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第一話 私の恋が実って一年目です。
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魔道学園を卒業して一年、王国にまた春がやって来ました。
卒業して一年ということは、私が結婚して一年ということでもあります。
「おめでとう、マリオン。遅くなってしまったけれど、結婚祝いよ」
「ライザ様、ありがとうございます」
公爵令嬢のライザ様とお会いするのも、ほぼ一年ぶりでしょうか。
卒業のときはいろいろありましたし、その後もお互い忙しくて手紙のやり取りくらいしかできませんでした。
彼女がくださったのは、私が好きな銘柄の茶葉でした。王国の北にある帝国でしか採れない希少な銘柄です。帰ったら夫と一緒に楽しむことにしましょう。
今日は王都にある王立公園内の屋外喫茶に来ています。
お茶とお菓子を楽しみながら王立公園の花が見られるので、長く冷たい冬の閉じ籠り生活から解放された人々が集まっていました。
あまりゆっくりはできないかもしれません。店の敷地の外に行列が出来ています。
「……あら? あちらにいらっしゃるの、マリオンの旦那様じゃない?」
ライザ様に言われて振り返ると、確かに夫の姿が見えました。
夫は柔らかな金髪に緑色の瞳、どこか儚げな印象を持つ男性です。
ふたり連れだった彼は、店員に案内されて私達のすぐ近くのテーブルに落ち着きました。私とライザ様は人目を憚ってヴェールを被っているので、こちらには気づいていないようです。
「ここは夫の勤める魔道研究所に近いので、職場の方とお昼休憩に来たのでしょう」
「ふうん……さてはマリオン、最初から旦那様が来るのを期待して、ここで会おうって言ったのね」
「そ、そんなことありませんわ」
「嘘おっしゃい。あーあ、なんて酷い親友なのかしら。学園の卒業パーティで婚約破棄された可哀相な私に、自分と夫が熱々なところを見せつけようだなんて」
「い、一年経って吹っ切れたとおっしゃっていたじゃありませんか。新しく好きな方も出来たと、だから私……」
「うふふ、からかってごめんなさい。ええ、もうすっかり吹っ切れたわ。新しく出来た好きな方は……まだ片想いだけどね」
「告白はなさらないの?」
「振られたら怖いもの。あちらは、ただの弟子としてしか見てくださってないわ」
「公爵領に招いた帝国の魔道士の方でしたっけ」
「機会があったら、お世話になっているお師匠様ということで紹介するわね」
「楽しみにしています」
一年前、学園の卒業パーティで王太子ルドガー殿下に婚約を破棄されたライザ様は、辺境にある公爵領へお帰りになりました。
醜聞が燃え盛る王都から離れたのです。
ルドガー殿下が学園の特待生と浮気した末の一方的な婚約破棄でしたが、ライザ様が殿下の浮気相手を階段から突き落としたなどという、根も葉もない冤罪も被せられかけていました。
普通は当事者が無くなれば醜聞も鎮火するものですが、お帰りになっていた公爵領で魔獣の大氾濫が発生したり、その対応と後始末で帝国から魔道士を招いたらご自身の才能を見出されて弟子入りを許されたりと、未だに注目の的のライザ様なのです。
これでは王都にいらっしゃる間はずっと、顔を隠すヴェールが手放せないでしょう。
ライザ様はとても美人ですし、この王国では珍しい銀髪の持ち主ですからね。
この王国にも魔道士はいます。
現に私の夫であるユージン様も優秀な魔道士で、王立魔道研究所の主力所員です(自慢)。
とはいえ、数百年前から定期的な魔獣の大氾濫に対抗して魔道技術を磨いてきた帝国と、ここ十数年で開拓の進んだ辺境にのみ大氾濫が発生するようになった王国では地力が違います。元より日常に根付いた生活魔道であっても、応用や改造に必要な本質的な知識は帝国が独占しているのです。弟子入りしたら門外不出の帝国魔道を学べるのではないかと、夫がライザ様を羨ましがっていましたっけ。
「私のことは先の話として、とりあえず旦那様にご挨拶する?」
「はい。ライザ様とここへ来ることは秘密にしていましたので、きっと驚きます、わ……」
「マリオン?」
立ち上がりかけた私は夫と一緒にいる人物を確認して座り直しました。
真っ赤な髪を短く切った髪型が印象なその女性には見覚えがありました。
彼と談笑していたのは五歳年上の夫や兄の同級生で、王国一の規模を誇るウーレンベック商会の会頭夫人のリリス様だったのです。
卒業して一年ということは、私が結婚して一年ということでもあります。
「おめでとう、マリオン。遅くなってしまったけれど、結婚祝いよ」
「ライザ様、ありがとうございます」
公爵令嬢のライザ様とお会いするのも、ほぼ一年ぶりでしょうか。
卒業のときはいろいろありましたし、その後もお互い忙しくて手紙のやり取りくらいしかできませんでした。
彼女がくださったのは、私が好きな銘柄の茶葉でした。王国の北にある帝国でしか採れない希少な銘柄です。帰ったら夫と一緒に楽しむことにしましょう。
今日は王都にある王立公園内の屋外喫茶に来ています。
お茶とお菓子を楽しみながら王立公園の花が見られるので、長く冷たい冬の閉じ籠り生活から解放された人々が集まっていました。
あまりゆっくりはできないかもしれません。店の敷地の外に行列が出来ています。
「……あら? あちらにいらっしゃるの、マリオンの旦那様じゃない?」
ライザ様に言われて振り返ると、確かに夫の姿が見えました。
夫は柔らかな金髪に緑色の瞳、どこか儚げな印象を持つ男性です。
ふたり連れだった彼は、店員に案内されて私達のすぐ近くのテーブルに落ち着きました。私とライザ様は人目を憚ってヴェールを被っているので、こちらには気づいていないようです。
「ここは夫の勤める魔道研究所に近いので、職場の方とお昼休憩に来たのでしょう」
「ふうん……さてはマリオン、最初から旦那様が来るのを期待して、ここで会おうって言ったのね」
「そ、そんなことありませんわ」
「嘘おっしゃい。あーあ、なんて酷い親友なのかしら。学園の卒業パーティで婚約破棄された可哀相な私に、自分と夫が熱々なところを見せつけようだなんて」
「い、一年経って吹っ切れたとおっしゃっていたじゃありませんか。新しく好きな方も出来たと、だから私……」
「うふふ、からかってごめんなさい。ええ、もうすっかり吹っ切れたわ。新しく出来た好きな方は……まだ片想いだけどね」
「告白はなさらないの?」
「振られたら怖いもの。あちらは、ただの弟子としてしか見てくださってないわ」
「公爵領に招いた帝国の魔道士の方でしたっけ」
「機会があったら、お世話になっているお師匠様ということで紹介するわね」
「楽しみにしています」
一年前、学園の卒業パーティで王太子ルドガー殿下に婚約を破棄されたライザ様は、辺境にある公爵領へお帰りになりました。
醜聞が燃え盛る王都から離れたのです。
ルドガー殿下が学園の特待生と浮気した末の一方的な婚約破棄でしたが、ライザ様が殿下の浮気相手を階段から突き落としたなどという、根も葉もない冤罪も被せられかけていました。
普通は当事者が無くなれば醜聞も鎮火するものですが、お帰りになっていた公爵領で魔獣の大氾濫が発生したり、その対応と後始末で帝国から魔道士を招いたらご自身の才能を見出されて弟子入りを許されたりと、未だに注目の的のライザ様なのです。
これでは王都にいらっしゃる間はずっと、顔を隠すヴェールが手放せないでしょう。
ライザ様はとても美人ですし、この王国では珍しい銀髪の持ち主ですからね。
この王国にも魔道士はいます。
現に私の夫であるユージン様も優秀な魔道士で、王立魔道研究所の主力所員です(自慢)。
とはいえ、数百年前から定期的な魔獣の大氾濫に対抗して魔道技術を磨いてきた帝国と、ここ十数年で開拓の進んだ辺境にのみ大氾濫が発生するようになった王国では地力が違います。元より日常に根付いた生活魔道であっても、応用や改造に必要な本質的な知識は帝国が独占しているのです。弟子入りしたら門外不出の帝国魔道を学べるのではないかと、夫がライザ様を羨ましがっていましたっけ。
「私のことは先の話として、とりあえず旦那様にご挨拶する?」
「はい。ライザ様とここへ来ることは秘密にしていましたので、きっと驚きます、わ……」
「マリオン?」
立ち上がりかけた私は夫と一緒にいる人物を確認して座り直しました。
真っ赤な髪を短く切った髪型が印象なその女性には見覚えがありました。
彼と談笑していたのは五歳年上の夫や兄の同級生で、王国一の規模を誇るウーレンベック商会の会頭夫人のリリス様だったのです。
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