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アリの巣殲滅編

59・アリだー!!

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 カルロスさん達がいなくなってからしばらくして、

「葉菜花ちゃーん!」
「え?」

 幼い声に振り向けば、ロレッタちゃんと旦那様の姿があった。

「ロレッタちゃん? どうして」
「このダンジョンで回収したダンジョンアントの魔石は、ロンバルディ商会に卸してもらうことになっているのよ? 女王ダンジョンアントが倒されたって聞いたから、葉菜花ちゃんに会いに来たの!」
「わふ♪」
「ラケルちゃーん♪」

 わたしは驚いて旦那様を見た。
 今は雇われてないからロレンツォさんでいいのかな?
 旅の間に慣れちゃったから旦那様でいいや。

「こんにちは、旦那様」
「こんにちは、葉菜花さん。うちの商会はダンジョンアントの魔石のことでガルグイユ騎士団と契約しているので、なにかあると報告をいただいているんです」

 そういえば、騎士団員が定期的に王都へ向かってたっけ。

「そうでしたか。確かに女王ダンジョンアントは倒されましたが、まだ残党は残ってますよ。大丈夫なんですか?」
「アタシも止めたんだけどねえ」

 旦那様の背後には、溜息交じりのバルバラさんがいた。
 朝のパン配布のときにいなかったけど、病気とは聞かなかったので心配していなかった。
 お休みしてるのかと思ったら、ほかのお仕事があったのか。

「昨日、今日の昼には女王を倒せると聞いていたので、ダンジョンアントとの戦闘経験のある彼女に護衛を頼んでいたんです」

 バルバラさんがいるなら大丈夫かな。
 旅の間の手合わせでも、イサクさんやルイスさんに負けてなかったし。
 マルコさんの戦うところは見たことないんだよね。ダンジョンアントを何千匹も倒してるんだから、すごく強いんだろうな。

 そのとき、ダンジョンから騎士団員が飛び出してきた。
 そばかすのハビエルさんだ。

「逃げてください! 新しい女王ダンジョンアントがいました!」
「え?」
「わふっ!」

 影からわたしの黒い箒……ああ、すごく久しぶりに見る。ずっと入れっぱなしだったね……を取り出して、ラケルはダンジョンの入り口に向かって戦闘態勢を取った。
 そうか、すっかり忘れてた。
 女王アリは二度現れるものだって、レトロゲーで学習してたのに。

「旦那、お嬢! 葉菜花もアタシの後ろへっ!」

 バルバラさんの叫びに従う。
 ハビエルさんが閉めたダンジョン入口の金属の扉が、何度も内側から打ち付けられたあとで溶けていった。
 スキル『ギ酸』の力だろうか。

「新しい女王ダンジョンアントには羽がある! 空に逃がすなっ!」

 騎士団員達が叫んで、入り口の前に立ち塞がる。
 ラケルもダンジョンに駆け寄った。

 ……ぶぶぶ、ぶぶぶ。

 羽音が聞こえる。

 扉の穴から出てくるのかと思ったら、金属の板が外側に倒れた。
 土壁に取りつけられた部分も『ギ酸』で溶かされていたのだ。

 初めて見る、羽の生えたダンジョンアントが姿を現す。
 ダンジョンは一本道じゃない。
 いくつにも枝分かれした道を利用し、上手く参加者達に会わないようにして逃げてきたのだろう。

「下手に逃げて孤立無援な場所で、騎士団員達が逃がした女王ダンジョンアントに襲われたりしたらたまらない。今は様子を見るよ」

 バルバラさんの言葉に頷く。

「がうっ!」

 女王ダンジョンアントが飛び立とうとする前に、ラケルが風の魔術を放った。
 透明な羽が一枚切れて、女王ダンジョンアントが体勢を崩す。
 囲んだ騎士団員達が一斉に攻撃する。

「キシャーッ!」

 地面に叩き落とされた女王ダンジョンアントは、怒号を響かせて立ち上がった。

「くそ、コイツ『ギ酸』を吐いたぞ。俺の剣がボロボロだ」
「体が重い。もしかして羽のある女王ダンジョンアントは死ななくても『呪い』を発動させられるのか?」
「ラトニーではダンジョンアントを放置したことがないから、ダンジョンで生まれ育った女王ダンジョンアントの特徴がわからない」
「後ろに回ったヤツ、気をつけろ! 針を持つアリもいる!」
「とにかく羽を落とすぞ、飛ばせるなっ!」
「ぐるるるるっ……がうっ!」

 口々に叫びながらも騎士団員達は攻撃を止めないし、ラケルは火の玉を吐く。
 外で休んでいたり怪我の治療をしていた参加者達も戦いに加わる。
 しかし女王ダンジョンアントの外殻には傷ひとつつけられていないようだ。

「……葉菜花ちゃん……」

 旦那様に抱き上げられたロレッタちゃんが、心配そうにわたしを見下ろす。

「だ、大丈夫。大丈夫ですよ」

 言いながら、わたしはラケルが出してくれた黒い箒を両手でつかんだ。
 本気で戦えるとは思っていないけれど、神獣ケルベロス様の爪でできた箒だ。
 なにかの役に立つかもしれない。

「え?」
「葉菜花っ?」

 箒の先が引っ張られる。
 わたしは前に立っていたバルバラさんの横をすり抜けて、女王ダンジョンアントの前まで引き寄せられた。

「がうっ! 危ないぞっ!」

 雷を落として女王ダンジョンアントの羽をもう一枚落としたラケルが、わたしに吠える。
 危ないのはわかってるけど、勝手に引き寄せられちゃうんだよー。
 なんていうか、わたしの体から糸が出てて、それが女王ダンジョンアントにつながってる感じ。

 ううん、ちょっと違う。
 この感覚をわたしは知ってる。
 魔石に魔力を注ぐときと同じ感覚だ。

 ……注いでる魔力が少ないから長さが足りなくて引き寄せられた?

「じゃあ魔力を増やせば……」

 いや待てよ。
 そんなことしたら女王ダンジョンアントを強くしちゃう? なんて思ったときは遅かった。
 わたしはどうにも間が悪い。

 自分の体から黒い箒に魔力が注ぎ込まれ、箒の先から女王ダンジョンアントまで光り輝く道ができる。

「……これは……」
「女王ダンジョンアントの動きが止まったぞ! 今のうちだ!」
「ああ、頑張って倒して、俺達もラーメンを食べるんだ!」

 わたしには『闇夜の疾風』の雑用係のようなものと言っていたマルコさんは、知る人ぞ知る強者だったらしい。
 その彼が食べたがっているということで、いつしかラーメンは食べたことのない人間にとっても憧れの存在になっていた。

 ……本当に中毒性とかないよね?

「ふあっ?」
「ごしゅじんっ?」

 立ちくらみがした。

 『異世界料理再現錬金術』をどんなに使っても、こんなに疲れたことはない。
 自分のMPがどんどん減っているのがわかった。
 どんな結果が出るかわからないから止めたいと思うのに、体が自由にならない。

 そして突然に──ぽんっ!

「え?」「な、なんだコレ」「肉だよな」「肉なのか?」
「俺知ってる、ローストビーフだぞ」

 ……ラケルが人前でしゃべってる、どうしよう。
 なんだかのん気なことを考えながら、わたしは意識を失っていった。
 最後に見たのは、ローストビーフ(たぶん)に姿を変えた女王ダンジョンアントだった。
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