天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

文字の大きさ
34 / 201

妖精のイタズラ

しおりを挟む




 かつて神も恐れた力を持つ邪神が、さらに強くなるなんて笑い話にもならない。




「行くぞ」

 黒剣を縦に振り、空気を斬り裂くと。

 クレスは黒剣が生み出した衝撃波と共に瞬時にフィリアとの距離を詰める。

 そしてクレスはフィリアの目には到底見えない横からの斬撃を繰り出す。

 しかしフィリアの身体が勝手に動き、衝撃波を切り裂き黒剣を受け止める。

「チッ!」

 クレスは軽く舌打ちをする。

 自己防衛は魔力が意思を持ち勝手に術者の身体を動かす。その場合は術者自身の数倍の力で無理矢理身体を動かし防衛する。

 つまり早く決着をつけてやらないとフィリアの身体が崩壊する。

「やっかいだな」

 クレスは言葉にする。

 やっかいなのは当然だ。

 死にはしない力加減をしながら自分とあまり力の差がない相手と真剣に戦わないといけないのだから気を抜けばクレスが殺られる。

 
『シャイニーリア』

 急に周りが光の膜に覆われる。

 シロが神級付与魔法を出してくれたらしい。

 光属性の魔力を持つ者が動くやすくなり、他の属性の魔力を持つ者は動きが鈍くなる。

『ホーリーバースト』

 またシロは神級魔法を出す。

 フィリアの周りに光の玉が次々に現れて、静止からフィリアに向けてレーザーのような光線を出す。

 それをフィリアは普通の身体では出来ないような動きをして全て弾き返す。

「シロやめろ!」

 クレスの声と共に神級魔法が途切れる。


『何故ですか? 主様』

「あまりフィリアの負担になるような動きをさせるのは避けたい」

『はい、主様』

 クレスは必死にどうやって助けるかを考えていた。どうしても圧倒的な力で押し潰しながら殺さないように力加減をするという矛盾のような壁に突き当たる。

「どうするか」




「剣の勇者よ、別に我は死んでもよいのじゃ」

 クレスにフィリアは声をかける。

「ん? 助かりたいんじゃないのか?」

「もちろん助かりたいが、それ以上に暴走した時の味方への被害は出したくないのじゃ」

「いや、助かる方法はあるはずだ!」

「我の身体の事はわかっている。なぜそんなに剣の勇者が必死になるのかをな。この状態で消滅してしまえば復活とわ、いかぬのじゃな」

「なぜそれを!」

 クレスがここまで慎重に戦っているのは消滅した後のこと、邪神は精神体になり、魔力で闇を身体として使う事ができる。

 それの応用が復活だ。身体は消えても切り離した精神体が闇を纏えば再生する。

 邪神は闇を纏えば纏うほど強くなっていくのだが、今は精霊と似ている精神状態にある。

 そしてその状態で死んでしまえば精霊のように精霊界に帰るという手段を持たないフィリアは死ぬ可能性がある。

 精霊というのは死ぬ手前で精霊界に帰り、精霊界に溢れている魔力を吸収して正常な状態へと戻すのだ。

 精霊とは魔力に精神が宿った者だ。

「復活できないかも知れないんだぞ!」

 クレスは歯を食い縛り、両手の剣を最大の力で握る。

 左手に持っていた透明な剣がその握力によって砕け魔力の粒子になる。



 キラキラと輝く粒子がフィリアの方へと飛んでいく。



 

 するとフィリアはクレスに笑顔を向けて。





『殺してくれ』



「……」

 何でそんなことが笑顔で言えるんだ!

 俺にもっと力があれば。

 俺にもっと技術があれば。

 俺にもっと、俺にもっと、俺にもっと。

 異世界に来て、何度もした後悔。





 クレスは両手で黒剣を握る。

「一か八か掛けようと思う」

 クレスは独り言のように呟く。

『はい、主様』

 シロはクレスのやろうとしている事を理解すると協力の有無を伝える。

『妖精のイタズラ』

 光の精霊神、固有スキル。

 金のオーラを纏った黒剣にキラキラと光る緑のオーラが宿る。



 黒剣をフィリアに向けながらクレスは。

「助かりたいなら耐えろよ」

「な、なにを言っておるのじ……」

 フィリアの言葉を遮りクレスは続ける。



『気絶するまで殺してやるから』

 声と共にクレスがその場から消える。

 そしてクレスが現れる前にフィリアの身体は勝手に動き。

 クレスの見えない速度の剣を受け止める。

 

 不意にフィリアの身体に何かが当たる感触がするが全然痛くはなかった。

『妖精のイタズラ』の効果が発動する。

 
 クレスはフィリアとの戦闘を後ろに飛び中断する。

「それはな、妖精のイタズラだ」

 その場でクレスは説明する。

「妖精のイタズラ?」

「あぁ、身体を見てみろ」

 クレスの言う通りにフィリアは身体を見ると。

 全身が薄い緑色のオーラを纏っていることに気づく。

「こ、これは?」

「それはな、俺が攻撃する度にその状態に戻る能力だ」

「どういうことだ?」

「わからないか? お前が死にそうな状態になってもお前は今の状態に戻る」

「それになんの意味がある?」

 

 クレスは邪悪の笑みを浮かべる。

「もちろん、その状態に戻っても記憶や痛みは残る。つまりお前が死ぬ恐怖、死ぬ痛みに、何度気絶しないで耐えられるかってことだな」

 その言葉にフィリアは震える。

「お前は殺してくれと俺に言ったんだ、文句はないよな」

「まってくれ、気絶しないで耐えられる? 少し可笑しくないか?」

「聞き間違えだろ? 俺は気絶するまでお前に攻撃するのをやめないと言ったんだ」

「な、なるほど、我はてっきりゲームのような感覚なのかと、いたぶりながら何回で気絶するかをカウントしながら楽しむんじゃなかろうかと心配した」

「行くぞ!」

「おい! 剣の勇者は昔からそうゆう所があったからな!」

 フィリアの図星っぷりにクレスは即戦闘を開始する。






『俺は約束したことは絶対守る』

 戦闘中に呟いたクレスの言葉は誰も……。

『主様はそう言う人ですよ』

 一人の精霊以外、聞いてる者はいなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...