を向けられていることに気づいて、身体ごと振り返る。

 地面に寝ている敵国の兵と目が合った。俺が殺したと思っていた無力者だ。

「殺してやる」

 敵国の兵は俺を睨んだまま、左手を目の前の地面に突き立て、身体を起こす。それを繰り返す。

 地面に刺す指からは血がしたたり、ジリジリと手一本分の距離を少しづつ、少しづつ、「殺してやる」と呟きながら近づいてくる。


 力の差はハッキリと見せた。どんなに足掻いたって、無力者と魔法使いとの差なんて埋まらない。

 なのに、なんで地面を這ってまで俺に向かってくる。

 なんで、諦めない。


 その時、初めての感情が湧いた。

『怖い』

 唾を飲み込み、俺はその敵国の兵から目が離せなくなった。距離を取りたくなり、一歩足を後ろにやると、足が震えていたからなのか、情けなく尻もちをつく。

 そしてガチガチと歯を鳴らした。

「殺してやる……殺してやる……殺してやる」

 息をしようにも首をしめられているように、キュッと喉が絞まる。地面を蹴って敵国の兵と距離をあけようとするが、滑って上手くいかない。

「殺してやる」

 殺気のこもった目は俺に逃げることを許さなかった。存在感があり、死が近づいてくるような、心臓を掴まれているような、そんな感覚。

 無力者のどこにこんな力があるんだ。


「殺し、殺してや、殺し……」

 敵国の兵は俺に手を伸ばす、いつ間にか目の前にいて、俺の首に左手が触れた。

 金縛りにあったみたいに俺は動けなくなって、

 左手の力でグッと首が締まる。

「ア゙ア゙ア゙ッ!」

 声にならない音が俺の口から出てくる。

『死ぬ』

 俺がそう思った瞬間に、

「殺し、て……」

 すん、と敵国の兵の目から生気が消えた。


 金縛りは解かれ、俺は止めていた呼吸を荒い呼吸で再開し、尋常ではない汗が滝のように流れた。

 首を絞めていたのは幻覚だったのか、死んだ敵国の兵と俺からは、馬車三台繋いだぐらいの手一本じゃ足りないくらいの距離があった。


 助かったんだと安心して、目から涙が溢れる。

 俺は戦争を舐めていた。人を殺すことを舐めていた。


 こんなに苦しいなんて。



 それに、こんなに怖いなんて……。






◇◇◇◇



 昔のことを思い出して思ったが、輝夜ぐらいの歳の俺は、輝夜よりも弱かった。

 覚悟も足りていなかった。

 どうしても不出来な昔の俺と優秀な輝夜を比べてしまう。

 それは輝夜に期待をしているからだろうか。

 いや、俺がダメダメすぎるんだと思う。


 俺は横にいる輝夜の肩を持ち、ソファーから立ち上がりながら、輝夜をソファーに寝かす。

 俺も眠たいが、あともう一仕事。

 俺は盗賊の死体を埋めに行く。

 放って置くと臭くなるし、朝目覚めた時に死体と目を合わせたくない。

 そして埋める一番の理由は、闇の精霊に見つからないように隠すためだ。
 闇の精霊は死体を見つけると、アンデットというモンスターにする魔法をかけると聞く。

 聖教国アークグルトでは死体に浄化魔法をかけてから埋める。だからアンデットの目撃例はものすごく少ない。俺は一年以上続く戦争に行った時に、アンデットの報告例を聞いたぐらいで、まだ見たことは無い。

 埋める前に死体を光魔法で浄化をすると、闇の精霊は光魔法の周りを嫌がって悪さをすることはなくなる。だが今は敵地だ、浄化魔法に魔力を消費したくはない。

 ここには女神の加護を持っている奴が二人もいるんだ、その周りで闇の精霊も悪さはしないだろう。


 今日、輝夜は相当頑張った。

 輝夜の寝顔を見て、やる気を貰う。

「俺も頑張るか」

 そう呟いて、俺はそっと外に出た。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...