転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

文字の大きさ
55 / 64
アリの巣殲滅編

54・アリの巣殲滅初日の裏で

(……ラトニーの人間はラトニーの人間食いしん坊だよね……)

 隣でパフェをぱくつくドロレスを見ながら、パウリーナは思った。
 コロネとかいうオヤツパンそっくりの巻き毛を頭の左右につけたデルガード侯爵令嬢は、聖女イザベルを自分の派閥に勧誘することなど、もうすっかり忘れているようだ。
 確かにこのパフェは美味しい。自分で中身を選んで作ったという愛着もある。

 しかしパウリーナは自分の任務を忘れていなかった。
 パウリーナはインウィ出身者中心の神の権威を利用して儲けたい派の幹部だ。
 拝金主義の実家に嫌気がさして神殿に入りラトニー王国まで来たというのに、気が付くと金儲けに夢中になっている自分を自嘲する。

(……だけど、ねえ……)

 結局のところ金がなければなにもできないのだから仕方がない。

 少なくともパウリーナは、法に触れるおこないをしてまでは金を稼いでいなかった。
 聖職者として、ちゃんと貧しい人や困った人に施しもしている。
 自分の懐に入る分が、ちょーっと多いだけだ。

「ねえねえ、葉菜花さん。このチョコレートってどうやって作るの? 朝、食べさせてもらったソースのほうも材料と作り方教えてくれないかな? 自分でも作ってみたいんだ」
「錬金術で変成してるので、わたしも詳しいことはわからないんですが、チョコはカカオの実から作るそうです。お好み焼きのソースは……果物とか野菜のジュースにお塩と砂糖とお酢、だったかな? あと香辛料も入ってるんじゃないかと思います」

 葉菜花がウスターソースの材料を覚えていたのは、中学の授業で身近の食品に含まれる添加物や保存料についてレポートを書かされたことがあったからである。

「ふわっとしたことしか言えなくてごめんなさい」
「そんなことないよ。独特の風味なのに、材料は普通のソースと変わらないんだね。カカオの実っていうのは知らないな」

 この世界に著作権はない。

 商人ギルドに所属して申請しても、ある程度しか独占できない。
 人の口に戸は立てられないし、商人ギルドの権力が及ばないところもある。
 情報を守りたければ自分で秘匿するしかなかった。

(……もっと口が軽そうに見えたんだけど、さすがコンセプシオン王弟殿下に選ばれた錬金術師ってわけだね)

 葉菜花の返答に、パウリーナはひとり納得した。
 錬金術で変成したから詳細はわからないと前置きしてからの、本人も言っていた通りのふわっとした答え。
 断って場を悪くさせたりはしないが、情報自体は制限して核になる部分は秘密にしている。

(詳細がわからないとかよく言うよねー。魔石を錬金術で食べ物にするなんてできるわけないんだから、本当は自分で料理したのを使い魔の『アイテムボックス』から出してるだけだろうにさ)

 葉菜花は本当のことを言っているだけなのだが、パウリーナは『闇夜の疾風』のバルバラと同じ誤解をしていた。

「あ、思い出しました。ソース、お好み焼きのウスターソースは、混ぜてからしばらく保存しておいたらできたそうです。……どんな方法でどれくらい保存したらいいのかまではわかりませんけど」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。ところで残ったお菓子もらって帰ってもいいかな? 友達のお土産に……って残ってないね」

 料理に詳しい知り合いに製法を研究させたかったのだが、パウリーナが気付いたとき、皿の焼き菓子はなくなっていた。
 ラトニー人らしいラトニー人食いしん坊のドロレスと、ドワーフだけど心はラトニー人食いしん坊の聖女イザベルが、不思議そうな顔でパウリーナを見る。

(そだねー。このふたりが食べてて残るはずがないよねー)

「じゃあ追加出しますねー。自分の限界はわかってると思いますが、アイスは冷たいから食べ過ぎてお腹壊さないでくださいね」
「……私のお腹は無敵」
「お昼が食べられなくなるよ」
「……お昼はなに?」
「大豆が好きなベルちゃ……聖女様のために稲荷寿司を作ろうと思ってます」
「……稲荷寿司、好き」
「あと巻き寿司と」
「……わかった。パフェはほどほどにする」
「お米がダメな人はパンにしようかなー、と」
「お米? へえ、懐かしいなあ。ボクの故郷の辺りにパエリアっていう料理があるよ」
「パエリア! 知ってます。食べたことはないんですけど……たぶん変成できるから、パウリーナさんにはパエリア作りますね」

(おいおいおい、食べたことないのに作れるってどういうことだよ!)

 葉菜花の言葉にパウリーナは心の中で突っ込んだ。
 もしかして本当に、料理ではなく錬金術で作っているのだろうか。

(どんな方法で作ってるかは知らないけど、ボクの故郷の料理だよ? 不味いもの出されたら怒っちゃうからね!)

 葉菜花に食べた経験があれば、前世日本の味覚に魔改造されたパエリアを変成したかもしれないが、味の記憶がないのが幸いした。
 この日の昼に葉菜花が作ったパエリアは、パウリーナにとって複雑ながらも懐かしい故郷の味そのものだった。
 父や兄の拝金主義に怒りを覚え、理想に燃えて神殿に入ったころの自分を思い出して、なんだかちょっと涙が出たことはだれにも秘密だ。

★ ★ ★ ★ ★

「ハビエル、私は思うんですけど」
「はあ……」

 騎士団員は自分の馬でダンジョンに通っている。
 コンセプシオンに命じられて馬達がつながれている場所へ来たハビエルは、小休憩中だったエルベルトに出会ってしまった。
 またなにか妙なこと言い出すんだろうな、コイツ的なことを考えながら、彼の言葉を待つ。

「美少女同士がキャッキャウフフしている姿は、それはもう! 本当に素晴らしいものなんですが、あえて地味な少女が美少女達に溺愛されているというのも良いものですね」
「そう……」

 錬金術師の葉菜花は、エルベルトの美少女基準には達していない。
 けれど聖女イザベルが彼女を信頼し心を預けている姿を見るうちに、彼の気持ちは変わって来たようだ。
 もちろん──

「ところでハビエル、そのアップルパイは余りそうですか?」

 変わり者のエルベルトにもラトニー人食いしん坊らしいところがあるからこそ葉菜花を受け入れたのだろうけれど。

 ハビエルの腕にはコンセプシオンに託された籠がある。
 中身は馬達に与えるためのアップルパイ、葉菜花の作った魔石ごはんだ。
 りんごの形をしていて、馬にも騎士団員にも好評だった。

「錬金術師殿は最初から俺達の分も変成してくれてるよ。団長も食べてたし」

 言いながら、ハビエルはエルベルトにアップルパイを渡した。
 ダンジョン周りの巡回途中でたまたま立ち寄った風を装ったり、休憩中に自分の馬の世話をしに来た素振りの騎士団員達にも渡していく。
 コンセプシオンには彼らの行動などお見通しだ。

「ぶるる……」

 もっともガルグイユ騎士団団長の愛馬メレナは、不満げに鼻を鳴らしていたのだが。

あなたにおすすめの小説

【完結】カノン・クライスラーはリンカネーション・ハイである。~回数制限付きでこの世界にある魔法なら何でも使えるという転生特典を貰いました

Debby
ファンタジー
【最終話まで予約投稿済み】 カノン・クライスラーは、辺境に近い領地を持つ子爵家の令嬢である。 頑張ってはいるけれど、家庭教師が泣いて謝るくらいには勉強は苦手で、運動はそれ以上に苦手だ。大半の貴族子女が16才になれば『発現』するという魔法も使えない。 そんなカノンは、王立学園の入学試験を受けるために王都へ向かっている途中で、乗っていた馬車が盗賊に襲われ大けがを負ってしまう。危うく天に召されるかと思ったその時、こういう物語ではお約束──前世の記憶?と転生特典の魔法が使えることを思い出したのだ! 例えそれがこの世界の常識から逸脱していても、魔法が使えるのであれば色々試してみたいと思うのが転生者の常。 リンカネーション(転生者)・ハイとなった、カノンの冒険がはじまった! ★ 覗いてくださりありがとうございます(*´▽`人) このお話は「異世界転生の特典として回数制限付きの魔法をもらいました」を(反省点を踏まえ)かなり設定を変えて加筆修正したものになります。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった