異世界契約 ― ROCKERS ―

一水けんせい

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アインティークの章

第56話 一時帰宅 1

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―― 元の世界に転送された俺は、長島さんがいる用務員室に居た。長島さんは俺と自分の分のコーヒーを入れソファに腰掛けた。

「とりあえず飲め ほれ」
「ああ サンキュー」

 コーヒーに砂糖をスプーン一杯入れてかき回す。『異世界』では嗅げなかった匂い……

ズッ ズズズ
久し振りに飲んだコーヒーは格別だ。コーヒーを半分も飲んだ頃、長島さんは俺に話を聞かせろと言う。

「そろそろ聞かせてくれんか?」
「ああ ……俺が始めに着いた町『カナル』からでいいのか?」
「うむ 着いた場面から話してくれ」
「あっ 俺は二日ほど倒れていたらしい」
「……倒れていた?」
「ああ 転送されて『カナル』の海岸近くにある洞窟の中で」
「……」

(……やはりのう)

「ケイゴ それには理由がある あっちの世界で自分の体に異変は感じられたか?」
「…異変 ああ よく分かんないんだが力が強くなった」
「うむ」
「何があるのか?」
「指輪を渡した時に言ったろ 少しだけ『力』が増す と」
「ああ 指輪の力だったのか」
「ケイゴ お前はまだ気付いてないのかもしれんが『力』といっても腕力だけではないぞ 腕力の他に 聴力や瞬発力 動体視力なんかも上がったはずじゃ」
「あっ 言われてみればそうかもしれないな」

(……どうやら『知力』は上がらんらしいのう)

「それらを使えるようにする為 体に急激な負担がかかったんだろう」
「…なるほどな」 
「次からは平気なはずじゃ」
「わかった…… 俺は倒れていたところを助けられ暫らくその家に厄介になっていたんだ」
「ふむ」
「そこで俺はこっちから来たのがバレたくないから 長島さんが言っていた『記憶喪失』の振りをしたんだ」
「ほほう 効果覿面じゃったろう?」
「まあ それなりに…… ただ 嘘を付くは辛いな」
「……」
「ああ そうだ 忘れないうちにコピーしてくれよ」
「なんだ?」
「むこうで買った地図さ 説明していくのにあったほうが分かりやすいだろ?」
「ああ よこせ コピーしてこよう」

俺はポーチから地図を取り出し、長島さんに渡してコピーを取ってもらった。そして、『カナル』で世話になった事から今日転送された時までの事を出来るだけ詳細に説明をした。

「……と だいたいこんなもんかな」
「ふむ」
「とりあえず一度うちに戻って金を置いてくるよ」
「ああ わかった 預かっていた荷物はそこじゃ それと今の話を『報告書』にまとめて書いてくれ」
「まじか!? 面倒臭え…」
「それも契約の内じゃ ガハハハ」
「あ 長島さん 携帯持っているよな? 番号教えといてくれ」
「携帯? 馬鹿にするな わしはスマホじゃ! スマホ!」
「一丁前にスマホかよ」

俺は番号交換をして用務員室を後にした。久し振りに戻る自宅…… たった一ケ月で様子は変わらないだろうが、とても懐かしい感覚があった。玄関の引き戸を開けた。

ガラガラガラッ
「ただいま」

玄関を開けると居間になっている。これから学校に行く由佳と八時頃出勤するお袋が朝飯を食っていた。味噌汁と卵焼きの良い匂いがした。

「お!? お兄ちゃん!」
「圭吾 なんだい!? こんな時間に」
「ああ 仕事が空きになったから今帰ってきた 先輩の車で」
「なんだい 電話しても全然出ないし」
「電話? ああ 現場は電波なんか入らない山だぞ 宿泊しているところは多少電波がある程度だが」
「どうすんの? 緊急の用事なんかは」
「用事があれば 留守番電話に入れといてくれよ それより飯くれよ 飯」

俺は一ヶ月振りに米と味噌汁を味わった。

「くううう! 美味めええ!」
「……」
「……なんだい そんなに美味しいの?」

お袋と由佳が心配そうに俺の顔を見た。

「…あ いやっ あれだ 飯場のおっさんが作る飯がまずいんだ うん」
「困ったもんだね 仕事するのに…… それでもちゃんと食べなよ?」
「ああ…」
「お兄ちゃん 今日は泊まって行くんでしょ?」
「ああ」

由佳は少し嬉しそうな顔をした。

「お母さんも仕事 出来るだけ早く帰ってくるから」
「…ああ」

俺は飯を食い終えると風呂を沸かした。

(あっちでは暖かい風呂は入れなかったからな 二人が出かけたらタンスから金を取り出し今月分としてお袋に渡そう 残り八十万だから二十五万でいいか…早いところ『あるもの』を持ち帰らないとな……)

改めて計算すると俺は少し焦りを感じた。今回、二十五万円渡して残りが五十五万円…後二ヶ月分しか猶予が無い。

―― その頃、『異世界』で俺を探すテレジアは……

「何処に行ったのよ… ケイゴ…」
「ま まあ… ケイゴも何かあるんだろ? 俺に 三日くらい留守にするって言ってたんだから 心配しなくても帰ってくるよ」
「例え用事があったとしても 何も言わないで出かけるなんて…… あたしそんなに信用ないのかな……」
「とりあえず 飯でも食ってから帰ろうぜ 町に帰って ケイゴが帰ってくるのを待とうぜ」
「…ケイゴ」

テレジアはカーティスに説得され『アインティーク』へ戻ったらしい。

―― 自宅

「いってきます」
「気をつけてね」

ガラガラガラ
由佳は学校へ登校した。俺はタンスに入ってる下着を取り出したついでに、奥にある札束から二十五万円を抜きジーパンの後ろポケットに入れた。お袋は台所で食器を洗っていた。俺は、着替えのシャツとジーパンをバック詰めておいた。すると、台所からお袋が呼ぶ声がした。

「ケイゴ お風呂沸いたんじゃない?」
「ああ わかった」
俺は風呂場へ行きガスを止めた。

「そうだ これ 忘れないうちに」

そう言ってジーパンの後ろポケットから二十五万円を、お袋に渡した。

「…ありがとうね」
お袋は金額を確かめずに、そのままエプロンのポケットにしまった。俺は奥の部屋に戻ると下着とバスタオルを持ち風呂へ入った。

(やっぱ風呂は最高だ…… 由佳が帰ったら長島さんところに行って報告書を書かないとな それまで少し寝とくかな)
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