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第四十一話 狼さんの相談。
マリナは細かく説明してくれた。
「あのね、アーシェリヲン君」
「はい」
「私たち探索者協会はね、探索者さんと依頼主さんとの間を取り持ってるの」
「はい。知ってます」
「青銅の序列まではね、そのままなんだけど」
「はい」
「鉄の序列の依頼からはね、報酬の一部をいただいてるわけ」
「はい。知ってますよ」
そうしないと協会は運営していけない。先日、同じようなことを説明受けたばかり。だから、マリナやコレットたちの給金も、そこから捻出されている。アーシェリヲンからしたら、それが当たり前だと思っていた。
なぜなら、伯爵領を運営していくのに何が必要なのか。本来は初等学舎で教わることを、独学で書物から学んでいたからだった。
「アーシェリヲン君がね、『魔石でんち』を充填してくれるようになってからね」
「はい」
「私たちの運営資金がね、潤沢になりつつあるのよ」
「はい?」
「毎日アーシェリヲン君に渡してる金貨があるでしょう?」
「はい」
「それと同じ額だけ、協会に残ってるの」
「はい」
「おまけにね」
「はい」
「アーシェリヲン君だけ、序列点なしで貢献させるのはおかしいって。ガルドランさんが言っちゃったのね」
いつもいるはずの席で、ガルドランがこっちを見ていた。なぜか尻尾が揺れている。
「そうしたらね、他の探索者さんたちもね、アーシェリヲン君に負けていられないって、頑張って充填してくれるようになったの」
「そうなんですね」
「えぇ。パパがね、すっごく喜んじゃって。アーシェリヲン君を大事にしなさいって、あなたがいるから探索者さんたちもまとまってくれるんだって」
「あー、あはははは」
アーシェリヲンは別に、ここへ貢献するためにやったわけではない。単純に、『魔法袋』が欲しかった。少なくとも金貨百五十枚を貯めなければ駄目だという話を聞いてしまったからだった。全ては、魔法袋本来の価値を教えてしまったメリルージュとガルドランがいけないのである。
▼
ガルドランがお昼ごはんをおごってくれるからと、アーシェリヲンをひょいと肩に載せて『れすとらん』へ向かっている。ガルドランだけでも十分目立つというのに、余計に目立ってしまっていた。それでも仲良くしてくれるから嬉しいのだろう。
この国でも名の通っている探索者のガルドランでも、『れすとらん』にはしっかりと並んでいる。ややあって二人の順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ。『れすとらん』へようこそ。お客様はお二人でよろしいですか?」
「お、おう」
「はい、お願いします」
ここではアーシェリヲンの姉、レイラリースが『うぇいとれす』をしている。その上、アーシェリヲンはそれなりにこの国のユカリコ教神殿では有名だ。それでも『いらっしゃい、アーシェリヲン君』とならないのは、平等に『美味しい』を届けるユカリコ教ならではと言えるのだろう。
「いらっしゃいませ。ガルドランさん。いつもうちのアーシェをありがとうございます」
注文を伺いにきたのはレイラリースだった。
「お、おう。坊主と同じのでたのむな」
「なんだか、いつものガルドランさんじゃないような……。あ、僕、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』でお願いします」
「はい、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』二つですね。少々お待ちくださいませ」
ガルドランを見ると、何やら目が泳いでいる。機嫌の良いときの尻尾の動きでもない。ただ、悪いわけでもなさそうだ。
「どうしたんですか?」
「あ、あぁ。坊主にも相談したいことがあってな。とりあえず、飯を食べちまってからでいいか?」
「はい。僕で良かったらいくらでも聞きますよ」
いつも変わらぬ美味しさ。お腹いっぱい堪能できた。なぜか食べているときのガルドランの尻尾は、嬉しいときの動きだった。
食後のお茶を飲みながら、ちらりちらりとアーシェリヲンを伺うガルドランの視線。何かを言いたそうにしているのはわかるのだ。あまりにももどかしくなったアーシェリヲンから切り出すことになってしまった。
「僕、最近結構稼いでいるんですけど。なぜお昼をおごってくれるんですか?」
「あのな坊主」
「はい」
「俺、まだ嫁さんもらっていないんだ」
「はい?」
何を言っているのかわからない、アーシェリヲンはそう思っただろう。
「だからな、あまり金、使ってないんだ。坊主」
「はい」
「俺がどれだけ金貨を持っているかわかるか?」
「んー、百枚くらいですか?」
「あははは」
ガルドランはその獣人に特徴的な大きな口をあけて、鋭い犬歯を見せながら笑った。
「あのな坊主。千枚からは数えていないんだ」
「……え?」
「俺はな、前にも話してやったとおり、銀の序列だ。だからな、それなりに身体を張って金を稼いではいる」
「はい」
「協会でやってる独身寮で部屋を借りてる。それに毎日あそこの食堂でな、飯食ったり酒飲んだり。たまにこうして『れすとらん』も利用してる。けどな坊主」
「はい?」
「安いんだよ。贅沢したって日に銀貨数枚で済んじまうんだ」
確かに、アーシェリヲンもそうだ。正直使い切れない状態になっているのは間違いない。貯まる一方だというガルドランの気持ちもわからないでもない。
「俺はな、とりあえず師匠に追いつくのが目標なんだ」
「師匠、あ、メリルージュさんですね? 金の序列ですよね」
「そうだ。わかりやすく言うとだな、俺はな、誰もが認めてくれる男になりたいんだ」
「僕もそうです。ガルドランさんの銀の序列を目指しています」
「そうか。坊主ならすぐになれるだろうな。……だから俺はな、もっと強くならなきゃいけないんだ。それこそ、白金の序列に届くくらいに」
「……うわ」
「そう思うだろう? でもな、そうでもしないと届かない。欲しいものが俺にはあるんだ」
「はい」
「俺はな、ある女性に惚れている」
ガルドランはアーシェリヲンの目をまっすぐに見ている。だから聞かなきゃいけない、そう思っただろう。
「はい」
「その人はな、俺が生まれた村を持つ、領主の娘なんだ」
「はい」
「小さいころから遊んでくれてな、俺はずっと憧れてたんだ。でもな、村人の生まれの俺には手が届かない。頭のいい坊主にはわかるだろう? 相手は騎士爵家の長女なんだ」
なんとなくわかる。アーシェリヲンも、となりの大陸にある国だが、伯爵家の生まれ。本で知り得た知識ではあるが、どういう社会構造になっているかも理解している。
アーシェリヲンも爵位を持つ家に、依頼という建て前を受けて帰るために銀の序列を目指している。だから、ガルドランの言っていることはわかるつもりだ。
「あのね、アーシェリヲン君」
「はい」
「私たち探索者協会はね、探索者さんと依頼主さんとの間を取り持ってるの」
「はい。知ってます」
「青銅の序列まではね、そのままなんだけど」
「はい」
「鉄の序列の依頼からはね、報酬の一部をいただいてるわけ」
「はい。知ってますよ」
そうしないと協会は運営していけない。先日、同じようなことを説明受けたばかり。だから、マリナやコレットたちの給金も、そこから捻出されている。アーシェリヲンからしたら、それが当たり前だと思っていた。
なぜなら、伯爵領を運営していくのに何が必要なのか。本来は初等学舎で教わることを、独学で書物から学んでいたからだった。
「アーシェリヲン君がね、『魔石でんち』を充填してくれるようになってからね」
「はい」
「私たちの運営資金がね、潤沢になりつつあるのよ」
「はい?」
「毎日アーシェリヲン君に渡してる金貨があるでしょう?」
「はい」
「それと同じ額だけ、協会に残ってるの」
「はい」
「おまけにね」
「はい」
「アーシェリヲン君だけ、序列点なしで貢献させるのはおかしいって。ガルドランさんが言っちゃったのね」
いつもいるはずの席で、ガルドランがこっちを見ていた。なぜか尻尾が揺れている。
「そうしたらね、他の探索者さんたちもね、アーシェリヲン君に負けていられないって、頑張って充填してくれるようになったの」
「そうなんですね」
「えぇ。パパがね、すっごく喜んじゃって。アーシェリヲン君を大事にしなさいって、あなたがいるから探索者さんたちもまとまってくれるんだって」
「あー、あはははは」
アーシェリヲンは別に、ここへ貢献するためにやったわけではない。単純に、『魔法袋』が欲しかった。少なくとも金貨百五十枚を貯めなければ駄目だという話を聞いてしまったからだった。全ては、魔法袋本来の価値を教えてしまったメリルージュとガルドランがいけないのである。
▼
ガルドランがお昼ごはんをおごってくれるからと、アーシェリヲンをひょいと肩に載せて『れすとらん』へ向かっている。ガルドランだけでも十分目立つというのに、余計に目立ってしまっていた。それでも仲良くしてくれるから嬉しいのだろう。
この国でも名の通っている探索者のガルドランでも、『れすとらん』にはしっかりと並んでいる。ややあって二人の順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ。『れすとらん』へようこそ。お客様はお二人でよろしいですか?」
「お、おう」
「はい、お願いします」
ここではアーシェリヲンの姉、レイラリースが『うぇいとれす』をしている。その上、アーシェリヲンはそれなりにこの国のユカリコ教神殿では有名だ。それでも『いらっしゃい、アーシェリヲン君』とならないのは、平等に『美味しい』を届けるユカリコ教ならではと言えるのだろう。
「いらっしゃいませ。ガルドランさん。いつもうちのアーシェをありがとうございます」
注文を伺いにきたのはレイラリースだった。
「お、おう。坊主と同じのでたのむな」
「なんだか、いつものガルドランさんじゃないような……。あ、僕、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』でお願いします」
「はい、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』二つですね。少々お待ちくださいませ」
ガルドランを見ると、何やら目が泳いでいる。機嫌の良いときの尻尾の動きでもない。ただ、悪いわけでもなさそうだ。
「どうしたんですか?」
「あ、あぁ。坊主にも相談したいことがあってな。とりあえず、飯を食べちまってからでいいか?」
「はい。僕で良かったらいくらでも聞きますよ」
いつも変わらぬ美味しさ。お腹いっぱい堪能できた。なぜか食べているときのガルドランの尻尾は、嬉しいときの動きだった。
食後のお茶を飲みながら、ちらりちらりとアーシェリヲンを伺うガルドランの視線。何かを言いたそうにしているのはわかるのだ。あまりにももどかしくなったアーシェリヲンから切り出すことになってしまった。
「僕、最近結構稼いでいるんですけど。なぜお昼をおごってくれるんですか?」
「あのな坊主」
「はい」
「俺、まだ嫁さんもらっていないんだ」
「はい?」
何を言っているのかわからない、アーシェリヲンはそう思っただろう。
「だからな、あまり金、使ってないんだ。坊主」
「はい」
「俺がどれだけ金貨を持っているかわかるか?」
「んー、百枚くらいですか?」
「あははは」
ガルドランはその獣人に特徴的な大きな口をあけて、鋭い犬歯を見せながら笑った。
「あのな坊主。千枚からは数えていないんだ」
「……え?」
「俺はな、前にも話してやったとおり、銀の序列だ。だからな、それなりに身体を張って金を稼いではいる」
「はい」
「協会でやってる独身寮で部屋を借りてる。それに毎日あそこの食堂でな、飯食ったり酒飲んだり。たまにこうして『れすとらん』も利用してる。けどな坊主」
「はい?」
「安いんだよ。贅沢したって日に銀貨数枚で済んじまうんだ」
確かに、アーシェリヲンもそうだ。正直使い切れない状態になっているのは間違いない。貯まる一方だというガルドランの気持ちもわからないでもない。
「俺はな、とりあえず師匠に追いつくのが目標なんだ」
「師匠、あ、メリルージュさんですね? 金の序列ですよね」
「そうだ。わかりやすく言うとだな、俺はな、誰もが認めてくれる男になりたいんだ」
「僕もそうです。ガルドランさんの銀の序列を目指しています」
「そうか。坊主ならすぐになれるだろうな。……だから俺はな、もっと強くならなきゃいけないんだ。それこそ、白金の序列に届くくらいに」
「……うわ」
「そう思うだろう? でもな、そうでもしないと届かない。欲しいものが俺にはあるんだ」
「はい」
「俺はな、ある女性に惚れている」
ガルドランはアーシェリヲンの目をまっすぐに見ている。だから聞かなきゃいけない、そう思っただろう。
「はい」
「その人はな、俺が生まれた村を持つ、領主の娘なんだ」
「はい」
「小さいころから遊んでくれてな、俺はずっと憧れてたんだ。でもな、村人の生まれの俺には手が届かない。頭のいい坊主にはわかるだろう? 相手は騎士爵家の長女なんだ」
なんとなくわかる。アーシェリヲンも、となりの大陸にある国だが、伯爵家の生まれ。本で知り得た知識ではあるが、どういう社会構造になっているかも理解している。
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