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18・王都へ
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王都へ向けてヴァーゲの町を旅立ったのは、わたしがこの世界へ来て三日目の朝だった。
ルーカスさんが有能だから事後処理も早かったのだと、神殿の神官さん達が言っていたとベティーナちゃんが言っていた。
わたし、ずっと神殿で用意してもらった部屋にいたから、そういう噂を聞く機会がなかったんだよね。ご領主様とも最初のときと出発のときにしか顔を合わせなかった。
ベティーナちゃんと猫妖精騎士のパイチェ君も一緒に行く。
秋の女神様とエンダーリヒ教団のこれからの関係について話し合うのだそうだ。
ベティーナちゃん十二歳なのに偉い。
よく考えたら年下とはいえ秋の女神の愛し子のベティーナちゃんにタメ口は良くないのではと思って彼女に聞いてみたのだが、わたしはまれ人だから好きに話したのでいいと言われた。
ルーカスさんもコルネリウスさん達も良い人だけど、千人近い男性の中にただひとりの女子として同行するのはちょっと不安だったから、彼女達が一緒ですごく嬉しい。
ルーカスさんの部下は秘密を守れるから、旅の間は好きに力を使ってもいいと言われたのも嬉しかった。
コルネリウスさん達が複雑そうな顔をしていたのはなぜだろう。
ううん、秘密を守るのって大変だものね。ごめんなさい。
「陽菜お姉ちゃん、林檎! これ林檎の木だよ!」
ヴァーゲの町を発って四日目のお昼ごろ、森の中を進んでいたらベティーナちゃんが叫んだ。
王都までは五日ほどと聞いている。
明日の昼には着くみたいだ。
聖騎士団は千人近くいるので、馬に乗っていても歩みは遅い。
ベティーナちゃんはパイチェ君の馬に乗るのを嫌がって歩いていた。
わたしは怠惰な実家暮らしの女子大生なので、ルーカスさんと一角獣のクローネに乗ってます。
「ルーカスさん、いいですか?」
「ええ。そろそろ昼食にしましょう」
ルーカスさんの合図で聖騎士団が止まる。
クローネから降ろしてもらって、ベティーナちゃんに駆け寄った。
「ほらほら、この木!」
「ベティーナちゃんよくわかったねー」
「ベティーナは秋の女神様の愛し子にゃからな!……なんでパイチェと一緒に馬に乗ってくれないのにゃ。パイチェはベティーナを守護する猫妖精騎士なのに」
「だって服に胞子が付くんだもん。それより陽菜お姉ちゃん、お願い!」
タメ口でいいと言われたので、わたしもタメ口でお願いしている。
お姉ちゃんと呼ばれるのも嬉しい。
「任せて」
林檎の木の幹に手を当てて、力を送る。
魔導のない世界から来たけれど、最近魔力の流れがわかってきた気がしている。
わたしの活性化は反動もなく、対象に問題が起こることもないとルーカスさんが言ってくれたので、もう遠慮なく使って練習していた。魔力欠乏症とやらにもなったことはない。まれ人のわたしは魔力の保有量も桁外れらしい。
……うん、チートだね。
絶対悪い人に知られちゃいけないヤツだ。
一応人権思想のある元の世界だったとしても監禁されて酷使される運命しか見えないよ。
林檎の木の葉が青々と茂り、白い花が咲いて無数の実が──
「黄金?……ベティーナちゃん、この世界の林檎って黄金色なの?」
「陽菜お姉ちゃん、これは黄色だよ」
「黄色ですよ、陽菜様」
「そっか、黄色ですよね」
そういうことになった。
ルーカスさんが手を伸ばし、ひとつ取って半分に割って中を見せてくれる。
甘酸っぱい香り。たっぷり蜜が入ってて美味しそうだ。とりあえずその一個は、いつものお礼を兼ねてクローネにあげることになった。
「ルーカスさん、林檎酒にしますか?」
なんかチート過ぎて自分でもどうかと思うんだけど、果実を入れたお鍋に手を当てて力を送るとき、お酒をイメージすると空気中の酒精が活性化してお酒に、蜜煮をイメージすると腕の……そうそう、ヴァーゲの町の神殿でベティーナちゃんにもらった花は活性化しているうちにたくさんの花をつけて、わたしの腕輪になりました。
力を送ると蜜を出してくれるよ!
というわけで、イメージによって同じ果実でもお酒と蜜煮を作り分けられます。
……我ながら、このチートな力をどう隠したらいいのかわからないよ。
元々の魔力保有量が多いから、軽い気持ちがとんでもない結果になるんだよね。
魔導が日常のこの世界の魔力が薄いからか、体から勝手に魔力が放出してたりするみたい。ほら、塩漬けの魚を薄い塩水に浸けると塩が抜けるみたいな感じ。制御や抑制がどうとかいう話じゃないと思う。
うーん。王都で妙なことにならないといいんだけど。
ルーカスさんが有能だから事後処理も早かったのだと、神殿の神官さん達が言っていたとベティーナちゃんが言っていた。
わたし、ずっと神殿で用意してもらった部屋にいたから、そういう噂を聞く機会がなかったんだよね。ご領主様とも最初のときと出発のときにしか顔を合わせなかった。
ベティーナちゃんと猫妖精騎士のパイチェ君も一緒に行く。
秋の女神様とエンダーリヒ教団のこれからの関係について話し合うのだそうだ。
ベティーナちゃん十二歳なのに偉い。
よく考えたら年下とはいえ秋の女神の愛し子のベティーナちゃんにタメ口は良くないのではと思って彼女に聞いてみたのだが、わたしはまれ人だから好きに話したのでいいと言われた。
ルーカスさんもコルネリウスさん達も良い人だけど、千人近い男性の中にただひとりの女子として同行するのはちょっと不安だったから、彼女達が一緒ですごく嬉しい。
ルーカスさんの部下は秘密を守れるから、旅の間は好きに力を使ってもいいと言われたのも嬉しかった。
コルネリウスさん達が複雑そうな顔をしていたのはなぜだろう。
ううん、秘密を守るのって大変だものね。ごめんなさい。
「陽菜お姉ちゃん、林檎! これ林檎の木だよ!」
ヴァーゲの町を発って四日目のお昼ごろ、森の中を進んでいたらベティーナちゃんが叫んだ。
王都までは五日ほどと聞いている。
明日の昼には着くみたいだ。
聖騎士団は千人近くいるので、馬に乗っていても歩みは遅い。
ベティーナちゃんはパイチェ君の馬に乗るのを嫌がって歩いていた。
わたしは怠惰な実家暮らしの女子大生なので、ルーカスさんと一角獣のクローネに乗ってます。
「ルーカスさん、いいですか?」
「ええ。そろそろ昼食にしましょう」
ルーカスさんの合図で聖騎士団が止まる。
クローネから降ろしてもらって、ベティーナちゃんに駆け寄った。
「ほらほら、この木!」
「ベティーナちゃんよくわかったねー」
「ベティーナは秋の女神様の愛し子にゃからな!……なんでパイチェと一緒に馬に乗ってくれないのにゃ。パイチェはベティーナを守護する猫妖精騎士なのに」
「だって服に胞子が付くんだもん。それより陽菜お姉ちゃん、お願い!」
タメ口でいいと言われたので、わたしもタメ口でお願いしている。
お姉ちゃんと呼ばれるのも嬉しい。
「任せて」
林檎の木の幹に手を当てて、力を送る。
魔導のない世界から来たけれど、最近魔力の流れがわかってきた気がしている。
わたしの活性化は反動もなく、対象に問題が起こることもないとルーカスさんが言ってくれたので、もう遠慮なく使って練習していた。魔力欠乏症とやらにもなったことはない。まれ人のわたしは魔力の保有量も桁外れらしい。
……うん、チートだね。
絶対悪い人に知られちゃいけないヤツだ。
一応人権思想のある元の世界だったとしても監禁されて酷使される運命しか見えないよ。
林檎の木の葉が青々と茂り、白い花が咲いて無数の実が──
「黄金?……ベティーナちゃん、この世界の林檎って黄金色なの?」
「陽菜お姉ちゃん、これは黄色だよ」
「黄色ですよ、陽菜様」
「そっか、黄色ですよね」
そういうことになった。
ルーカスさんが手を伸ばし、ひとつ取って半分に割って中を見せてくれる。
甘酸っぱい香り。たっぷり蜜が入ってて美味しそうだ。とりあえずその一個は、いつものお礼を兼ねてクローネにあげることになった。
「ルーカスさん、林檎酒にしますか?」
なんかチート過ぎて自分でもどうかと思うんだけど、果実を入れたお鍋に手を当てて力を送るとき、お酒をイメージすると空気中の酒精が活性化してお酒に、蜜煮をイメージすると腕の……そうそう、ヴァーゲの町の神殿でベティーナちゃんにもらった花は活性化しているうちにたくさんの花をつけて、わたしの腕輪になりました。
力を送ると蜜を出してくれるよ!
というわけで、イメージによって同じ果実でもお酒と蜜煮を作り分けられます。
……我ながら、このチートな力をどう隠したらいいのかわからないよ。
元々の魔力保有量が多いから、軽い気持ちがとんでもない結果になるんだよね。
魔導が日常のこの世界の魔力が薄いからか、体から勝手に魔力が放出してたりするみたい。ほら、塩漬けの魚を薄い塩水に浸けると塩が抜けるみたいな感じ。制御や抑制がどうとかいう話じゃないと思う。
うーん。王都で妙なことにならないといいんだけど。
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