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第二章:浸透
お茶会という名の(1)
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帝国を揺るがした婚約披露パーティーから二週間が経過した。
パーティーで発表されたことは子爵家が発行した新聞によって帝国中に広まった。私は一躍時の人となり、帝国民からはおおむね反対意見が出ているらしい。
最初から受け入れてくれる者などいるはずがない。なぜなら私は帝国に反抗して甚大な被害を与えた仇敵として扱われてきたのだから。そんな人物がいきなり皇太子の婚約者になると言われたら誰だって反発するだろう。私が帝国民だったら間違いなく反発している。
とはいえ、私が帝国民から目の敵にされているということは私にとってさしたる問題ではない。すべての帝国民が「この人こそ皇太子の婚約者に相応しい」と思える令嬢を帝国内から生み出すことこそが、私に求められている役割なのだから。
---
というわけで、私は今日もドレスを身にまとい、皇太子宮の庭園にある人物を迎え入れていた。
「リシャール公爵令嬢、お越しいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招きいただき嬉しく思いますわ」
リシャール公爵家の長女、ラドニス嬢。決闘騒ぎになったリシャール公爵家とまずは対話を試みることが重要と考えた私は、ラドニス嬢にお茶会の招待状を送っていたのだ。
「……ほかにはどなたをお呼びになったんですの?」
そわそわした様子でラドニス嬢が問う。そこには、明らかな怯えの表情があった。
「今日お呼びしたのはリシャール公爵令嬢だけです。他の令嬢に気兼ねなくお話しいただきたくて」
「そ、そうですの。光栄ですわ」
「ええ。さ、お座りください」
私は会食で使うような長いテーブルではなく、丸机にラドニス嬢を案内する。
ディゼルド領にいたころはこのようなお茶会をやったことがなく、我ながら不慣れだなあと思いながらお茶をすすめる。
「まずは、お父上であるリシャール公爵にパーティー会場で決闘を仕掛け、公爵家にご迷惑をおかけしたことお詫びいたします」
一息ついてから、私は真っ先にそれを切り出した。
「私の都合のためにリシャール公爵家を巻き込んでしまいました。それで、まずはリシャール公爵家のご令嬢であるラドニス嬢にお会いしなければならないと思っていました」
「……そうですわね。正直、あの光景は相手がお父様でなくても気分のいいものではなかったでしょう。今日ここに向かうときも、お父様はずいぶんと不安な表情をされていました」
「当然のことと思います。すぐにとはいきませんが、このお詫びは必ずいたします」
「……お詫びに皇太子殿下の婚約者をやめてほしいと言ったら?」
「申し訳ありませんが、それだけはできません。私が今こうしているのはそうしなければならない使命があるからです」
「使命、ですの?」
「ええ。ラドニス嬢をはじめとする帝国の貴族令嬢の皆様が、皇太子殿下が望む令嬢へと変わっていただくこと。私が殿下の婚約者になっているのは、皆様がそれを実現したいと思わせるための仕掛けのひとつにすぎません。もし私がその使命を放棄してしまえば、殿下はたちどころに私を捕らえ、帝国に仇なす罪人として私を処刑することでしょう」
「処刑……では、あなたはそれから逃れるために?」
「そういうことです。もしほんのひと欠片でも私の処刑を望まない心があるのでしたら、私の使命達成に向けてご協力いただきたいのです」
ラドニス嬢は私の請願に目を伏せ、ゆっくりと問う。
「あなた自身は殿下と結婚したいと思っておりませんの?」
その問いに、私はしばし考える。
「結果的にそうなるなら、私としては問題ありません。ですが、なんとしても結婚したいかと問われると、そこまではないと思っています」
「その程度の相手に殿下の婚約者の座を奪われるなど……いいでしょう。あなたのいう『皇太子殿下が望む令嬢』とやらになって、あなたを婚約者の座から引きずり降ろして差し上げますわ」
「ええ、その意気です。では、具体的な話に移りましょうか」
---
皇太子宮の整えられた庭園で、皇宮が用意してくれたデザートやお茶を楽しむ、見た目上はきっとよくある貴族のお茶会。
しかし、その内容は華やかさとはかけ離れたものだった。
パーティーで発表されたことは子爵家が発行した新聞によって帝国中に広まった。私は一躍時の人となり、帝国民からはおおむね反対意見が出ているらしい。
最初から受け入れてくれる者などいるはずがない。なぜなら私は帝国に反抗して甚大な被害を与えた仇敵として扱われてきたのだから。そんな人物がいきなり皇太子の婚約者になると言われたら誰だって反発するだろう。私が帝国民だったら間違いなく反発している。
とはいえ、私が帝国民から目の敵にされているということは私にとってさしたる問題ではない。すべての帝国民が「この人こそ皇太子の婚約者に相応しい」と思える令嬢を帝国内から生み出すことこそが、私に求められている役割なのだから。
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というわけで、私は今日もドレスを身にまとい、皇太子宮の庭園にある人物を迎え入れていた。
「リシャール公爵令嬢、お越しいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お招きいただき嬉しく思いますわ」
リシャール公爵家の長女、ラドニス嬢。決闘騒ぎになったリシャール公爵家とまずは対話を試みることが重要と考えた私は、ラドニス嬢にお茶会の招待状を送っていたのだ。
「……ほかにはどなたをお呼びになったんですの?」
そわそわした様子でラドニス嬢が問う。そこには、明らかな怯えの表情があった。
「今日お呼びしたのはリシャール公爵令嬢だけです。他の令嬢に気兼ねなくお話しいただきたくて」
「そ、そうですの。光栄ですわ」
「ええ。さ、お座りください」
私は会食で使うような長いテーブルではなく、丸机にラドニス嬢を案内する。
ディゼルド領にいたころはこのようなお茶会をやったことがなく、我ながら不慣れだなあと思いながらお茶をすすめる。
「まずは、お父上であるリシャール公爵にパーティー会場で決闘を仕掛け、公爵家にご迷惑をおかけしたことお詫びいたします」
一息ついてから、私は真っ先にそれを切り出した。
「私の都合のためにリシャール公爵家を巻き込んでしまいました。それで、まずはリシャール公爵家のご令嬢であるラドニス嬢にお会いしなければならないと思っていました」
「……そうですわね。正直、あの光景は相手がお父様でなくても気分のいいものではなかったでしょう。今日ここに向かうときも、お父様はずいぶんと不安な表情をされていました」
「当然のことと思います。すぐにとはいきませんが、このお詫びは必ずいたします」
「……お詫びに皇太子殿下の婚約者をやめてほしいと言ったら?」
「申し訳ありませんが、それだけはできません。私が今こうしているのはそうしなければならない使命があるからです」
「使命、ですの?」
「ええ。ラドニス嬢をはじめとする帝国の貴族令嬢の皆様が、皇太子殿下が望む令嬢へと変わっていただくこと。私が殿下の婚約者になっているのは、皆様がそれを実現したいと思わせるための仕掛けのひとつにすぎません。もし私がその使命を放棄してしまえば、殿下はたちどころに私を捕らえ、帝国に仇なす罪人として私を処刑することでしょう」
「処刑……では、あなたはそれから逃れるために?」
「そういうことです。もしほんのひと欠片でも私の処刑を望まない心があるのでしたら、私の使命達成に向けてご協力いただきたいのです」
ラドニス嬢は私の請願に目を伏せ、ゆっくりと問う。
「あなた自身は殿下と結婚したいと思っておりませんの?」
その問いに、私はしばし考える。
「結果的にそうなるなら、私としては問題ありません。ですが、なんとしても結婚したいかと問われると、そこまではないと思っています」
「その程度の相手に殿下の婚約者の座を奪われるなど……いいでしょう。あなたのいう『皇太子殿下が望む令嬢』とやらになって、あなたを婚約者の座から引きずり降ろして差し上げますわ」
「ええ、その意気です。では、具体的な話に移りましょうか」
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皇太子宮の整えられた庭園で、皇宮が用意してくれたデザートやお茶を楽しむ、見た目上はきっとよくある貴族のお茶会。
しかし、その内容は華やかさとはかけ離れたものだった。
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