45 / 64
葉菜花、旅立ちました編
44・ガルグイユ騎士団
ガルグイユ騎士団団長コンセプシオンと聖女イザベルが異世界からの転生者葉菜花について話し合っている天幕の外には、警護の騎士団員達がいた。
天幕の入り口を守るふたりは中の団長と違って部分鎧を身に着けている。
最近急に気温が上がったので、全身鎧を纏わなくてもいいという許可をコンセプシオンが出したのだ。
警護を担うふたりは、団長補佐でモレノ子爵家の三男ハビエルと副団長補佐でラミレス伯爵家の三男エルベルト。どちらも十八歳、団長のコンセプシオンよりもひとつ年上だ。
小柄でそばかすが印象的なハビエルには兄と姉がふたりずついて、白に近い金髪と透明度の高い青色の瞳を持つエルベルトには継承権を破棄した兄がふたりいる。
同じ三男でもエルベルトのほうは家の跡取りなのだった。
「早くアリの巣殲滅が始まりませんかね」
口を開いたのはエルベルトのほうだった。
「俺達の役目は裏方だから始まっても今と変わらないよ、エルベルト」
騎士団にいるときの団員は、団内の役職以外では平等である。
子爵家のハビエルが伯爵家のエルベルトに対して敬語を使わないことも許されていた。
だからエルベルトが頭を横に振ったのは、ハビエルの口調を咎めたせいではない。
「変わりますよ、ハビエル。アリの巣殲滅が始まったら、聖神殿から救護係の女性神官が三人来るんです!」
「エルベルトって、そんなに女の子好きだったっけ?」
舞踏会で見るエルベルトはいつも壁にもたれて令嬢達を観察している、とハビエルは思っていた。
食いしん坊の国ラトニーでも、いや食いしん坊の国だからこそ美味しいものを手に入れるための財力を求めて、令嬢達は玉の輿を夢見る。
姉がふたりもいるハビエルには女性に憧れを抱けない気持ちはよくわかる、つもりでいたのだけれど。
「好きですよ。空気になって、女の子達が仲良くしている姿をずっと見つめていたいほどには」
「ん?」
「団長は尊敬していますが、美しい聖女イザベル様の隣にいるのは女の子のほうが良いと思いませんか?」
「……ごめん。俺、よくわかんないや」
エルベルトの実家の伯爵家は変わり者──葉菜花の前世でいうところのオタクが多いとして有名だった。
長男は神獣を研究するために神官となり、隣国ワリティアの大神官になっている。
次男も神官となって傭兵隊に所属し、回復魔術の研究に勤しんでいるという。
三男エルベルトの興味の対象は女の子らしい。
それも自分抜きで仲良くしている女の子達。
憧れこそ抱いていないものの、いつかは可愛いだれかと恋に落ちて幸せになりたいと願うハビエルには、まったく理解のできない方向性である。
「聖女様が大神官のサンドラ様と一緒にいらっしゃるのも姉妹のようで微笑ましいのですが、救護係の女性神官達は聖女様と同じ年ごろだと聞きます。その分お互いを深く理解し合えることでしょう。どんな光景が繰り広げられるのか楽しみでなりません」
ハビエルは話を切り上げた気でいたけれど、エルベルトはそうではなかったらしい。
いや、最初から彼は相手の返答など望んではいないようだ。
うっとりとした表情で言葉を続ける。
「女性神官は三人来るそうですよ。聖女様の寵愛を巡る争いが起こるかもしれませんね。女の子同士なら、それも咲き誇る花々のように美しいものでしょう」
(……そうかなあ。姉上達のケンカは見ていると背筋が寒くなったよ)
心の中で反論していたハビエルに、救いの手が現れた。
「エルベルト、そろそろ交代しよう。お前は小休憩を取れ」
副団長のセルジオだ。
デルガード侯爵家の長男で妹がひとりいる。
年齢は二十歳で、ハビエル達よりも二歳年上だった。
本来なら能力の高い副団長や補佐が固まって同じ任務に当たることはない。
突然の気温上昇で体調を崩した団員が出たことによる臨時の布陣である。
部分鎧の着用もそのせいなのだが、団長コンセプシオンに憧れていると公言するセルジオは全身鎧を着込んでいた。
マントまでは着用していない。
彼のマントの色は赤色だ。
以前葉菜花が考えていたように瞳の色に合わせているのではなく、団長は青、数人いる副団長は赤、それぞれの補佐は黒、平団員は白色と決まっていた。
神獣ダンジョンの前にいた騎士達が白いマントを纏っていたのは、当時はまだ朝晩が肌寒いときもあったからである。
「かしこまりました、セルジオ副団長」
先ほどまで妙なことを口走っていたのがウソだったかのように、エルベルトは上官に優雅なお辞儀をして立ち去った。
胸を撫で下ろしたハビエルだったが、
「団長補佐のハビエル殿だったな。こうして任務をともにするのは初めてだから聞いておこう。貴殿はこの国についてどうお考えかな?」
「平和でいい国だと思います。問題がないわけではありませんが、これから俺達で改善していけるものと信じております」
「ほほう。貴殿はわかっておられる。そう! これからのラトニーは我らが築いていくべきである。我らが団長コンセプシオン王弟殿下、いやさコンセプシオン国王陛下の名のもとに!」
(あ、またアレな人だ)
現国王エンリケはおとなしく地味な青年である。
自信に満ちた言動を見せる王弟コンセプシオンのほうが王に相応しいと主張する一派がいることはハビエルも聞いていた。
しかし補佐を務めるハビエルは知っている。
上司コンセプシオンの正体はものぐさな少年だ。
兄王を支えることには力を惜しまないものの、自分が王になれと言われたら全力で逃げるだろう。
もっとも責任感のあるコンセプシオンのことだから、自分の仕事をキリの良いところまで片付けようとしているうちに見つかって逃げられなくなるのではなかろうか。
コンセプシオン派も王弟が兄を慕っていることは知っているので、エンリケ王を強制排除しようなどという動きは見せていない。
口先だけだと見なされているとはいえ彼らが罰せられていないことが、ラトニー王国の平和と自由を証明している。
熱く語るセルジオに対して適当に──けれど言質は取られないよう気をつけて相槌を打ちながら、ハビエルは十日近く前にコンセプシオンから分けてもらったたこ焼きの味を思い出していた。
(美味しかったなあ。ほかにも焼きそばとかラーメンとかあるんだよね)
コンセプシオンお気に入りの錬金術師が『聖域』を張る聖女とともにダンジョンを見張っている騎士団員達に魔石ごはんを提供してくれる日が来るのが、とても楽しみなハビエルであった。
天幕の入り口を守るふたりは中の団長と違って部分鎧を身に着けている。
最近急に気温が上がったので、全身鎧を纏わなくてもいいという許可をコンセプシオンが出したのだ。
警護を担うふたりは、団長補佐でモレノ子爵家の三男ハビエルと副団長補佐でラミレス伯爵家の三男エルベルト。どちらも十八歳、団長のコンセプシオンよりもひとつ年上だ。
小柄でそばかすが印象的なハビエルには兄と姉がふたりずついて、白に近い金髪と透明度の高い青色の瞳を持つエルベルトには継承権を破棄した兄がふたりいる。
同じ三男でもエルベルトのほうは家の跡取りなのだった。
「早くアリの巣殲滅が始まりませんかね」
口を開いたのはエルベルトのほうだった。
「俺達の役目は裏方だから始まっても今と変わらないよ、エルベルト」
騎士団にいるときの団員は、団内の役職以外では平等である。
子爵家のハビエルが伯爵家のエルベルトに対して敬語を使わないことも許されていた。
だからエルベルトが頭を横に振ったのは、ハビエルの口調を咎めたせいではない。
「変わりますよ、ハビエル。アリの巣殲滅が始まったら、聖神殿から救護係の女性神官が三人来るんです!」
「エルベルトって、そんなに女の子好きだったっけ?」
舞踏会で見るエルベルトはいつも壁にもたれて令嬢達を観察している、とハビエルは思っていた。
食いしん坊の国ラトニーでも、いや食いしん坊の国だからこそ美味しいものを手に入れるための財力を求めて、令嬢達は玉の輿を夢見る。
姉がふたりもいるハビエルには女性に憧れを抱けない気持ちはよくわかる、つもりでいたのだけれど。
「好きですよ。空気になって、女の子達が仲良くしている姿をずっと見つめていたいほどには」
「ん?」
「団長は尊敬していますが、美しい聖女イザベル様の隣にいるのは女の子のほうが良いと思いませんか?」
「……ごめん。俺、よくわかんないや」
エルベルトの実家の伯爵家は変わり者──葉菜花の前世でいうところのオタクが多いとして有名だった。
長男は神獣を研究するために神官となり、隣国ワリティアの大神官になっている。
次男も神官となって傭兵隊に所属し、回復魔術の研究に勤しんでいるという。
三男エルベルトの興味の対象は女の子らしい。
それも自分抜きで仲良くしている女の子達。
憧れこそ抱いていないものの、いつかは可愛いだれかと恋に落ちて幸せになりたいと願うハビエルには、まったく理解のできない方向性である。
「聖女様が大神官のサンドラ様と一緒にいらっしゃるのも姉妹のようで微笑ましいのですが、救護係の女性神官達は聖女様と同じ年ごろだと聞きます。その分お互いを深く理解し合えることでしょう。どんな光景が繰り広げられるのか楽しみでなりません」
ハビエルは話を切り上げた気でいたけれど、エルベルトはそうではなかったらしい。
いや、最初から彼は相手の返答など望んではいないようだ。
うっとりとした表情で言葉を続ける。
「女性神官は三人来るそうですよ。聖女様の寵愛を巡る争いが起こるかもしれませんね。女の子同士なら、それも咲き誇る花々のように美しいものでしょう」
(……そうかなあ。姉上達のケンカは見ていると背筋が寒くなったよ)
心の中で反論していたハビエルに、救いの手が現れた。
「エルベルト、そろそろ交代しよう。お前は小休憩を取れ」
副団長のセルジオだ。
デルガード侯爵家の長男で妹がひとりいる。
年齢は二十歳で、ハビエル達よりも二歳年上だった。
本来なら能力の高い副団長や補佐が固まって同じ任務に当たることはない。
突然の気温上昇で体調を崩した団員が出たことによる臨時の布陣である。
部分鎧の着用もそのせいなのだが、団長コンセプシオンに憧れていると公言するセルジオは全身鎧を着込んでいた。
マントまでは着用していない。
彼のマントの色は赤色だ。
以前葉菜花が考えていたように瞳の色に合わせているのではなく、団長は青、数人いる副団長は赤、それぞれの補佐は黒、平団員は白色と決まっていた。
神獣ダンジョンの前にいた騎士達が白いマントを纏っていたのは、当時はまだ朝晩が肌寒いときもあったからである。
「かしこまりました、セルジオ副団長」
先ほどまで妙なことを口走っていたのがウソだったかのように、エルベルトは上官に優雅なお辞儀をして立ち去った。
胸を撫で下ろしたハビエルだったが、
「団長補佐のハビエル殿だったな。こうして任務をともにするのは初めてだから聞いておこう。貴殿はこの国についてどうお考えかな?」
「平和でいい国だと思います。問題がないわけではありませんが、これから俺達で改善していけるものと信じております」
「ほほう。貴殿はわかっておられる。そう! これからのラトニーは我らが築いていくべきである。我らが団長コンセプシオン王弟殿下、いやさコンセプシオン国王陛下の名のもとに!」
(あ、またアレな人だ)
現国王エンリケはおとなしく地味な青年である。
自信に満ちた言動を見せる王弟コンセプシオンのほうが王に相応しいと主張する一派がいることはハビエルも聞いていた。
しかし補佐を務めるハビエルは知っている。
上司コンセプシオンの正体はものぐさな少年だ。
兄王を支えることには力を惜しまないものの、自分が王になれと言われたら全力で逃げるだろう。
もっとも責任感のあるコンセプシオンのことだから、自分の仕事をキリの良いところまで片付けようとしているうちに見つかって逃げられなくなるのではなかろうか。
コンセプシオン派も王弟が兄を慕っていることは知っているので、エンリケ王を強制排除しようなどという動きは見せていない。
口先だけだと見なされているとはいえ彼らが罰せられていないことが、ラトニー王国の平和と自由を証明している。
熱く語るセルジオに対して適当に──けれど言質は取られないよう気をつけて相槌を打ちながら、ハビエルは十日近く前にコンセプシオンから分けてもらったたこ焼きの味を思い出していた。
(美味しかったなあ。ほかにも焼きそばとかラーメンとかあるんだよね)
コンセプシオンお気に入りの錬金術師が『聖域』を張る聖女とともにダンジョンを見張っている騎士団員達に魔石ごはんを提供してくれる日が来るのが、とても楽しみなハビエルであった。
あなたにおすすめの小説
【完結】カノン・クライスラーはリンカネーション・ハイである。~回数制限付きでこの世界にある魔法なら何でも使えるという転生特典を貰いました
Debby
ファンタジー
【最終話まで予約投稿済み】
カノン・クライスラーは、辺境に近い領地を持つ子爵家の令嬢である。
頑張ってはいるけれど、家庭教師が泣いて謝るくらいには勉強は苦手で、運動はそれ以上に苦手だ。大半の貴族子女が16才になれば『発現』するという魔法も使えない。
そんなカノンは、王立学園の入学試験を受けるために王都へ向かっている途中で、乗っていた馬車が盗賊に襲われ大けがを負ってしまう。危うく天に召されるかと思ったその時、こういう物語ではお約束──前世の記憶?と転生特典の魔法が使えることを思い出したのだ!
例えそれがこの世界の常識から逸脱していても、魔法が使えるのであれば色々試してみたいと思うのが転生者の常。
リンカネーション(転生者)・ハイとなった、カノンの冒険がはじまった!
★
覗いてくださりありがとうございます(*´▽`人)
このお話は「異世界転生の特典として回数制限付きの魔法をもらいました」を(反省点を踏まえ)かなり設定を変えて加筆修正したものになります。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった