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第一章
第二十五話 待ち人はどの人
しおりを挟む(吽形さん、大丈夫だった?)
『えぇ、一八さん。ご心配ありがとうございます』
あの後、何事もなく羽田空港へ到着し、一八たちは迎えにきていたハイヤーに乗っている。
二人が向かったのは銀座。目的はひとつだけ。ブドウのマークが入る通信機器メーカーの直営店。そこで購入するのは、すでに電話で予約を入れていた一八たちのスマホである。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
直営店のスタッフなのだろう。二十代後半くらいの男性で、しっかりとした対応をしてくれる。
「予約を入れていた八重寺と申します」
「八重寺様でございますね? 伺っております。ではこちらへどうぞ」
奥のカウンターで対応してもらう。今回千鶴も新調することになった、同じグレードの同じモデル。千鶴がホワイトで、一八がブラック。
「これ僕の?」
「えぇ、そうよ」
アドレス長を見ると、千鶴、隆二、日登美など。家族と関係者が登録されていた。
『これがこちらの世界では、最先端の通信機器なのですね?』
(うん。これでやっと、阿形さんと吽形さんと話していても違和感がでなくなると思うんだ)
『何も言葉に出さずとも――あぁ、そういうことですね』
(うん。つい口に出てしまうこともあるんです)
「ありがとうございます。またどうぞご利用くださいませ」
数人に見送られて一八と千鶴は店舗を出て行く。スマホを見るとわかるが、時間は十八時半になろうとしていた。
「一八ちゃん」
千鶴は『やーくん』と外では呼ばない。さすがは小学校と中学校、八年と少し被り続けた見事な猫である。
「はい、お姉ちゃん」
「お腹空いてない? ホテルに着くころには七時を越えてしまうけれど、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「それならいきましょうか」
「うん」
ハザードを焚いて待っていたハイヤーに再度乗る。運転手には目的地は告げてある。宿泊するホテルには、待ち人がいるのである。だから、東京まで二人で出てこられたというわけなのであった。
東京プリンセスホテルにハイヤーが入っていく。正面玄関でドアが開く。まずは一八が降りる。
「ありがとうございます」
そう言うと一八はくるりと回れ右。手を差し伸べて千鶴を迎える。
「ありがとう、一八ちゃん」
普段着ではないが、それなりの格好をしている一八が、これまた可憐とも言える千鶴を迎える。
ただ、千鶴をエスコートするにはちょっと身長が足りない。千鶴は百六十センチ近いが、一八は百五十センチ足らず。十センチも彼女より低いのである。年齢的にも仕方がないといえばそうなのだが。
(吽形さん、お腹すいてないですか?)
『ありがとうございます。まだ大丈夫ですよ』
一八たちはフロントへへ行き、鍵をもらってエレベーター前へ。そこにいるポーターの女性に十七階と告げて一八はペコリと挨拶。笑顔で送り出されてエレベーターに乗り、十七階へ。
「一八ちゃん、ここよ。わたしはこっち」
一八は十号室。千鶴はその隣の九号室。カードキーをかざすと、カチャリと音を立てて鍵が開く。
現在は十八時五十分。もう待ち人はこのホテルに到着していると、受付カウンターで教えてもらっていた。
「一八ちゃん。ちょっと遅いけど七時になったら、二十五階へ行きますからね」
「うん。荷物を置いたらすぐだね」
「えぇ、それではまた後ほど」
お互いがドアへ消える。
ドアを閉めるとロックがかかる。一度そのままベッドへ倒れ込む。
「あ゛ー、つかれた」
『お疲れさまです』
一八はベッドに座り、両手のひらを合わせて目の前に置く。その上に、吽形は姿を現した。白い吽形像だが、前に見たあの像よりも目元はとても優しい。
(吽形さんは大丈夫? なんならお風呂に水を張るけど)
『大丈夫ですよ。少しずつですが、一八さんから魔力をいただいていますので、大気中から水分を集めて活用できますので。……ところでこのあとお目にかかるのはもしや、あのかたですか?』
(そうですよ。そういえば吽形さんも知ってるんですね?)
『えぇ、それはもう。先代さんだけでなく、八重寺家の初代さんともいえる人たちも知っていますからね』
(忘れてました。そうだったんですよね)
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