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第五話A 愛は戻らない
アンドレス王太子殿下は、愛妾としてソレダ様をお迎えになりました。
私が王子妃として役立たずだからです。
これまでの教育で公務はなんとかこなしていますが、どうしても子を成すことが出来ません。いいえ、子を成す以前の問題でした。子作りのために近づいたら、どうしても私は殿下を見てしまいます。初夜は瞼を閉じていれば良いと思ったのですけれど、私はなにかの弾みで瞳を開いてしまいました。
「イザベリータ?」
「……も、申し訳ありません。殿下を見てしまいました」
「もうそんなこと気にしなくていい。あれは私が悪かったんだ」
「いいえ、殿下が正しいのです。私の愛は間違っています」
父であるデルガード侯爵とは、ぎこちないながらも前のように接しています。
でもそれは、私達が親娘だからです。
家族の愛と夫婦の愛は違います。まして殿下は未来の国王陛下です。なによりも国のことを一番に考えなくてはならない方です。私ごときが執着したり独占しようとしたりしてはいけないのです。
「イザベリータ! なにをしてるんだ。目が痒いのか?」
自分の指に対する恐怖からでしょうか。
どうしても降りてしまう瞼を引っ掻きながら、私は殿下に答えました。
先ほどから涙が止まらなくて、声が濁っています。
「目を……この目を潰してしまえば、もう殿下を見ることはありません」
「莫迦な。落ち着くんだ、イザベリータ。そんなことをしたら王子妃としての公務が果たせなくなる」
「……そうですね。ああ、どうしたら良いのでしょう? これまで教育を受けたご恩をアルメンタ王国に返さなくてはいけないのに。もうアンドレス王太子殿下を見つめてはいけないのに」
瞼を閉じてその上から手を重ねていても、視線というのは感じるものです。
アンドレス殿下はしばらく無言で私を見つめた後、今夜はもういい、と言って部屋を出て行かれました。
やはり私ではご不満だったのでしょう。残された私は、寝台の上で泣き続けました。
そして、王子妃としての一番大切なお役目を果たせない私の代わりにソレダ様が愛妾として王宮へいらっしゃることになったのです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ソレダ様はお亡くなりになりました。
彼女が王宮へいらしてから一年ほど経ったころだったでしょうか。
子どもを産み落としてお亡くなりになったのですが、その子はアンドレス王太子殿下の子どもではありませんでした。
黒い髪に褐色の肌、琥珀の瞳の男の子です。
アルメンタ王国の前に広がる大きな海を渡った先にある南の大陸に住む人々によく似ています。そこにはジャウハラ帝国という国があります。王ではなく皇帝が支配する国です。
十数年前、皇帝の代替わりがきっかけで内乱が始まる前は交流があり、去年に内乱が収まってからは貿易を始めとする交流が再開されています。海に近いアルメンタ王国はあまり農作に向いていないため、大陸の内陸部から食糧を輸入しています。その際にジャウハラ帝国から輸入した商品が価値を持つのです。
内乱で支配者がはっきりしないため国家間での交流は控えていましたが、市井での交流は続いていました。
ソレダ様のご実家の商家もジャウハラ帝国の商人と取り引きをしていたのです。
彼女の産んだ子どもの父親は、そんな商人のひとりでしょう。
もちろん王宮に引き入れて睦み合ったわけではありません。
去年、ジャウハラ帝国との交流再開を記念した宴が王宮で開催されました。
愛妾であるソレダ様はそちらに参加していただくことは出来ません。一方アンドレス王太子殿下は女王陛下とご一緒に賓客をもてなすお役目があります。殿下と会えないことを寂しがるソレダ様は特別に、その日ご実家に戻ることを許されたのです。そのとき出来た子どもなのでしょう。
私が王子妃として役立たずだからです。
これまでの教育で公務はなんとかこなしていますが、どうしても子を成すことが出来ません。いいえ、子を成す以前の問題でした。子作りのために近づいたら、どうしても私は殿下を見てしまいます。初夜は瞼を閉じていれば良いと思ったのですけれど、私はなにかの弾みで瞳を開いてしまいました。
「イザベリータ?」
「……も、申し訳ありません。殿下を見てしまいました」
「もうそんなこと気にしなくていい。あれは私が悪かったんだ」
「いいえ、殿下が正しいのです。私の愛は間違っています」
父であるデルガード侯爵とは、ぎこちないながらも前のように接しています。
でもそれは、私達が親娘だからです。
家族の愛と夫婦の愛は違います。まして殿下は未来の国王陛下です。なによりも国のことを一番に考えなくてはならない方です。私ごときが執着したり独占しようとしたりしてはいけないのです。
「イザベリータ! なにをしてるんだ。目が痒いのか?」
自分の指に対する恐怖からでしょうか。
どうしても降りてしまう瞼を引っ掻きながら、私は殿下に答えました。
先ほどから涙が止まらなくて、声が濁っています。
「目を……この目を潰してしまえば、もう殿下を見ることはありません」
「莫迦な。落ち着くんだ、イザベリータ。そんなことをしたら王子妃としての公務が果たせなくなる」
「……そうですね。ああ、どうしたら良いのでしょう? これまで教育を受けたご恩をアルメンタ王国に返さなくてはいけないのに。もうアンドレス王太子殿下を見つめてはいけないのに」
瞼を閉じてその上から手を重ねていても、視線というのは感じるものです。
アンドレス殿下はしばらく無言で私を見つめた後、今夜はもういい、と言って部屋を出て行かれました。
やはり私ではご不満だったのでしょう。残された私は、寝台の上で泣き続けました。
そして、王子妃としての一番大切なお役目を果たせない私の代わりにソレダ様が愛妾として王宮へいらっしゃることになったのです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ソレダ様はお亡くなりになりました。
彼女が王宮へいらしてから一年ほど経ったころだったでしょうか。
子どもを産み落としてお亡くなりになったのですが、その子はアンドレス王太子殿下の子どもではありませんでした。
黒い髪に褐色の肌、琥珀の瞳の男の子です。
アルメンタ王国の前に広がる大きな海を渡った先にある南の大陸に住む人々によく似ています。そこにはジャウハラ帝国という国があります。王ではなく皇帝が支配する国です。
十数年前、皇帝の代替わりがきっかけで内乱が始まる前は交流があり、去年に内乱が収まってからは貿易を始めとする交流が再開されています。海に近いアルメンタ王国はあまり農作に向いていないため、大陸の内陸部から食糧を輸入しています。その際にジャウハラ帝国から輸入した商品が価値を持つのです。
内乱で支配者がはっきりしないため国家間での交流は控えていましたが、市井での交流は続いていました。
ソレダ様のご実家の商家もジャウハラ帝国の商人と取り引きをしていたのです。
彼女の産んだ子どもの父親は、そんな商人のひとりでしょう。
もちろん王宮に引き入れて睦み合ったわけではありません。
去年、ジャウハラ帝国との交流再開を記念した宴が王宮で開催されました。
愛妾であるソレダ様はそちらに参加していただくことは出来ません。一方アンドレス王太子殿下は女王陛下とご一緒に賓客をもてなすお役目があります。殿下と会えないことを寂しがるソレダ様は特別に、その日ご実家に戻ることを許されたのです。そのとき出来た子どもなのでしょう。
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