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Chunk1 全天周
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定めた2点を通る円は無限に存在し、だが3点目を定めると途端に一つに特定される。全体像とは第三者目線を持って初めて把握できるのかも知れない。殊更人間関係というものは厄介で、どこかに先入観を抱き物事を曲解しがちだ。当事者に至ってはその時見た光景や感情が、何らかの勘違いや誤認にならぬように俯瞰したものの見方をしなければならない。
こんな思考になったのは何時頃からだろう。グラス型デバイス越しには仮想空間の教室、そしてアバター姿の生徒たちに幾何学の授業をしながらそんなことを思っていた。グラデと略されるこのデバイスの左上に目をやると時刻は19:30を示していた。ホワイトボードを模したウィンドウには「円の中点Oを求めよ」、そしてその解とが書かれたPDFが開かれている。
「時空操作って出来ると思わない?」
授業終わりにそんな突拍子も無いことを聞いてくる生徒にただただ惚ける。この子ぐらいの頃に理系科目を専攻していた私としては、似たようなことを考えたこともあったものだ。タイムマシーンにタイムリープ、ワープホールに空間転移。そんな懐かしさも束の間、返答せねばと気持ちが焦りつい角の立つ言葉が口をついて出る。
「無理でしょうね。」
そんな表現にハッとした。当時の私自身に突き刺すような、叶わぬ夢や現実の無情さを啓示するような冷たい言葉。AIの反応精度は如何なものか、声紋の変化で私のアバターの表情に反映していないだろうか。気づかせないよう、平静を装いつつ拡げたデータの閉じ作業を始める。悟らせまいとする私の変化に全く気づかぬ様子の彼は、私の横顔に話しかける。
「そうかなぁ。例えば探し物って時間が経ってから見つかるじゃん。あれって何かしらのそういった装置を使って、誰かしらがその瞬間に俺から拝借してるとしか思えないんだよね。」
抽象的であれど、なるほど面白い考え方もあるものだと感心する。
「片付けた場所ってメモするほどのことじゃ無いしなぁ。けど客観的な形に残してた方が事実ってわかり易かったのかもしれないね。」
さっきの授業でそんな感覚を覚えたのだろうか。一介の教師に哲学を突きつけないで欲しいものだ。「片付けた場所は忘れないように」と当たり障りのない言葉をかけつつ、彼にログアウトを促す。このデジタルで作られた教室にもう他の生徒は一人もいない。
「だとすると母さんが怪しいな。なんで見つけられんだよ。絶対時空操作してるだろ。」
ブツブツ言いながら彼は退室していった。現に言った言わないって争いも、客観的なものを残せば大事には至らないのかもしれない。
「でもやっぱり、そんなもの無くたって他人を信用したいしされたいものじゃない……」
特に親しい仲とあっては尚更だ。話ってのは飛躍すれば限りない物だと分かりつつ、思考は止められる物でもない。私もこの仮想空間内の教壇をOFFる。グラデ越しに現れた現実世界は、見慣れた殺風景な部屋とテーブルのコーヒカップ、縁を伝う滴は白い平面に焦茶色の幾重もの弧を描いていた。
こんな思考になったのは何時頃からだろう。グラス型デバイス越しには仮想空間の教室、そしてアバター姿の生徒たちに幾何学の授業をしながらそんなことを思っていた。グラデと略されるこのデバイスの左上に目をやると時刻は19:30を示していた。ホワイトボードを模したウィンドウには「円の中点Oを求めよ」、そしてその解とが書かれたPDFが開かれている。
「時空操作って出来ると思わない?」
授業終わりにそんな突拍子も無いことを聞いてくる生徒にただただ惚ける。この子ぐらいの頃に理系科目を専攻していた私としては、似たようなことを考えたこともあったものだ。タイムマシーンにタイムリープ、ワープホールに空間転移。そんな懐かしさも束の間、返答せねばと気持ちが焦りつい角の立つ言葉が口をついて出る。
「無理でしょうね。」
そんな表現にハッとした。当時の私自身に突き刺すような、叶わぬ夢や現実の無情さを啓示するような冷たい言葉。AIの反応精度は如何なものか、声紋の変化で私のアバターの表情に反映していないだろうか。気づかせないよう、平静を装いつつ拡げたデータの閉じ作業を始める。悟らせまいとする私の変化に全く気づかぬ様子の彼は、私の横顔に話しかける。
「そうかなぁ。例えば探し物って時間が経ってから見つかるじゃん。あれって何かしらのそういった装置を使って、誰かしらがその瞬間に俺から拝借してるとしか思えないんだよね。」
抽象的であれど、なるほど面白い考え方もあるものだと感心する。
「片付けた場所ってメモするほどのことじゃ無いしなぁ。けど客観的な形に残してた方が事実ってわかり易かったのかもしれないね。」
さっきの授業でそんな感覚を覚えたのだろうか。一介の教師に哲学を突きつけないで欲しいものだ。「片付けた場所は忘れないように」と当たり障りのない言葉をかけつつ、彼にログアウトを促す。このデジタルで作られた教室にもう他の生徒は一人もいない。
「だとすると母さんが怪しいな。なんで見つけられんだよ。絶対時空操作してるだろ。」
ブツブツ言いながら彼は退室していった。現に言った言わないって争いも、客観的なものを残せば大事には至らないのかもしれない。
「でもやっぱり、そんなもの無くたって他人を信用したいしされたいものじゃない……」
特に親しい仲とあっては尚更だ。話ってのは飛躍すれば限りない物だと分かりつつ、思考は止められる物でもない。私もこの仮想空間内の教壇をOFFる。グラデ越しに現れた現実世界は、見慣れた殺風景な部屋とテーブルのコーヒカップ、縁を伝う滴は白い平面に焦茶色の幾重もの弧を描いていた。
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