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六月:暗く深い淵へ
貴方にお別れを【魔眼】
あら、公爵令息様ではありませんか。
捨てた元婚約者のところへいらっしゃるだなんて、どうなさいましたの?
貴方の周りには、貴方を愛する方々がたくさんいらっしゃるじゃありませんか。
先日お亡くなりになられたお爺様に決められた婚約者に過ぎないくせに、執着してくる疎ましい女のところへなど来る必要はございませんでしょう?
相手の婚約者から奪い取った、愛しい従姉姫のところへ行かれたらいかがです?
まあ、従姉姫はお亡くなりになられたんですの?
貴方に誘惑されて、ご自身の婚約者を裏切ったことを恥じて?
ご冗談でしょう? そんなことあり得ませんわ。
彼女にそんな繊細な心などあるわけがありません。
あの方は私の婚約者だったころの貴方の腕に掴まって、私へ嘲笑を投げかけてくるような女性だったじゃありませんか。
ああ、お爺様の最期のときに、彼女も同席なさっていたのですね。
それで貴方がお爺様譲りの魔眼、他者の心を操るお力を持っていることを知って、ご自身の婚約者を裏切り捨て去った所業をすべて貴方のせいになさって自害なさったのね。
……なにもかも他者のせいにして、どこまでも薄汚い女ですこと。
え? なにも言っていませんわ。
仮に私がなにか呟いたとしても、元婚約者に過ぎない貴方にはなんの関係もないことでしょう?
では私のこともお聞きになられたのですね。
他者の生まれ持った恩恵を無断で明かすだなんて、いくら我が家の寄り親貴族家の当主だったといっても、なんて勝手なことをなさるのでしょう。
ええ、そうです。
私の恩恵は『鎮静』。他者の恩恵を弱める力ですわ。
これで私が家族に嫌われていた理由もおわかりでしょう? 自分の力を制御出来るようになるまでの私は、家族の恩恵発揮を妨げていたのです。
家族については仕方のないことだと思っています。
魔の森に面した領地では、最大限に恩恵を利用しなければ生き残れなかったのですもの。
そんな場所では私は足手纏い、厄介者でしかありませんもの。
貴方のお爺様が私の恩恵を知って、貴方の婚約者として引き取ってくださったこと、本当に感謝していますの。ですから無断で私の恩恵を明かされたことは許して差し上げようと思いますわ。
もっともお爺様が導いてくださったように、私の力を魔の森から溢れ出る魔物に対して使ったり、怪我人の激しい出血を鎮めたり、受けた毒の効果を弱めたりすることに使うのを考えつかなかった私の実家の人間は、民と領地のために戦うことを義務付けられた貴族にしては知恵が足りないと言わざるを得ませんけど。
貴方と同じ魔眼を持ったお爺様は、貴方にご自身と同じ苦痛を味合わせたくないとお思いでした。
仲の良いご夫婦として知られていましたが、お爺様は常にお婆様の愛に疑いを抱いていらっしゃいました。魔眼によって、自分を愛していると思い込んでいるだけではないのかと。
貴方の従姉姫と同じで、お婆様もお爺様が他者から奪い取った女性でしたしね。
だから『鎮静』の力を持つ私を貴方の婚約者にしたのです。
自分で制御可能になっても恩恵は、害したり支配しようとする力を感じると無意識に発動して私を守ります。
貴方の魔眼に惑わされずに貴方を愛せるのは私ひとりだけだったのです。
お爺様や貴方のご両親なら、同じ血を持つことで魔眼に耐性をお持ちだったでしょう。
でも皆様お亡くなりになってしまわれました。
お婆様も貴方が生まれる前にお亡くなりになられましたし、従姉姫のご家族は……ふふふ、あの方々はそっくりですわね。お爺様に奪われる前のお婆様の婚約者に。
魔眼といっても伝説の時代のように、ひと睨みで相手を支配することは出来ませんわ。
長い年月をともに過ごすことで虜にしていくのだと、お爺様はおっしゃっていました。時間が長ければ長いほど効果が増すのだとも。
ですからね、子どものころからずっと貴方と一緒にいた使用人の方々から魔眼の効果が消えることはありませんのよ。従姉姫とは違って、ね?
貴方の叔父に当たる従姉姫のお父君がお生まれになったのは、お爺様が魔物討伐で長らく家を離れていた後だったそうですわね。
ああ、従姉姫もそうですわね。
私との婚約を勝手に破棄して謹慎させられた貴方と離れていて、魔眼の効果が切れかけていたころにお爺様がお亡くなりになったのですわ。
自分自身の気持ちが魔眼によって植え付けられたものかもしれない、そう知ったとき、どんなに恐ろしかったことでしょう。自分の心さえ信じられないのは辛いものだったのでしょうね、彼女のような浮気女でも。
大丈夫ですわ、公爵令息様。
王家から分かれた公爵家の人間の恩恵が封じられることはありません。
表向きは貴方のお力は『威圧』なのですもの。
これからも王国の平和のために襲い来る魔物達を恐怖で支配して、討伐を進めてくださいませ。
ほかに婚約者や配偶者のいる女性でも、長い間一緒にいれば貴方を愛するようになってくださいますわ。まあ、真面な女性なら、決まった相手がいるのにほかの男性と一緒に過ごしたりなさいませんけれど。
魔眼のお力さえあれば貴方を愛さない方などいらっしゃいませんわ!……私以外には。
魔眼に惑わされずに貴方を愛することが出来るのは私だけでした。
でも貴方は私を拒んだのです。
貴方を愛するため、貴方に愛されるために話し合おう、ともに過ごそうとした私を執着するなと突き飛ばし、魔眼に惑わされた従姉姫の肩を抱いていたのです。
さようなら、公爵令息様。
魔眼に惑わされずに貴方を愛することが出来たのは私だけです。魔眼に惑わされずに貴方を愛さずにいられるのも、自分の意思で貴方にお別れを告げられるのも私だけですわ。
<終>
捨てた元婚約者のところへいらっしゃるだなんて、どうなさいましたの?
貴方の周りには、貴方を愛する方々がたくさんいらっしゃるじゃありませんか。
先日お亡くなりになられたお爺様に決められた婚約者に過ぎないくせに、執着してくる疎ましい女のところへなど来る必要はございませんでしょう?
相手の婚約者から奪い取った、愛しい従姉姫のところへ行かれたらいかがです?
まあ、従姉姫はお亡くなりになられたんですの?
貴方に誘惑されて、ご自身の婚約者を裏切ったことを恥じて?
ご冗談でしょう? そんなことあり得ませんわ。
彼女にそんな繊細な心などあるわけがありません。
あの方は私の婚約者だったころの貴方の腕に掴まって、私へ嘲笑を投げかけてくるような女性だったじゃありませんか。
ああ、お爺様の最期のときに、彼女も同席なさっていたのですね。
それで貴方がお爺様譲りの魔眼、他者の心を操るお力を持っていることを知って、ご自身の婚約者を裏切り捨て去った所業をすべて貴方のせいになさって自害なさったのね。
……なにもかも他者のせいにして、どこまでも薄汚い女ですこと。
え? なにも言っていませんわ。
仮に私がなにか呟いたとしても、元婚約者に過ぎない貴方にはなんの関係もないことでしょう?
では私のこともお聞きになられたのですね。
他者の生まれ持った恩恵を無断で明かすだなんて、いくら我が家の寄り親貴族家の当主だったといっても、なんて勝手なことをなさるのでしょう。
ええ、そうです。
私の恩恵は『鎮静』。他者の恩恵を弱める力ですわ。
これで私が家族に嫌われていた理由もおわかりでしょう? 自分の力を制御出来るようになるまでの私は、家族の恩恵発揮を妨げていたのです。
家族については仕方のないことだと思っています。
魔の森に面した領地では、最大限に恩恵を利用しなければ生き残れなかったのですもの。
そんな場所では私は足手纏い、厄介者でしかありませんもの。
貴方のお爺様が私の恩恵を知って、貴方の婚約者として引き取ってくださったこと、本当に感謝していますの。ですから無断で私の恩恵を明かされたことは許して差し上げようと思いますわ。
もっともお爺様が導いてくださったように、私の力を魔の森から溢れ出る魔物に対して使ったり、怪我人の激しい出血を鎮めたり、受けた毒の効果を弱めたりすることに使うのを考えつかなかった私の実家の人間は、民と領地のために戦うことを義務付けられた貴族にしては知恵が足りないと言わざるを得ませんけど。
貴方と同じ魔眼を持ったお爺様は、貴方にご自身と同じ苦痛を味合わせたくないとお思いでした。
仲の良いご夫婦として知られていましたが、お爺様は常にお婆様の愛に疑いを抱いていらっしゃいました。魔眼によって、自分を愛していると思い込んでいるだけではないのかと。
貴方の従姉姫と同じで、お婆様もお爺様が他者から奪い取った女性でしたしね。
だから『鎮静』の力を持つ私を貴方の婚約者にしたのです。
自分で制御可能になっても恩恵は、害したり支配しようとする力を感じると無意識に発動して私を守ります。
貴方の魔眼に惑わされずに貴方を愛せるのは私ひとりだけだったのです。
お爺様や貴方のご両親なら、同じ血を持つことで魔眼に耐性をお持ちだったでしょう。
でも皆様お亡くなりになってしまわれました。
お婆様も貴方が生まれる前にお亡くなりになられましたし、従姉姫のご家族は……ふふふ、あの方々はそっくりですわね。お爺様に奪われる前のお婆様の婚約者に。
魔眼といっても伝説の時代のように、ひと睨みで相手を支配することは出来ませんわ。
長い年月をともに過ごすことで虜にしていくのだと、お爺様はおっしゃっていました。時間が長ければ長いほど効果が増すのだとも。
ですからね、子どものころからずっと貴方と一緒にいた使用人の方々から魔眼の効果が消えることはありませんのよ。従姉姫とは違って、ね?
貴方の叔父に当たる従姉姫のお父君がお生まれになったのは、お爺様が魔物討伐で長らく家を離れていた後だったそうですわね。
ああ、従姉姫もそうですわね。
私との婚約を勝手に破棄して謹慎させられた貴方と離れていて、魔眼の効果が切れかけていたころにお爺様がお亡くなりになったのですわ。
自分自身の気持ちが魔眼によって植え付けられたものかもしれない、そう知ったとき、どんなに恐ろしかったことでしょう。自分の心さえ信じられないのは辛いものだったのでしょうね、彼女のような浮気女でも。
大丈夫ですわ、公爵令息様。
王家から分かれた公爵家の人間の恩恵が封じられることはありません。
表向きは貴方のお力は『威圧』なのですもの。
これからも王国の平和のために襲い来る魔物達を恐怖で支配して、討伐を進めてくださいませ。
ほかに婚約者や配偶者のいる女性でも、長い間一緒にいれば貴方を愛するようになってくださいますわ。まあ、真面な女性なら、決まった相手がいるのにほかの男性と一緒に過ごしたりなさいませんけれど。
魔眼のお力さえあれば貴方を愛さない方などいらっしゃいませんわ!……私以外には。
魔眼に惑わされずに貴方を愛することが出来るのは私だけでした。
でも貴方は私を拒んだのです。
貴方を愛するため、貴方に愛されるために話し合おう、ともに過ごそうとした私を執着するなと突き飛ばし、魔眼に惑わされた従姉姫の肩を抱いていたのです。
さようなら、公爵令息様。
魔眼に惑わされずに貴方を愛することが出来たのは私だけです。魔眼に惑わされずに貴方を愛さずにいられるのも、自分の意思で貴方にお別れを告げられるのも私だけですわ。
<終>
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