転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

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いきなり異世界転生編

7・『黄金のケルベロス亭』

「……ケルベロスー? 父上ー?……」

 王都へ向かう馬車の中、ラケルの寝ぼけた声に騎士団長が答えてくれる。

「そうだ、ラケル殿。ラトニー王国の最高級宿『黄金のケルベロス亭』は偉大なる神獣様のご種族名を使わせていただいている」

 わたしの膝の上で眠っていたラケルが、むにゃむにゃと言いながら体を起こす。

「えへへー、父上偉大だぞー」
「そうだね」

 わたしもとってもお世話になった。
 いつかお礼に行かなくちゃ。サンドイッチって神獣様へのお礼になるかなあ。

「しかしラケル殿、だからこそそのことは、俺達以外には秘密にしてもらいたい」
「え?」

 ラケルがわたしを見上げる。
 わたしは騎士団長の言葉の続きを待つことにした。

魔物使いテイマー自体はさほど珍しい存在ではないが、人間と会話が可能なモンスターとなると限られてしまう。ラケル殿が偉大なるケルベロス様のご子息だと知られたら、葉菜花を悪用しようというものが出てくるだろう」

 そこまで言って、彼はわたしを見つめてきた。

「ただでさえ葉菜花は、とんでもない力を持っているというのに」

 聖女様は口の周りを白くしてきな粉ミルクを飲んでいらっしゃいます。
 あ、また手に魔石を出した。
 どれだけのスライムを倒してたんだろう。

 次のサンドイッチを求めて見つめてくる聖女様に、騎士団長が舌打ちを漏らした。

「ほら、ああして力を求めるものが」
「ん?」

 ラケルの視線を受けて、聖女様は顔を背けた。

「えっと……ラケル?」
「ごしゅじん!」
「わたしが『いいよ』って言うとき以外は、おしゃべりしないって約束してくれる?」
「わかったぞ! 俺、『待て』ができるわんこだからな!」

 元の世界……前世でも完璧にできていた。
 子犬みたいなのに賢くてしつけができている、自慢のわんこだったのよね。

「それがいい。葉菜花もラケル殿が神獣様のご子息であることを口にしないようにな。……ふん。シャドウウルフの幼獣だとでも言っておけばいいだろう」
「違うぞ!」

 騎士団長の言葉を聞いて、ラケルは声を上げた。

「俺の母上はシャドウウルフじゃなくてダークウルフだぞ!」
「しかしラケル殿は『闇渡り』のスキルはお持ちでないようだが?」

 ラケルは暗い表情で俯いた。

「……まだできないだけだぞ」
「でもほら、『影運び』だっけ? すごく役に立ってるよ!」
「……『影運び』はモンスターの『アイテムボックス』」

 ラケルの言葉を聞いて、聖女様が頷いている。
 そういえばケルベロス様もそんなこと言ってたな。

 ──『闇渡り』は転移陣と同じような効果を持つスキルだという。
 『鑑定』『アイテムボックス』『転移』は転生者のお約束。
 騎士団長に見てもらったところ、わたしはどれも持ってないらしいです。

 わたしが持っているのは『異世界言語理解』と『異世界料理再現錬金術』だけ。
 『異世界言語理解』は女神様が直々に与えてくれたおかげかレベルMAXで、魔石試しで解放された『異世界料理再現錬金術』はレベル1だ。
 自分でスキルを確認することができないので、すべて騎士団長の話だけど。

「ダークウルフも幻獣と呼ばれるほど知能が高く魔力の強い希少なモンスターだ。やはり人に懐きやすいシャドウウルフと言っておくほうがいい。シャドウウルフなら『影運び』は使えるから矛盾もないしな」
「……俺、ケルベロスの父上とダークウルフの母上の子だぞ」

 わたしはラケルの毛皮を撫でた。……モフモフ気持ちいい。

「ごめんね。でもほら、悪い人の前では印籠を出すまで正体は秘密でしょ? それと一緒で内緒にしよう?」
「なるほど!」
「「?」」

 騎士団長と聖女様は怪訝そうな顔をしていたが、特に追及はされなかった。

 わたしが学校へ行っている間、同居しているおじいちゃんやおばあちゃんと過ごしていたラケルは、ネットでよく時代劇を観ていた。
 だから話が通じるんじゃないかと思ったのよね。
 わかってくれて良かった!

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 王都サトゥルノの正門から入って西へ。
 大通りと冒険者通りの間にある大きな建物が『黄金のケルベロス亭』だった。

 大神官のサンドラさんには馬車と一緒に聖神殿へ帰ってもらい、三人と一匹で中に入る。白馬は宿の人と厩舎へ向かった。
 騎士団長は慣れた様子で受付へ向かう。
 腰の剣は佩いたままでもいいみたい。

 わたしとラケルと聖女様は、ロビーで彼を待った。
 ケルベロス様がいたダンジョンの隠し通路と同じような照明が光っていて、辺りは明るい。
 調度品や室内装飾は豪華でおしゃれで、前世の高級ホテルに勝るとも劣らなかった。

 ……高級ホテルに行ったことなんてないんだけどね!

 黒いローブ姿でフカフカのソファーに座ってるのが申し訳ない気がする。
 いや、このローブは神獣ケルベロス様にもらったものだからね。大丈夫だよね?

「一泊いくらくらいするのかなあ?」
「わふ?」

 お約束をしたので、馬車を降りてからラケルは人間の言葉をしゃべっていない。

「……朝食付きで金貨一枚」

 魔石を握り締めた聖女様が、わたしの呟きに答えてくれた。
 期待に満ちた瞳で見つめてくるけれど、ホテルのロビーで持ち込みはダメだと思うの。

「えっと……金貨一枚ってどれくらいの価値ですか?」

 聖女様が首を傾げる。
 ううう、答えに詰まるような質問しちゃってごめんなさい。
 そうですよね、わたしにこの世界の物価がわからないように聖女様にもわたしの前世の物価はわからないですよね。

「……金貨一枚は銀貨十枚、銀貨一枚が銅貨百枚、銅貨一枚でパンが一個買える」

 さすが聖女様、わかりやすい説明をしてくれた。

 じゃあ……銅貨一枚は百円から二百円くらい?
 百円として、銅貨百枚が銀貨一枚だから銀貨一枚は一万円。
 銀貨十枚が金貨一枚だから、金貨一枚は十万円ね。

 硬貨の最小単位が百円って高過ぎる気もするけど、前世の外国みたいにお菓子や果物をお釣り代わりにしてるのかな。

 なるほどなるほ、ど? あれ? わたしなんでここに来たの?
 もしかしてここに泊まるの? え? 宿代はどうするの?

「すすすいません、聖女様。わたし、お金は全然持っていないんですが」
「……聖神殿が用意したお金がある。……そういえば渡してなかった、ゴメン」
「あ、いえ、あの……いろいろとありがとうございます」
「……神獣様のお客様なのだから当然のこと」
「わふ!」

 ラケルが自慢げに吠える。
 本当に、ケルベロス様にはお世話になってばかりだなあ。
 死んだのを(異世界でとはいえ)生き返らせてもらったっていうだけでも足を向けては寝られない。

 生き返らせてくれたのは女神様だけど、ラケルがケルベロス様の子どもだったから願いを聞いてくれたんだしね。
 ……あれ? 神獣ダンジョンってどっちだっけ?

「待たせたな」

 騎士団長が戻ってくる。

「部屋へ行って話をしよう。……まだ葉菜花の詳しい事情は聞いていなかったしな」

 馬車の中では、わたしが魔石ごはんを作ってふたりが食べる、その繰り返しだったものね。

 ラケルがケルベロス様の子どもだってことも説明してなかったと思うんだけど、しゃべるモンスターが神獣ダンジョンから出て来たことで察してたんだろうな。
 ラケルのお母さんのことは『鑑定』でもわかってなかったみたいだし。
 わたしも聞いてなかったけど。

「……」

 魔石を握った聖女様が、もの言いたげに騎士団長を見つめる。

「受付に冒険者ギルドから魔石をもらって来るよう命じている。話が終わったら、ランクの違う魔石ではどうなるか試してみろ」

 聖女様の瞳が煌めく。

 ……利用されている! 転生早々悪い人達に利用されている!
 悪い人というか……食いしん坊な人達に!

「ああ、葉菜花。ここの宿泊費は俺が出すから、聖神殿が用意した金はべつのことに使うといい。欲しいものがあれば用意するが、男の俺には言いにくいものもあるだろう?」

 基本親切だから文句はないんだけど。
 実際ひとりではなにもできないし。……いつか恩返しできたらいいな。

 スライムの魔石は属性問わずにEランク扱いで、買うときは一個銅貨一枚、売るときは五個で銅貨一枚だそうです。

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