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消失
しおりを挟むフィーリオン剣士学園の通学路にはちょっとした休憩スペースでベンチと机が設置されている。
そこでフランは本を片手に勉強をしていた。
「あら貴方、何してるの?」
不意に話しかけられたフランは顔を上げる。
「ソフィアさん! えっと、勉強を少し」
「そう」
ソフィアはフランの隣に腰をかける。
「貴方凄かったわね、あのユリアさんに一人で挑んだんだもの」
その言葉を聞いてフランは立ち上がる。
「いいえ! あの時ソフィアさんが守ってくれてなかったら、ソフィアさんが私と一緒に戦ってくれたからです! だから勇気が持てたんですよ」
フランの勢いに押されて目をパチクリとさせるソフィア。
「そう言って貰えると、私としてもありがたいわ」
フランの勉強道具をサッと手に取ったソフィアはベンチから立ち上がる。
「えっ?」
「私と一緒にお昼に行かないかしら? 嫌なら勉強道具は返しませんけど」
その場をスっと離れていくソフィア。
「ま、待ってください」
その後ろ姿をフランは追いかけて行った。
フィーリオンの通学路、フランをからかっているソフィアの前を遮るように現れた人物。
二人を見下ろしながらその人物は黙ったままだ。
それに痺れを切らしてソフィアが言葉を投げる。
「マルコフ……何の用かしら?」
黙っていたマルコフはポケットから一つの石を取り出した。
『ソフィアとフラン……お前らは今から俺とある所に来てもらう』
その石からはとてつもない魔力が流れている。
ソフィアは警戒しながらマルコフに問う。
「それは何?」
「お前が知る必要はない、が……大人しく従えば痛い思いはしない」
マルコフの実力ならソフィアは知っている。
だがソフィアは振り返らずフランに言葉を投げる。
「フランさん! 貴方は逃げて!」
『逃がすと思っているのか?』
マルコフは手の石を握りつぶす、その石は液体のように溶けて空気のようにマルコフの身体を覆う。
マルコフの瞳は虹色に染まっていた。
その瞳を見た瞬間に二人は暗闇に落ちた。
『ママ~』
幼女ティアの声が暗い空間に響き渡る。
ママと呼ばれた女の前には魔法で作られたモニター画面があり、そこに映るのは様々な国の光景。
この全ての国が壊れる光景を妄想して女は笑みをこぼす、それが女の待ちわびた光景なのだから。
フィーリオンの制服を着た生徒が一人、女の前に姿を現す。
「役目は終わったようだな、マルコフ」
マルコフは何も映っていないモニターに魔力を流す。
『神の子を連れてきました』
そのモニターには気絶しているソフィアとフランの姿があった。
女は指から血を一滴垂らす、その血は机の上にカランと音を立てて石のように固まった。
その石をマルコフに向かって投げる。
「良くやった、それでまた暴れて来い」
『これでまた俺はあいつ等より強くなる事が出来る』
女は狂気の色に染まるマルコフの姿を見て笑みを深める。
『欲が深い奴は操りやすい』
マルコフはその石を握り絞めて退出して行った。
風がそよぐ草原。
「とりゃ! ほいっと」
俺の目の前に剣を手足のように扱う少年がいる。
「そこで重心を前に傾けると次の行動に素早く移ることができます」
ユリア教えるの上手すぎな。
そしてこのガキも呑み込むの早すぎな!
ここ一ヶ月ずっと俺は昼寝してるだけじゃねぇか!
俺がユリアに教える事もまた強くなる方法だと言ったら乗り気になり、ジークの面倒を見させている。
フランの時もほとんどユウカに任せてたからな。
「少し休憩しましょうか」
「はい! ユリア先生!」
ジークももうユリアの事を先生と呼ぶまで慕ってるようだ。
一回俺も教えようとしたんだ! だけどな。
「えっ? ユリア先生に教わりたいんですけど」
はい、クソガキ。
クソガキとユリアがこっちに向かって歩いてくる。
寝転がっている俺を見つけたのかクソガキからお声がかかる。
「僕、強くなってるって実感があるんですけどクレスさんちょっと手合わせお願いしてもいいですか?」
お前、俺を下に見てるだろ。
格の違いを見せてやるか……徹底的に。
「いいぞ」
俺は立ち上がりクソガキと相対する。
ユリアは黙ってクソガキを見送る。
「魔法も剣も使わないからどっからでもかかってこいよ」
元から魔法使えないけど。
「それでは胸をお借りします」
ジークはお辞儀をすると、一足で俺との距離を詰める。
「思い切りはいいが、ちょっと突っ込みすぎ」
カウンターでジークの腹を殴りながら拳を振り下ろす。
ジークはうめき声をあげながら地面に叩き落とされた。
「つ、強いですね」
ガキに舐められてるんですけど。
魔王でも俺と一対一で戦うとなると逃げ出す奴もいたっていうのに。
「少し強くなったからって調子に乗るな、相手の力も見極められない奴が戦闘で勝てるわけないだろ」
このぐらいでいいだろ、自分の力を試したくなるのは強くなってる証みたいな物だからな。
俺は木陰に移動して木にもたれ掛かる。
立ち上がったジークはユリアの元に駆け寄っていく。
「僕は調子に乗ってたみたいです、クレスさんはなんて言うんですかね、勝てそうな感じがしたんですけど」
「それはですね、相手の力がわからない時に思ってしまう事があるんですよ、私は逆にクレスさんと本気で戦うことが怖いです」
「怖いの?」
「はい、私でもクレスさんの力がどれほどなのか見れないのですよ」
透明な水と一緒だな、初心者は浅そうだなと思いこみ足を入れると溺れる。
逆に上級者だと、足をつけるのを躊躇う。
「えっ! じゃあユリア先生はクレスさんに勝てないの?」
「クレスさんが本気で戦うなら勝てる望みはあまりないですね」
「ッ!」
俺を見るジークの目はえっ? コイツが!? と訴えてくる。
「さぁ、休憩を終わりにして次のステップに進みましょうか」
「はい!」
俺は二人を見送ると目を瞑り昼寝の準備に取り掛かった。
夕闇せまる闘技場に二人の人物。
『すいませんリリアさん、こんな所に呼び出して』
「久しぶりですね、アクア君」
フィーリオン剣士学園にある闘技場にリリアを呼び出したアクア。
『お兄ちゃんの事で話があるって?』
「そうです、手を取ってください、そしたら僕が知ってる全てを教えて差し上げます」
リリアは何の疑いもなしに手を取る。
何処からとも無く聞こえる女の声。
『よくやった』
その声が消える頃には闘技場から二人の姿は消えていた。
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