【完結】敗戦国の戦姫令嬢は生き残るために仇敵皇太子の婚約者になりました

鞍馬子竜

文字の大きさ
68 / 76
第四章:開花

共同戦線(3)

しおりを挟む
「なんですって……!?」

 私は驚愕の声を上げて、後ろに控えていたクラリスを見る。声にこそ出していないが、クラリスの表情は青く、険しい。

「ディゼルド領内で帝国からの使者の手紙を受け取りましたが、ディゼルド領を出るのに検問を抜ける必要があり、隠れて突破するために時間を要してしまいました」
「検問……? なに、それは?」

 内部的にはよくも悪くも牧歌的なイクリプス王国は、領地間の往来に検問を設けていない。今回はイベントということもあって他領との行き来は激しく、検問なんてしていないはずだけど。

「ディゼルド領を離れることが危険であるといって、王太子殿下が自主的に敷いたもののようです。一部の商人や他領の貴族など、身元が証明できて移動の必要がある人物のみ通行を許可していました」

 危険といえば聞こえはいいけれど、国境でしか戦争が起きていないのにそれ以外の移動を制限するのは過剰なようにも思う。
 オースティン殿下はいったいどうしてそんなことを……?
 気になるけれど、今は目の前の事態に向き合わなけば。

「だが、お前はそれをかいくぐって来てくれた。感謝する」
「ありがたきお言葉。バスティエ領騎士団は全戦力をもって国境の防衛にあたっており、当面は戦線を維持できるが長期戦になればどうなるかわからないとのことでした」
「わかった。すぐに今後どうするか検討しよう。ステラ、クラリス、悪いがそのまま天幕まで来てくれ」
「……ええ」

 私はレイジにしたがい、本陣の天幕へと向かった。


「ポーラニア帝国にも攻撃!? なるほど、違和感の正体はこれでしたか」

 レイジからの情報共有に、グライン侯爵がうなる。

「自ら攻撃を仕掛けておいて消極的に戦うのはなぜかと考えておりましたが……まさか帝都騎士団をここにとどめておくことが狙いだったとは」

 婚約披露イベント中にルナリア王国がイクリプス王国へと侵攻したとなれば、友好国になるポーラニア帝国としても共同戦線のために帝都騎士団を動かさざるを得ない。そうしてイクリプス王国、ポーラニア帝国の最高戦力を国境に呼び寄せておいて、手薄になったポーラニア帝国の国境を主戦力が攻撃する。
 それがルナリア王国の狙いだろう。

「相手の狙いはわかった。だが、わかったところでどう動くかは考える必要がある」
「そうね。あそこまで防御に徹した相手を崩しきることは簡単ではないわ」

 私たちは一刻も早くバスティエ伯爵領の救援に向かわなければならない。目の前の敵を倒しきっても、その間に帝国が落とされたら被害は甚大では済まないから。
 だからといって、目の前の敵に背を向けて戦力を動かす選択しも簡単には選べない。今度はイクリプス王国側の防衛戦力が手薄になり、相手が押し返してきたら押し込まれるリスクがある。

 理想は、今の戦力でなんとか目の前の敵を撤退まで追い込んでから救援に向かうことだけど……時間をかければかけるほど国境が破られるリスクは高まっていく。
 万全の策など存在しない。どう動くのが最善なのか、私は決めかねていた。

「……俺は、今ここにいる戦力で目の前のルナリア王国軍を壊滅・撤退に追い込んでから急ぎポーラニア帝国国境の救援に向かうこととしたい」
「レイジ……?」

 一番帝国の利益を優先したい立場であるはずのレイジが、その決断を下したことに驚きを隠せない。

「ですが、レイジ殿下は一刻も早く帝国の救援に向かった方がいいのでは?」

 イクリプス王国側の立場を代表して、父上が問う。

「できるならそうしている。が、今前線の戦力を減らすことはできない。ここで前線を破られるリスクを冒すことは帝国にとって長期的な損失になりえる」

 その代わり、とレイジは言葉を続ける。

「イクリプス王国側のルナリア王国軍を撤退に追い込んだ後、ディゼルド騎士団にはポーラニア帝国救援軍として引き続き共同戦線を張ってほしい」

 レイジは、すでに次を考えていた。父上はすぐにうなずく。

「ええ。受け入れましょう」
「グライン領主としては、殿下の判断を歓迎いたします。一刻も早く我が国境の安全を確立して」


 作戦を立てるにしても少し休憩しようということで、いったん私たちは天幕を出ることにした。
 天幕を離れ、私とレイジはふたり連れ立って陣の端に歩く。

「レイジ、お願いがあるのだけど」
「ダメだ」

 私が言葉を続けるより早く、レイジは強い語気でそれを拒絶した。
 ……やっぱり、レイジは私がなにを言いたいのかわかっている。

「いいえ。やっぱり、目の前の戦線を早く攻略するにはこれしかないわ。……私も前線に出る」

 強い決意を瞳に宿し、私はレイジに詰め寄った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

処理中です...