彷徨うペンギン

本能の匂い

　おいしそうに“野菜炒め”を食べるペンギンをキリンはみていた。
　今まで、野菜というのはとれたそのままを食べるのが美味しいと思っていたし、それ以外の食べ方を知らない。ましてや、湯気が出るような黒みがかった野菜など生まれて一度も見たことが無い。
　湯気と共に香ばしいおいしそうなに匂いが、キリンの動物的本能を刺激した。

　“食べたい”と。

　だから、キリンは恐る恐るペンギンに聞いてみた。

　「それを食べさせろ！」

　キリンはとても威圧的だった。
　この弱肉強食の世界では、なめられてしまった方が食われる。へりくだった方が搾取される。
　だから、出来るだけ高圧的に、出来るだけお前よりも上だという事を示すために、口調を低く尖らせて言った。

　それを聞いたペンギンは、ため息を付き、野菜炒めを食べたことによる口もとの汚れをふき取り、話し始めた。

　「1つ。君は勘違いしていないか？私は何も君のためにこれを作ったのではない。自分の腹を満たすために作ったのだ。2つ。それが人に物を頼むときの態度か？それで頼んでいるつもりか？脅しているようなら、私もそれなりの対応をしなくてはならない。３つ。君は、まさか私にしたことを忘れたりしていないようなぁ？私の野菜炒めを欲しがるよりも前に、やることがあるのではないかい？」

　猛烈な言葉の攻めに、キリンは耐えられなかった。
　しかし、一つだけ気付いたことがある。
　野菜炒めと言う神秘的なものを前に忘れていたが、このペンギンは以前自分が蹴り飛ばしたペンギンだったという事を。