転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸

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2・行商人エルフ、その名はトム

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 でも! でも! でも!

 美味しいものが食べたい!
 前世を思い出しちゃったから、ニュイ魔王国のお肉三昧には耐えられない!
 ジュルネ王国で暮らしたかった! 魔王じゃなくて悪役令嬢に生まれたかったよー!

 そう思う心は止められなかった。
 去年亡くなった先代魔王のお父様が使っていた部屋はそのままにしておきたかったので、魔王女のときから使っている自室の広いベッド(天蓋付きだ!)の上で転がり回ってしまう。

 メイドとかはいない。
 脳筋魔人にメイドのような繊細な業務ができると思うなよ!
 魔王城で一番高い部屋の窓が叩かれたのは、そんなときだった。

「ソーワーレちゃん。……おっと、もう魔王陛下って呼ばなくっちゃだね」
「べつに気にしなくていいわ」

 言いながら、私は窓を開けた。
 窓にはガラスが嵌められている。
 食文化がカスなニュイ魔王国にもかかわらず建物にはこんな進んだ技術が使われているのは、お父様が人間のお母様のためにドワーフを雇って魔王城を建てさせたからだ。

 私の部屋が最上階にあるのはお父様が過保護だったからです。
 空を飛べる魔人は多いけど、私が許したもの以外は近づけない結界も張られている。
 魔王城を形作っているレンガ自体に魔法文字が刻まれているので、結界術者が裏切るようなこともない。というか、うちの民魔人脳筋だから戦闘時の自分の周り以外でずっと結界張り続けるとかできない。

 窓を開けると、私に呼びかけた男が乗っていたワイバーンから窓枠に飛び移って来た。

 黄金の髪から尖った耳が覗いている変わり者の行商人エルフのトムだ。
 確か『綺羅星のエクラ』の隠し攻略対象だったと思うけど、彼とのエンディングを迎えなくても魔鍛冶アイテムの引継ぎができたから前世ではノータッチだった。
 ビジュアルブックを兼ねた攻略本も持ってたけど、アイテムデータとミニゲーム攻略のページしか見た記憶がないので彼の情報は今世のものしかない。

「いきなり呼びつけてごめんなさいね」
「気にすることないよ。ソワレちゃんはお得意様だもん。ご要望通り持ってきたよ、ジュルネ王国の村娘風の服」
「ありがとー!」

 私は就任式の直後に使い魔(魔力で創り出す式神みたいなもので自我はない)を送って呼びつけたトムから、頼んでいた村娘風の服を受け取った。
 これでジュルネ王国へ行ける! 野菜が食べられる! スイーツスイーツやっほー!
 トムは、光の加減で黄金色に煌めくハシバミ色黄色がかった薄茶色の瞳に歓喜する私を映して、不思議そうな顔をしていた。

 あ、脳筋魔人が住むニュイ魔王国は貨幣がないので、トムへの支払いは私が竜に変化したときの鱗です。
 強い魔力を含んでるから人間に高価たかく売れるんだって。
 武具の材料や魔道具の燃料にするみたい。

 魔人同士は物々交換ですー。
 ……とほほ。
 この国は食文化以外にも、いろいろと進化させなきゃいけないところがあるよなあ。
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