64 / 76
第四章:開花
私の望んだ幸せ(5)
しおりを挟む
国王陛下と王太子殿下を見送って、私はほっと胸をなでおろす。
「ありがとう、レイジ。助かったわ」
「なに、これくらいは婚約者として当然のことだ」
レイジの言葉が、私を勇気づけてくれる。
「俺はもう、ステラを手放すつもりはないからな」
レイジがそっと手を添えてくる。私はそれを握り返した。
「私は……守られてもいいのね」
「当然だ。ステラはじゅうぶんに王国の民や帝国を守ってきた。そんなステラを守るのが俺の使命だ」
迷いなく言い切るレイジを前にすると、胸の奥がぐっと熱い。
「でも、ずっと机仕事をさせられるなんて耐えられないわ。たまには剣を振らせてほしいのだけど」
「もちろん。戦場に出すつもりはないが、適度な運動として剣を扱う分には否定しない」
「たまには仕事にも剣にも触れずに休む日が欲しいのだけど」
「そうだな、そういう日も必要だろう。そんなに頻繁にはさせてやれないが、週に一日は用意できるようにしよう」
私の要望に対して打てば響くようなレイジの回答は、私にとってちょうどいいもので。
もしかしたら……レイジとの結婚生活というのは、私の理想に近いのかもしれない。
---
私は今、大勢のイクリプス国民の前に立っている。ほとんどはディゼルド領民だと思うけど、それでも多くの人が私の前に来てくれたことがうれしい。
「皆、今日は私とポーラニア帝国皇太子の婚約報告パーティーに来てくれて感謝する! 帝国との防衛戦では、力及ばず敗れてしまった。ディゼルド騎士団の総指揮官として、皆を守れなかったことを不甲斐なく思う」
私は声を張り上げ、指揮官としての姿で皆に呼びかける。
「皆も知ってのとおり、戦後の講和会議によって私の身柄は帝国に引き渡された。しかしそれは処刑のためではなく、私の持つ力を帝国が取り入れるためであった。私は帝国のディゼルド領を離れて今度は帝国の発展のために力を尽くした。それが結果的には王国を守り、発展させることにつながると信じて。そしてその成果として、私は皇太子の婚約者として認められ、こうして皆に報告できるまでに至った」
共に戦った騎士たちが、領地の食糧事情を支えた農家たちが、目を輝かせるようにして私を見ている。
彼らの目を曇らせずに済んでよかった。
「これは私ひとりでは成し遂げられなかった。安定した糧食の供給、作戦を忠実に、時には臨機応変に対応してくれた騎士たちがいたからこそ、私は帝国に認められ、その要求に応えることができた。私は最後まで諦めずに戦ってくれた皆を誇りに思う」
私は彼らに騎士の礼をささげ、「そして」と区切ると、今度は帝国で仕込まれたカーテシーを見せる。
「私、ステラリア・ディゼルドは、ポーラニア帝国皇太子レイジ・ド・ポーラニアと婚約し、今後は帝国の発展のためにこの身を捧げます。皆様とお会いする機会は少なくなってしまいますが、私が人生をかけて守りたいと思ったこの地が侵されることのないよう目を光らせておきます。皆様が今後も笑顔で過ごせるよう願っております」
公爵令嬢としての立ち振る舞いを示す。これからは貴族令嬢として、そして皇太子の婚約者として生きていくのだと示すために。
私が再び礼をすると、歓声や拍手が耳に飛び込んでくる。割れんばかりの……というにはやや力のないものだったけど。
当然ながら、私が帝国の人間と婚約することに不満を持っている人は多いということだ。それは当然のことで、私がいくら言葉を尽くしたところで変わることはないだろう。
変えられるとしたら……。
「私がポーラニア帝国皇太子、レイジである。今日は我が婚約者・ステラリアとの婚約披露の場を設けることができて嬉しく思う」
私と入れ替わるように皆の前に踏み出したレイジが声を発すると、私のとき以上に会場がしんと静まった。
「帝国とイクリプス王国は長年戦争状態であり、先の戦争では双方に多数の死者を出した。帝国は戦勝国でこそあるが、王国に対する不満の声が消えたわけではない。それはステラリア嬢についても同じだった。帝国にわたってきた当初は、帝国民のすべてが敵だと思っていたことだろう。それは私に対しても」
レイジの声は低くてもよく通り、会場の誰もが一言たりとも聞き逃さんと耳を澄ましている。
「しかし、そんな環境においてもステラリア嬢は気高く、そして優れた頭脳を持っていた。彼女は並々ならぬ努力で帝国の貴族、帝国民に自身の存在価値を証明してみせた。それはまさに、戦場で見たステラリア嬢の美しさであり、私は彼女が婚約者になってくれたことに感謝するほかなかった」
処刑を盾に婚約を強制しておいてよくいうよ……と表情に出そうになったのをなんとかこらえる。
「戦争を終え、講和条約を締結した今、帝国にイクリプス王国への敵対意思はない。むしろ、共に国土を発展させていくためのよきパートナーになれると信じている。ステラリア嬢との婚約はその象徴たる例であり、彼女が同意してくれるのならそのまま婚姻につながるだろう。王国民の皆においては、すぐに私のことを受け入れるのは難しいと思う。しかし、いずれ分かり合える日が来ると信じている。今日はそのための大きな一歩である」
レイジが手を挙げると、同行していた管楽隊がパーティーの開幕を告げるハーモニーを奏でる。
「賞国でありながら、長らく帝国の進行を食い止めていたイクリプス王国、ディゼルド騎士団に心からの敬意を表する。王国最強の騎士団に対抗するべく、帝国からは帝国最強の帝都騎士団を連れてきた。これから開催される武闘大会をぜひ楽しんでもらいたい」
レイジがディゼルド騎士団に膝をついて敬意を示すと、会場が騒然とした。皇太子が王国に敬意を表して膝をつくなど予想していなかったことだろう。
レイジは立ち上がると、一礼して下がる。会場は拍手に包まれたが、誰もがどう受け止めていいか図りかねているようだった。
「ありがとう、レイジ。助かったわ」
「なに、これくらいは婚約者として当然のことだ」
レイジの言葉が、私を勇気づけてくれる。
「俺はもう、ステラを手放すつもりはないからな」
レイジがそっと手を添えてくる。私はそれを握り返した。
「私は……守られてもいいのね」
「当然だ。ステラはじゅうぶんに王国の民や帝国を守ってきた。そんなステラを守るのが俺の使命だ」
迷いなく言い切るレイジを前にすると、胸の奥がぐっと熱い。
「でも、ずっと机仕事をさせられるなんて耐えられないわ。たまには剣を振らせてほしいのだけど」
「もちろん。戦場に出すつもりはないが、適度な運動として剣を扱う分には否定しない」
「たまには仕事にも剣にも触れずに休む日が欲しいのだけど」
「そうだな、そういう日も必要だろう。そんなに頻繁にはさせてやれないが、週に一日は用意できるようにしよう」
私の要望に対して打てば響くようなレイジの回答は、私にとってちょうどいいもので。
もしかしたら……レイジとの結婚生活というのは、私の理想に近いのかもしれない。
---
私は今、大勢のイクリプス国民の前に立っている。ほとんどはディゼルド領民だと思うけど、それでも多くの人が私の前に来てくれたことがうれしい。
「皆、今日は私とポーラニア帝国皇太子の婚約報告パーティーに来てくれて感謝する! 帝国との防衛戦では、力及ばず敗れてしまった。ディゼルド騎士団の総指揮官として、皆を守れなかったことを不甲斐なく思う」
私は声を張り上げ、指揮官としての姿で皆に呼びかける。
「皆も知ってのとおり、戦後の講和会議によって私の身柄は帝国に引き渡された。しかしそれは処刑のためではなく、私の持つ力を帝国が取り入れるためであった。私は帝国のディゼルド領を離れて今度は帝国の発展のために力を尽くした。それが結果的には王国を守り、発展させることにつながると信じて。そしてその成果として、私は皇太子の婚約者として認められ、こうして皆に報告できるまでに至った」
共に戦った騎士たちが、領地の食糧事情を支えた農家たちが、目を輝かせるようにして私を見ている。
彼らの目を曇らせずに済んでよかった。
「これは私ひとりでは成し遂げられなかった。安定した糧食の供給、作戦を忠実に、時には臨機応変に対応してくれた騎士たちがいたからこそ、私は帝国に認められ、その要求に応えることができた。私は最後まで諦めずに戦ってくれた皆を誇りに思う」
私は彼らに騎士の礼をささげ、「そして」と区切ると、今度は帝国で仕込まれたカーテシーを見せる。
「私、ステラリア・ディゼルドは、ポーラニア帝国皇太子レイジ・ド・ポーラニアと婚約し、今後は帝国の発展のためにこの身を捧げます。皆様とお会いする機会は少なくなってしまいますが、私が人生をかけて守りたいと思ったこの地が侵されることのないよう目を光らせておきます。皆様が今後も笑顔で過ごせるよう願っております」
公爵令嬢としての立ち振る舞いを示す。これからは貴族令嬢として、そして皇太子の婚約者として生きていくのだと示すために。
私が再び礼をすると、歓声や拍手が耳に飛び込んでくる。割れんばかりの……というにはやや力のないものだったけど。
当然ながら、私が帝国の人間と婚約することに不満を持っている人は多いということだ。それは当然のことで、私がいくら言葉を尽くしたところで変わることはないだろう。
変えられるとしたら……。
「私がポーラニア帝国皇太子、レイジである。今日は我が婚約者・ステラリアとの婚約披露の場を設けることができて嬉しく思う」
私と入れ替わるように皆の前に踏み出したレイジが声を発すると、私のとき以上に会場がしんと静まった。
「帝国とイクリプス王国は長年戦争状態であり、先の戦争では双方に多数の死者を出した。帝国は戦勝国でこそあるが、王国に対する不満の声が消えたわけではない。それはステラリア嬢についても同じだった。帝国にわたってきた当初は、帝国民のすべてが敵だと思っていたことだろう。それは私に対しても」
レイジの声は低くてもよく通り、会場の誰もが一言たりとも聞き逃さんと耳を澄ましている。
「しかし、そんな環境においてもステラリア嬢は気高く、そして優れた頭脳を持っていた。彼女は並々ならぬ努力で帝国の貴族、帝国民に自身の存在価値を証明してみせた。それはまさに、戦場で見たステラリア嬢の美しさであり、私は彼女が婚約者になってくれたことに感謝するほかなかった」
処刑を盾に婚約を強制しておいてよくいうよ……と表情に出そうになったのをなんとかこらえる。
「戦争を終え、講和条約を締結した今、帝国にイクリプス王国への敵対意思はない。むしろ、共に国土を発展させていくためのよきパートナーになれると信じている。ステラリア嬢との婚約はその象徴たる例であり、彼女が同意してくれるのならそのまま婚姻につながるだろう。王国民の皆においては、すぐに私のことを受け入れるのは難しいと思う。しかし、いずれ分かり合える日が来ると信じている。今日はそのための大きな一歩である」
レイジが手を挙げると、同行していた管楽隊がパーティーの開幕を告げるハーモニーを奏でる。
「賞国でありながら、長らく帝国の進行を食い止めていたイクリプス王国、ディゼルド騎士団に心からの敬意を表する。王国最強の騎士団に対抗するべく、帝国からは帝国最強の帝都騎士団を連れてきた。これから開催される武闘大会をぜひ楽しんでもらいたい」
レイジがディゼルド騎士団に膝をついて敬意を示すと、会場が騒然とした。皇太子が王国に敬意を表して膝をつくなど予想していなかったことだろう。
レイジは立ち上がると、一礼して下がる。会場は拍手に包まれたが、誰もがどう受け止めていいか図りかねているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います
暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』
頭の中にそんな声が響いた。
そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。
次に気が付いたのはベットの上だった。
私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。
気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!??
それならシナリオを書き換えさせていただきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる