天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

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約束だからな

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 少し本気を出してやるよ。

 俺は模擬剣を構える。

「お前、付与魔法を使えよ」

「いいのか?」

 ミミリアが疑問を投げ掛けてくる。

「おいおい、手加減しないんじゃなかったのか? 俺は手加減してやるから全力で来いと言っているんだ」

 俺は盛大に煽る。アレを使ってもらうために。

「いい度胸だな兄だからリリアは『勝てない』と思い込み信じているみたいだが魔力がない奴がリリアより強いはずがない」

「ミミリアの先祖、アレク・リル・ミリアードなら俺と戦うならまず範囲付与魔法を全力で張るだろうな」

 アレク・リル・ミリアードはアリアスの兄だ。

「アレク様は剣の勇者様と剣で渡り合う程だったと聞いている。そのアレク様がお前ごときに全力で付与魔法などせんわ!」

「は? なに言ってんの? アレクなんか普通に相手にならないってだってアレクより剣が使える奴なんて魔族にいくらでもいたんだからな」

「な、なに! アレク様を侮辱する気か!」

「侮辱するもなにも本当の事だし。笑えるな! アレクより強い奴なんか沢山いた時代だぞ」

「もういい! 私はアレク様の王家最強の剣術を習った言わばアレク流剣術だ。どれ程の強さか知らしめてやろう!」


 ミミリアは神級付与魔法の詠唱に入る。

『我が力を高める闇の鼓動を速めよ』

 術者の闇の魔力の効果を高める魔法。

 闇が空間を支配する。

『ブラックワールド』

 闇がバトルフィールドを包み、中からも外からも、互いに観ることが出来なくなる。

 懐かしいなこの状況。

 精霊化オーラルフォーゼにブラックワールド。

 俺がアレクと何度目だったか? 無理矢理戦わされた時の事を思い出す。

 あれは邪神を倒した後の事だったな。



 アレクに呼び出されて。

「ユウ! 私はお前が最強の剣士など認めない!」

 アレクは剣を構える。

「俺が広めた訳じゃないんだけど」

 アレクが発動した『ブラックワールド』の中に閉じ込められる。

「お前より私の剣が最強なのだ!」

「いつもそう言って負けてんじゃん」

「な、なに! お前に勝たねばアリアスはお前の所に行ってしまう」

「アリアスは関係ないって俺の事なんか気にしてもないだろ」

「お前! 気づけよ! いや、気づいてるんだろ! 好き好きオーラ出しまくってるのに鈍い奴だな!」

「お兄様勘違いだって気にすんなよ」

「お兄様とか言うなよ! なんで私が妹の恋を手伝わないといけないんだ! なんで妹はこんな鈍い奴の事を好きになったんだ! そこで私は気づいたのだ尊敬していた兄よりも強いお前がいるからだと、ならお前より強くなればいい」

 アレクは自信満々に言い放つ。

「は? それ間違って……」

「関係ない! 私は悪の化身剣の勇者から妹を救い出す」

 俺の言葉をアレクは遮る。

「お兄様、俺は魔王倒してクタクタなんだよ」

「私はお前の事が嫌いだ。もしお前が私に勝てればアリアスをくれてやるから好きにしろ」

「だからアリアスは俺の事なんか」

「いい加減気づけよ! 何回言わせるんだ」

「だがアリアスは元の世界に連れていけないぞ」

「そんなことは分かっているこの戦いは気持ちの問題だ」

 真剣な相手には真剣に。

『リミテッド・アビリティー』

 俺は金のオーラを纏う黒剣を何もない空間から取り出す。

 黒剣を構えて全力で相手をする。

 アレクのオーラルの能力はモノマネだ。指定した相手の剣を真似る。

 精霊化オーラルフォーゼの能力は触れた相手の魔力を削る。俺には効かない、魔力ないから。

「行くぞ!」

 俺はアレクに全力を叩き込む。

 キンッ!

 打ち合う度に遅れてくる音が透き通るように辺りにこだまする。音と共に地面も抉れ、打ち合う衝撃で周りの木が吹き飛ぶ。

 アレクは俺の剣を真似ている。

「得意のモノマネか? それじゃあいくら戦おうと同じだぞ、お前の魔力がなくなって終わりだ」

「そんなことは分かっている!」



 それから何度目かの剣劇の幕が降りる。

「言っただろ。アレクは俺には勝てない」

 アレクはボロボロになっている剣を地面に刺して片膝をつく。

「お前はこのあと帰るんだろ? 元の世界に」

「あぁこの世界も悪くわないが、ここは争いが多すぎる」

 アレクは静かに微笑む。

「そうか、今までお前の事を嫌いなんて言っていたが私はお前が好きでお前の剣も尊敬していたんだ」

「それぐらい見てれば分かるよ、お前はいつも俺の剣を真似るからな」

「アリアスの……いや、私の為にお前にはこの世界に居て欲しいと思ったのだ。私はずっと親友だと思っていたのだからな」

「何度も、何度も、俺に剣を向けては戦えと言ってきたしな。援助も凄くしてくれたよな」

「お前のやった尻拭いを出来なくなると思うと少し寂しい気持ちになる。その時はまたやってくれたな剣の勇者! なんて思っていたが」

 アレクの目から一筋のシズクが落ちる。

「本当に行くのか? ここにはアリアスもお前の仲間も私だっているんだぞ!」

「俺のここでの役目は終わってる」

「そうか」

「アレクは少しでも俺と渡り合う程の剣があったと後生に伝える事を許してやる。だがもし戻ってきた時には本当に伝えていたんだなと笑ってバカにしてやろう」

「それは楽しみだな」

 アレクは笑みを張り付けて立ち上がる。





 そしてユウが知らない所で計画は実行された。

 王城の召喚部屋。

 目の前で剣の勇者が反転召喚魔法を発動している。

 私は光に包まれているユウを見るとアリアスを後ろから勢いよく押す。

 するとアリアスが振り向き、誰の仕業かを確認する。

『お兄様!』

 私は笑顔でアリアスを見送る。

 ユウになら、いや、ユウ以外にアリアスは渡せん。

 あとな、勝負の時に言ってしまったしな、好きにしていいと。

『約束だからな』

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