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第一章:再起
王国にて(1)
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ポーラニア帝国が良くも悪くも婚約披露パーティーに沸いた、その翌日。
イクリプス王国に小さな波が立った。
---
私はまだ日が昇らぬうちから執務室に足を運んでいた。
長く続いた隣国ポーラニア帝国との戦争の中で、我が家門は伯爵から公爵にまで家格が上がった。
しかし、身の丈に合わない公爵という肩書きに加え、新たに与えられた土地の管理はなかなか行き届いておらず、妻であるディゼルド公爵夫人と共に遅くまで書類と向き合ってきた。
その結果、娘のステラリアに戦場をほとんど任せることとなってしまったが……。
そんな娘の尽力があって、敗戦という形だったとはいえ大きな損害なく戦争は終結した。これで、隣国の脅威におびえることなく領地を治めることができる。
いや、治めなければならない。
帝国から講和条件としてステラリアを引き渡すよう要求されたとき、私が代わりになると何度申し入れても、帝国は頑として聞き入れなかった。むしろ、妥協案としてそれ以外の条件が緩和されるほどだった。
そこまでするほど、帝国は娘に執着していたのだ。
娘がどうなったのか、帝国からの情報は未だ私の耳に入ってきていない。
しかし、あれほどまでに執着された娘が無事であるとは到底思えない。
国境を守ることができず、娘を守ることもできず。
私はただ、娘が守ろうとしたこの土地を、この国を、豊かにすることでしか彼女に報いることができないのだろう。
「旦那様、本日のお手紙でございます」
執務室に腰を下ろすや否や、執事が手紙の積まれたトレイを差し出してくる。
ステラリアが帝国に向かった後、私や妻を気遣う手紙や茶会への誘いが増えた。
それについては嬉しく思うが、同時に「ステラリアのおかげで公爵になったのだから、ステラリアがいなくなった今のディゼルド家は公爵家に相応しくない」と思う家門からは厳しい目を向けられるようになってきている。
(ステラリアの名を貶めることのない公爵であらねば……む?)
手紙の差出人を改めていると、見慣れない封蝋をした一通の封筒に目が留まった。
「これは……ポーラニア皇室から?」
「左様です。早朝に玄関まで使者が来られ、必ず旦那様に渡すようにと申しつけられました。お引止めしましたが、王室にも手紙を届けなければならないとのことで」
「なるほどな……わかった。下がってくれ」
「かしこまりました。何かございましたらお呼びください」
執事を下げ、その封筒を手に取る。
皇室の権威を思わせる、黒地に金箔が彩られたそれは、ステラリアを帝国へ引き渡すにあたって約束した「ステラリアの処遇は後日イクリプス国王とディゼルド公爵に報告する」という条件に応えるものだろう。
封筒を恐る恐る開け、中の文章に目を落とす。そこに書かれていたのは。
「婚約成立の報告……?」
あまりに予想外の内容だった。
「ポーラニア帝国皇太子レイジと、イクリプス王国ステラリア公爵令嬢との婚約が成立し、婚約披露パーティーをおこなった。当面は帝国で活動するためイクリプス王国に顔を出すことはかなわないが、必ず再会の機会を設けるのでしばらくお待ちいただきたく……?」
声に出して読み上げても、内容が理解できない。
処刑ではなく婚約? しかもイクリプス側の優勢を覆してポーラニア軍を勝利に導いたあの皇太子と?
ステラリアを引き渡すよう要求したのは、最初から皇太子の婚約者にするためだったのか?
なんのために? ステラリアを盾にイクリプス王国を支配するため?
「わからん……!」
私は手紙を握りしめたまま執務室を飛び出した。
剣術で家門を守ってきた私にとって、頭を使うことは苦手だ。その点、幼いころから利発的な淑女として名高く、子爵令嬢でありながら社交界の注目を集めていた妻の方がこういうことには詳しいだろう。
王都にいる息子アランにも、このことを知らせてやらなければ。
そんなことを考えながら妻のいるであろう寝室へと向かった。
妻の叫び声が屋敷に響くまで、あと数分。
イクリプス王国に小さな波が立った。
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私はまだ日が昇らぬうちから執務室に足を運んでいた。
長く続いた隣国ポーラニア帝国との戦争の中で、我が家門は伯爵から公爵にまで家格が上がった。
しかし、身の丈に合わない公爵という肩書きに加え、新たに与えられた土地の管理はなかなか行き届いておらず、妻であるディゼルド公爵夫人と共に遅くまで書類と向き合ってきた。
その結果、娘のステラリアに戦場をほとんど任せることとなってしまったが……。
そんな娘の尽力があって、敗戦という形だったとはいえ大きな損害なく戦争は終結した。これで、隣国の脅威におびえることなく領地を治めることができる。
いや、治めなければならない。
帝国から講和条件としてステラリアを引き渡すよう要求されたとき、私が代わりになると何度申し入れても、帝国は頑として聞き入れなかった。むしろ、妥協案としてそれ以外の条件が緩和されるほどだった。
そこまでするほど、帝国は娘に執着していたのだ。
娘がどうなったのか、帝国からの情報は未だ私の耳に入ってきていない。
しかし、あれほどまでに執着された娘が無事であるとは到底思えない。
国境を守ることができず、娘を守ることもできず。
私はただ、娘が守ろうとしたこの土地を、この国を、豊かにすることでしか彼女に報いることができないのだろう。
「旦那様、本日のお手紙でございます」
執務室に腰を下ろすや否や、執事が手紙の積まれたトレイを差し出してくる。
ステラリアが帝国に向かった後、私や妻を気遣う手紙や茶会への誘いが増えた。
それについては嬉しく思うが、同時に「ステラリアのおかげで公爵になったのだから、ステラリアがいなくなった今のディゼルド家は公爵家に相応しくない」と思う家門からは厳しい目を向けられるようになってきている。
(ステラリアの名を貶めることのない公爵であらねば……む?)
手紙の差出人を改めていると、見慣れない封蝋をした一通の封筒に目が留まった。
「これは……ポーラニア皇室から?」
「左様です。早朝に玄関まで使者が来られ、必ず旦那様に渡すようにと申しつけられました。お引止めしましたが、王室にも手紙を届けなければならないとのことで」
「なるほどな……わかった。下がってくれ」
「かしこまりました。何かございましたらお呼びください」
執事を下げ、その封筒を手に取る。
皇室の権威を思わせる、黒地に金箔が彩られたそれは、ステラリアを帝国へ引き渡すにあたって約束した「ステラリアの処遇は後日イクリプス国王とディゼルド公爵に報告する」という条件に応えるものだろう。
封筒を恐る恐る開け、中の文章に目を落とす。そこに書かれていたのは。
「婚約成立の報告……?」
あまりに予想外の内容だった。
「ポーラニア帝国皇太子レイジと、イクリプス王国ステラリア公爵令嬢との婚約が成立し、婚約披露パーティーをおこなった。当面は帝国で活動するためイクリプス王国に顔を出すことはかなわないが、必ず再会の機会を設けるのでしばらくお待ちいただきたく……?」
声に出して読み上げても、内容が理解できない。
処刑ではなく婚約? しかもイクリプス側の優勢を覆してポーラニア軍を勝利に導いたあの皇太子と?
ステラリアを引き渡すよう要求したのは、最初から皇太子の婚約者にするためだったのか?
なんのために? ステラリアを盾にイクリプス王国を支配するため?
「わからん……!」
私は手紙を握りしめたまま執務室を飛び出した。
剣術で家門を守ってきた私にとって、頭を使うことは苦手だ。その点、幼いころから利発的な淑女として名高く、子爵令嬢でありながら社交界の注目を集めていた妻の方がこういうことには詳しいだろう。
王都にいる息子アランにも、このことを知らせてやらなければ。
そんなことを考えながら妻のいるであろう寝室へと向かった。
妻の叫び声が屋敷に響くまで、あと数分。
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