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アリの巣殲滅編
62・ラトニー初のラーメン祭り
前世の外国のお祭りみたい。
落ちたら出られなくなりそうな巨大なお鍋を覗き込んで、わたしは思った。
わたしの『異世界料理再現錬金術』は数日かけて魔石を処理した上で一気に変成しているという設定なので、今回のアリの巣殲滅で回収した魔石は全部ロンバルディ商会へ卸すことになる。
今、この巨大なお鍋に入っているのは、わたしが抱っこしているラケルが影から出したダンジョンアントの魔石だ。
ほど良いところでラケルを止めて、お鍋の縁を握って魔力を注ぐ。
「おおっ!」
大きなお鍋を囲む参加者から歓声が上がる。
一気に変成されたラーメンの匂いに気づいたのだろう。
だってラトニーの人だから。
片手でラケルを抱いて、もう片方の手で梯子を掴んで降りていく。
わたしが地上に降り立つとシオン君が合図して、お鍋にかけられたほかの梯子の前で待っていた人達が上がっていく。
手にはコップとフォークを持っていた。
今日明日には女王ダンジョンアントが倒されると予測して、シオン君達ガルグイユ騎士団が用意していた食器だ。
「……わふ」
梯子にいる間は緊張していたのか無言だったラケルが、溜息交じりに声を上げる。
わたしはラケルの頭を撫でた。
「いつもありがとう、ラケル」
「わふー♪」
「これで冒険者ギルドから引き取った袋の魔石、半分くらい減ったかな?」
「……わふう」
「……そっかー」
ラケルに首を横に振られて項垂れる。
百五十三袋は多いよね。
でも最初にシオン君が用意してくれた一袋はもう空になったし、これからも減らしていこうっと。
「葉菜花」
「シオン君」
「体は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。シオン君もラーメン食べてきたら? あ、でも一気に作り過ぎちゃったかな。麺が伸びたら美味しくないよね」
「ラトニーの人間がこれだけいて、伸びるまでラーメンが残っていると思うのか?」
……デスヨネー。
それからしばらくして、わたしは何度もお代わりを作ることになった。
魔石の袋が減って良かったです。
まだ百四十袋は残ってるけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラーメンは打ち上げメニューなので、そのあとお土産のパンも変成した。
シオン君やベルちゃんには止められたんだけど、気絶したのは魔力酔いのせいだから病気じゃない。
ダンジョンアントの魔石を布に包むのさえやってもらえたら、わたしの負担はほとんどないのでした。
レベルが上がったことで劇的になにかが変わっているのを期待していたものの、いくつもの種類を大量に作るのは前からだし、こっそり試してみても炊き立てごはんは作れなかったしで──結論、なにも変わってない。
そのうち、変わったことが見つかるといいなあ。
さすがに参加者に配るのはおまかせして、休憩用テントの中でラケルとゴロゴロしていたら、訪ねてきた人達がいた。
「葉菜花ちゃん、大丈夫? 今話してもいい?」
「ロレッタちゃん! いいですよ、どうぞ!」
「わふ!」
ロンバルディ商会のおふたりと『闇夜の疾風』のみなさんだ。
「葉菜花……」
バルバラさんがわたしを睨みつけ、人差し指でツンとおでこを突いた。
「無茶するんじゃないよ。うちのバカどもだったら拳骨だからね!……危険な状況だったから動かずにいられなかったんだろうけど、自分を犠牲にして戦うのはダメだよ」
「……ごめんなさい」
「……わふう」
心配してくれる気持ちが嬉しくて、わたしは素直に謝った。
戦うつもりじゃなかったのに勝手に吸い寄せられたなんて話したら、きっともっと怒られちゃうんだろうな。
「葉菜花さん、おかげで助かりました。ありがとうございます」
「い、いいえ! 騎士団員の方々や……ラケルが戦って弱らせてくれていたおかげです」
旦那様にお礼を言われて焦ってしまう。
しようと思ってしたことじゃないんですよー。
「女王ダンジョンアントを倒しただけでも大変だったのに、そのあとラーメンやパンまで変成させられて大変だったな」
ルイスさんに言われて、わたしは首を横に振った。
「数日かけて変成したものに最後の魔力を注ぐだけだから、負担は少ないんですよ」
「でも量がな」
「ええ、まあ……」
上手い返しを思いつけなくて、わたしは目を伏せました。
設定に無理が出て来たかもしれません。
「……葉菜花」
「イサクさん」
イサクさんはテントを見回すと、わたしに覆いかぶさってきた。
「「「イサクっ?」」」
低い声が耳朶を打つ。
「……あの箒、毛玉の『アイテムボックス』に片付けたんだな。そのほうがいい。ローブのオリハルコン水晶には気づかないもののほうが多いだろうが、箒のアダマント鉱にはほとんどのドワーフが食いつくからな」
それだけ言って、イサクさんはわたしから離れた。
瞳が気をつけろと言っていたので、視線を合わせて頷く。
そういえば、以前ベルちゃんにも言われてたっけ。……というか、このローブってオリハルコン水晶だったの?
「なに言ったんだ、イサク!」「いずれイサクはワリティアへ帰るんでしょう? 葉菜花ちゃんは連れて行かせないのよ!」「まったくイサクは油断できねーぜ!」
イサクさんを囲んで騒ぐルイスさんロレッタちゃんニコロ君に苦笑しながら、ジュリアーノさんが言う。
メガネの奥、アクアマリンの瞳は優しい。
「葉菜花さん『回復』魔術は……必要ないようですね。良かった」
「心配してくれてありがとうございます」
「葉菜花さん、ラーメン美味しいです。ありがとうございます」
マルコさんは握ったフォークで、片手で支えたお鍋からラーメンを食べている。
「良かったです」
「わふう……」
ラケルが呆れたような声を出した。
「それでは私達はこれで。休まれていたところに失礼しました」
「来てくれて嬉しかったです」
「わふ!」
八人を見送って気が付くと、テントの外が静かになっていた。
ちょっと寂しい気分になってラケルを抱き締める。
「わふ?」
「えへへ」
「わふふ♪」
この可愛い真っ黒わんこがいれば、明日からも頑張れそうです。
落ちたら出られなくなりそうな巨大なお鍋を覗き込んで、わたしは思った。
わたしの『異世界料理再現錬金術』は数日かけて魔石を処理した上で一気に変成しているという設定なので、今回のアリの巣殲滅で回収した魔石は全部ロンバルディ商会へ卸すことになる。
今、この巨大なお鍋に入っているのは、わたしが抱っこしているラケルが影から出したダンジョンアントの魔石だ。
ほど良いところでラケルを止めて、お鍋の縁を握って魔力を注ぐ。
「おおっ!」
大きなお鍋を囲む参加者から歓声が上がる。
一気に変成されたラーメンの匂いに気づいたのだろう。
だってラトニーの人だから。
片手でラケルを抱いて、もう片方の手で梯子を掴んで降りていく。
わたしが地上に降り立つとシオン君が合図して、お鍋にかけられたほかの梯子の前で待っていた人達が上がっていく。
手にはコップとフォークを持っていた。
今日明日には女王ダンジョンアントが倒されると予測して、シオン君達ガルグイユ騎士団が用意していた食器だ。
「……わふ」
梯子にいる間は緊張していたのか無言だったラケルが、溜息交じりに声を上げる。
わたしはラケルの頭を撫でた。
「いつもありがとう、ラケル」
「わふー♪」
「これで冒険者ギルドから引き取った袋の魔石、半分くらい減ったかな?」
「……わふう」
「……そっかー」
ラケルに首を横に振られて項垂れる。
百五十三袋は多いよね。
でも最初にシオン君が用意してくれた一袋はもう空になったし、これからも減らしていこうっと。
「葉菜花」
「シオン君」
「体は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。シオン君もラーメン食べてきたら? あ、でも一気に作り過ぎちゃったかな。麺が伸びたら美味しくないよね」
「ラトニーの人間がこれだけいて、伸びるまでラーメンが残っていると思うのか?」
……デスヨネー。
それからしばらくして、わたしは何度もお代わりを作ることになった。
魔石の袋が減って良かったです。
まだ百四十袋は残ってるけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラーメンは打ち上げメニューなので、そのあとお土産のパンも変成した。
シオン君やベルちゃんには止められたんだけど、気絶したのは魔力酔いのせいだから病気じゃない。
ダンジョンアントの魔石を布に包むのさえやってもらえたら、わたしの負担はほとんどないのでした。
レベルが上がったことで劇的になにかが変わっているのを期待していたものの、いくつもの種類を大量に作るのは前からだし、こっそり試してみても炊き立てごはんは作れなかったしで──結論、なにも変わってない。
そのうち、変わったことが見つかるといいなあ。
さすがに参加者に配るのはおまかせして、休憩用テントの中でラケルとゴロゴロしていたら、訪ねてきた人達がいた。
「葉菜花ちゃん、大丈夫? 今話してもいい?」
「ロレッタちゃん! いいですよ、どうぞ!」
「わふ!」
ロンバルディ商会のおふたりと『闇夜の疾風』のみなさんだ。
「葉菜花……」
バルバラさんがわたしを睨みつけ、人差し指でツンとおでこを突いた。
「無茶するんじゃないよ。うちのバカどもだったら拳骨だからね!……危険な状況だったから動かずにいられなかったんだろうけど、自分を犠牲にして戦うのはダメだよ」
「……ごめんなさい」
「……わふう」
心配してくれる気持ちが嬉しくて、わたしは素直に謝った。
戦うつもりじゃなかったのに勝手に吸い寄せられたなんて話したら、きっともっと怒られちゃうんだろうな。
「葉菜花さん、おかげで助かりました。ありがとうございます」
「い、いいえ! 騎士団員の方々や……ラケルが戦って弱らせてくれていたおかげです」
旦那様にお礼を言われて焦ってしまう。
しようと思ってしたことじゃないんですよー。
「女王ダンジョンアントを倒しただけでも大変だったのに、そのあとラーメンやパンまで変成させられて大変だったな」
ルイスさんに言われて、わたしは首を横に振った。
「数日かけて変成したものに最後の魔力を注ぐだけだから、負担は少ないんですよ」
「でも量がな」
「ええ、まあ……」
上手い返しを思いつけなくて、わたしは目を伏せました。
設定に無理が出て来たかもしれません。
「……葉菜花」
「イサクさん」
イサクさんはテントを見回すと、わたしに覆いかぶさってきた。
「「「イサクっ?」」」
低い声が耳朶を打つ。
「……あの箒、毛玉の『アイテムボックス』に片付けたんだな。そのほうがいい。ローブのオリハルコン水晶には気づかないもののほうが多いだろうが、箒のアダマント鉱にはほとんどのドワーフが食いつくからな」
それだけ言って、イサクさんはわたしから離れた。
瞳が気をつけろと言っていたので、視線を合わせて頷く。
そういえば、以前ベルちゃんにも言われてたっけ。……というか、このローブってオリハルコン水晶だったの?
「なに言ったんだ、イサク!」「いずれイサクはワリティアへ帰るんでしょう? 葉菜花ちゃんは連れて行かせないのよ!」「まったくイサクは油断できねーぜ!」
イサクさんを囲んで騒ぐルイスさんロレッタちゃんニコロ君に苦笑しながら、ジュリアーノさんが言う。
メガネの奥、アクアマリンの瞳は優しい。
「葉菜花さん『回復』魔術は……必要ないようですね。良かった」
「心配してくれてありがとうございます」
「葉菜花さん、ラーメン美味しいです。ありがとうございます」
マルコさんは握ったフォークで、片手で支えたお鍋からラーメンを食べている。
「良かったです」
「わふう……」
ラケルが呆れたような声を出した。
「それでは私達はこれで。休まれていたところに失礼しました」
「来てくれて嬉しかったです」
「わふ!」
八人を見送って気が付くと、テントの外が静かになっていた。
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「わふふ♪」
この可愛い真っ黒わんこがいれば、明日からも頑張れそうです。
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