思い出に花を、君に唄を

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遅くなった日

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 赤く光る電光掲示板を見ていた。書いてある文字の通りであれば、もうすぐ電車が着く頃だ。
 照りつける太陽の眩しさに目を細めながら、近づいてくる電車を視界に捉える。あの電車にさえ乗れば、涼しい車内が待っている、という期待を胸に電車を待つ。
 だが、電車が到着した頃には、駅のホームは事件の渦中となっていた。
 子供が飛び降り自殺をしたらしい。
 確かに、通りすぎる電車の先頭車両にはペンキを塗りたくったかのような赤が付いていた。それでも、まさかあれが人の血の色だとは思いもしなかった。
 人身事故のために電車は遅れ、期待を寄せていた電車の車内には乗れず、結局家に帰ったのはそれから3時間が経った頃だった。
「あなた、いったい今までどこをほっつき歩いていたの?あなたを待っていたせいで、ご飯が冷めちゃったじゃない」
 家に帰るや否や、妻は俺に次から次へと文句を並べ立てる。
「人身事故があって、電車が遅れていたんだ」
「なら、連絡のひとつでも寄越してくれたら良かったじゃない。真理なんて、ずっとお腹を空かしていたのよ……」
 俺は簡潔に事情を説明したはずだが、妻からは止めどなく文句の嵐がやってくる。
「なら、先に食べておけば良かったじゃないか?」なんて、出かけた言葉を飲み込む。そんなことを言ってしまえば、今以上の文句が妻の口から飛び出してくるのは明白だ。ただでさえ帰ってくるのが遅かったのだ、これ以上疲れるようなことはしたくない。
「パパ……?」
「あら、真理。寝たんじゃなかったの?」
「ううん、ねむたかったけど、おきてきた」
 娘は、眠たそうに目を擦っていた。いつもならとっくに寝ている時間なので、それも当然のことだろう。子供は寝ないと成長しない。それが小学生低学年であるなら尚更だ。
「真理。何をしているんだ?早く寝なさい。寝ないと大きくなれないぞ」
「パパ。あしたはあそんでくれる?」
「パパは忙しいからな。早く帰ってこられたら遊んであげよう」
「やった~。ぜったいだよ!」
 その言葉を言い残し、真理はゆったりとした足取りで二階にある自分の部屋に戻っていった。
「はぁ、とりあえずご飯にする?それともお風呂?」
 真理が来てくれたお陰で、妻の怒りは一次的にだろうが、収まりを見せた。
「じゃあ、風呂」
 駅に引き続き、玄関に拘束されていた俺はようやく解放され、汗でベタついたシャツを脱ぎ、シャワーを浴びた。
 風呂から上がれば、リビングに電子レンジで暖めたであろう焼きそばと形の崩れた目玉焼きが置いてあった。妻は先に寝たらしい。
 俺も用意された料理をさっさと食べて、寝床に着く。
 何があろうと、俺がどう思おうと、明日も仕事なのだ。寝なければ体が持たない。

 その夜は、夢を見た。
 自分が醜い化け物に変わり、だんだんと周りのことも、そして自分のことも分からなくなっていく。それでも、妻と娘に支えられて、人間に戻る。
 そんな、奇妙で幸せな夢を見た。
 夢が終わり、誰も起きていない中、支度を済ませて家を出る。
「さぁ、仕事だ……」
 そして、昨日までと同じ今日が始まる。
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