転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸

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26・風、ときめく。

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 できたどー!
 ジュルネ王国の帰りにロック鳥狩って、【風属性魔力増幅(大)】ゲットだぜ!
 まあ一羽目が【風属性魔力増幅(中)】で、じゃあ三羽狩ればいいんじゃん? と思って狩ってたら、三羽目に【風属性魔力増幅(大)】が出たのだが。
 大丈夫、失敗は成功の母、結果オーライ!

 本当はもっといろいろなモンスターを狩りたかったんだけど、飛行モンスターのロック鳥以外は見かけなかった。
 疲れてる帰り道は最短距離を選んじゃうから、地上の大魔林内のモンスターの気配を察知できなかったのかもしれない。
 ロック鳥の【風属性魔力増幅】が欲しかったから良いんだもーん(負け惜しみ)。

 そんなわけで私は【風属性魔力増幅(大)】に『大』を合成して、【風属性魔力増幅(特大)】を得たのだった。
 残った【風属性魔力増幅(中)】ふたつは、そのうち使う。
 魔鍛冶に使わないお肉とかは、ちょうど近くを通りかかった烏魔人の家族にあげたよ。

 前世の歌であったみたいな七兄弟でエンゲル係数高いみたい。
 この世界にエンゲル係数ないけどさ。
 長子のお兄ちゃんは出稼ぎしてるんだってー。

 ……ニュイ魔王国、お金が無いのにどうやって?
 狩場を分けて、たくさん獲れたときは実家へ持ち帰ってるってことかな。
 飛べると、すぐ移動できるしね。私も飛べて良かったー。

 アッシュさんの武器屋で買ったはがねの双剣はちゃんと特性がふたつつけられたので、【風属性魔力増幅(大)】と【追加ダメージ:劇毒】をつけた!
 前世の『綺羅星のエクラ』で目指してた究極の魔鍛冶アイテムにはほど遠いけど、風の四天王コルボ―が今使ってる【風属性魔力増幅(中)】の双剣よりは強いはず。
 というかあの双剣、はがね製でもなかった気がする。

 よーし、コルボーにこのはがねの双剣あげるぞー!
 あ、でも今の双剣に思い入れあるのかな?
 上司である魔王に新しい装備アイテム押しつけられたら断れないかもだから、最初に今の双剣の由来から聞いておこうかな。うん、ジュルネ王国に侵攻する予定はないけれど、四天王達が聖女ハーレムに入ったとしても、寝首をかかれない程度の関係は築いておこう。

 ふへへへへ、もしコルボ―が新しい双剣の代わりに今の双剣下取りに出してくれたら、【風属性魔力増幅(中)】がみっつになるから、【風属性魔力増幅(大)】が作れるぜ。
 今度ジュルネ王国へ行ったとき、アッシュさんの武器屋に新しい装備アイテムが入荷してるといいなあ。
 魔法金属製だといいなあ。あるかどうかわからないけどヒヒイロカネだといいなあ。『綺羅星のエクラ』での最高魔法金属はオリハルコンだったから、むっつの特性のどれかひとつはつけられなかったもんなあ。

 せっかく転生したんだし、私、この世界で究極の魔鍛冶アイテム作ります!

★ ★ ★ ★ ★

 風の四天王コルボーは烏の性質を持つ魔人である。
 髪は黒、肌は褐色、瞳は銀色。背中の翼は魔力でできていて、任意で出し入れできる。
 ソワレの前世世界の童謡であったように七兄弟。魔王がジュルネ王国からの帰路で出会った家族は、コルボーの実家であった。

 田舎で家族仲良く暮らしていたコルボーだったが、育ち盛りの兄弟が七人もいると食糧がどれだけあっても足りないし、両親+七兄弟で同じ狩場を使っていると獲物が絶滅してしまう可能性もある。
 それで長子のコルボーが出稼ぎに出たのだった。
 もちろんニュイ魔王国には貨幣がないので、ソワレが考えた通り、普段は離れたところで暮らしていて自分の狩場で大きな獲物が獲れたら実家に持ち帰る、という形の出稼ぎである。

(それにお嫁さんも欲しかったし……)

 蛇魔人ヴィペールと同じように、四天王の一角であるコルボーも魔王城に部屋をもらっている。
 先ほどコルボーの部屋を訪ねてきたのは、上司である魔王ソワレであった。
 これまでコルボーは彼女に苦手意識を持っていた。

 ソワレ本人となにかがあったわけではない。
 良い狩場を求めて故郷から飛び立ったコルボーは、後に四天王に選ばれるほどの魔力を察知した肉食系猛禽類女子お肉大好き女性魔人に取り囲まれてしまったのだ。
 臆病な彼は両手をイヤイヤさせる駄々っ子パンチで事なきを得たものの、女性魔人への恐怖はコルボーの心に深く刻まれた。先代魔王のようにお嫁さんはジュルネ王国の人間がいいなあ、なんて思っていたのだが、

(魔王様は、ほかの女性魔人とは違うみたいだ)

 コルボーが以前使っていた双剣は大魔林で狩りをしているときに拾ったものだ。
 おそらく人間の冒険者の遺品だろう。
 女性魔人達に対応したときのことを思い出し、自分の駄々っ子パンチに一番相応しい武器だと考えて使い始めた。

 コルボーは魔力が強い。四天王になったのは、女性魔人の襲来の後で彼を見つけた大地の四天王リオンに勧誘されたからだ。
 本来なら武器など使わないほうが強い。
 しかし強過ぎるのだ。

 向こうも魔力が強いからすぐ治っていたものの、自分の両手から放った風の魔力で女性魔人の肌が切り裂かれて血の飛沫が舞っていたことを思い出すと、臆病なコルボーは全身が凍りつくような気持ちになってしまう。
 錆びた鉄製の双剣の威力は弱く、それでいて双剣があるおかげで直接相手に触れなくて良いので気持ちに余裕ができる。
 食材を狩るときは普通に素手で戦っている。

 魔王ソワレは以前の双剣の由来を聞いた後で、自分が作ったという新しい双剣をくれた。
 コルボーの風の魔力を高め、毒の追加効果があるはがね製の双剣だ。
 下手をしたら素手で戦うよりも強くなるが、常に強い魔力を放出することで余計な戦闘を避けることができるだろう。

(お嫁さんにするなら、魔王様みたいな女性が良いなあ)

 ほのかな胸のときめきを感じているコルボーは、自室の天井裏からソワレと自分を見ていた赤い目には気づいていなかった。
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