人間回収車

『人間回収車』

『人間回収車』

あなたは、人間回収車を知っていますか？
人間回収車というのは黒いトラックです。
ただのトラックではありません。
どこからともなく現れ、「要らない」人間を回収し、音もなく去っていく。
回収された者は、二度とこの世界に戻れないと言われています。



ある学校に汐梨という女の子がいました。
汐梨は女子中学生で、普通の女の子でした。
その子はいつも同じクラスの美咲とそのグループに虐められていました。

そんなある日の学校の帰り道、いつものように、美咲は汐梨に荷物を持たせ、まるで奴隷のように連れて歩いていました。

ふと、前を見ると、黒いトラックが止まっていました。

「黒のトラック？」

頭をよぎったのは、あの噂。

『人間回収車』

「へぇ？本当にあるのかしら？…ねぇ、汐梨、お前どう思う？」
「な、なにが…？」
「なに、私の話聞いてないの？ほんと使えない女…」

「ねぇ、あなた…生きる価値もないんじゃないの？」
「！」

「汐梨はいらない」






次の日…汐梨は学校に来ませんでした。
話を聞くと、前日…つまり学校から帰ってきてない…ということでした。

行方不明届が出され…学校では大騒動になり、昨日一緒に帰っていた…つまり、最後に汐梨を見たとされる美咲が警察に呼び出されました。

「わ、私は…知らないわ…」

幾多もの警察と汐梨の両親と担任と校長…そして、美咲の親に囲まれ、問い質される日々。

美咲にできることは、同じ言葉を繰り返すだけでした。

一瞬、あの黒いトラックが、あの都市伝説が頭に浮かびましたが、美咲は一切そのことを口にしませんでした。

まさか本当に都市伝説があるだなんて思ってなかったから。

周りから、冷たい目で見られる日々。
美咲はグループから外され、親密な先生に避けられ、親に失望され、罵られる日々。

この世界に美咲の居場所は無くなりました。

やるせなく、1人になりたい、と、裏路地をふらふらとあるいていると…コツコツと、軽はずみな、足音が。
ふと、前を向くと、見覚えのある少女が。

「…し、汐梨？」
「…」
「どこ行ってたのよっ！あんたのせいで！お前のせいで！私の居場所は無くなったっ！全部、全部全部全部全部、お前のせいだっ！！」
「…」
「なんか、話せよっ！」

なにも話さず、ただ、目の前に佇んでいる汐梨。
その姿に苛つき、突き飛ばそうと腕を伸ばしたその瞬間、

汐梨は、向かってくる腕をするりとかわし、懐へと入り込みました。
そして、美咲の目を覗き込み、

ふふっ、という可愛らしい笑みを浮かべ、口を開きました。

その口から紡ぎ出された言葉…


「美咲はいらない」


ぶわぁっと、した風が吹き込み、突然目の前に黒トラックが現れました。
のそり、とでてきたのは、黒い影。

「な、なに…？」
「ふふ…あははっ、美咲、貴女はいらない子。少なくとも、この世界には、あなたは必要ないわ。」
「どういう意味よっ！？必要とか必要ないとか！意味わかんないっ！」

黒い影が、美咲を囲み、トラックへと連れて行く。

「離してよっ！さわんないで！ねぇ、汐梨っ！説明しなさいよっ！」
「説明したよ？美咲は、いらないの。

こんな噂知らないかな？

『いらない』人間を回収する、『人間回収車』」

そう言い捨てて、踵を返す、汐梨。
先程と同じように、軽はずみな靴音が鳴り始める。

「わ、私が悪かったわ。今度は仲間外れなんかしないから、ね、汐梨？いかないで、お願いっ！行かないでよっ！ねぇ、ってばっ！
ね、ねぇ、わ、私も汐梨みたいに帰れるのよね？本当は都市伝説なんて偽りなんでしょう？」

汐梨に助けを求めるのを諦めたのか、腕を掴んでいる黒い影に訴えるように話しかけました。

黒い影は何も言わず、美咲をトラックに押し込みました。

どこからともなく、先程の答えが耳に届きました。

「あの子はこの世界にまだ必要としてる人がいるから返したんだ、君にはほら、ね」


「あ、あぁ……」





あなたは、人間回収車を知っていますか？
人間回収車というのは黒いトラックです。
ただのトラックではありません。
どこからともなく現れ、「要らない」人間を回収し、音もなく去っていく。
回収された者は、二度とこの世界に戻れないと言われています。

ただ、１つだけ、元の世界に戻る方法があります…。

それは、誰かに必要とされること。

ほんの1人でもいい。1匹でもいい。
誰かに、必要とされたなら、現世に戻されるという、そんな不思議な都市伝説。



ほら、今日もまた、誰かの悲鳴が。


ねぇ。



あなたを必要としてくれる人はいますか？