新選組幹部を暗殺しようとしたら絆されちゃった件について

宗谷七瀬

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雛菊

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深夜から明け方にかけて煌々と光る灯篭が道行く人々を照らし、怪しげな雰囲気を醸し出していた。
夜も開ける卯の刻を回る頃、人々が帰路につく中、夜桜は花街の姚謡という店先に来た。

「あらまあ、ようおいでなんし」

ちょうどそのとき、店先で客を見送っていた花魁が夜桜をみて声をかけて来た。

「あんさん、お一人でありんすかえ?すんまへんけど、もう店はしまいでありんす」
「いいえ、私は客やないです」

店も閉まる刻限、女1人の来店に花魁は戸惑いつつも問い返した。

「そうどすか。ほな、どうなんし?」
「雛菊という花魁を呼んで頂けますか?」
「雛菊どすか?あんさん、どのようなご関係でありんすえ?」
「詮索せんといてもらえます?」
「・・・・待ちなんし」

夜桜の強固な姿勢に花魁は諦めたように店の中へ入って行った。

しばらくして店の二階部分からパタパタと走る音とそれを咎める声が聞こえて来た。

「桜花、てもせわしのうおざんす!」
「せやかて姉様、姉様のあの人さんでありんすえ」
「・・・にぎやかな人たちね」

夜桜は少し呆れつつ2人が現れるまで待っていた。

「ようおいでなんし、夜桜様」
「久しぶりやな、雛菊はん」

程なくして現れた花魁はとても美しく一目で高級花魁だとわかるほどだった。
道行く人々もその花魁、雛菊に目を奪われていた。

「ありゃあ、「姚謡1の美姫」の雛菊ではあらしまへんか?」
「なんと、面妖な」
「一度でいいからあの様な花魁に酌をしてもらいたいものだ」

その様子を見て花魁、雛菊は夜桜を中へ促した。

「ここは人目につきんす、中へおいでなんし」
「えらい、すんまへん」
「桜花、後は頼みましたえ?」
「はい、姉様」
「ほなこちらへ、夜桜様」
「ええ」

そうして入った姚謡の中でも特に人気ひとけのない二階の奥の個室、そこに夜桜は案内された。

「なにか、食べるものでも頼む?」
「いや、いらないよ」
「そう?で、今日は何の用かしら?」

入ってすぐ、別人の様に廓言葉も京都弁も捨て去った2人は慣れた様に会話し始めた。

「相談事があって」
「へぇ、夜桜が相談事。珍しいこともあるものね?」
「うるさいよ」

乱雑な返しだが、その中には長年共に入るもの特有の親愛の情が感じられる。
そう切り出した、夜桜は自分の心の変化を雛菊に語り出した。

「雛菊も知ってるだろうけど私は新選組の局長近藤勇、副長土方歳三、一番組組長沖田総司の暗殺を命じられているの」
「ええ、知ってるわ」
「その中の1人、近藤勇に今日会ったんだけど」
「まあ!それで、成功したの?」

顔に気色を浮かべて期待に満ちた眼差しで近藤の生死を雛菊は夜桜に問うたが、その答えは芳しくないものだった。

「いや、その、普通にね」
「はい?」
「お茶屋で団子を食べていて、その時隣に座ってきたのが近藤勇で」
「え、それって、、、。」
「ええ、困ったことに顔を見られた。あと、名も知られたの」

顔も名も知られたと言う夜桜に雛菊はしばしあっけにとられた様な顔をし2人の間に思い沈黙が落ちた。

「・・・それって、結構困るわよね?」
「ああ困る、とてつもなく困る!」

夜桜は我が意を得たりと激しく頷いていたが、

「だったら、こんなところで油を売ってないで、さっさと始末すべきできじゃなぁい?」

雛菊の言葉に彫像の様に固まった。

「・・・・・・いや、あの」
「どうかした?何か問題でも?」

畳み掛ける様に聞いてくる雛菊に辟易しつつどう答えるべきか迷っていた。

「そ、それは追々考えるとして。その相談事の本題に入りたいんだけど」

結論、強引な話題転換。

「ああ、そう言えば話がずれたわね。確か、相談事だったっけ?」
「ええそう!」

夜桜の異変に気がつきつつも気にしたそぶりもなく話に付き合う雛菊は流石「姚謡1の美姫」と言われるだけはある。

「その、相談というか、何というか」
「はい?」
「女心やら男心やらを知り尽くしているであろう雛菊に質問なんだけど」

頬を赤くしつつ、視線を逸らして早口にそう答える夜桜を見て雛菊が「あらぁ、恋路かしら?」という結論に至るのは無理もなかった。

「ふふふ、夜桜にも春がやってたのね」
「え?」
「ふふふ、何でもないわ。どうぞ続きを」

まるで、娘の成長を喜ぶ母親の様に雛菊は微笑ましげに眺めていたが

「は、初めての人だったんだ」

夜桜の言葉に今度は雛菊が彫像の様に固まった。

「・・・・・え?」

日夜遊廓に身を置き自身も働いている雛菊にとってその言葉から連想されるものは男と女の閨での営みであった。だが、まさか初恋もまだな、というかまだだと雛菊が思っている夜桜がそんな、いきなり、情事の話をするなんてと頭を巨石で殴られた様な感覚だった。

「わ、私と似ていると思ったんだ。その、生い立ちとか。でも、それだけじゃなくて、あの人の声とか顔とかが忘れられなくて」
「あ、ああ」

自分のことで精一杯の夜桜は雛菊の様子に気づくことは無かったが、結果として矢継ぎ早に夜桜が言った言葉により雛菊は自分の考えが違ったことを知り人知れず胸をなでおろした。

「あの瞳を思い出すと、なんだか胸がぎゅっとなるんだ。私はどうしたらいい?どうしたらいいの!?」

だが、続けて放たれた夜桜の言葉に今度は笑いそうになった。自分の恋心に気づいていない夜桜は年相応で微笑ましく雛菊の目に映った。

「ふふふ、夜桜。何を言っているの?どうするも何も、どかーんと言っちゃうしかないじゃない」
「ど、どかーん?」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこてんと首をかしげる夜桜を見て雛菊はあらあらまあまあ本当に気づいてないのねとクスリと笑った。

「な、なに笑ってるの」
「あら、ごめんね。まあ、私から言えることなんてほとんど無いんだけど」
「それでもいい!なに?」

藁にもすがる思いで聞いた答えに雛菊は簡潔に答えた。

「お付き合いでもして見たらどうかしら?」
「お、お付き合い?どこに?」
「え、そこから?だから、うーん、なんて言ったらいいのかしら。しばらくその人と遊んで見てはどうかしら?一緒にお食事に行ったり、お花見をしたり」

そう答えた雛菊が夜桜を見ると首を傾げたり、眉を八の字にしたりして、理解していないことを如実に表していた。

「え、なんで?」
「なんでって、何をするにしてもその人のことがわかってないと何もできないでしょ?「情報は命」私なんかよりそういう点では貴女の方が分かっていると思ってたんだけど」

 夜桜の様な裏社会で生きる者は表社会の人々の様な男女の交際に関しては頓着しない。せいぜいが、男と女がセックスしたら子供ができるという知識ぐらいで、その知識もセックスの最中の敵は殺しやすいという理由からくるものだ。
 まあだが、裏に半分片足突っ込んでいる様な雛菊でさえ男女の交際に関する知識が知識でしかないところを鑑みるに仕方がないと言えなくもないのだろう。
 雛菊は余りにも理解できていない様子の夜桜を見て夜桜の身近な「情報」という形で夜桜に提示することにした。

「そうね。確かに情報大切だ。だけど、こちらの事を相手に深く知られるわけにはいかないし、暫くは観察することにしようかな」

夜桜の言うことにも一理あると感じた雛菊はそうかと言いながらも娘のような夜桜の成長を微笑ましく思っていた。

それから幾ばくかの時間これからの予定や情報を共有した後、夜桜は本拠地としている宿屋に帰った。
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みんなの感想(1件)

すらぽん
2017.09.20 すらぽん

おお!やっとこさ更新が再開しましたか!これからも頑張って下さいね!

2017.09.20 宗谷七瀬

長らくお待ちして申し訳ありません。私自身今気づきましたが、約半年ぶりの投稿になってしまいましたm(_ _)m
これからは細々とチョロチョロと出していくつもりですので気長にお待ち頂ければ嬉しいですm(._.)m

解除

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