カナリアボックス〜あなたに会えてよかった〜

本田すみれ

文字の大きさ
6 / 37

闇を暴け

しおりを挟む
いつも通り、学校から帰りその足で笑可(えみか)の
家に行く。
本当は学校を休んでまで彼女のそばにいたい。
ボクはただの幼なじみでしかないのかもしれない。

冬の空は退屈で彼女に起こった女性と一部の男性しか経験しない惨劇を想像できない。
いや、したくないというべきか。

記憶や妄想の彼女だけは平和で無事であってほしい。
だからまだ彼女が話し出すまでは何も聞かないでおこう。

笑可の家に着き、彼女が力のない笑顔で出迎えてくれる。
彼女は事件前は快活に笑う声の大きめな女のコだった。
だから、笑可の変化を痛いくらい感じてしまう。

彼女の部屋に着くなり、ボクはハーモニカを取り出しキーGの明るいけどどこか切ないメロディを鳴らす。
その後、LUNKHEADのカナリアボックスのメロディをひたすら奏でる。
彼女は夜の公園に駆けつけたボクを思い出したのか、涙目になってる。

「そんな泣きそうな顔になったらダメだよ。ボーカル小高が君を見たらカナリアボックスは明るくはしゃぐ歌だよって言うかもだぜ」
彼女の髪をクシャッと撫でる。

「そうだね。あの日から、豹馬が心配して夜の公園に来た時からずっとLUNKHEADのカナリア~聴いてる。
ストレートな歌詞がとてもいいと思う。
僕らは独りで強くなる必要なんかないんだよって歌詞が好きだな」

笑可はやっぱり泣きそうになる。
LUNKHEADの歌でも泣く曲か?
感動できる歌だけど、MVの次長課長のようにはしゃぐのが良いように思えてならない。

カフェオレを入れた笑可は飲んだ後、一呼吸置いて涙をこぼしながら事件当時の話をし始めてしまった。
「2週間前の夜12時に家出て、コンビニまで歩いてジュース買いに行ったの。店近くのマンション辺りで男2人に囲まれて、刃物で脅されて物陰に連れてかれて暴行された。
そこから世界は灰色......いや、黒色に占められている。
豹馬くんだけに心を開いてるから、あえて話したよ。誰にも話さないって思ってるし」

セカンドレイプのような感じだから、ムリに話さなくてもよかった。
と、気が付くとボクまで泣きながらそう彼女に伝えていた。
彼女は一緒に泣きながら、でもでもだってと繰り返す。
か細い彼女の泣き声のBGMを少しだけ聴いて、すぐにその悲しい旋律を止めたくてGRAPEVINEの指先とアダバナを歌いまくる。

すると、驚いた彼女は泣くのを止めた。
「急にどうしたの?」
「LUNKHEADのおだかのブログ読んでたら、GRAPEVINEみたいな曲作りたかったとかハマってたみたいな日記見て、山沢さんにオススメ曲聴いたらちょうど世代だったみたいで入門としてその2曲教えてもらったんだよ。
アダバナにはおぎやはぎかなんか出てたけど、00年代の邦ロックってお笑い芸人起用するの好きすぎだろ」

「そうなんだ......どんどん山沢さんの影響で色んな音楽に詳しくなってくね」
「山沢さん自体も近年は女性声優や昔から推しだったバンド以外は聴かなくなってたらしいけど、オレからLUNKHEADを聞かれて久しぶりに00年代のそれら聴いてるらしい」

「時折、暗い感情に頭がおかしくなりそうになるの。この世界なんて全部滅んじゃえみたいな。そんな時に市販薬ODとかしちゃう」
「寿命縮まるからそれは......」
「私の寿命くらい、好きにさせてよ!」

怒る笑可なんてあまり見たことがないから、驚いてしまった。
あっけにとられていると、「ごめん......こんな私なんてキライだよね」と聞いてくる。
ボクは慌てて「そんな風に思うと思うか?  オレが」と返した。

彼女はさみしそうな笑顔を浮かべて「冷めたコーヒーみたいな人生をどうにかしたい」と冷静な声で言った。
「人生なんてのは一時期売れたり、一回も売れなかったバンドみてえなもんなんだ。
それでもある一定層のファンはしっかり見てくれてるんだ。
だからさ、笑可ちゃんの人生もまだこれからなんだよ。
もうMCしてみろ」

「私、笑可は......消えたい。そ、それでも明日を感じたい。薄汚れた世界を山内総一郎の白のような歌詞の白に染めてしまいたい。
富士山のてっぺんで弾けないギターをかき鳴らしたい。
カナリアボックスや透明少女かき鳴らしたい。
向井秀徳のギターコード、難解そうだけど。
み、みんな私を好きになってくれるかー?」

オレは黙って拍手を彼女が照れてもうやめて...と言うまでひたすらした。

笑可はボクにもMCをやれと言い、グダグダなものだったので彼女は失笑した。
音楽を通して、ボクら少しづつ再生していた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...