40 / 45
6
過去と噂
しおりを挟む
「ねぇ、リリー?どうしてだと思う?」
「さぁ…私にはよく分かりませんが。でも残念でしたね。」
「会うのがダメだなんて…」
凛花は盛大にため息をつくと机の上に突っ伏した。先日やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったら早くも壁にぶち当たってしまったからだ。しかもその壁──ダニエルは簡単には崩せそうもない。
『俺にも商人に心当たりはあるけど、凛花だけを会わせる訳にはいかない』
凛花は机の上で顔を横に向けるとリリーに尋ねた。
「リリーは商人によく会ってるんだよね?どんな人なの?」
凛花の想像の中の商人は小太りでジャラジャラとした指輪を身につけた成金おじさんだが…。本当にそんな商人が貴族の屋敷を渡り歩いて商談をしている訳ではないだろう。
「侯爵家に来られる方はダニエル様の学園の先輩だった方ですよ?確か一つ上でしたか。それがとってもお話が上手な方で……」
「え?学園の先輩なの?おじさんじゃなくて?」
「…はい?あぁ、お父様は確か国外をあちこち飛び回っておられるかと。」
「なるほど…大商人の跡継ぎってことね。それはさぞかし──」
「はい、『イケメン』ですよ。」
──きっとアオイの……。
リリーは最近では凛花の使う言葉を少しずつ覚えてきたようで会話の中でも使うようになってきている。日本での記憶がある事など多くの事はまだ秘密にしているが、これだけ毎日一緒に過ごしていればそれがバレるのも時間の問題のような気がしていた。
「ダニエル様がリンカ様を会わせたくないのはひょっとしてそのせいかもしれませんね。」
「…イケメンだから?まさか!」
「もしくはリンカ様の事をニックさんが好きになっては困るとか?」
「ニックっていうの?その商人は?」
「はい。年上ですけれど人懐っこい方ですよ。」
リリーはどこか凛花に自慢をする様にニックの事を話し出した。
「へぇ~。そうなんだ?」
「明るめの茶色の長い髪をいつも一つに結んでらして、瞳は緑でしたか…。」
「茶髪って一般的なの?」
「そうですね、金髪や茶髪はよく見かけますね。それにひきかえピンクは珍しいですよ?何時だったかここにいらしたご令嬢がそうでしたけど。私はピンク色の髪を見たのはあれが初めてでしたね。」
「ピンクの髪のご令嬢──ここに来たのね…。」
リリーは慌てて手を激しく振って否定した。
「違うんですよ?ほら、この間のカテリーナ殿下みたいな感じで、私たちがダニエル様はおられないと言っているのに邸の中まで押しかけていらしたんです。」
──アオイがダニエルが留守なのを分かっていてわざわざ邸の中まで?
「そうだったの。その…今までもそういう女の人ってよく来たりしてたの?ダニエルを訪ねて。」
「私が知っているのは月に4、5回でしょうか?ダニエル様はそれがお嫌で騎士団の宿舎に移られることになったと聞いておりますけれど。」
「一週間に一回…、結構凄いね。そうだったんだ…。」
──私、ダニエルの事何も知らない…。私にだって付き合った相手がいたくらいなんだから、それだけモテてるダニエルだったら……。
「その…リリーはここに来て長いの?」
「侯爵家に来てからですか?私の母はここの使用人で、父は料理人をしておりますから、言ってみれば子供の頃から侯爵家にいることになりますが?」
「あっ…そうだったのね。じゃあダニエルの昔の恋人の話とか……その……」
リリーは赤くなって口ごもる凛花を見ながらいたずらっぽく笑った。
「気になりますよね?」
「…うん。」
「お邸に押しかけて来られる女性は何人かおられましたが、ダニエル様が特定の女性を伴っておられる所を私は今まで見た事がありませんでしたので、ご心配になるような事は何もないかと…。」
「それ、本当?私にだからそう言っているんじゃない?」
リリーはもう一度意味ありげに微笑むと、しっかりと凛花の目を見て否定した。
「ダニエル様にはお聞きにならないのですか?」
「そ、そんなの本人に聞いても否定されるに決まってるもん。だから、他の人の意見も聞いてみただけで…。いいのよ、その、ちょっと気になっただけだから。」
「リンカ様?」
「……はい。」
リリーは部屋の入口の方にチラリと視線を向けた後で声を一段と潜めながら凛花に話を続けた。
「ここだけの話ですが…。」
「?」
リリーのいつに無く真面目な様子に凛花は思わず姿勢を正し息を飲んだ。
「実は以前ダニエル様にはある噂があったんです。」
「う、噂?」
凛花は何となくこの話を聞かない方がいいような気もしながら、ここまできて話すなとも言えず戸惑いを見せた。
「…ダニエル様は女性には興味がないのではないかと。」
「は?」
「ですから、ダニエル様が常に特定の男性と一緒に居られるもので…。」
「特定の男性って、まさか……」
「はい。王太子殿下です。王太子様もダニエル様ももう20歳になられたと言うのに未だに婚約しておられませんので。」
「あ~。…でも、それはないわね。」
「今はリンカ様がおられますからそうだったんだと皆が安堵しておりますが…。ほら、この部屋の鍵をダニエル様に渡したのは私だと以前申し上げましたよね?」
「あぁ…。あれね。」
「そういう噂があったからリンカ様がお越しになった時にすぐに執事から指示されたんです。ダニエル様には是非ともこのご縁を結んでもらわなければならないと……。」
「縁結び……」
──なんだかやっぱりいつか私が感じてたの、当たってた気がする。ダニエルってばいろんな所から外堀埋められてたんだわ…。
「さぁ…私にはよく分かりませんが。でも残念でしたね。」
「会うのがダメだなんて…」
凛花は盛大にため息をつくと机の上に突っ伏した。先日やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったら早くも壁にぶち当たってしまったからだ。しかもその壁──ダニエルは簡単には崩せそうもない。
『俺にも商人に心当たりはあるけど、凛花だけを会わせる訳にはいかない』
凛花は机の上で顔を横に向けるとリリーに尋ねた。
「リリーは商人によく会ってるんだよね?どんな人なの?」
凛花の想像の中の商人は小太りでジャラジャラとした指輪を身につけた成金おじさんだが…。本当にそんな商人が貴族の屋敷を渡り歩いて商談をしている訳ではないだろう。
「侯爵家に来られる方はダニエル様の学園の先輩だった方ですよ?確か一つ上でしたか。それがとってもお話が上手な方で……」
「え?学園の先輩なの?おじさんじゃなくて?」
「…はい?あぁ、お父様は確か国外をあちこち飛び回っておられるかと。」
「なるほど…大商人の跡継ぎってことね。それはさぞかし──」
「はい、『イケメン』ですよ。」
──きっとアオイの……。
リリーは最近では凛花の使う言葉を少しずつ覚えてきたようで会話の中でも使うようになってきている。日本での記憶がある事など多くの事はまだ秘密にしているが、これだけ毎日一緒に過ごしていればそれがバレるのも時間の問題のような気がしていた。
「ダニエル様がリンカ様を会わせたくないのはひょっとしてそのせいかもしれませんね。」
「…イケメンだから?まさか!」
「もしくはリンカ様の事をニックさんが好きになっては困るとか?」
「ニックっていうの?その商人は?」
「はい。年上ですけれど人懐っこい方ですよ。」
リリーはどこか凛花に自慢をする様にニックの事を話し出した。
「へぇ~。そうなんだ?」
「明るめの茶色の長い髪をいつも一つに結んでらして、瞳は緑でしたか…。」
「茶髪って一般的なの?」
「そうですね、金髪や茶髪はよく見かけますね。それにひきかえピンクは珍しいですよ?何時だったかここにいらしたご令嬢がそうでしたけど。私はピンク色の髪を見たのはあれが初めてでしたね。」
「ピンクの髪のご令嬢──ここに来たのね…。」
リリーは慌てて手を激しく振って否定した。
「違うんですよ?ほら、この間のカテリーナ殿下みたいな感じで、私たちがダニエル様はおられないと言っているのに邸の中まで押しかけていらしたんです。」
──アオイがダニエルが留守なのを分かっていてわざわざ邸の中まで?
「そうだったの。その…今までもそういう女の人ってよく来たりしてたの?ダニエルを訪ねて。」
「私が知っているのは月に4、5回でしょうか?ダニエル様はそれがお嫌で騎士団の宿舎に移られることになったと聞いておりますけれど。」
「一週間に一回…、結構凄いね。そうだったんだ…。」
──私、ダニエルの事何も知らない…。私にだって付き合った相手がいたくらいなんだから、それだけモテてるダニエルだったら……。
「その…リリーはここに来て長いの?」
「侯爵家に来てからですか?私の母はここの使用人で、父は料理人をしておりますから、言ってみれば子供の頃から侯爵家にいることになりますが?」
「あっ…そうだったのね。じゃあダニエルの昔の恋人の話とか……その……」
リリーは赤くなって口ごもる凛花を見ながらいたずらっぽく笑った。
「気になりますよね?」
「…うん。」
「お邸に押しかけて来られる女性は何人かおられましたが、ダニエル様が特定の女性を伴っておられる所を私は今まで見た事がありませんでしたので、ご心配になるような事は何もないかと…。」
「それ、本当?私にだからそう言っているんじゃない?」
リリーはもう一度意味ありげに微笑むと、しっかりと凛花の目を見て否定した。
「ダニエル様にはお聞きにならないのですか?」
「そ、そんなの本人に聞いても否定されるに決まってるもん。だから、他の人の意見も聞いてみただけで…。いいのよ、その、ちょっと気になっただけだから。」
「リンカ様?」
「……はい。」
リリーは部屋の入口の方にチラリと視線を向けた後で声を一段と潜めながら凛花に話を続けた。
「ここだけの話ですが…。」
「?」
リリーのいつに無く真面目な様子に凛花は思わず姿勢を正し息を飲んだ。
「実は以前ダニエル様にはある噂があったんです。」
「う、噂?」
凛花は何となくこの話を聞かない方がいいような気もしながら、ここまできて話すなとも言えず戸惑いを見せた。
「…ダニエル様は女性には興味がないのではないかと。」
「は?」
「ですから、ダニエル様が常に特定の男性と一緒に居られるもので…。」
「特定の男性って、まさか……」
「はい。王太子殿下です。王太子様もダニエル様ももう20歳になられたと言うのに未だに婚約しておられませんので。」
「あ~。…でも、それはないわね。」
「今はリンカ様がおられますからそうだったんだと皆が安堵しておりますが…。ほら、この部屋の鍵をダニエル様に渡したのは私だと以前申し上げましたよね?」
「あぁ…。あれね。」
「そういう噂があったからリンカ様がお越しになった時にすぐに執事から指示されたんです。ダニエル様には是非ともこのご縁を結んでもらわなければならないと……。」
「縁結び……」
──なんだかやっぱりいつか私が感じてたの、当たってた気がする。ダニエルってばいろんな所から外堀埋められてたんだわ…。
5
あなたにおすすめの小説
転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?
桜
恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
魔王様は転生王女を溺愛したい
みおな
恋愛
私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。
私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。
*****
タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。
よろしくお願いします。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる