魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~

裏の飯屋

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序章 異世界転移編

第13話 異世界焼肉

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 というわけで、空が夕焼けに覆われ始めたころにテントに戻った俺たちは、待ちに待った夕食タイムとなった。
 本日のメインはもちろん、昼間狩ったブラッドボアの肉。
 大量にあるので食べごたえがありそうだ。

 自分たちのテントの前で火をおこし、ミユキがどこからか持ってきた大きな石を椅子代わりにして囲む。
 特に保冷などできていなかったが、品質には問題無さそうだ。
 まあどうせ火を通さないと食えなさそうだし。

「どうやって食べるの?」

 ちなみに当然であるが、俺はブラッドボアの肉など食ったことはない。
 昔旅行先で牡丹鍋を食べたかどうかという程度だ。
 見た目ははっきりとした濃い色の赤身肉で、生臭さは無い。
 この世界の調味料や料理技法など知るはずもないが、昨日のダイナーで食べた食事は前世で食べていたものと大差なかった。

「塩と香辛料は持ってきたよ、あとハーブがいくつかと、日持ちする根菜は持ち込んだけど」

 テントの中から塩、胡椒、野菜、ハーブ類を持ってきた。
 ハーブはキャンプに戻る際にティアが道端で採取したものもいくつかある。
 さすがに人の手が入っていない森だけあって、色々と食べられる野草も色々生えているらしい。
 
「普通に焼いて食べますか?」

「まあそうね」

 調理台替わりの石の上に、水場で綺麗に洗った平らな木の上に肉の塊を置く。
 塊だけで数キロはありそうだ。

「ちょっと味見していい?」

「どうぞ」

 俺はミユキにブラッドボアの肉を少し削いでもらい、石で囲んだ焚火の上に網を置いて焼いてみる。
 腹を壊したくないのでとりあえずしっかり火を通し、仕上げに塩を振りかけて口に運んだ。

「むっ……こ、これは!!」

 別に食レポをする気はないが、普通に、いやかなり美味い。
 やや野性味はあるものの、ジビエといった感じで血と肉のうまみを感じられる。
 少し脂が乗っており、噛めば噛むほど味わい深く、あっさりとした肉はいくらでも食べられそうだ。

「私たちも食べましょうか」
「そうね、フガク美味しそうに食べるね」

 俺が味見しているのを見て二人はゴクリと喉を鳴らしている。
 ミユキが肉を薄く切って網の上で焼き始めた。

「ローストポーク、いやローストボア?も良さそうだね」
「いいわね。フガク作れるの?」
「多分……でもしっかり火を通した方がいいのかな」
「ブラッドボアの肉は、新鮮なものなら一応生でも食べられますよ。ただ狩ってから半日経過しているので、今回はやめておいたほうがいいかもですが……」

 ブラッドボアの焼肉に舌鼓を打ちつつ、俺はローストボアの準備に取り掛かる、
 とりあえずミユキに適当な大きさに切り出してもらった塊肉に、塩胡椒と採取したハーブを臭み抜きとして磨り潰して刷り込む。
 そして、ティアから毒性は無いと言われていた、バナナの葉のような大きく分厚い葉っぱでボアの塊肉を包んで火にかける。

「なるほど、葉で蒸し焼きにするのね」
「確かにこれなら中まで火を通せそうですね」

 食事を続けながら、俺の作業を感心して見守っている二人。
 ようやく異世界転移者らしいことをしている気がするが、たぶんこの世界でも普通に使われている調理技術だと思う。
 俺も一人暮らしが長かったおかげである程度自炊できるだけで、特段料理が上手いわけでもないし。
 もちろん自宅のコンロで葉っぱを使った包み焼きなど、やったこともない。

「まあこんなもんかな」

 ただキャンプ飯のようでちょっと楽しくなってきた俺。
 しばらく網の上で焼き、頃合いを見計らって余熱で火を通した後に中身を開く。
 ふわりと湯気が立ち上ると、ブラッドボアのローストポークが完成した。
 ハーブの爽やかな香りと、パリッとした表面と柔らかな中心部の食感のギャップも楽しめる。

「大したものね。美味しそう」
「いただいてもいいですか?」
「もちろん! 味は保証しないけど」

 そう言いつつ、俺はローストボアを切り分けて二人に渡す。
 俺も自分の分を取り分け、一口齧ってみた。

「ん! 美味しい!」

 ティアも感嘆の声を掛けてあげており、ミユキも口元を上品に押さえながらうんうんと頷いている。
 美女二人がご飯を食べている姿は絵になるなあと思いつつ、ローストボアを味わう。

 じっくりと蒸し焼きしたおかげで肉汁が閉じ込められており、歯で簡単に噛み切れるほど柔らかい。
 刷り込んだハーブが肉の野生味を香り高さへと昇華していた。
 完全に自画自賛だが、いい仕事をしたんじゃないだろうか。
二人も美味しそうに食べているので、作った甲斐があったというものだ。

「なんだい、良い匂いがするね」

  そう言いながら、ボア肉でBBQを楽しむ俺たちの元へミラが歩いてきた。
 手にはワインだろうか、酒瓶らしきものを2本ほど持っている。

「ミラさん。どうしたの?」

俺は肉を切り分けながら彼女に問いかける。

「いや何、あんた達が来て早々に白い魔獣を討伐したけど怪我したって聞いてね。見舞いに来たってわけさ。はいこれ、酒飲めるだろ? 坊やにはまだ早いかね」
「成人してます」

 そりゃ失礼と言いながら、ワインボトルを2本俺たちに寄越してきた。

「にしても美味そうだね。なんだいこれ?あんた達クエストの片手間で肉まで確保してたのかい。剛気だね」
「ミランダさんもよかったらおひとついかがですか?」

 なかなか帰ろうとしないミラに、ミユキが気を使って肉を取り分けてやっている。
 俺もとりあえず切り分けたローストボアをその皿に入れておいた。

「お、そうかい? 悪いねー何だか催促したみたいで」
 
 いや催促してたよ。
 まあボア肉も食べきれないほどあるから構わないのだが。
 かんらかんらと笑いながら、特に遠慮する素振りも見せずミラは皿を受け取る。
 しかも見舞いで持って来た酒も開け始めた。

「国から持って来たワインでね。肉にもよく合うよ」
「ミラさんの出身は?」

 肉を食べながら、ティアが社交辞令的に一応訊いている。

「ああ、バルタザルだよ」

 ピクリと、ティアの手が一瞬止まったように見えたのは気のせいだろうか。
 それはそうとまた知らない地名が出てきたぞ。
 俺はチラリとミユキの方を見る。

「ええと、バルタザルは大陸の東岸にあるバルタザル王国のことです。また地図でご説明しますね」

 とりあえず地理で困ったらミユキに助けを求めることにしている。
 東岸ということは、ティアが幼少期を過ごしたレッドフォートの対岸ということか。

「そう。バルタザルからわざわざこんなゴルドールの北東部まで? アレクサンドラかハルナックを回ってきたの?」
「そりゃアレクサンドラさ」
「バルタザルでも冒険者を?」
「そりゃそうさね。別に珍しくもないだろう?」

 全然興味無いと思っていたのに、意外にも食いつくティア。
 地名が次から次へと飛び出るので、着いて行けなくなってきた。
 助けてミユキえもん!

「はい、アレクサンドラ王国はゴルドールの北東にある国で、ハルナック王国は南東にあります。北からアレクサンドラ、バルタザル、ハルナックと並んでいる形ですね。バルタザルとゴルドールの国境はドルトン山脈という険しい山々で区切られているので、山越えは非常に困難です。そのため、バルタザルからゴルドールに来るにはアレクサンドラルートかハルナックルートの2択になるので、ティアちゃんはそのことを訊いてらっしゃる訳ですね。ちなみに、現在ハルナックは2年ほど前にクーデターで前国王が崩御して新しい国王統制下で政情不安なため基本的にはアレクサンドラルートが一般的で……」

 さて問題です、バルタザルの位置はどこか地図に書いて示しなさい。
 いや分かるか。
 俺は頭の中で位置関係を整理するのを諦め、肉を焼く作業に戻ることにした。

「ごめんミユキさん、僕には難しいみたい。また地図で教えてくれる?」
「そうですね。用意しておきますね」

 ティアはその後もいくつかミラに質問をしていたが、地名が飛び交っていたので俺にはさっぱり分からなかった。
 結局ミラが持って来た見舞いのワインは彼女が一本空けそうになっている。

「あ、そうだ。僕、ドレンさんにボア肉分けてくるよ」

 ひとしきり食事を進めていたとき、ふと森の中で仲間を失ったドレンのことを思い出す。
 出会い頭に多少の衝突もあったが、きっちりギルドにも報告をしてくれていたようだし、おかげで帰還後の手続きもスムーズだった。
 そのお礼くらいは伝えてもいいだろうと思ったのだ。

「わかりました。行ってらっしゃい」

 ミユキは笑顔で送り出してくれた。
 俺はテントを離れ、ドレンのテントがどれか探し始める。
 日は沈みかけて薄暗がりに包まれようとしているキャンプ地だが、冒険者達の焚き火やギルドが設置したランタンの灯りで足元もはっきりと照らされている。

「あ」

 俺はあるテントの前で一人の男を見つけた。
 昼間すれ違ったミラの仲間の男だ。
 他の仲間はいないようだった。
 深緑の髪で片目を隠したその男は、何をするでも無くテント前の焚き火の側で一人座っている。

「何だお前は」

 冷徹な声だった。
 男はこちらに一瞥もくれることなく、近くで佇んでいる俺を問いただす。
 用が無いなら消えろと言いたげだった。

「用が無いなら消えろ」

 そのまま言われてしまった。
 俺は苦笑いをしながら、声をかけてみる。

「ミラさんうちのテントで飲んでますよ。あ、良かったらこれ食べますか?」
「いらん。あの女が邪魔なら叩き出せ」

 男は初めてこちらを見た。
 真紅の瞳が焚き火の炎を映し出す。
その無表情は、まるで心を持たぬ彫像のように硬い。
声は静かに低く、しかし鋭く突き刺さってくる。
 
「じ、じゃあ僕はこれで」

 こちらと全く会話をする気が無いので、俺も諦めてその場を去ろうとする。
 あわよくば「えっ! マジでごっめ! すぐ連れて帰るね!」とか言ってミラを回収して帰ってくれないかなと期待したのだが無駄だったようだ。

「お前がミューズを殺したのか?」

 踵を返した俺の背中に、男の声がかかった。
 俺が振り返ると、男はこちら真っ直ぐに見つめている。

「いや、3人で倒したよ。とどめを刺したのは僕だけど、一人じゃ近づけもしなかったし」

 年は同じくらいだろうか。
 悪いとは思ったが、俺は男のステータスを確認してみる。

――――――――――――――
▼NAME▼
リュウドウ=アークライト

▼AGE▼
25

▼SKILL▼
・剣術 A
・格闘 A
・バルタザルアーツ A
・◾️◾️の瞳 B +
・◾️◾️の肉体 B +
・◾️◾️◾️◾️ S
――――――――――――――

 名前はリュウドウというのか。
 年も同い年だ。
 スキルは見えない部分が多いが、スキル構成はいかにも戦闘向きで強そうだ。
 
「……そうか」

 少し待ったが、リュウドウはそれっきり喋らなくなった。
 全然噛み合わないなと思ったが、まあ人見知りだと考えるとしよう。
 俺は彼を一度振り返ってチラリを見るが、もうこちらには興味を失ったかのようだ。
 ただ一瞬の邂逅だったが、彼の姿がやけに鮮明に脳裏に焼き付けられた。
 
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