カナリアボックス〜あなたに会えてよかった〜

本田すみれ

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運命〜状況と烈名が裂いた部屋〜

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山沢さんはスマホのDTMアプリでコツコツと曲を作っているようだった。
「16254561のコード進行なら余裕だろ」
そんな独り言を言いつつ、編集をしているようだった。

「おや、豹馬くんじゃないか。隣にいるのはカノジョか?」
「いや、ただの幼なじみです」

「笑可と申します」
「今日来るって聞いたから朝イチでコスプレイヤーなコに頼み込んでやってもらったよ」
なるほど、顔はお世辞にも美形とは言えないが田舎の高校にいそうなルックスにメイクで変われていた。

「もう作り上げているんだよね、伴奏は。ずいぶんとやつれてるね、大丈夫かな」
山沢さんは笑可を見つつ、言った。

それじゃ、即興で歌詞書いてくよ。
そんなことを言いつつ、慣れた手つきでピアノのコード弾きな伴奏を流し始める。

涙がかれそうだ
ゆっくり立ち上がる
必要なものだけ取って
新しい道筋へ

穢れきった全てなんて
捨て去って一気に
開いてく地平線
希望の水平線へ
溶け込んでく
溶け込んでく

山沢さんはボイスレコーダーアプリに、自分の伴奏を脳内再生しつつ吹き込んでいるようだった。
本人いわく、多少ヤマカンで歌っても同じテンポでひたすら曲作ってきたせいか尺あまり気味なメロディになっても、尺を越すことはないと言っていた。

「色んなコに楽曲提供してきたけど、歌われないことに疲れた。
やっぱり僕には才能ないのかな」
「いいえ、あると思います」

笑可にそう評価され、山沢さんは嬉しそうに目を細めた。
「そんなふうに褒めても何も出ないよ。笑可ちゃん、君は優しい子なんだね」
そう山沢さんに褒められ、今度は笑可が照れる番だった。

「今、作ってもらった歌は覚えて歌います。それで山沢さんに歌声送ればミックスとかはしてもらえるのかな?」
「ある程度の編集しかできないけど、やれるよ」
「楽器できるなんて、スゴイ。何が山沢さんを突き動かしてるんですか?」
「フジファブリック志村くん、シムシムがリアルタイムに亡くなるのをナタリーで見て彼ができなかった分の音楽を下手でもいいから作りたいって思ったんだ。
山内総一郎さん、金澤ダイスケさん、加藤慎一くん3人がフジをひたすら続けるのにも刺激を受けて。
音楽を始めたきっかけはユニコーンで、奥田民生に憧れてギターをひき始め、バンド活動が上手くいかないから電気グルーヴみたいな音楽をPCで作り始めた」

「私もフジ好きなんです。山内総一郎さんのカバーしたひこうき雲(松任谷由実さん)や純愛ラプソディ(竹内まりやさん)、最高でしたよね」
「あれはスゴイよね。音源化してほしいよ」

「来年フジファブリック20周年ですけど、欲を言えば志村曲の再録ベストをしてほしい」
そう笑可が切り出すと、「それもやってほしすぎるし、奥田民生を中心にしたトリビュートも出して欲しいよね」とノリノリで返した。

「これは来年のクリスマスまで取っときたかったけど、2人にも歌ってほしいから流す」
そう山沢さんが語るとフジファブリックの星降る夜になったらの独特なカバーアレンジの音源が流れ始める。

全編ピアノ伴奏でチラホラストリングスが控えめにアルペジオを奏でるアレンジだ。

笑可は全部のパートを歌い始める。
ボクはというと、サビしか知らないので他の部分は2人が歌うのを眺める。

「今日は楽しかったよ。人に曲渡すプレッシャーや断られるトラウマとかで自分が下手なりに歌う曲も作ってたけど、笑可ちゃんに出会えてよかったな。
性被害に遭った方とか、シングルマザーな方、毒親育ちな方とかを対象にさだまさしさんや玉置浩二さんの田園のような、あるいはXのForever Loveのような本当に胸に刺さる歌を書きたくなった。
その訳は...…」

笑可が固い表情をして、山沢さんの話す二の句を待つ。
「中村一義さんのシリアスで感動する歌に高校時代に影響受けて、いつかは自分でやりたいと思ってたから。
どんなに閲覧数が伸びなくても、1人でも聞いてくれるコがいるならそれでいい。
そう思いながらやってる」

そしてその中村一義さんの運命をかけた後、XのForever Loveのインストを流して小室哲哉以上に線の細い歌声で熱唱し始める山沢さん。
お世辞にも歌は上手くないけど、本気でForever~を好きなのは伝わる。

「暗い表情をしがちな笑可ちゃんには何かあったんだろうね。
ボクにできることは曲を作ることくらいだけど、それでもかまわないなら不定期に書き続けるよ」
身体を揺らしながら歌っても、山沢さんのメイクには影響はなく親せきのおばちゃんみたいな見た目にも見えてきた。

2度目のForever Love。
全パートを笑可が歌う。
ボクはサビだけ彼女とデュエットする。
それを喜ばしく見つめる山沢さん。

「いいかぁ!? 
DTMerにしてもボカロPにしても、小説家志望にしても漫画家志望にしても1人で黙々と時々小説か漫画、アニメ見てシコって女と縁がなく、ひたすら創作してんだ。
いつか爆発的に評価される時夢見てな。
だから1番性犯罪に遠いんだよ!」

叫びながら山沢さんは「足の骨折もようやく治ってきたし…」と言いつつ、ウイスキーの小瓶を直飲みし始めた。

「ノドが焼けるぜぇー」 
ノリはもはやパンクロッカーであった。
その後はYOSHIKIさんのカレーが辛い、シャワーが熱い事件のエピソードで盛り上がり久しぶりに笑う笑可ちゃんを見れた。

山沢さんに彼女を会わせてよかった。
ボクは心の底から思った。
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