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第18章 ウイルスと行方不明者
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真琴たちは、パイロを探していた。
真琴を元の世界に戻す為に。
その方法を知っているのは、パイロしかいないのだから。
真琴が描いたパイロの似顔絵を持って聞き込みをしていた。
図書館長のアルクが言うには、パイロを最後に見たのは、銀の塔のオクルスと一緒だったらしい。
オクルスが何かを知っているはずだと、絢音は、オクルスを図書館で待ち伏せをする。
響介はオムネ城で聞き込み。
真琴はグベルナから何か情報を訊きだす為、白い塔に向かった。
真琴は、庭園に戻るとグベルナを探した。
グベルナは、植物の手入れをしているところだった。
校庭で花壇に水を撒いている子どものように楽しそうだった。
ウルペースがグベルナに駆け寄り、何処かに誘っていた。
その時、真琴に気付いた。
「何か御用かしら?」相変わらず艶のある声のウルベース。
「パイロに逢えたかな?」と、続いてグベルナ。
真琴は、パイロについての話をした。
「パイロが行方不明か……」と顎に手を当てて、何か考え中という仕草。
直ぐに真琴に目を移した。
「君も一緒に行こうか」
その声は、子どものような容姿とは違った低い声のグベルナだった。
真琴は、頷くと、二人について行った。
行きついたのは、白い塔の一階で池の奥にある部屋だった。
ガラス張りの部屋で、中の様子が伺える。
理科室みたいな所。
真琴はそう思った。
フラスコや試験管、様々な形の機器が机上に並べられている。
そこに白衣を着た二人の姿があった。
何やら難しい顔をして話し込んでいるようだ。
グベルナたちが、部屋に近づくと自動的にドアが開き中に入ると、白衣の二人がお辞儀をして出迎えた。
ウルペースは、真琴を白衣の二人に紹介してくれた。
一人目の名は、”コッレーク”。
頭の天辺には毛が無く、耳の周りの白髪がくせ毛のせいで丸く盛り上がっている。
丸顔で鼻の下に白い髭がブラシの毛の様に張付いていた。
もう一人は、”スクルタ”と言う。
面長な顔で短い黒髪は真ん中で綺麗に分けられ、整髪料でピカピカしている。
触ると固いのだろうと真琴は思った。
スーとした鼻筋が伸びていて、少々前歯が出ている。
「楽にしてよい。ウルペースに訊いたが、問題があるらしいな」
スクルタが一歩前に出た。
「最近、新種のウイルスが流行っていまして、人間界に少々変化が見られます。
死者が沢山でるとか言う恐ろしい病気ではないですが……」
「変化と言うと?」
「感染力の強いのです。
その為、人間界の情報網が過剰に反応して対策を打った結果、
孤立化が急速に進んでいるようです。
気になるのは、このウイルスは、自然に発生したものでは無いと言うこと」
「作られたといくのか?」グベルナが呟く。
「そうです。発生源は、銀の塔の者ではないかと・・・・・・」
コッレークが、グベルナを見つめる。
グベルナは、腕組をして考え込んでしまった。
「目的は、何なのでしょう。
他に起こっている事も探っていきましょう。
何か関連があるかもしれませんね?」と、ウルペース。
「コロニクスに調べさせよう」
と言いグベルナは、真琴たちを残し庭園へ戻って行った。
真琴は、何か大変な事が起こりつつあると言うことだけわかった。
でも、何が起こる?
「説明が必要のようね」
ウルペースは、真琴の困惑した顔を見て声をかけた。
「説明、説明、それは、私たちに任せてください!」
白衣の二人が白板を引きずって真琴の前にしゃしゃり出た。
ウルペースは、しまったと思わず顔に手をあて、”説明”と言う言葉を口に出した事を後悔していた。
この二人は、説明好きでどんなに長い時間でも話すことが出来た。
もう、目がキラキラとして瞳孔が開いている。
ウルベースは、覚悟を決め、深呼吸すると
「じゃぁ、お願いするわ。ここに腰かけてもいいかしら」
と、椅子に座りスラリと伸びた足を組んだ。
そして、真琴にも椅子を勧めた。
ありがとうございますと真琴も椅子に座った。
その様子を見た白衣の二人は笑顔で白板の前に立つと一礼した。
「それでは、説明しましょう」
と言ったのは、ブラシのような髭をはやしたコッレークだった。
ウルペースは、長くなるから覚悟してと真琴にに耳打ちした。
「どこから、話しましょうか……。
初めての方も居るので、この部屋の説明から話しましょう」
白板に”DNAラボ”と書いた。
「ここの名前です。
さて、何をしているかというと、生物全般のデザインです。
この世には、多くの生物が存在しています。
実は、ここでデザインして作られているのです。
環境に合った生物のデザインをして、
DNA書き換えのためのウイルスを作成するのが、ここの仕事です」
そこから、長い説明が始まった。
生物は、自分と言う”精神”と”身体”の二つから成っていて、身体は精神の入れ物に過ぎない。
より良い身体を求め生命の大爆発の時期に多くの創られ試された。
そして、淘汰されていった。
花に姿を似せた虫や虫に姿に似せた花、
種を遠くに運ぶための仕組みや
偶然だけで説明できないものが沢山あるだろ。
それは、作られたからだよ。
当然、人間も造ったよ。
生き残るためには、危険を回避する能力が必要になる。
受精から出産するまでに、生物の基本を刻み込んだ。
胎内で進化の過程を体験させながら成長させたのだ。
受精後、三週目には脳やせき髄の元の神経管が発育し、
四週目には勾玉の様な脊椎動物の共通した頭、胴、尾の形になる。
この段階では、何の生物になるかわからない。
魚や鳥と大差なく、五週目で顔、胴、手足が成長する。
八週目で胎児になる。
更に生命を守るための吸引やにぎりなどの反射を手に入れ、
四十週で生まれる。
このような成長の過程は、ちゃんと意味のあることなのだ。
生まれてからなるべく長く存在できるようにと。
この過程の中には、身体と精神の結合と言う大事な過程も含まている。
それに関しては、この白い塔の天辺、"エスピラール”へ行くと分かるだろう。
生まれてからなるべく長く存在できるような、器を造るためにウィルスを使うのだ。
その道具のウイルスをここで研究している。
神聖な我々の仕事だ。
そのウィルスを造ったとすると、それは大変な問題なのだ。
人間の生き方が変わったせいで、銀の塔が生まれた。
それは、人間が次の進化を遂げるため、身体のデザインが必要になったのかもしれない。
それも、自分たちで勝手に変えようとしているのなら……。
その結果、危険な未来があるのなら対策を取らなければならないのだ」
コッレークが、分かったかなと真琴を見つめる。
そして、スクルタが補足する。
「今回、問題になっているウィルスは、今までの流感と同じレベルなのだ。
が、人間界の反応が違っている。
確かに、感染力は少々強い。
パンデミックを恐れ、隔離が進んでいる。
そして、情報網の発達により、人間の孤立化が急速に進んでいるのだ。
人間は、集まることで進化してきた生物なのにだ」
スクルタが、一息置いた。
「誰か何かをしようとしている。それをしているのが・・・・・・」
「銀の塔かもしれない」真琴も一緒に声に出してしまった。
銀の塔には、何かありそうだ。
真琴は、庭園に向かった。
グベルナとウルペースから、銀の塔について訊きださねばと。
庭園を見渡すと白い屋根の西洋風あずま屋ガゼボに二人が居た。
いや三人だ。もう一人は、ウビークエだ。
どうやらお茶会の様だ。
「真琴もこちらに」ウルペースが手招きする。
真琴がガゼボに向かうとウルペースが再び手を振った。
「あなた達もこちらに」真琴が振り向くと、響介と絢音がこちらに駆け寄っていた。
「うわー、最高!」目を輝せていたのは、絢音。
真琴たちが席に着くと早速、紅茶が注がれた。
「ウビークエのプレゼントよ」
とてもう嬉しそうな顔のウルペースを見るのは初めてだった。
こんな表情もするんだとなぜかうれしくなった。
「こんなに沢山どうしたんだ」
「本当は、ランチを食べに行ったんだ」
ウビークエが、ゴソゴソとポケットから取り出したのは、食べ物の絵が沢山描いてある料理のチラシ。
「これが食べたかったんだ」
テーブルの上にチラシを乗せると、これっと指を指した。
皆、チラシを覗き込む。
それは、街一番うまいという評判の”コクウス”の店のチラシだった。
指さしたランチは、こんもりと盛られたチキンライス。
チキンライスの上には、料理長のコクウスの似顔絵の旗が立っていた。
こんがり焼かれたハンバーグの上に赤いケチャップ、
キャベツの千切りの上にタルタルソースがかかったエビフライ、
その横にはナポリタンスパゲティ、フライドポテトとナゲット、
から揚げも付いている。
オレンジの輪切りとウサギを模したリンゴ、
そして、オレンジジュースがあった。
「これって、お子様ラ……」と、真琴は言いかけたが辞めた。
「でもね、居なかったんだ、コクウスさん。
突然、居なくなったって、お店の人が大慌てだった。お客さんも大慌て」
ウビークエが、チラシを裏返した。
そこには、ケーキの絵が載っていた。
「だからさ、しかたないから、ランチがダメならスイーツにしようと思ったんだ。
で、こんな買っちゃった。みんな食べて」
「スイーツが好きなんだ」絢音がチラシを見て呟く。
「うん、スタードが入った皮がサクッとシュークリーム、
フワフワスポンジを生クリームでコーテイングされている、
その上にちょこんとイチゴを乗せたショートケーキ、
秋には甘い栗のクリームを細く絞って黄色い山のようなモンブラン、
バターの香り漂う貝の焼き型のマドレーヌ、
パイとクリームを幾重にも重ね粉砂糖に綺麗に包まれたミルフィーユ」
「訊いているだけで、ワクワクするわ」絢音は、興奮してウビークエを見つめる。
「けど、もう食べれない。ここにあるの分しかないんだ」
ウビークエが、ガクッと肩を落とした。
「えっ?」
「パテシエのドウルケも居ないんだ。スイーツも食べれなくなる」
一同顔を見合わせ、声を失った。
パイロ、街一番のコックとパテシエが姿を消している。
なんだこれは?
「パイロは、どうなった?」と、真琴は絢音に顔を向ける。
「まだ、オクルスに会ってないの。確かにパイロに声をかけていたらしいけど」
絢音は、シュークリームを手に持ったままだ。
「僕の方は、収穫なしだ」響介が付け加える。
「コロニクス!」
グベルナが声を上げた。いつの間にか、コロニクスが後ろにいた。
「コックとパテシエを探してくれ。それから……ショコラティエも」
そうねとウルペースが頷いた。
「わかりました」
コロニクスは、その場を去る前に残り少ないシュークリームを持って行った。
「あっ」
声を上げたのは、ウルペースと絢音とウビークエの三人だった。
真琴を元の世界に戻す為に。
その方法を知っているのは、パイロしかいないのだから。
真琴が描いたパイロの似顔絵を持って聞き込みをしていた。
図書館長のアルクが言うには、パイロを最後に見たのは、銀の塔のオクルスと一緒だったらしい。
オクルスが何かを知っているはずだと、絢音は、オクルスを図書館で待ち伏せをする。
響介はオムネ城で聞き込み。
真琴はグベルナから何か情報を訊きだす為、白い塔に向かった。
真琴は、庭園に戻るとグベルナを探した。
グベルナは、植物の手入れをしているところだった。
校庭で花壇に水を撒いている子どものように楽しそうだった。
ウルペースがグベルナに駆け寄り、何処かに誘っていた。
その時、真琴に気付いた。
「何か御用かしら?」相変わらず艶のある声のウルベース。
「パイロに逢えたかな?」と、続いてグベルナ。
真琴は、パイロについての話をした。
「パイロが行方不明か……」と顎に手を当てて、何か考え中という仕草。
直ぐに真琴に目を移した。
「君も一緒に行こうか」
その声は、子どものような容姿とは違った低い声のグベルナだった。
真琴は、頷くと、二人について行った。
行きついたのは、白い塔の一階で池の奥にある部屋だった。
ガラス張りの部屋で、中の様子が伺える。
理科室みたいな所。
真琴はそう思った。
フラスコや試験管、様々な形の機器が机上に並べられている。
そこに白衣を着た二人の姿があった。
何やら難しい顔をして話し込んでいるようだ。
グベルナたちが、部屋に近づくと自動的にドアが開き中に入ると、白衣の二人がお辞儀をして出迎えた。
ウルペースは、真琴を白衣の二人に紹介してくれた。
一人目の名は、”コッレーク”。
頭の天辺には毛が無く、耳の周りの白髪がくせ毛のせいで丸く盛り上がっている。
丸顔で鼻の下に白い髭がブラシの毛の様に張付いていた。
もう一人は、”スクルタ”と言う。
面長な顔で短い黒髪は真ん中で綺麗に分けられ、整髪料でピカピカしている。
触ると固いのだろうと真琴は思った。
スーとした鼻筋が伸びていて、少々前歯が出ている。
「楽にしてよい。ウルペースに訊いたが、問題があるらしいな」
スクルタが一歩前に出た。
「最近、新種のウイルスが流行っていまして、人間界に少々変化が見られます。
死者が沢山でるとか言う恐ろしい病気ではないですが……」
「変化と言うと?」
「感染力の強いのです。
その為、人間界の情報網が過剰に反応して対策を打った結果、
孤立化が急速に進んでいるようです。
気になるのは、このウイルスは、自然に発生したものでは無いと言うこと」
「作られたといくのか?」グベルナが呟く。
「そうです。発生源は、銀の塔の者ではないかと・・・・・・」
コッレークが、グベルナを見つめる。
グベルナは、腕組をして考え込んでしまった。
「目的は、何なのでしょう。
他に起こっている事も探っていきましょう。
何か関連があるかもしれませんね?」と、ウルペース。
「コロニクスに調べさせよう」
と言いグベルナは、真琴たちを残し庭園へ戻って行った。
真琴は、何か大変な事が起こりつつあると言うことだけわかった。
でも、何が起こる?
「説明が必要のようね」
ウルペースは、真琴の困惑した顔を見て声をかけた。
「説明、説明、それは、私たちに任せてください!」
白衣の二人が白板を引きずって真琴の前にしゃしゃり出た。
ウルペースは、しまったと思わず顔に手をあて、”説明”と言う言葉を口に出した事を後悔していた。
この二人は、説明好きでどんなに長い時間でも話すことが出来た。
もう、目がキラキラとして瞳孔が開いている。
ウルベースは、覚悟を決め、深呼吸すると
「じゃぁ、お願いするわ。ここに腰かけてもいいかしら」
と、椅子に座りスラリと伸びた足を組んだ。
そして、真琴にも椅子を勧めた。
ありがとうございますと真琴も椅子に座った。
その様子を見た白衣の二人は笑顔で白板の前に立つと一礼した。
「それでは、説明しましょう」
と言ったのは、ブラシのような髭をはやしたコッレークだった。
ウルペースは、長くなるから覚悟してと真琴にに耳打ちした。
「どこから、話しましょうか……。
初めての方も居るので、この部屋の説明から話しましょう」
白板に”DNAラボ”と書いた。
「ここの名前です。
さて、何をしているかというと、生物全般のデザインです。
この世には、多くの生物が存在しています。
実は、ここでデザインして作られているのです。
環境に合った生物のデザインをして、
DNA書き換えのためのウイルスを作成するのが、ここの仕事です」
そこから、長い説明が始まった。
生物は、自分と言う”精神”と”身体”の二つから成っていて、身体は精神の入れ物に過ぎない。
より良い身体を求め生命の大爆発の時期に多くの創られ試された。
そして、淘汰されていった。
花に姿を似せた虫や虫に姿に似せた花、
種を遠くに運ぶための仕組みや
偶然だけで説明できないものが沢山あるだろ。
それは、作られたからだよ。
当然、人間も造ったよ。
生き残るためには、危険を回避する能力が必要になる。
受精から出産するまでに、生物の基本を刻み込んだ。
胎内で進化の過程を体験させながら成長させたのだ。
受精後、三週目には脳やせき髄の元の神経管が発育し、
四週目には勾玉の様な脊椎動物の共通した頭、胴、尾の形になる。
この段階では、何の生物になるかわからない。
魚や鳥と大差なく、五週目で顔、胴、手足が成長する。
八週目で胎児になる。
更に生命を守るための吸引やにぎりなどの反射を手に入れ、
四十週で生まれる。
このような成長の過程は、ちゃんと意味のあることなのだ。
生まれてからなるべく長く存在できるようにと。
この過程の中には、身体と精神の結合と言う大事な過程も含まている。
それに関しては、この白い塔の天辺、"エスピラール”へ行くと分かるだろう。
生まれてからなるべく長く存在できるような、器を造るためにウィルスを使うのだ。
その道具のウイルスをここで研究している。
神聖な我々の仕事だ。
そのウィルスを造ったとすると、それは大変な問題なのだ。
人間の生き方が変わったせいで、銀の塔が生まれた。
それは、人間が次の進化を遂げるため、身体のデザインが必要になったのかもしれない。
それも、自分たちで勝手に変えようとしているのなら……。
その結果、危険な未来があるのなら対策を取らなければならないのだ」
コッレークが、分かったかなと真琴を見つめる。
そして、スクルタが補足する。
「今回、問題になっているウィルスは、今までの流感と同じレベルなのだ。
が、人間界の反応が違っている。
確かに、感染力は少々強い。
パンデミックを恐れ、隔離が進んでいる。
そして、情報網の発達により、人間の孤立化が急速に進んでいるのだ。
人間は、集まることで進化してきた生物なのにだ」
スクルタが、一息置いた。
「誰か何かをしようとしている。それをしているのが・・・・・・」
「銀の塔かもしれない」真琴も一緒に声に出してしまった。
銀の塔には、何かありそうだ。
真琴は、庭園に向かった。
グベルナとウルペースから、銀の塔について訊きださねばと。
庭園を見渡すと白い屋根の西洋風あずま屋ガゼボに二人が居た。
いや三人だ。もう一人は、ウビークエだ。
どうやらお茶会の様だ。
「真琴もこちらに」ウルペースが手招きする。
真琴がガゼボに向かうとウルペースが再び手を振った。
「あなた達もこちらに」真琴が振り向くと、響介と絢音がこちらに駆け寄っていた。
「うわー、最高!」目を輝せていたのは、絢音。
真琴たちが席に着くと早速、紅茶が注がれた。
「ウビークエのプレゼントよ」
とてもう嬉しそうな顔のウルペースを見るのは初めてだった。
こんな表情もするんだとなぜかうれしくなった。
「こんなに沢山どうしたんだ」
「本当は、ランチを食べに行ったんだ」
ウビークエが、ゴソゴソとポケットから取り出したのは、食べ物の絵が沢山描いてある料理のチラシ。
「これが食べたかったんだ」
テーブルの上にチラシを乗せると、これっと指を指した。
皆、チラシを覗き込む。
それは、街一番うまいという評判の”コクウス”の店のチラシだった。
指さしたランチは、こんもりと盛られたチキンライス。
チキンライスの上には、料理長のコクウスの似顔絵の旗が立っていた。
こんがり焼かれたハンバーグの上に赤いケチャップ、
キャベツの千切りの上にタルタルソースがかかったエビフライ、
その横にはナポリタンスパゲティ、フライドポテトとナゲット、
から揚げも付いている。
オレンジの輪切りとウサギを模したリンゴ、
そして、オレンジジュースがあった。
「これって、お子様ラ……」と、真琴は言いかけたが辞めた。
「でもね、居なかったんだ、コクウスさん。
突然、居なくなったって、お店の人が大慌てだった。お客さんも大慌て」
ウビークエが、チラシを裏返した。
そこには、ケーキの絵が載っていた。
「だからさ、しかたないから、ランチがダメならスイーツにしようと思ったんだ。
で、こんな買っちゃった。みんな食べて」
「スイーツが好きなんだ」絢音がチラシを見て呟く。
「うん、スタードが入った皮がサクッとシュークリーム、
フワフワスポンジを生クリームでコーテイングされている、
その上にちょこんとイチゴを乗せたショートケーキ、
秋には甘い栗のクリームを細く絞って黄色い山のようなモンブラン、
バターの香り漂う貝の焼き型のマドレーヌ、
パイとクリームを幾重にも重ね粉砂糖に綺麗に包まれたミルフィーユ」
「訊いているだけで、ワクワクするわ」絢音は、興奮してウビークエを見つめる。
「けど、もう食べれない。ここにあるの分しかないんだ」
ウビークエが、ガクッと肩を落とした。
「えっ?」
「パテシエのドウルケも居ないんだ。スイーツも食べれなくなる」
一同顔を見合わせ、声を失った。
パイロ、街一番のコックとパテシエが姿を消している。
なんだこれは?
「パイロは、どうなった?」と、真琴は絢音に顔を向ける。
「まだ、オクルスに会ってないの。確かにパイロに声をかけていたらしいけど」
絢音は、シュークリームを手に持ったままだ。
「僕の方は、収穫なしだ」響介が付け加える。
「コロニクス!」
グベルナが声を上げた。いつの間にか、コロニクスが後ろにいた。
「コックとパテシエを探してくれ。それから……ショコラティエも」
そうねとウルペースが頷いた。
「わかりました」
コロニクスは、その場を去る前に残り少ないシュークリームを持って行った。
「あっ」
声を上げたのは、ウルペースと絢音とウビークエの三人だった。
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