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葉菜花、帰ってきました編
46・真珠草の花咲く水辺で
王都サトゥルノに帰って来た翌日、わたしは冒険者ギルドで薬草採取の依頼を受けた。
今回採取するのは真珠草。
満月の翌日、水辺にのみ現れるという植物だ。
MP回復薬の原料なのと採取できるときが決まっていることで、採取依頼のある薬用植物の中では上薬草に次いで希少なもの。
買い取り価格も高くて一本が銅貨十枚、薬草の十倍!
だけど池のほとりには相変わらずわたしとラケルしかいませんでした。
真珠草は前世の鈴蘭に似て、小さな白い花がたくさんついている。
厳密に言うと満月の翌日にだけ現れるんじゃなくて、普段は花がないから判別できないのだそうだ。
魔脈から魔力を吸い上げて成長した白い花は、辺りが暗くなると淡く輝く。
「見つけたぞ、ごしゅじん!」
「ありがとう」
わたしのようにラケルのふんふんを期待できない冒険者は、真珠草が輝く夜になってから採取に来る。
……恋人達と鉢合わせたら気まずそう。
池のほとりで小さな白い花が光り輝いているなんて格好のデートスポットだよー。
真珠草は光り輝くことで一カ月かけて吸い上げた魔力を使い果たしてしまうので、明るいうちに可能なだけ採取して来てほしいとスサナさんに言われています。
わんことしてもケルベロス様の息子としても優れた嗅覚を持つラケルは、草むらに点在する真珠草を次々と見つけていきました。
「ここにもあったぞ!」
「ありがとう」
ダンジョンに『聖域』を張るベルちゃんと警護の騎士団員の食事係をするという指名依頼については、旅の疲れが取れてからでいいとシオン君に言われています。
今日はのんびり過ごそうっと。
「わふわふ!」
「ラケル?」
だれもいないから普通に話していいよと言ったのに、ラケルのわんこしゃべりが聞こえてきて、わたしは首を傾げた。
見ると、ラケルは池の水面を見つめて吠えている。
「わふわふ!」
「どうしたの、ラケル」
時間的にはお昼過ぎだけど『黄金のケルベロス亭』を出たのが遅かったので、まだ昼食用の魔石ごはんは変成していない。
前世の物語であったみたいに、食べ物をくわえた自分が水面に映っているのを見て奪おうとしているのではないと思う。
ラケルは鏡を見ながら毛づくろいできるほど賢いわんこなのだ。
「ごしゅじん……」
自慢のわんこが困ったような顔をして振り返る。
「なに見てたの?……えっ」
口から飛び出しそうになった叫びを飲み込む。
魂と体が完全に馴染んでいたら反射的に叫んでいただろう。
水の中に蛇がいた。
わたしの腕や足より太い。
港町マルテスで会ったパオロ君とモゼー君の筋肉が盛り上がった腕くらいある。
体長は短めで、手足のないトカゲのようにも見えた。
なんか前世にいたな、こういうの。……ツチノコよりは体が長いか。
つぶらで真っ黒な瞳がわたしを見上げている。
軽く深呼吸してラケルに尋ねた。
「お友達?」
もしわたしや自分に攻撃してくるようなモンスターだったとしたら、ラケルはとっくに行動しているはずだ。
「んー……えっと……」
「ゆっくりでいいよ」
「うむ。……あのな、ごしゅじん。コイツ赤ちゃんなんだ。生まれてすぐダンジョンをアリに奪われて、地下水脈を通ってここに逃げて来た王獣なんだぞ」
アリ、恐るべし。
「こないだ俺、ごしゅじんにもらった塩むすび落としちゃっただろ?」
そんなこともあったっけ。
わたしは頷いた。
「薬草を採取に来たときだよね? そういえば、あのときラケルは池に向かって唸ってたね」
「そうだぞ。池に落ちた塩むすび、コイツが食べちゃったから怒ってたんだぞ」
「お水に落ちたらラケルは食べられないんだから、いいじゃない」
「むー。でも俺がごしゅじんにもらった塩むすびだったのにー」
わたしはラケルの頭を撫でた。
「食べ物を大事にするのはいいことだけど、どうしようもないときもあるよ」
「わかったぞ。それでな、ごしゅじん。コイツは人間や人間の飼ってる動物を襲ったりしないで、地下水脈を通って元のダンジョンで狩りをしてたんだ」
「ダンジョンアントを食べてたってこと?」
「うむ。アリを倒して魔石を食べてたんだぞ。それで『呪い』を受けちゃったんだ」
『呪い』──ダンジョンアントが自分を倒した相手を邪毒属性の状態異常にするスキル。
「ちょっとだけなら自然に消えていくんだぞ。だけどコイツはアリをいっぱい倒して食べてたから『呪い』が積み重なって元気じゃなくなっちゃったんだ。ごしゅじんの魔石ごはんで治してあげて欲しいんだぞ」
「魔石ごはんで治るの?」
「この前も元気じゃなくて寝てたのが、ごしゅじんの塩むすびを食べたら元気になったんだって言ってるぞ」
「そっか」
塩むすびには確か、邪毒系状態異常耐性上昇の付与効果があったっけ。
「また塩むすびを作ったのでいいの?」
「んーと……わふわふ?」
池に向かってラケルがわんこしゃべりをする。
大きな蛇が口を動かすと水面に渦ができた。
ラケルが振り向く。
「すごく美味しかったから、こないだ食べたのがいいんだって」
「どれくらい食べるかな?」
「俺のお鍋いっぱいくらい食べると思うぞ」
言いながら、ラケルが影からお鍋を取り出す。
わたしはお鍋にダンジョンアントの魔石を入れて、一気に変成した。
塩むすびがお鍋の上にまで積み重なって、白い山のようになる。
「どうぞ」
「……きゅいー」
蛇は水から上がり、可愛らしい声を出した。
「多過ぎたかな?」
「ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいから大丈夫だぞ」
「きゅきゅ!」
嬉しそうに鳴いて、蛇が塩むすびを食べ始める。
「……」
「ラケルもなにか食べる?」
「食べるぞ!」
わたし達も池のほとりに座ってお昼にすることにした。
近ごろ気温が高くなってきたからか、草むらは乾燥していて座り心地が良い。
ラケルが用意してくれたお皿の上に魔石を並べる。
「あのときと同じにしようか。えっと……塩むすびと……」
「唐揚げ!」
「そうそう。あとキャベツの千切りも」
「きゅ?」
あっという間に塩むすびを食べ終えた蛇が、じっとわたし達のお皿を見つめる。
「ラケル、蛇さん元気になってる?」
「ごしゅじん、コイツは蛇じゃなくてワームだぞ」
「ワーム?」
見た目は蛇に近いんだけど、言われてみると蛇ではない感じ。
あれ? どこかで聞いた気がする。
ワーム……前世の言葉で虫のことだったっけ。
えー、この子虫なの?
虫はあまり得意ではありません。
「きゅい?」
でも森で肩に落ちてきたのと違って、この子は可愛いな。
首を傾げるワームを見て、なにかに似てると感じる。
前世じゃなくてこの世界に来てから、だれかに聞いた話に出てきたような──
「ワームは成長すると手足が生えてドラゴンになるんだぞ!」
「あ」
ベルちゃんがバッドドラゴンの魔石を持って来てくれたときに説明してくれたんだ。
思い出した。
前世でもドラゴンの一種をそう呼んでたよね。
主にゲームの中で。
「きゅー……」
ワームは甘えるような声を出して、わたしを見る。
「まだ食べたいの?」
「きゅ!」
「ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいからな!」
どうしよう。
ダンジョンアントの魔石はまだまだあるから変成するのはいいんだけど、ワームにはなにを食べさせたらいいんだろう。
唐揚げ(防御力上昇)とキャベツの千切り(集中力上昇)でいいのかな。
──塩むすび=塩=神聖属性?
ふと閃いた。
ベルちゃんのために開発した黄金のお茶会セットAにしてみよう。
空になったお鍋にはMP自然回復率上昇効果のあるココア、神聖系魔術の威力増幅効果があるホットケーキとMP消費量減少効果のあるアイスクリームは大皿に。
「きゅ?」
「アイスが冷たいから驚いてるぞ!」
「ラケルも食べる? 走り回って真珠草を探してくれたから、まだお腹空いてるでしょ」
「食べるぞ!」
もちろんわたしの分も作った。
ココアを飲んでホットケーキを食べていると、なんだかほっこりした気分になる。
冷たいアイスは前世に焦がれる重たい気持ちを軽くしてくれた。
「ごちそう様」
「美味しかったぞ、ごしゅじん!」
「きゅきゅー♪」
お腹いっぱい食べたわたし達は、使ったお鍋やお皿を『浄化』して片づけたあとでまったり過ごすことにした。
十本見つかれば上出来と言われていた真珠草は五十本ほどある。
お日様はぽかぽかだし、ちょっとお昼寝しちゃおうかな。
なんて思っていたら──
「きゅー!」
突然ワームが声を上げた。
苦しそうにクネクネと蠢いている。
「え? どうしたの? ラケル、どうしよう? 魔石ごはんが悪かったのかな?」
「んーん。ワームは進化するんだぞ……ふわあ」
ラケルはアクビを漏らしながら説明してくれた。
「本当はとっくに進化できるくらい魔力が溜まってたのに『呪い』のせいで進化が止まってたんだ」
「そうなの? 大丈夫なのね?」
くねくねと蠢いていたワームは、いつの間にか動きを止めていた。
鼻先を空に向けて、真っ直ぐに体を伸ばしている。
その体が小刻みに震え出す。
「きゅ……きゅきゅー!」
ずるりと皮が脱げて、ワームの背中に羽が生えた。
羽毛ではなく、コウモリのような皮膜の羽だ。
「うむ。ワイアームになったな。……むにゃむにゃ」
ワーム改めワイアームの姿を確認して、ラケルは瞼を下ろした。
お腹いっぱいで眠いみたいです。
ワイアームは、ワームのときよりひと回り大きくなったように見える。
ベルちゃんはなんて言ってたっけ?
ワイアームの次はワイバーンだったはず。
最終的にはドラゴンになるんだよね。
「きゅきゅ、きゅー♪」
ワイアームは自分の脱いだ皮をくわえて、わたしの前に運んできた。
これは魔殻なのかな。
「むにゃ……ごしゅじんにお礼だって」
「ありがとう」
「きゅー♪」
わたしが皮を受け取ると、ワイアームは嬉しそうに鳴いて池へ飛び込んだ。
生えたばかりの羽をヒレのように動かして、楽しげに泳ぎ始める。
いつかはベルちゃんに渡したお土産の水属性の龍みたいになるのかもね。
今度のアリの巣殲滅計画が成功したら、あの子はダンジョンに帰れるのかな?
いつかそのときが来たらお祝いに使うため、今日あの子が使った大皿は『浄化』したあともほかには使わないことにした。
ラケルのお鍋はラケルのだから引き続き使うけど。
──本日の儲けは銅貨五百枚。銀貨五枚でもらいました。
今回採取するのは真珠草。
満月の翌日、水辺にのみ現れるという植物だ。
MP回復薬の原料なのと採取できるときが決まっていることで、採取依頼のある薬用植物の中では上薬草に次いで希少なもの。
買い取り価格も高くて一本が銅貨十枚、薬草の十倍!
だけど池のほとりには相変わらずわたしとラケルしかいませんでした。
真珠草は前世の鈴蘭に似て、小さな白い花がたくさんついている。
厳密に言うと満月の翌日にだけ現れるんじゃなくて、普段は花がないから判別できないのだそうだ。
魔脈から魔力を吸い上げて成長した白い花は、辺りが暗くなると淡く輝く。
「見つけたぞ、ごしゅじん!」
「ありがとう」
わたしのようにラケルのふんふんを期待できない冒険者は、真珠草が輝く夜になってから採取に来る。
……恋人達と鉢合わせたら気まずそう。
池のほとりで小さな白い花が光り輝いているなんて格好のデートスポットだよー。
真珠草は光り輝くことで一カ月かけて吸い上げた魔力を使い果たしてしまうので、明るいうちに可能なだけ採取して来てほしいとスサナさんに言われています。
わんことしてもケルベロス様の息子としても優れた嗅覚を持つラケルは、草むらに点在する真珠草を次々と見つけていきました。
「ここにもあったぞ!」
「ありがとう」
ダンジョンに『聖域』を張るベルちゃんと警護の騎士団員の食事係をするという指名依頼については、旅の疲れが取れてからでいいとシオン君に言われています。
今日はのんびり過ごそうっと。
「わふわふ!」
「ラケル?」
だれもいないから普通に話していいよと言ったのに、ラケルのわんこしゃべりが聞こえてきて、わたしは首を傾げた。
見ると、ラケルは池の水面を見つめて吠えている。
「わふわふ!」
「どうしたの、ラケル」
時間的にはお昼過ぎだけど『黄金のケルベロス亭』を出たのが遅かったので、まだ昼食用の魔石ごはんは変成していない。
前世の物語であったみたいに、食べ物をくわえた自分が水面に映っているのを見て奪おうとしているのではないと思う。
ラケルは鏡を見ながら毛づくろいできるほど賢いわんこなのだ。
「ごしゅじん……」
自慢のわんこが困ったような顔をして振り返る。
「なに見てたの?……えっ」
口から飛び出しそうになった叫びを飲み込む。
魂と体が完全に馴染んでいたら反射的に叫んでいただろう。
水の中に蛇がいた。
わたしの腕や足より太い。
港町マルテスで会ったパオロ君とモゼー君の筋肉が盛り上がった腕くらいある。
体長は短めで、手足のないトカゲのようにも見えた。
なんか前世にいたな、こういうの。……ツチノコよりは体が長いか。
つぶらで真っ黒な瞳がわたしを見上げている。
軽く深呼吸してラケルに尋ねた。
「お友達?」
もしわたしや自分に攻撃してくるようなモンスターだったとしたら、ラケルはとっくに行動しているはずだ。
「んー……えっと……」
「ゆっくりでいいよ」
「うむ。……あのな、ごしゅじん。コイツ赤ちゃんなんだ。生まれてすぐダンジョンをアリに奪われて、地下水脈を通ってここに逃げて来た王獣なんだぞ」
アリ、恐るべし。
「こないだ俺、ごしゅじんにもらった塩むすび落としちゃっただろ?」
そんなこともあったっけ。
わたしは頷いた。
「薬草を採取に来たときだよね? そういえば、あのときラケルは池に向かって唸ってたね」
「そうだぞ。池に落ちた塩むすび、コイツが食べちゃったから怒ってたんだぞ」
「お水に落ちたらラケルは食べられないんだから、いいじゃない」
「むー。でも俺がごしゅじんにもらった塩むすびだったのにー」
わたしはラケルの頭を撫でた。
「食べ物を大事にするのはいいことだけど、どうしようもないときもあるよ」
「わかったぞ。それでな、ごしゅじん。コイツは人間や人間の飼ってる動物を襲ったりしないで、地下水脈を通って元のダンジョンで狩りをしてたんだ」
「ダンジョンアントを食べてたってこと?」
「うむ。アリを倒して魔石を食べてたんだぞ。それで『呪い』を受けちゃったんだ」
『呪い』──ダンジョンアントが自分を倒した相手を邪毒属性の状態異常にするスキル。
「ちょっとだけなら自然に消えていくんだぞ。だけどコイツはアリをいっぱい倒して食べてたから『呪い』が積み重なって元気じゃなくなっちゃったんだ。ごしゅじんの魔石ごはんで治してあげて欲しいんだぞ」
「魔石ごはんで治るの?」
「この前も元気じゃなくて寝てたのが、ごしゅじんの塩むすびを食べたら元気になったんだって言ってるぞ」
「そっか」
塩むすびには確か、邪毒系状態異常耐性上昇の付与効果があったっけ。
「また塩むすびを作ったのでいいの?」
「んーと……わふわふ?」
池に向かってラケルがわんこしゃべりをする。
大きな蛇が口を動かすと水面に渦ができた。
ラケルが振り向く。
「すごく美味しかったから、こないだ食べたのがいいんだって」
「どれくらい食べるかな?」
「俺のお鍋いっぱいくらい食べると思うぞ」
言いながら、ラケルが影からお鍋を取り出す。
わたしはお鍋にダンジョンアントの魔石を入れて、一気に変成した。
塩むすびがお鍋の上にまで積み重なって、白い山のようになる。
「どうぞ」
「……きゅいー」
蛇は水から上がり、可愛らしい声を出した。
「多過ぎたかな?」
「ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいから大丈夫だぞ」
「きゅきゅ!」
嬉しそうに鳴いて、蛇が塩むすびを食べ始める。
「……」
「ラケルもなにか食べる?」
「食べるぞ!」
わたし達も池のほとりに座ってお昼にすることにした。
近ごろ気温が高くなってきたからか、草むらは乾燥していて座り心地が良い。
ラケルが用意してくれたお皿の上に魔石を並べる。
「あのときと同じにしようか。えっと……塩むすびと……」
「唐揚げ!」
「そうそう。あとキャベツの千切りも」
「きゅ?」
あっという間に塩むすびを食べ終えた蛇が、じっとわたし達のお皿を見つめる。
「ラケル、蛇さん元気になってる?」
「ごしゅじん、コイツは蛇じゃなくてワームだぞ」
「ワーム?」
見た目は蛇に近いんだけど、言われてみると蛇ではない感じ。
あれ? どこかで聞いた気がする。
ワーム……前世の言葉で虫のことだったっけ。
えー、この子虫なの?
虫はあまり得意ではありません。
「きゅい?」
でも森で肩に落ちてきたのと違って、この子は可愛いな。
首を傾げるワームを見て、なにかに似てると感じる。
前世じゃなくてこの世界に来てから、だれかに聞いた話に出てきたような──
「ワームは成長すると手足が生えてドラゴンになるんだぞ!」
「あ」
ベルちゃんがバッドドラゴンの魔石を持って来てくれたときに説明してくれたんだ。
思い出した。
前世でもドラゴンの一種をそう呼んでたよね。
主にゲームの中で。
「きゅー……」
ワームは甘えるような声を出して、わたしを見る。
「まだ食べたいの?」
「きゅ!」
「ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいからな!」
どうしよう。
ダンジョンアントの魔石はまだまだあるから変成するのはいいんだけど、ワームにはなにを食べさせたらいいんだろう。
唐揚げ(防御力上昇)とキャベツの千切り(集中力上昇)でいいのかな。
──塩むすび=塩=神聖属性?
ふと閃いた。
ベルちゃんのために開発した黄金のお茶会セットAにしてみよう。
空になったお鍋にはMP自然回復率上昇効果のあるココア、神聖系魔術の威力増幅効果があるホットケーキとMP消費量減少効果のあるアイスクリームは大皿に。
「きゅ?」
「アイスが冷たいから驚いてるぞ!」
「ラケルも食べる? 走り回って真珠草を探してくれたから、まだお腹空いてるでしょ」
「食べるぞ!」
もちろんわたしの分も作った。
ココアを飲んでホットケーキを食べていると、なんだかほっこりした気分になる。
冷たいアイスは前世に焦がれる重たい気持ちを軽くしてくれた。
「ごちそう様」
「美味しかったぞ、ごしゅじん!」
「きゅきゅー♪」
お腹いっぱい食べたわたし達は、使ったお鍋やお皿を『浄化』して片づけたあとでまったり過ごすことにした。
十本見つかれば上出来と言われていた真珠草は五十本ほどある。
お日様はぽかぽかだし、ちょっとお昼寝しちゃおうかな。
なんて思っていたら──
「きゅー!」
突然ワームが声を上げた。
苦しそうにクネクネと蠢いている。
「え? どうしたの? ラケル、どうしよう? 魔石ごはんが悪かったのかな?」
「んーん。ワームは進化するんだぞ……ふわあ」
ラケルはアクビを漏らしながら説明してくれた。
「本当はとっくに進化できるくらい魔力が溜まってたのに『呪い』のせいで進化が止まってたんだ」
「そうなの? 大丈夫なのね?」
くねくねと蠢いていたワームは、いつの間にか動きを止めていた。
鼻先を空に向けて、真っ直ぐに体を伸ばしている。
その体が小刻みに震え出す。
「きゅ……きゅきゅー!」
ずるりと皮が脱げて、ワームの背中に羽が生えた。
羽毛ではなく、コウモリのような皮膜の羽だ。
「うむ。ワイアームになったな。……むにゃむにゃ」
ワーム改めワイアームの姿を確認して、ラケルは瞼を下ろした。
お腹いっぱいで眠いみたいです。
ワイアームは、ワームのときよりひと回り大きくなったように見える。
ベルちゃんはなんて言ってたっけ?
ワイアームの次はワイバーンだったはず。
最終的にはドラゴンになるんだよね。
「きゅきゅ、きゅー♪」
ワイアームは自分の脱いだ皮をくわえて、わたしの前に運んできた。
これは魔殻なのかな。
「むにゃ……ごしゅじんにお礼だって」
「ありがとう」
「きゅー♪」
わたしが皮を受け取ると、ワイアームは嬉しそうに鳴いて池へ飛び込んだ。
生えたばかりの羽をヒレのように動かして、楽しげに泳ぎ始める。
いつかはベルちゃんに渡したお土産の水属性の龍みたいになるのかもね。
今度のアリの巣殲滅計画が成功したら、あの子はダンジョンに帰れるのかな?
いつかそのときが来たらお祝いに使うため、今日あの子が使った大皿は『浄化』したあともほかには使わないことにした。
ラケルのお鍋はラケルのだから引き続き使うけど。
──本日の儲けは銅貨五百枚。銀貨五枚でもらいました。
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