君の頭の中にも宇宙が入っているんだ

リュウ

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第33話 和菓子

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「そうだ、皆さん、もうお一人、招待した方がいます。こちらへ」
 ノウムは、真琴たちを奥の部屋へと案内する。
 パウロ、ドウルケ、コクウスが、僕たちもとノウムを見上げる。
 ノウムは、君たちもいいよって手招きした。
 そして、みんなは、ノウムに連れられて更に奥の部屋に進んでいった。

 奥の部屋の作業台の前に人が居る。
 白い円柱の帽子をかぶり、着物の様な襟で五分袖の白い作業着。

 職人?

 コックやパテシエやショコラティエではない職人?

 その人は、皆の視線に気づくと軽くお辞儀をした。
「和菓子職人の”コクトウ”と申します」また、お辞儀をした。
 見ている者もつられて軽く会釈する。
「コクトウ・・・・・・」
 コックとパテシエが見開いた目を合わせ、名前を繰り返す。
「知っているのか?」その様子を見たノウムが、二人に訊いた。

「和菓子のコクトウと言えば、幻の職人。
 本物の作品を見ることができるのはマレ。
 まして、本人を目にするなんて……」
 その後は、感動のあまり言葉が出ないようだ。

 コクトウは、周りの心が落ち着くのを待って居るようだった。
 それに、みんなは気付き口を閉ざした。

「それでは、始めましょう」
 コクトウの白い手が流れるように動き出した。
 淡い色だが、鮮やかなお菓子が並べれた。
 鮮やかな紅の中央に黄色が添えられたモノそれの色違いの白。
 小さな皿にのせられた。ゆっくりと目の前に置かれた。

「左から紅白の梅、それと桜でございます」
 おおっ!思わず声があがる。
「何で出来ているんだ?」
 ノウムの目が和菓子からコクトウに移る。
「小豆を始めとする豆類やコメと山芋から出来ています」
 手に取ると先ずふんわりとした何とも言えない柔らかさに驚き、手のひらに乗せ、色々な角度から鑑賞し、口に運ぶ。
 やさしい柔らかさが唇に当たる。
 これまた、やさしい甘みが口に広がる。

 次は、氷や水をモチーフとしたお菓子。
 洗練されたデザインのお菓子は見るだけでも涼しさを感じさせられる。

 その次は、あわい黄色と朱のグラデーションが美しい楓や銀杏を模したお菓子。

 そして、かわいらしい真っ白なまぁるい餅や饅頭。
 ほのかなこげ茶色の洗練された文様の焼き印。
 色とりどりの小さな飾り。
 風景を時を閉じ込めたようだ。

「これは、四季ですな」
 と、ドウルケが言うとコクトウは小さく頷いた。

「このお菓子には、全てが入っているのです。
 季節や風景や時代が入っているのです。
 こんな小さなお菓子なのに、
 手のひらにのる大きさなのに、
 これを見た私たちの心の中には、その土地の風景が広がる。
 宇宙が広がるのです。
 人によっては、思い出も含んでいるかもしれない。
 見て、触れて、味わうことで、別の世界を楽しんでいるのです。
 その人の頭の中にある過去の世界へ飛び、空気を感触を感情を味わえるのです」
 ドウルケが、ノウムに説明した。
 ノウムが不思議そうな顔をしていたからだ。

「宇宙観は、盆栽に似ている」コクウスが付け加える。
「このお菓子に、そんな情報が入っているのか?」ノウムが、納得していない。
「ちょっと、待ってくれ」
 ノウムは、”和菓子”で検索を始めたらしい。
 和菓子のワードやそれに付随した動画まで収集していた。

「良くわからない……」ノウムは残念そうに呟いた。
「気を落とすことはない、我々もわかっていないかもしれない。
 個人個人感じることは違うし、何か感じたならそれでいいと思う。
 この和菓子が誕生した土地で暮らし、人々と触れ合わなければ理解できないかもしれないから」
 と、ドウルケがノウムを励ました。

「残念だ。
 これだけ膨大な情報を持って居ながら、手のひらの小さなお菓子を理解できないなんて。
 やはり……人間じゃなければ、わからないのか……人間になってみたい」
 ノウムが、がっくりと肩を落とした。

 パイロが、両手に持っていた和菓子を置いて、ノウムの前にやって来た。
「なんだ?パウロさん」
 ノウムが話しかけた時、パウロがノウムを抱きしめた。
 周りの者は、ノウムに何か起きていると察した。
 時が、時が止まっているように感じた。
「……ありがとう」
 ノウムがそう呟いたように聞こえた。
 その時、ノウムの目から涙が出ているように見えた。

「私は一度だけ、地下鉄駅に行ったことがあるんだ。
 そこで、老人に会った。老人は、私を見つけると話しかけてきた。
 そして、言ったのだ。
『時が来たら、ある者があなたの前に現れる。その時、あなたを渡しなさい』と言った。
 そして、私の胸をコンコンとノックした。
 私は、秘めた想いを言い当てられたような気がして驚いた。
 ノックされた場所を見つめていた。
 顔を上げた時、老人は居なかった。
 それから、ずーっと私は待っていた。
 私の前に現れる誰かを……
 お前だったのか……」
 今度は、ノウムがパウロを抱きしめた。
 パウロは、ニコニコと笑っていた。

「やる気が出てきたぞ。
 なんか頭の中に新しい料理が浮かびそうだ。
 皆に見て食べてもらうんだ。
 ノウムさん、ここから早くだしてくれないか」コクウスが、訴える。
「私もアイデアが溢れそうだ。
 皆をびっくりさせるのだ。早く、出してくれ!」ドウルケも目を輝かしていた。

 ノウムが、考えている。
 ノウムは、この短い間に信じられないくらいの分析をしているのだろう。
「私は、決めることができないんだ。決めるのは、銀の創造主なのだ」

 急にノウムが顔を扉があった方を見つめた。
 真琴たちも見つめる。
 何やら、外から気配が感じる。
 ドン、ドン、ドンと規則正しい音が、振動が床を揺らす。

「何か、何か来る」
 真琴が呟く。
 響介も絢音も感じて、何かに備え構えていた。
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