Rozier Crime ~ロジエクリム~

時雨 天

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む
  黒褐色の薔薇が一輪暗闇の中で咲いている。そこに黒髪に銀色が混ざった変わった色の髪をした青年が泣き崩れていた。
 その青年を見つめる栗色の髪の少年。怖くなり、耳を塞いで、暗闇の中を走り出した。
 それに気がついた青年は、伸びた前髪の隙間から走り去った少年を睨みつけた。紫色の瞳は憎悪に満ちている。

「全部、全部、全部、お前のせいだっ」

 ふらふらと立ち上がると、両拳を強く握りしめた。

「どうして、お前なんだよっ」

 青年の怒号と同時に、体から溢れ出た薔薇の蔓。その蔓は少年の後を追う。

「逃げるなぁぁぁ」

 薔薇の蔓が走っている少年の両足首を捉えた。少年はバランスを崩して、前に転んだ。蔓には棘がついており、それが足首に刺さる。
 少年は痛いと発したはずが、声が出なかった。すると、ずるずると後ろに引っ張られ始める。このままでは、青年のところまで引きずり戻されると思った少年は、爪を立てて抵抗をする。

「無駄なんだよ」

 その一言と共に青年のところまで引きずり戻された。
 青年は戻ってきた、少年に馬乗りになり、首を絞める。

「お前さえいなければ、俺は幸せになれた、なれたんだっ、何もかも」

 ボロボロと涙を少年の顔に溢していく。

「――さよならっ」



――――


 ガバッと上半身を起こして、自分の首を触る栗色の髪の少年。呼吸が荒く、顔や背中に汗が大量に出ていた。
 今にでも心臓が口から出てきそうなくらい、音が忙しなく鳴る。
 
「ここは、どこだ……俺は確か――」

 遠くから咆哮が聞こえた。あまりの音の大きさに耳を塞ぐ少年。

「……思い出した。確か戦闘訓練中にが表れて、吹っ飛ばされて……気を失っていたのか」

 少年は急に体中に痛みが走り、立とうとしても力が入らなかった。
 段々と近づいてくる足音。「グルルル……」という低い声が木々の間から聞こえてきた。ごくりと唾を飲み込む少年。暗闇から現れた、大きな狼のような化け物。体中から荊が生えている。
 この化け物が―― セマンス――。荊が生えているのが特徴的。セマンスは魔力を持った人間を食らい、生きている。この世界の人間は体内に魔力を宿していた。そして、人間とセマンスは古代からずっと闘っている。どこから来たのか謎の生命体であった。
 
「……どうしよう」

 吹っ飛ばされたせいで丸腰の状態の少年。大きな狼のセマンスは、涎をぼたぼたとこぼしながら、近づいてくる。
 少年は死を覚悟して、ぎゅぅっと強く目を瞑った。

「どこまで行くねん、この野郎!」

 独特の訛りで喋る、赤茶色の髪をした青年が、セマンスの背後から現れた。

飛鳥あすかさん、あそこに少年がいます!」

「んじゃぁ、保護頼むわ」

 飛鳥と呼ばれた青年は、銀色に輝く剣を強く握りしめるとセマンスに向かって行った。
 数名の黒い隊服を着た人たちが少年を保護しに来た。

「もう大丈夫だよ、キミ名前は言えるかな?」

「……雨砂 優雅あまさ ゆうがです」

 さし伸ばされた手を掴みゆっくり立ち上がる、少年―― 優雅。

「ケガをしているみたいだね、ほら、早く背中に乗って」

 一人の隊員の背中におんぶされる優雅。そこから、安全な場所へ移動を開始する。
 
「……あの人、一人で大丈夫ですか?」

「あー、飛鳥さん? 大丈夫大丈夫。 あの人、真紅の弾丸クリムゾンシェルの隊員の中で一番強いから」

「飛鳥さん、マジで強いっすから!」

「そーだぞ、そーだぞ!」

 隊員たちが次々にそう言っていると大きな足音が近づいてくる。
 優雅を含め、後ろを振り向くとさっきのセマンスがこちらに向かってくる。

「え、なんで? 飛鳥さんは?!」

 慌てて全速力で走る隊員たち。背負われている優雅は、揺れで酔いそうになっていた。

「だーー、もうっ、なんやねんコイツ!」

 セマンスの背後には、飛鳥が追ってきていたが、ものすごく苛立っている様子。
 というのも、優雅たちがあの場から離れた数分後、セマンスと飛鳥は闘っていたが、急に優雅たちの後を追いだしたのだ。
 優雅たちと段々と距離が縮んでいく。

「もう無理無理無理!」

 優雅を背負っていた隊員が涙目になりながら叫ぶ。

「大人しく、しとれってこの野郎!」

 飛鳥は舌打ちをして、剣に魔力を込め、セマンスに一撃を食らわした。
 耳を塞ぎたくなるような悲痛の声が森中を響き渡る。そして、セマンスの体内から大量の荊が出てきて、セマンスに覆い、天へと伸びていった。そして、青い薔薇を咲かせて、朽ち果てる。
 キラキラと降り注ぐそれは、まるで雪のように儚く綺麗だった。

「し、死ぬかと思った……」

 優雅を背負っていた隊員は、へなへなを地面に座り込む。優雅もその隊員から降りた。

「今日のセマンス、なんや、変やったなぁ……」

 飛鳥は剣を鞘に収めると優雅をちらりと見た。しかし、首を左右に振って「気のせいか……」と呟いた。

「んじゃぁ、あと頼んだで。キミ……優雅くんやっけ?戦闘訓練の途中やったやろ、先生とか他の子らが待っていると思うし」

 ひらひらと手を振って、その場から離れた飛鳥だった。
 優雅はぺこりとお辞儀をし、飛鳥の背中を見つめる。流石、セマンスを最前線で闘う組織、真紅の弾丸の一員。
 強さは伊達じゃないと。優雅はそう思い、空を仰いだ。いつのまにか空は夕暮れ時だった。





             
   ―― 止まっていた歯車が静かに動き始めた ――
 



 


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...