【完結】敗戦国の戦姫令嬢は生き残るために仇敵皇太子の婚約者になりました

鞍馬子竜

文字の大きさ
4 / 76
第一章:再起

側近セルジュと侍女クラリス(1)

しおりを挟む
 今日は帝国に到着したばかりだから自室で体を休めるようにと言われ、私は部屋をあとにする。

「セルジュ、ステラリア令嬢を私室に案内してくれ」

「かしこまりました、殿下」

 皇太子に促されて、セルジュと呼ばれた側近の男が部屋の扉を開ける。それに従うように、私は部屋を出た。



「こちらはレイジ殿下の執務室になります。今後何度も足を運ぶことになると思いますので、覚えておいていただけますよう」

 部屋を出てすぐに、皇太子の後ろに控えていた側近が声をかけてくる。彼も私と同じタイミングで部屋を出ていた。

「ありがとうございます。あなたは……」

「自己紹介が遅くなり失礼いたしました。私はセルジュ。ノーステッド侯爵家の長男でレイジ殿下の側近を務めております」

 現時点では帝国貴族に関する知識はないに等しい。だけど、あの皇太子の側近を務めるほどの人物ということは間違いなく優秀なのだろう。

「ノーステッド卿、よろしくお願いいたします」

「はい。それから今後私のことはセルジュとお呼びください。敬語も結構です」

 私が騎士の礼を送ると、セルジュはぶっきらぼうにそう返してきた。

「……何か私に問題でも?」

「問題しかないですよ」

「それもそうか」

 冷たい返答を受けて、妙に納得する。大陸一の帝国・ポーラニア帝国唯一の皇太子という重要な人物に対して、これほど問題だらけの婚約者などそうそうないだろう。



 セルジュに先導され、私室への道を歩く。道中に人はおらず、ただ広く長い廊下を歩き続けた。

「ステラリア令嬢。あなたは先ほどレイジ殿下が語った帝国の現状についてどう考えていますか?」

 道中、セルジュがぽつりとそう問うてきた。私は少しだけ考えて答える。

「そうね……まず、私は帝国について知ろうとしていなかったことを思い知らされたわ。意識が自分の国にしか向いていなかったのもあるけれど、極秘裏に密偵を忍び込ませるとか、貿易をおこなっていた兵に密偵を紛れ込ませるとか、そういう情報を得る努力を怠っていた」

「はあ」

 予想外の答えだったのか、セルジュは呆けたような返事をよこす。

「あとは、皇太子が参戦するまでに襲ってきた帝国軍が想像以上にたいしたことなかったというのも怪しいと思うべきだったかしら。統率が取れていなかったり、すぐに撤退したり……鍛えられた軍でなかったことはすぐにわかったわ」

「たいしたことなかった、ですか……」

 うつむき、拳を握りしめたセルジュを見て、私はあまりに率直に言いすぎたことに気づいた。だけど、もう遅い。私は取り繕うことをせず、セルジュとまっすぐ向き合うことにした。

「戦後の検証はできなかったけど、こうして話を聞くとまだやれることはあったんだと気づかされた。皇太子が参戦してからだって、もっとやれたことはあったはずだって後悔はある。だけど……もうその悔しさを晴らす機会は、私にはない」

「ええ、そうですね。あなたの奮戦によって帝国は甚大な被害を受けましたが、最終的に帝国の勝利で戦争は終結しました。レイジ殿下も、皇帝陛下も、これ以上の戦争は望んでいません」

「それならよかったわ。私だって、戦争をしたかったわけではなかった。戦争が終結し、条件はどうあれ両国に新たな関係が生まれた……それで、私の役割はこれで終わり。だと、思っていたのだけど……」

「しかし、殿下だけは違った。当初は皇帝陛下をはじめ、あなたを処刑すべきだという声が大きかったのです。それを殿下が『彼女に為政者としての才能があることは事実。できることならその才能を帝国の発展に利用すべきだ』と強く主張し、やれるものならやってみろと許可を得て今回の契約に至ったのです」

「そう……」

 私に限らず、戦争で勝利した側が敗北した側の有力者を処刑するというのはこれまでの大陸の歴史の中で幾度となく行われてきた。

 あえて敵国の有力者を引き入れようとするのは、裏切りのリスクをはらんだ危険な行為だ。皇帝陛下もそれを理解しているからこそ、私を処刑したかったはず。そして、それを理解しているからこそ、皇太子は私を引き入れることにしたんだろう。

「私はあなたを帝国に招き入れるのを反対していました。しかし、殿下の命令とあっては従わないわけにはいきません。これ以上帝国に害をなさない限りはあなたを殿下の婚約者として丁重に扱いますが、失礼な態度をとってしまう点についてはご容赦いただきたく存じます」

 セルジュは悪びれずにそう告げる。あまりにもまっすぐなその態度には、私もまっすぐに応えなければならないと思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

処理中です...