2 / 56
序章
第二話 ヒーロー登場? そのに
しおりを挟む下着泥棒の背後から、中性的なエフェクトのかかった声をかけられる。泥棒は振り向くことをせずに、立ち上がって走り始めた。
(あれれ?)
泥棒が逃げた方向は、ビルの部屋が並ぶ方角。ただここは二十階建て高層マンションの屋上であり、地上などではない。なのに泥棒は躊躇いもなく飛び降りる。
(なんとまぁ、刹那的な……。まさかとは思いますけど、とりあえず追いましょうか?)
『そうしましょう』
頭の中に直接はなしかけてくる、女性の声に驚きはしない。
追いかけてマンションの端で姿を探す。するとなんと、泥棒は隣の建物の屋上へ飛び込んでいたではないか? 少なくとも隣の屋上は建物一階分よりも低い位置にあり、幅も五メートル以上離れている。それを躊躇せずに飛ぶとは普通は思えない。
(なるほどね。姉さんのくれた情報そのままなんだ?)
『ほほぅ。あれが「パルクール」とか言う競技なんだな?』
今度は頭の中に直接男性の声が語りかけてくる。
(そうですね。あの場合は競技と言うより、逃げてるだけだと思います。僕も動画で見ただけでよくはわからないんですけどね)
『一八さん離陸します、ご注意を』
(はい。お願いします)
一八と呼ばれた彼には、肩甲骨から伸びた何かがある。シルエットになっていてよく見えはしないが、近寄ったらそれが吸盤のあるタコの足そっくりだとわかるだろう。
その触手は先に向かって徐々に太くなり、一番太い場所は太股よりもありそうだ。それが二メートル近く伸びており、一番細いところは手首くらいの細さになり、その先には大きな五本指の手、触手手が存在する。
白ければ天使の翼に形は似てはいる、だがどちらかと言えば何かの触手にも見えるその太い何かの先から何かが噴出した。かと思うと、軽々と夜空を舞い上がっていった。
(あいつも空飛んで追いかけてくるだなんて、思ってないだろうねーっ)
『この世界の人間ほぼ、自力で空を飛んだりはしないからな』
隣のビルの屋上に飛び降りた下着泥棒は、元いたマンションのほうを向いた。
「やれやれ。警備員でもいたのか――うげっ!」
【だから帰さないと言ったではありませんか?】
また泥棒の背後から声が聞こえた。おそるおそる振り向くと、そこには首から上が何かの目出し帽にも似た何かを被っており、首から下は黒い作業着にも似ている。だが腕は四本あるように見える。この世のモノとは思えない姿が目に入ったのである。
「ばばばばば」
【ん?】
「化け物がっ!」
【それは心外だな。これでも一応、正義の味方なんだけど】
(吽形さん捕縛を、阿形さんは例の術をお願いします)
『任せてください』
『応よ』
吽形さんと呼ばれた右の背中から伸びた触手が、泥棒の胴を絡めて固定する。
阿形さんと呼ばれた左の背中から伸びた触手の先から、泥棒の顔めがけて触手手が掴みかかる。それはまるで、プロレスのアイアンクローにも似た動き。手からは怪しい漆黒の靄がにじみ出てきて、男の顔にまとわりついているではないか?
一八はいくら相手が犯罪者であっても、力の差のある者に対して暴力で解決しようとは思っていない。だから以前、阿形さんがこの術がを持っていることを教えてもらってからは、この『恐れの術』を使うことにしていた。
『成敗』
(しちゃだめですって)
『あなた』
『お、おう……』
ちなみにこの『恐れの術』は、術にかかった対象が思う『今この時点でこの世で一番怖いと思われるものが目の前に現れる』という、相手に恐怖を与えて戦意を喪失させて撤退させる術なのである。
「うわっ、や、やめてくれっ。その可愛らしい下着を、オイルまみれなテカテカマッチョなオヤジが穿かないでくれーっ!」
(……何が見えているんだろうね?)
『さぁ、オレにはさっぱりわからんが?』
『ワタシにもわかりかねますね』
(あ、気絶しちゃったっぽい。ま、いいでしょ。このまま『プレゼント』しちゃいましょっか?)
一度下着泥棒をうつ伏せにして、後ろ手にすると百円均一で買ったタイラップで固定。両足も一緒に固定すると、それはまるでエビのような情けない姿になってしまっていた。
(じゃ、阿形さん、吽形さん、行きましょ)
『おう』
『そうですね、一八さん』
こうして正義の味方は、下着泥棒を抱えて、夏の夜空へ飛び立っていく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件
月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ!
『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』
壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる