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第四話 王子の嘘
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「カタリーナ!」
新しい婚約が決まった翌日、魔術学園の裏庭へ向かおうとしていた私を呼び止めたのは、この王国の第一王子グレゴリオ殿下でした。
「私に婚約破棄されたことを恨みに思い、マリグノに嫌がらせを続けているようだな」
「カタリーナ様、酷いですぅ」
殿下の隣には男爵令嬢のマリグノ様がいらっしゃいます。
ふたりの後ろには側近の方々が並び立ち、視線で私を威圧してきます。
でも……私は口を開きました。
「いいえ。まったく身に覚えのないことです。婚約破棄のときも申し上げましたが、私はマリグノ様を苛めたことなどございません。婚約者のいる殿方にすり寄るのはいかがなものかとご注意させていただいたことはございましたけれど、今の殿下に婚約者がいらっしゃらない以上ご注意することもありません」
殿下と変わらないくらいマリグノ様とイチャついていらっしゃる側近の方々には婚約者がいらっしゃるのですけれどね。
私が反論したのが気に食わなかったのでしょう。
殿下は私を怒鳴りつけました。後ろの側近達も小声で、生意気な女だ、などと罵っています。
「口答えをするな! お前が私の婚約者に戻りたくてマリグノを脅していることくらいわかっているのだぞ!」
「そうですよぅ」
知りませんよ。
私がマリグノ様を脅したくらいで第一王子の婚約者が決まるはずないじゃないですか。
本当は殿下の独断による婚約破棄だって認められるものではありませんでした。だって婚約をお決めになったのは国王陛下なのですから。
「……王国の三人の王子様はみんな優秀で全員正妃殿下の子どもだもんね。年齢も大して離れていないとなったら、それぞれの婚約者の実家の権勢がものを言う。カタリーナとの婚約を破棄したせいで王太子候補から外されて焦ってるの? 裏で公爵に土下座しながら、表ではカタリーナの苛めからマリグノ嬢を守るために仕方なく再構築したって見せかけるための嘘をばら撒いてる最中かな?」
そこへイバン様が現れました。
今日も昼食の袋を肘にぶら下げて、両手を合わせています。
またなにかお菓子を持ってきてくださったのでしょうか。
「イバン皇子? あなたには関係のないことだ。嘴を突っ込まないでいただきたい」
「嫌だな。自分の婚約者が嘘で傷つけられようとしているのに、黙っている男はいないだろ?……ああ、目の前にいたか。むしろ自分から嘘で婚約者を傷つけていたよね」
侮蔑に満ちたイバン様の視線から逃れるようにして、殿下が私を睨みつけました。
「婚約者? まさかカタリーナ、この男と婚約したのか?」
「グレゴリオ王子、他国の皇子の婚約者を呼び捨てにするのはやめたほうが良いよ? ああ、そんな礼儀知らずだから王太子候補から外されたのかな?」
「くっ……カタリーナ嬢、どうなんだ?」
「はい。私はイバン様と婚約しました」
「そういうことだからカタリーナには君の恋人を苛める理由がない。だってね、僕の頬にキスでもしてお願いすれば、いつでもその女を地獄に送れるんだから」
グレゴリオ殿下とマリグノ様は婚約していません。
まだ、なのか、ほかに身分の高い正妃を置いて愛妾になさるおつもりなのか、知っているのはグレゴリオ殿下だけです。
今の彼女はただの男爵令嬢です。他国の第五皇子に無礼を働いたと言われたら、国王陛下は迷いなく彼女の首を帝国に差し出すことでしょう。平民ならまだしも、貴族には高貴なものの義務──自分を犠牲にしてでも民と国を救う役目があるのですから。
殿下達は青ざめた顔で去っていきました。
新しい婚約が決まった翌日、魔術学園の裏庭へ向かおうとしていた私を呼び止めたのは、この王国の第一王子グレゴリオ殿下でした。
「私に婚約破棄されたことを恨みに思い、マリグノに嫌がらせを続けているようだな」
「カタリーナ様、酷いですぅ」
殿下の隣には男爵令嬢のマリグノ様がいらっしゃいます。
ふたりの後ろには側近の方々が並び立ち、視線で私を威圧してきます。
でも……私は口を開きました。
「いいえ。まったく身に覚えのないことです。婚約破棄のときも申し上げましたが、私はマリグノ様を苛めたことなどございません。婚約者のいる殿方にすり寄るのはいかがなものかとご注意させていただいたことはございましたけれど、今の殿下に婚約者がいらっしゃらない以上ご注意することもありません」
殿下と変わらないくらいマリグノ様とイチャついていらっしゃる側近の方々には婚約者がいらっしゃるのですけれどね。
私が反論したのが気に食わなかったのでしょう。
殿下は私を怒鳴りつけました。後ろの側近達も小声で、生意気な女だ、などと罵っています。
「口答えをするな! お前が私の婚約者に戻りたくてマリグノを脅していることくらいわかっているのだぞ!」
「そうですよぅ」
知りませんよ。
私がマリグノ様を脅したくらいで第一王子の婚約者が決まるはずないじゃないですか。
本当は殿下の独断による婚約破棄だって認められるものではありませんでした。だって婚約をお決めになったのは国王陛下なのですから。
「……王国の三人の王子様はみんな優秀で全員正妃殿下の子どもだもんね。年齢も大して離れていないとなったら、それぞれの婚約者の実家の権勢がものを言う。カタリーナとの婚約を破棄したせいで王太子候補から外されて焦ってるの? 裏で公爵に土下座しながら、表ではカタリーナの苛めからマリグノ嬢を守るために仕方なく再構築したって見せかけるための嘘をばら撒いてる最中かな?」
そこへイバン様が現れました。
今日も昼食の袋を肘にぶら下げて、両手を合わせています。
またなにかお菓子を持ってきてくださったのでしょうか。
「イバン皇子? あなたには関係のないことだ。嘴を突っ込まないでいただきたい」
「嫌だな。自分の婚約者が嘘で傷つけられようとしているのに、黙っている男はいないだろ?……ああ、目の前にいたか。むしろ自分から嘘で婚約者を傷つけていたよね」
侮蔑に満ちたイバン様の視線から逃れるようにして、殿下が私を睨みつけました。
「婚約者? まさかカタリーナ、この男と婚約したのか?」
「グレゴリオ王子、他国の皇子の婚約者を呼び捨てにするのはやめたほうが良いよ? ああ、そんな礼儀知らずだから王太子候補から外されたのかな?」
「くっ……カタリーナ嬢、どうなんだ?」
「はい。私はイバン様と婚約しました」
「そういうことだからカタリーナには君の恋人を苛める理由がない。だってね、僕の頬にキスでもしてお願いすれば、いつでもその女を地獄に送れるんだから」
グレゴリオ殿下とマリグノ様は婚約していません。
まだ、なのか、ほかに身分の高い正妃を置いて愛妾になさるおつもりなのか、知っているのはグレゴリオ殿下だけです。
今の彼女はただの男爵令嬢です。他国の第五皇子に無礼を働いたと言われたら、国王陛下は迷いなく彼女の首を帝国に差し出すことでしょう。平民ならまだしも、貴族には高貴なものの義務──自分を犠牲にしてでも民と国を救う役目があるのですから。
殿下達は青ざめた顔で去っていきました。
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