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アリの巣殲滅編
52・アリの巣殲滅初日の続き
『闇夜の疾風』が去ったあともパンの配布は続く。
わたしの隣に立つベルちゃんも忙しそう。
「どれが美味しいですか、聖女様」
「……どれも美味しい」
「は、はあ……」
……忙しい、よね?
ベルちゃんの隣には聖神殿から来た『回復』魔術が使える神官少女達が並んでいます。
みんな女の子で、わたしやベルちゃんと同じ年ごろです。
「いつまでも悩んでいないで、さっさと決めなさい! ええいもう! あたくしが選んで差し上げますわ! 甘いのとしょっぱいの、どちらが好きですの?」
ちょっとせっかちで強引なのは、副団長のセルジオさんの妹ドロレスさん。
金色の髪を頭の左右で結っている。ボリュームのある巻き毛なので、なんか……コロネみたい。
背が高くすらっとしていて、前世でいうところのモデル体型だ。
「ねえねえ、君はどれが美味しそうだと思う?」
「え? この格子柄のパンかしら? 表面に載ってるのって砂糖でしょ」
「それはメロンパンだね。君ならこれ、いくらまでだったら出す?」
「食べてみないと……味次第かな。もしかしてお金を出したら追加で売ってくれるの?」
「ごめんねー、聞いてみただけ」
女の子の冒険者相手に男の子みたいな口調でしゃべっているのは、インウィ出身のパウリーナさん。
黒髪を短く刈っているボーイッシュな女の子だ。
髪の色は同じだけど、わたしとは顔の彫りが全然違う。
身体つきは小柄でほっそりしてる。
「なんで勝手に布に包んでんだよ。俺は自分で選びたいんだけど?」
「すべては神の思し召しなのです」
参加者に選ばせず好みも聞かず、黙々と布にパンを包んで渡しているのはヴェロニカさん。
やっぱりインウィ出身で、髪の毛は長く白に近い金髪。
ジュリアーノさんよりもふわふわした髪質だ。
中肉中背で、美人なのに影が薄い。って、失礼なこと思っちゃった。
ベルちゃんがこっそり教えてくれたところによると三人はそれぞれ聖神殿のべつの派閥に属していて、アリの巣殲滅に派遣されてきたのは聖女であるベルちゃんを自分の派閥に取り込むためではないかという。
ドロレスさんはラトニー貴族中心の神の権威を後ろ盾に貴族の地位を高めたい派、パウリーナさんはインウィ出身者中心の神の権威を利用して儲けたい派、ヴェロニカさんは特にどこの国ということもなく、ただひたすら神に祈る派。
ヴェロニカさんの派閥が一番安全な気もするけど、大神官サンドラさんの信仰を尊ぶ聖王派と違って、ちょっと狂信的な集団なんだって。
聖女様は大変だなあ。
昨夜のベルちゃんが甘えん坊だったのは、彼女達に勧誘されることを予想して緊張していたからだったのかもしれない。
──そんなこんなで、わたしとベルちゃん、三人の神官、あと団員五名が頑張ってパンを配り終えたのでした。
報酬に関しては、パンを包むのに使った布と交換にそれぞれのギルドで支払われるそうです。
アリの巣殲滅が十日の予定なのは、地下へと伸びた階層が十層あるからだ。
年月を経たダンジョンだと三十層以上あることも珍しくない。
そういったダンジョンは支配、もしくは管理する王獣が優秀なので、ダンジョンアントに制圧されることは滅多にないという。それでもこっそり棲みついてたりするらしいけど。
ここのダンジョンでは一層につき、大体一万匹のダンジョンアントがいる。
『隠密』スキルを持つハビエルさん(シオン君の補佐の人)が調べたんだって。
一万匹×十層だから総勢十万匹だ。
参加者が約七百人なので一人当たり百五十匹くらい? 倒さなくてはいけない。
一日に一層完了の予定のため、一日に十五匹?
魔石は個々で『浄化』してもいいし、何時間かごとに騎士団員や神官のうち『浄化』を使える人が巡回するのを待ってもいい。
巡回するのは『回復』魔術も使える人員なので、軽い怪我ならそれも治してくれる。
重篤な怪我を負った人は自力か仲間の力を借りるか、巡回の騎士団員に運ばれてダンジョンを出れば、ベルちゃんが『回復』魔術をかけることになっていた。
ベルちゃんは聖女だから力が強いのだ。
「……ダンジョンアントでもいいから、私も戦いたい」
本人はべつの強さを発揮したいみたいだけど。
ダンジョンアントの魔石は最終的に回収して、ロンバルディ商会に卸すことになっていた。……ロレッタちゃん元気かな。
シオン君はダンジョンアントの討伐数=魔石の数が多ければ、報酬とはべつに褒美を出してもいいと話していた。
べつのダンジョンで倒したときの魔石を持ってくるものもいるかもしれないが、普段はお金になるものではないのだから、たまにはいいだろうという考えだ。
「……あ、終わった」
わたし達はパンを配り終わっていたけれど、シオン君の説明が終わっていなかった。
パンを受け取った参加者が百人くらい溜まったら説明するのを繰り返すこと七回。
わたしと聖女様、騎士団員と神官以外の人間が全員ダンジョンへ入っていった。
時間は『聖域』を張っていたときの朝番の始まりから昼番の終わりまで。
休憩は自分のペースで取っていいのだが、サボり過ぎたらシオン君に叱られる。
夕方になったらパンを配って解散である。
このダンジョンは王都の鐘が聞こえない距離にあるので、シオン君が持参した水時計を見て知らせてくれる。
救護テントに詰める神官に交代時間を告げるのも彼の役目だ。
「聖女殿と救護当番以外の神官、騎士団の配布担当のものはしばらく天幕で休むといい。錬金術師殿もだ」
「はい」
わたし達はテントに入った。
わたし達女子と騎士団員の休憩所は別々です。
シオン君にも専用のテントがあります。
わたしの隣に立つベルちゃんも忙しそう。
「どれが美味しいですか、聖女様」
「……どれも美味しい」
「は、はあ……」
……忙しい、よね?
ベルちゃんの隣には聖神殿から来た『回復』魔術が使える神官少女達が並んでいます。
みんな女の子で、わたしやベルちゃんと同じ年ごろです。
「いつまでも悩んでいないで、さっさと決めなさい! ええいもう! あたくしが選んで差し上げますわ! 甘いのとしょっぱいの、どちらが好きですの?」
ちょっとせっかちで強引なのは、副団長のセルジオさんの妹ドロレスさん。
金色の髪を頭の左右で結っている。ボリュームのある巻き毛なので、なんか……コロネみたい。
背が高くすらっとしていて、前世でいうところのモデル体型だ。
「ねえねえ、君はどれが美味しそうだと思う?」
「え? この格子柄のパンかしら? 表面に載ってるのって砂糖でしょ」
「それはメロンパンだね。君ならこれ、いくらまでだったら出す?」
「食べてみないと……味次第かな。もしかしてお金を出したら追加で売ってくれるの?」
「ごめんねー、聞いてみただけ」
女の子の冒険者相手に男の子みたいな口調でしゃべっているのは、インウィ出身のパウリーナさん。
黒髪を短く刈っているボーイッシュな女の子だ。
髪の色は同じだけど、わたしとは顔の彫りが全然違う。
身体つきは小柄でほっそりしてる。
「なんで勝手に布に包んでんだよ。俺は自分で選びたいんだけど?」
「すべては神の思し召しなのです」
参加者に選ばせず好みも聞かず、黙々と布にパンを包んで渡しているのはヴェロニカさん。
やっぱりインウィ出身で、髪の毛は長く白に近い金髪。
ジュリアーノさんよりもふわふわした髪質だ。
中肉中背で、美人なのに影が薄い。って、失礼なこと思っちゃった。
ベルちゃんがこっそり教えてくれたところによると三人はそれぞれ聖神殿のべつの派閥に属していて、アリの巣殲滅に派遣されてきたのは聖女であるベルちゃんを自分の派閥に取り込むためではないかという。
ドロレスさんはラトニー貴族中心の神の権威を後ろ盾に貴族の地位を高めたい派、パウリーナさんはインウィ出身者中心の神の権威を利用して儲けたい派、ヴェロニカさんは特にどこの国ということもなく、ただひたすら神に祈る派。
ヴェロニカさんの派閥が一番安全な気もするけど、大神官サンドラさんの信仰を尊ぶ聖王派と違って、ちょっと狂信的な集団なんだって。
聖女様は大変だなあ。
昨夜のベルちゃんが甘えん坊だったのは、彼女達に勧誘されることを予想して緊張していたからだったのかもしれない。
──そんなこんなで、わたしとベルちゃん、三人の神官、あと団員五名が頑張ってパンを配り終えたのでした。
報酬に関しては、パンを包むのに使った布と交換にそれぞれのギルドで支払われるそうです。
アリの巣殲滅が十日の予定なのは、地下へと伸びた階層が十層あるからだ。
年月を経たダンジョンだと三十層以上あることも珍しくない。
そういったダンジョンは支配、もしくは管理する王獣が優秀なので、ダンジョンアントに制圧されることは滅多にないという。それでもこっそり棲みついてたりするらしいけど。
ここのダンジョンでは一層につき、大体一万匹のダンジョンアントがいる。
『隠密』スキルを持つハビエルさん(シオン君の補佐の人)が調べたんだって。
一万匹×十層だから総勢十万匹だ。
参加者が約七百人なので一人当たり百五十匹くらい? 倒さなくてはいけない。
一日に一層完了の予定のため、一日に十五匹?
魔石は個々で『浄化』してもいいし、何時間かごとに騎士団員や神官のうち『浄化』を使える人が巡回するのを待ってもいい。
巡回するのは『回復』魔術も使える人員なので、軽い怪我ならそれも治してくれる。
重篤な怪我を負った人は自力か仲間の力を借りるか、巡回の騎士団員に運ばれてダンジョンを出れば、ベルちゃんが『回復』魔術をかけることになっていた。
ベルちゃんは聖女だから力が強いのだ。
「……ダンジョンアントでもいいから、私も戦いたい」
本人はべつの強さを発揮したいみたいだけど。
ダンジョンアントの魔石は最終的に回収して、ロンバルディ商会に卸すことになっていた。……ロレッタちゃん元気かな。
シオン君はダンジョンアントの討伐数=魔石の数が多ければ、報酬とはべつに褒美を出してもいいと話していた。
べつのダンジョンで倒したときの魔石を持ってくるものもいるかもしれないが、普段はお金になるものではないのだから、たまにはいいだろうという考えだ。
「……あ、終わった」
わたし達はパンを配り終わっていたけれど、シオン君の説明が終わっていなかった。
パンを受け取った参加者が百人くらい溜まったら説明するのを繰り返すこと七回。
わたしと聖女様、騎士団員と神官以外の人間が全員ダンジョンへ入っていった。
時間は『聖域』を張っていたときの朝番の始まりから昼番の終わりまで。
休憩は自分のペースで取っていいのだが、サボり過ぎたらシオン君に叱られる。
夕方になったらパンを配って解散である。
このダンジョンは王都の鐘が聞こえない距離にあるので、シオン君が持参した水時計を見て知らせてくれる。
救護テントに詰める神官に交代時間を告げるのも彼の役目だ。
「聖女殿と救護当番以外の神官、騎士団の配布担当のものはしばらく天幕で休むといい。錬金術師殿もだ」
「はい」
わたし達はテントに入った。
わたし達女子と騎士団員の休憩所は別々です。
シオン君にも専用のテントがあります。
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