この朝に辿り着く

豆狸

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<<夜が明けて・裏>>

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 結婚式の数日後ジローが王宮へ戻ると、大公妃である叔母が訪ねてきていた。

「カロリーヌの様子はどうですか?」
「元気ですよ、叔母上。あの……」
「なんですか?」

 カロリーヌと隣国のアレクサンドル王太子は白い結婚だったのかと聞こうとして、ジローは口を閉じた。
 そんな繊細な事柄を迂闊に聞くことは出来ない。

「なんでもありません」
「そうですか。カロリーヌの結婚式、私も出席したかったですわ」
「カロリーヌではありません。仕立て屋のカロルと行商人のジローの結婚式です」

 ジローは第二王子だ。
 この国では王家の相続は長子と決まっている。
 第二子は予備として扱われ、兄もしくは姉に跡取りが出来るまで結婚はおろか婚約をすることも許されない。その代わり、市井にもうひとつの顔を持つことが出来た。

 死んだ振りをして大公妃を頼って来たカロリーヌは、ジローを始めとする王族に正式に紹介されることはなかった。
 市井に降りて平民として暮らすことになった姪を案じた大公妃に頼まれて、ジローはもうひとつの顔である行商人として彼女と出会った。
 第二王子殿下と同じお名前なのですね、とカロリーヌが微笑んだとき、ジローは大公である叔父に昔言われた言葉を思い出した。

 ──この国のことは愛しています。
 王族として国のため民のため生きるのは当然のこと。ちゃんと理解しています。
 それでも……兄上にお子が産まれて予備の人生から解放され、留学した隣国で妻と会うまでは明けぬ夜にいるような気がしていました。殿下もいつかきっと、眩しい朝に辿り着くことでしょう。

 ジローは、第一王子である兄の予備であることに不満を持ったことはなかった。
 護衛に見張られながらとはいえ、市井でもうひとつの人生を生きることは楽しかった。
 だが、カロリーヌと出会った途端、彼女の微笑みを見た瞬間、自分が叔父と同じように夜にいたことに気づいた。あのとき、初めて朝が来た。ジローの人生が始まったのだ。

 幸い、すでに兄には子どもがいた。
 妻に甘い叔父の大公の口添えもあって、ジローは周囲に祝福されてカロリーヌとの愛を育めた。
 もし反対されていたら、彼女と一緒に国を出るつもりだったことは一生の秘密だ。

 周囲にもカロリーヌにも、言えないでいることはたくさんある。
 いつか、ジローはカロリーヌにすべてを明かす。
 第二王子のジローが臣下に降って公爵辺りになるか、このまま平民として行商人の人生を生きるかは彼女次第だ。

「もし俺が公爵になってカロリーヌという名の妻を迎えることになったら、そのときは叔母上も結婚式にご出席ください」
「ええ、楽しみにしています。なんなら式の間、ふたりの子どもの面倒を見ていてあげますよ」
「ありがとうございます」

 夜は明けた。
 ジローは光り輝く朝の中にいる。
 愛しいカロリーヌもそうなのだろうか、そうであって欲しいと、彼は願った。
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