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第八話 大公殿下のお考え
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ルプス大公殿下のお考えとは、私達を入れ替えるというものでした。
オズワルド様とカテーナ様の情熱に打たれた殿下がおふたりを祝福し、残された私を娶ってくださるというのです。
カテーナ様達は隣国プーパ王国で爵位を賜って臣下に降ることになるでしょう。私が嫁がなければ裕福になれないクレックス伯爵家では隣国の王女を受け入れられません。
「本人が好きな相手と結婚するために王位継承権を捨てて臣下に降ると言えば、王女派も黙らざるを得ない。王妃派としては我がパピリオー王国へ王女を押し付けて、彼女が子どもを残さずに死んでくれるのが一番だったんだろうが、我が国の貴族令嬢から婚約者を奪い取ったという汚名付きの王女なら受け取り拒否はしないだろう」
このまま婚約を解消せずにオズワルド様が私を選んだら、彼がカテーナ様を弄んで捨てたということになりかねません。
ルプス大公殿下はどちらにしろ、カテーナ様と結婚する気はないのです。
「あの王女には後ろ盾がいないんだ。側妃は隣国王が向こうの学院で出会った平民の特待生で、王宮へ上がるために養女に入った貴族家はもう潰れている。自国から追い出したい王妃派が多少持参金は弾んでくれるかもしれないが、その後が、な……」
我が国、隣国プーパ王国にとっての他国に嫁いだカテーナ様が王家の血を引く子どもを産んで、その子に自国での権利を主張されてはたまらないでしょう。
「王女が子どもを産む前に暗殺して、こっちの仕業に見せかけて非難するくらいは平気でするだろう。王妃派は、プーパの王太子は有能な男だ。俺が白い結婚を貫くと言っても向こうは不安だろうし、隣国の王女を娶っておいて愛人を作って跡取りを生ませるのも角が立つ。厄介者の王女を押し付けることで俺の力も削げる、自国を富ませて隣国を弱らせる一石二鳥の縁談だ」
思惑はどうあれ隣国の王家からの縁談なので、ルプス大公殿下であっても断りにくかったのだとおっしゃいます。
「クレックス伯爵子息が王女を拒絶していたら、縁談相手以外のそれも婚約者のいる男に擦り寄る女などお断りだ、と言えたんだがな」
「……申し訳ありません」
「アンジェラ嬢のせいでないことはわかっている。……フォルミーカ伯爵。令嬢が襲撃された件については、俺の交渉の材料にはするものの公表は出来ない」
「はい。わかっております。襲撃を防いだといっても、勝手な噂を流す輩はいるものです。アンジェラを守るためにも極秘でお願いいたします」
母の隣で、弟もお願いしますと頭を下げています。
「その代わりアンジェラ嬢を娶った暁には、ルプス大公家の全力を持ってフォルミーカ伯爵家の事業を援助させてもらう。伯爵家で生産した商品をプーパ王国へ輸出する際の関税撤廃も受け入れさせるつもりだ」
パピリオー王国の南方にあるフォルミーカ伯爵領では、加工しなくては食べられない酸っぱい果実がたくさん採れます。
それを砂糖で煮たものが特産品なのです。砂糖で煮るといっても、好まれる美味しいものを作るためには伯爵家代々の努力と研鑚がありました。
傷みやすくて、あまり遠くまでは運搬出来なかった砂糖煮が隣国へも輸出可能になったのは、亡き父が作った特殊な容器のおかげです。
母と弟が私を見ています。
そう、決定権は私にあるのです。
拒否出来る状況でないことはわかっています。伯爵令嬢の私とルプス大公殿下では身分が違いますし、学園の卒業式までは後三ヶ月です。それまでに手続きを済ませるだけでも大変なことになるでしょう。
「アンジェラ嬢、どうだろうか。俺が娶ると言っても、王女とクレックス伯爵子息が隣国へ渡るまでは君にとって不名誉な噂が流れることは間違いない。だが俺は全力で君を守るし、卒業して娶った後も大切にすると誓う」
「ルプス大公殿下は……」
「なんだ?」
「私でよろしいのですか? カテーナ様との縁談はお厭いだったのに?」
「結婚自体が嫌なわけじゃない。王女との縁談を断りたかった理由はさっき話しただろう? あの王女には問題が多過ぎる。その上、国から連れて来た刺客に恋敵を襲わせるほど、好きな男がいる」
私もオズワルド様が好きです、反射的に浮かんできた言葉は飲み込みました。
結局のところフォルミーカ伯爵家が裕福だから、その家の娘である私なら良いとお思いなのでしょう。
隣国の王族との結婚が、いろいろと厄介なのも想像出来ます。
「……わかりました。ルプス大公殿下のお考えに添いましょう」
「そうか。うん、そうか。ありがとう、アンジェラ嬢」
ルプス大公殿下は緑の瞳を細めて微笑みました。
オズワルド様とカテーナ様の情熱に打たれた殿下がおふたりを祝福し、残された私を娶ってくださるというのです。
カテーナ様達は隣国プーパ王国で爵位を賜って臣下に降ることになるでしょう。私が嫁がなければ裕福になれないクレックス伯爵家では隣国の王女を受け入れられません。
「本人が好きな相手と結婚するために王位継承権を捨てて臣下に降ると言えば、王女派も黙らざるを得ない。王妃派としては我がパピリオー王国へ王女を押し付けて、彼女が子どもを残さずに死んでくれるのが一番だったんだろうが、我が国の貴族令嬢から婚約者を奪い取ったという汚名付きの王女なら受け取り拒否はしないだろう」
このまま婚約を解消せずにオズワルド様が私を選んだら、彼がカテーナ様を弄んで捨てたということになりかねません。
ルプス大公殿下はどちらにしろ、カテーナ様と結婚する気はないのです。
「あの王女には後ろ盾がいないんだ。側妃は隣国王が向こうの学院で出会った平民の特待生で、王宮へ上がるために養女に入った貴族家はもう潰れている。自国から追い出したい王妃派が多少持参金は弾んでくれるかもしれないが、その後が、な……」
我が国、隣国プーパ王国にとっての他国に嫁いだカテーナ様が王家の血を引く子どもを産んで、その子に自国での権利を主張されてはたまらないでしょう。
「王女が子どもを産む前に暗殺して、こっちの仕業に見せかけて非難するくらいは平気でするだろう。王妃派は、プーパの王太子は有能な男だ。俺が白い結婚を貫くと言っても向こうは不安だろうし、隣国の王女を娶っておいて愛人を作って跡取りを生ませるのも角が立つ。厄介者の王女を押し付けることで俺の力も削げる、自国を富ませて隣国を弱らせる一石二鳥の縁談だ」
思惑はどうあれ隣国の王家からの縁談なので、ルプス大公殿下であっても断りにくかったのだとおっしゃいます。
「クレックス伯爵子息が王女を拒絶していたら、縁談相手以外のそれも婚約者のいる男に擦り寄る女などお断りだ、と言えたんだがな」
「……申し訳ありません」
「アンジェラ嬢のせいでないことはわかっている。……フォルミーカ伯爵。令嬢が襲撃された件については、俺の交渉の材料にはするものの公表は出来ない」
「はい。わかっております。襲撃を防いだといっても、勝手な噂を流す輩はいるものです。アンジェラを守るためにも極秘でお願いいたします」
母の隣で、弟もお願いしますと頭を下げています。
「その代わりアンジェラ嬢を娶った暁には、ルプス大公家の全力を持ってフォルミーカ伯爵家の事業を援助させてもらう。伯爵家で生産した商品をプーパ王国へ輸出する際の関税撤廃も受け入れさせるつもりだ」
パピリオー王国の南方にあるフォルミーカ伯爵領では、加工しなくては食べられない酸っぱい果実がたくさん採れます。
それを砂糖で煮たものが特産品なのです。砂糖で煮るといっても、好まれる美味しいものを作るためには伯爵家代々の努力と研鑚がありました。
傷みやすくて、あまり遠くまでは運搬出来なかった砂糖煮が隣国へも輸出可能になったのは、亡き父が作った特殊な容器のおかげです。
母と弟が私を見ています。
そう、決定権は私にあるのです。
拒否出来る状況でないことはわかっています。伯爵令嬢の私とルプス大公殿下では身分が違いますし、学園の卒業式までは後三ヶ月です。それまでに手続きを済ませるだけでも大変なことになるでしょう。
「アンジェラ嬢、どうだろうか。俺が娶ると言っても、王女とクレックス伯爵子息が隣国へ渡るまでは君にとって不名誉な噂が流れることは間違いない。だが俺は全力で君を守るし、卒業して娶った後も大切にすると誓う」
「ルプス大公殿下は……」
「なんだ?」
「私でよろしいのですか? カテーナ様との縁談はお厭いだったのに?」
「結婚自体が嫌なわけじゃない。王女との縁談を断りたかった理由はさっき話しただろう? あの王女には問題が多過ぎる。その上、国から連れて来た刺客に恋敵を襲わせるほど、好きな男がいる」
私もオズワルド様が好きです、反射的に浮かんできた言葉は飲み込みました。
結局のところフォルミーカ伯爵家が裕福だから、その家の娘である私なら良いとお思いなのでしょう。
隣国の王族との結婚が、いろいろと厄介なのも想像出来ます。
「……わかりました。ルプス大公殿下のお考えに添いましょう」
「そうか。うん、そうか。ありがとう、アンジェラ嬢」
ルプス大公殿下は緑の瞳を細めて微笑みました。
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