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第十五話 私の恋心が戻るとき
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私とユージン様、黒の魔道士イグナス様にかけられた魔道は、フェイリュア様の指輪よりも進化したものでした。
ユージン様が嵌めた指輪に絡み取られた私の恋心は、イグナス様に送られていたのです。これなら術者まで遡ることはできません。目的の人物と指輪の装着者には関係がないのですから。
その代わり一気に大量に送らないと途中で魔力が消えてしまうので、私の恋心全部が奪われてしまったのではないかとのことでした。
リリス様がウーレンベック商会の会頭からイグナス様に乗り換えようとしていたわけではないそうです。
自殺者の線から捜査が来ることを恐れて取り込もうとしたのだろう、と彼は言います。
今朝目覚めて自分の中の恋心に困惑していたイグナス様は、彼女の断罪の打ち合わせに来た王宮で娘の変化に首を傾げている伯爵と会い、恋心の持ち主に気づいたのだそうです。
……そうですよね。これまでの私を知っていたら、自分から離縁を言い出すなんて信じられませんよね。
「途中の指輪の装着者で魔力が消耗しても問題がないくらい強い愛情の持ち主ということでマリオンを選んだんだろうが、失敗だったな。……こんな春のように優しくて温かくて柔らかな感情が、俺の中に芽生えるはずがないんだ」
私達三人は王宮の部屋にいます。
ほかの人間が混じると魔道の解除に歪みが生じるかもしれないということで、室内には私達以外だれもいません。廊下に立つ近衛騎士とは扉で隔てられています。
ユージン様がつけている指輪はフェイリュア様が使ったものよりも進化しているのと目的の人物から術者まで遡れないという点を鑑みて、簡単には外れない魔道もかけられているとのことです。
「子狐の指輪の絡繰りも自殺者との関係もわかってたから、どっちにしろあの女狐は捕まえる予定だったんだ。こんな悪あがき、時間稼ぎにもならない」
言いながら、イグナス様はユージン様の指輪の上に手を翳しました。
この部屋に来る前、父に聞きました。ユージン様は私との離縁を素直に受け入れたそうです。
引き立てられていくリリス様に呼びかけられても反応している様子はありませんでしたけれど、この後で会いに行く気なのかもしれません。リリス様にもらった指輪を外すことに抵抗はなさそうなのですが。
ユージン様の指輪を外してほしくないと思っているのは私のほうでした。
恋心が消えただけで、これまでの記憶は残っているのです。
私はユージン様を愛していました。ええ、本当に!
恋心が戻ってきたら、離縁なんてできないかもしれません。
裏切られていたと知りながら、愛されていないと疎まれているのだと知りながらも復縁を望んで、見苦しく縋り付いてしまうかもしれません。
そんなことをしたら余計に嫌われてしまうのに、恋する愚かな私にはそれがわからなくなってしまうでしょう。……盛りのついた雌猫のような私には。
イグナス様の手が淡く輝き、ユージン様の指輪から糸状の光が立ち昇ります。
一本だけではありません。
無数の光の糸がぐちゃぐちゃに絡まって蠢きます。
これはユージン様の心が変じたものだとイグナス様は言います。
リリス様への恋心でしょうか。彼女に夫がいるから、ユージン様の心は悩み苦しんで魔力の糸が縺れて居るのでしょうか。この糸が私の恋心に絡みつき、魔力へと変換してイグナス様へと送り込んでいるのです。この糸が無くなれば、反動で私の恋心が戻ってきます。
蠢きながらも少しずつ糸はほぐれていき、自由になった糸から消えていきました。
やがて──
ユージン様が嵌めた指輪に絡み取られた私の恋心は、イグナス様に送られていたのです。これなら術者まで遡ることはできません。目的の人物と指輪の装着者には関係がないのですから。
その代わり一気に大量に送らないと途中で魔力が消えてしまうので、私の恋心全部が奪われてしまったのではないかとのことでした。
リリス様がウーレンベック商会の会頭からイグナス様に乗り換えようとしていたわけではないそうです。
自殺者の線から捜査が来ることを恐れて取り込もうとしたのだろう、と彼は言います。
今朝目覚めて自分の中の恋心に困惑していたイグナス様は、彼女の断罪の打ち合わせに来た王宮で娘の変化に首を傾げている伯爵と会い、恋心の持ち主に気づいたのだそうです。
……そうですよね。これまでの私を知っていたら、自分から離縁を言い出すなんて信じられませんよね。
「途中の指輪の装着者で魔力が消耗しても問題がないくらい強い愛情の持ち主ということでマリオンを選んだんだろうが、失敗だったな。……こんな春のように優しくて温かくて柔らかな感情が、俺の中に芽生えるはずがないんだ」
私達三人は王宮の部屋にいます。
ほかの人間が混じると魔道の解除に歪みが生じるかもしれないということで、室内には私達以外だれもいません。廊下に立つ近衛騎士とは扉で隔てられています。
ユージン様がつけている指輪はフェイリュア様が使ったものよりも進化しているのと目的の人物から術者まで遡れないという点を鑑みて、簡単には外れない魔道もかけられているとのことです。
「子狐の指輪の絡繰りも自殺者との関係もわかってたから、どっちにしろあの女狐は捕まえる予定だったんだ。こんな悪あがき、時間稼ぎにもならない」
言いながら、イグナス様はユージン様の指輪の上に手を翳しました。
この部屋に来る前、父に聞きました。ユージン様は私との離縁を素直に受け入れたそうです。
引き立てられていくリリス様に呼びかけられても反応している様子はありませんでしたけれど、この後で会いに行く気なのかもしれません。リリス様にもらった指輪を外すことに抵抗はなさそうなのですが。
ユージン様の指輪を外してほしくないと思っているのは私のほうでした。
恋心が消えただけで、これまでの記憶は残っているのです。
私はユージン様を愛していました。ええ、本当に!
恋心が戻ってきたら、離縁なんてできないかもしれません。
裏切られていたと知りながら、愛されていないと疎まれているのだと知りながらも復縁を望んで、見苦しく縋り付いてしまうかもしれません。
そんなことをしたら余計に嫌われてしまうのに、恋する愚かな私にはそれがわからなくなってしまうでしょう。……盛りのついた雌猫のような私には。
イグナス様の手が淡く輝き、ユージン様の指輪から糸状の光が立ち昇ります。
一本だけではありません。
無数の光の糸がぐちゃぐちゃに絡まって蠢きます。
これはユージン様の心が変じたものだとイグナス様は言います。
リリス様への恋心でしょうか。彼女に夫がいるから、ユージン様の心は悩み苦しんで魔力の糸が縺れて居るのでしょうか。この糸が私の恋心に絡みつき、魔力へと変換してイグナス様へと送り込んでいるのです。この糸が無くなれば、反動で私の恋心が戻ってきます。
蠢きながらも少しずつ糸はほぐれていき、自由になった糸から消えていきました。
やがて──
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