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第十一話 流された末に
マティルデがルーカと見合いをしていたとき、ジョヴァンニは王都コンティ伯爵邸の自室で横たわっていた。
ブルローネの本命に刺されたのである。
命に別状はない。
コンティ伯爵家はジョヴァンニとマティルデの離縁後、ブルローネの娘パッツィーアが息子の種であるかどうかを確認した。
そこで、ジョヴァンニがブルローネに与えていた金の動きや彼女と本命の企みなどが、明らかになったのである。
ブルローネの失踪届を下げていなかった男爵家も、カルーゾ伯爵家に対する名誉棄損などで訴えられた。
これまでの借金のこともあり、男爵家はこの件で爵位を返上して平民になった。
貴族でい続けるために維持していた屋敷や事業を売って借金と賠償金の返済に充て、残りは働いて返すようだ。
今後は男爵ではなくなったので家名による借金ができなくなるし、カルーゾ伯爵家に睨まれているので負債が増えることはないだろう。
ブルローネはまだ実行には移してなかったものの、パッツィーアをジョヴァンニの娘だと偽りコンティ伯爵家を乗っ取ろうとしていたこと、その際に邪魔な金蔓を殺そうとしていたことなどから、殺人未遂の罪で捕縛された。
本人が自白したのである。
それには理由がある。男爵夫婦がブルローネを庇おうとして、本命のならず者がすべて悪いと言っていたのを彼女が否定したのだ。
――彼は悪くない。パッツィーアをジョヴァンニの娘に仕立て上げることも、あの莫迦を殺して誤魔化すことも、アタシが全部考えたの!
そう叫ぶブルローネは、少なくとも本命に対しては真実の愛を抱いていたのかもしれない。
とはいえ、主犯がブルローネだったとしても本命は共犯だ。
彼は失踪の手助けもしていた。貴族令嬢を失踪させたのだから、これはこれで重罪になる。
一度は逃げ出したならず者は、逆恨みでジョヴァンニを襲って捕まった。
高利貸しも、彼が属していたらしい暗黒街の犯罪組織も、用心棒をしているならず者ごときを庇ったりはしない。
貴族家の跡取りを襲った罪は重い。ならず者は死刑になる。それを聞いたブルローネは自分も殺してくれと叫んでいるらしい。
彼女の娘パッツィーアは平民となった祖父母に育てられるようだ。
子どもに罪はない。
だからこそ親がどう生きるかが重要なのだ。
寝台に横たわって、ジョヴァンニは血縁の確認のために会ったパッツィーアの顔を思い出す。
そのときはブルローネにそっくりだと思った。
しかし今になってみると、自分を刺した本命に似ていると感じていた。女の子は父親に似ると聞いたことがある。
(そもそも僕は結婚式の前日までブルローネと体を重ねたことはなかった。あの子は大き過ぎる)
ぼんやりとジョヴァンニは考える。
刺された傷跡が熱い。
治っていってると聞いていても苦痛が消えるわけではない。
父はマティルデとの離縁後すぐに領地へ戻ったが、母はまだ王都にいた。
ジョヴァンニが未練から元妻に妙な真似をしないように、ということでだったけれど、今は刺された息子の看病をしてくれている。
領地へ戻った父は分家や遠縁に声をかけて、ジョヴァンニの代わりの跡取りを探しているという。両親は息子に見切りをつけたのだ。
(どうしてあのとき、ブルローネを抱いてしまったんだろう。いくら彼女が可哀想でも、僕には結婚する相手がいたのに。学園でだってそうだ。ブルローネよりも、婚約者のマティルデのほうが大切だったのに、大切にするべきだったのに)
刺された傷跡から始まって、全身が微熱に包まれた体でジョヴァンニは思う。
本当はわかっている。自分が悪かったのだ。
ジョヴァンニもブルローネも『可哀想』ではなかった。莫迦な真似をして、わざわざ『可哀想』な人間になってしまったのだ。
流され続けたことを後悔しても、ジョヴァンニが辿り着いた今の場所は行き止まりで、どこにも行けない。
ブルローネの本命に刺されたのである。
命に別状はない。
コンティ伯爵家はジョヴァンニとマティルデの離縁後、ブルローネの娘パッツィーアが息子の種であるかどうかを確認した。
そこで、ジョヴァンニがブルローネに与えていた金の動きや彼女と本命の企みなどが、明らかになったのである。
ブルローネの失踪届を下げていなかった男爵家も、カルーゾ伯爵家に対する名誉棄損などで訴えられた。
これまでの借金のこともあり、男爵家はこの件で爵位を返上して平民になった。
貴族でい続けるために維持していた屋敷や事業を売って借金と賠償金の返済に充て、残りは働いて返すようだ。
今後は男爵ではなくなったので家名による借金ができなくなるし、カルーゾ伯爵家に睨まれているので負債が増えることはないだろう。
ブルローネはまだ実行には移してなかったものの、パッツィーアをジョヴァンニの娘だと偽りコンティ伯爵家を乗っ取ろうとしていたこと、その際に邪魔な金蔓を殺そうとしていたことなどから、殺人未遂の罪で捕縛された。
本人が自白したのである。
それには理由がある。男爵夫婦がブルローネを庇おうとして、本命のならず者がすべて悪いと言っていたのを彼女が否定したのだ。
――彼は悪くない。パッツィーアをジョヴァンニの娘に仕立て上げることも、あの莫迦を殺して誤魔化すことも、アタシが全部考えたの!
そう叫ぶブルローネは、少なくとも本命に対しては真実の愛を抱いていたのかもしれない。
とはいえ、主犯がブルローネだったとしても本命は共犯だ。
彼は失踪の手助けもしていた。貴族令嬢を失踪させたのだから、これはこれで重罪になる。
一度は逃げ出したならず者は、逆恨みでジョヴァンニを襲って捕まった。
高利貸しも、彼が属していたらしい暗黒街の犯罪組織も、用心棒をしているならず者ごときを庇ったりはしない。
貴族家の跡取りを襲った罪は重い。ならず者は死刑になる。それを聞いたブルローネは自分も殺してくれと叫んでいるらしい。
彼女の娘パッツィーアは平民となった祖父母に育てられるようだ。
子どもに罪はない。
だからこそ親がどう生きるかが重要なのだ。
寝台に横たわって、ジョヴァンニは血縁の確認のために会ったパッツィーアの顔を思い出す。
そのときはブルローネにそっくりだと思った。
しかし今になってみると、自分を刺した本命に似ていると感じていた。女の子は父親に似ると聞いたことがある。
(そもそも僕は結婚式の前日までブルローネと体を重ねたことはなかった。あの子は大き過ぎる)
ぼんやりとジョヴァンニは考える。
刺された傷跡が熱い。
治っていってると聞いていても苦痛が消えるわけではない。
父はマティルデとの離縁後すぐに領地へ戻ったが、母はまだ王都にいた。
ジョヴァンニが未練から元妻に妙な真似をしないように、ということでだったけれど、今は刺された息子の看病をしてくれている。
領地へ戻った父は分家や遠縁に声をかけて、ジョヴァンニの代わりの跡取りを探しているという。両親は息子に見切りをつけたのだ。
(どうしてあのとき、ブルローネを抱いてしまったんだろう。いくら彼女が可哀想でも、僕には結婚する相手がいたのに。学園でだってそうだ。ブルローネよりも、婚約者のマティルデのほうが大切だったのに、大切にするべきだったのに)
刺された傷跡から始まって、全身が微熱に包まれた体でジョヴァンニは思う。
本当はわかっている。自分が悪かったのだ。
ジョヴァンニもブルローネも『可哀想』ではなかった。莫迦な真似をして、わざわざ『可哀想』な人間になってしまったのだ。
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