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第一章『人外×幻想の魔物使い』
第9話:私の眷属にならない?
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「ルイ……?」
訝しげな顔をこてんと横に傾けて、美少女が反芻する。
「ルイは……そう、迷宮から一緒に出てきたスライムで……僕の家族」
心ここにあらずと言った調子でポツポツと言いながら、キョロキョロと辺りを見渡して見る。けれど黄金のスライムは見当たらない。異様に目立つなりをしているくせに目につかないと言うことは、この辺にはいないのだろうか。
というか、だ。
ここどこ? まったく見覚えないんだけど。
そもそもとして僕は《荒魔の樹海》にいたはずだが、鬱蒼と茂っていた森はいつの間にか草原に変わっていた。同じようにはらはらと降りしきる雪によって白化粧が塗られているが、間違いなく大森林は脱している。
近くには流れの緩やかな川。所々に氷塊が流れてくるあたり、上流の方で起きたサイクロプスによる洪水の規模を物語っているようで。僕も川の流れに運ばれてきたのだろうかと思うと、今になってぞぞっと寒気が走る。
「家族? スライム? 迷宮? おい鎧の魔物、それってなんの迷宮だァ? なんていう迷宮から出てきたァ」
「それは――」
と、僕が馬鹿正直に答えようとしていた所で、脳に直接響く声があった。
『ストップじゃ、其方』
僕の中で眠る黄金のドラゴン――シェルちゃんだ。
なんだか物凄い懐かしい感じがする。しばらく意識を失っていただけだというのに。
(……シェルちゃん? やぁ、無事だったんだね、よかった――ってシェルちゃんは僕が無事なら無事か。心配して損した)
『あれから日を跨いでおるため、一日ぶりの再開じゃて。それに、それはこちらの台詞であろ。あの高さはいくらなんでも肝を冷やしたのじゃ……それより、我の迷宮のことは他言しない方がいいかもしれぬ』
開いていた面甲をガチャ、コン、と緩やかに閉じる。
(それはまた、何で? 確か【金龍皇シエルリヒト】って人族側についてた『善性』なるドラゴンだったじゃん。もしかして悪いことしたの? ダメだよ悪いことしたなら自首しなきゃ)
『其方なぁ……今の世の中には我に敵愾心を向ける輩も多いのじゃ。故に外からの干渉が及ばぬように迷宮を閉ざしていた。その迷宮から出てきた魔物がいると知れれば……否が応でも厄介ごとに巻き込まれるであろ』
事情を知る知り合いがいるだけで、密かにそわそわしていた心が落ち着きを取り戻す。シェルちゃんが話している間に内心で大きく深呼吸。それをわざわざ彼女に伝えたりしないが、なるほど一理あるね、と心の中で返しておいた。
美少女に夢中で、今の今までシェルちゃんの存在自体忘れていたことは秘密である。
そうと決まれば誤魔化そう。さあ誤魔化そう。
大丈夫大丈夫、僕の兜はどれだけ変顔をしようがポーカーフェイスを維持できるという、隠し事をする際に最強の効果を発揮する前代未聞の最強兵器なのだ。もはやこのフルフェイス自体がスキルと言っても過言ではない。
「えぇっ!? ぼ、ぼっ、ぼひゅっ、ぜんぜんわひゃんなぃっ」
しね。最悪。
「お前は何をそんなにキョドってるんだァ……わざとか、わざとなのかァ? 疑って欲しいのかァ? 何が目的だ言ってみろォ」
『そうじゃったのじゃぁあ……其方はそういう才能が壊滅的に終わっているのじゃった……其方に誤魔化すなどという行為を頼んだ我が悪かったのじゃぁあ……っ』
フラム先輩がべらぼうに不審を抱き、シェルちゃんがおもくそ嘆いてくる。
うるさいうるさい。ああ、だめだ。やっぱり僕はこういう自分の意志に反する行動にめっぽう弱い。誤魔化しとか不可能だ。天性のポーカーフェイスを無駄にする次元でやばい。
……好き勝手に振る舞い、放恣に過ごして笑う。自分に正直にというコンセプトを胸に掲げ、自由に生きるのが一番楽で効率的だというのに。ままならない世の中だよこんちくしょうめ。
僕の反応をどう捉えたのかは知らないが、何やら少女とフラム先輩はひそひそと二人で話し込んでいる様子。背中を向けてあからさまな姿勢をとる必要はないだろうに。何、僕を虐めたいだけだろうか。
「やはり危ないヤツだァ。今ここで殺しておくべきだろォ」とフラム先輩。「ダメよ、多少挙動が変でも、魔物で高度な知能を持ってる個体は階級も高くなるの。野生とはいえ善性の魔物だし、どのみち殺せないでしょ。連れて行くわ」と少女。
割と酷いこと言ってるって気づいてるかな?
フラム先輩にいたっては殺そうとしてるし。
「でもこいつ、主の下着を見て興奮してたぞォ」とフラム先輩。「えっ、うそ……ううん、それは気のせいよ。だって人に情欲を覚えるの魔物はオークやゴブリンの亜人種に限るわ。この子は幻想種……放浪の鎧系統なのよ」と少女。
フラム先輩め、余計なことを言いよってからに。
一応少女がローブの中身が見えないように手で抑えたのは、僕の視線に多少思うところがあったからかもしれないね。大丈夫、僕は純粋な鎧の魔物です。だから捨てないで下さいお願いしますお願いします。
その間、僕は気になっていたことをシェルちゃんに聞いてみる。
(シェルちゃん、ルイどこにいったか知らない? 多分だけどさ、同じ系統に進化してるからか『金剛化』を共有できた感触があったんだよね。だから無事だと思うんだけど……)
『……うむ。見ていたのじゃ。我の魔力を魔物に与えたこと自体初めてであるゆえ、このようなことができるなど知らなかった。素で驚いたのじゃ。それで、まぁ、ルイはのぉ、その……』
珍しく、と言うほどでもないが、言い渋るシェルちゃん。
僕は眉根を寄せる。寄せたつもり、こんな時に限って、いらんポーカーフェイスが発動しているだけ。くたばれ。
(シェルちゃんなら僕が気絶してる間に何が起こったのか知ってるんでしょ? 教えてよ)
『むぅ……言っても怒らない?』
(怒る? 怒るようなことしたのあの子は? まぁいいよ、怒らないから言ってみ)
『そのー……逃げた、のじゃ』
「はぇ?」
シェルちゃんの言葉に、僕は思わず驚きを声に出してしまった。
何事かと振り向く美少女と額に赤い宝石を持つ子猫。しばらく黙ってたら再びバレバレの会議を始めた。先に比べ、少しだけ声量が落ちている気がする。
僕はシェルちゃんの言葉を噛み砕き、どうにか理解しようとする。
逃げた。ルイが逃げたと。そりゃまた何で、と不思議に思うほど僕も鈍感ではないんだけど……。
(……思い当たる節はあるけどさ、いや思い当たりすぎて逆にわかんないけど……それにしても逃げたってどういうことさ)
『ルイは其方を川から引き上げた後、去り際に言っておった――其方の近くにいると身の危険を感じるからここでお別れする、とな。……其方が意地悪ばかりするからじゃろうて。いじくり回すだけいじくり回して、碌な食べ物も与えない……嫌になるのも頷けるのじゃ』
対になっている紫紺の輝きを、僅かに拡張する。
(そ、っか……助けてくれたのルイだったのか。でも早くない? まだ迷宮出たばっかじゃん。ここまで高速で嫌われると、逆に凄いよね。でもさぁ、あの水晶林檎は本当に貴重なもので……)
『それでも、じゃ其方。粘水族の『食欲』は魂に刻まれた種族本能に近い。其方が歩き続けなければならなかったものと同じなのじゃ。あまり酷なことをしては可哀想であろ』
(それは――や、そっか。そうだな、種族本能は気合いで逆らえるモノじゃないもんなぁ。うーん、これは僕が悪かったかもしんない……)
『其方が素直に反省するとは、そこに驚きなのじゃ……まあ大丈夫じゃろうて。大きな出会いは魂と魂に絆の糸を繋ぐ。巡り巡って、いつか謝罪の時はくるであろ』
(そうだね。その時は……ちゃんと謝ってから揉ませてもらおう……)
『……其方、ちゃんと反省してる? あれれぇ、我すごく心配になってきたのじゃぁあ……ッ』
と、僕が珍しく反省し一人落ち込んでいた時、
「そうだといいんだがなァ……」
フラム先輩の溜息交じりの言葉をささやかな号砲に、会議を終えた二人がくるりと振り返る。
一転して少女の顔に張り付いてるのは、花が綻ぶような笑顔だ。
いや、その、あの……聞こえてたから。細部まで聞こえてたからね君達。隠す気とかないよねもう。小声で話すにしてもせめてもうちょっと距離とろうよ。いじめかよ。
と、フラム先輩が諦念を吹き飛ばすように言う。
「はぁ……主がそう言うならオレはそれでいィ。まァ、『世界最強の魔物使い』を目指してるんだァ。仲間は多い方が主の助けになるしなァ」
ざわり、と僕の紫紺の瞳が波打つ。
「魔物……使い?」
《金龍の迷宮》にてシェルちゃんと話している時に話題に上がった、仕えるならばと目をつけていた人種だ。まさか、まさかまさか。運が良いってもんじゃないぞ。
半ば呆然と零した僕の言葉に、その少女は両腕を腰に当て大胆不敵に笑った。
「ええそうよ。私は魔物を眷属として使役する者――『魔物使い』。そして、世界最強の魔物使いへ与えられる至高の称号――『偉大なる一杯』を手にする(予定の)、栄光を約束された美少女」
やっぱりそうだった。
有り得ない。普通なら有り得ないのだ。
ワールドスキル『六道』の副次的な効果で幸運値が下降しているのだから。
でもこれは、きっとそういう運命にあったんだろうと自然に思えた。『人外』が『少女』に出会う――そういう、色眼鏡のかけられた、昔夢に見た物語のような運命に。
自分で美少女とかいってるし、『じぇのぐらんで』って何、予定のってすごい小声で言った、とかいろいろと突っ込みたいところはあるけれど。僕はぐっと堪えて、少女の発する言葉を待った。
きっと今だけじゃない、この瞬間を僕は待ち続けていたに違いないのだから。
「私の名前は――エルウェ・スノードロップ。……ねぇ、小さな騎士さん」
エルウェと名乗った少女は、こちらに華奢な手を差し伸べる。
ほっそりと白く、艶のある肌だ。ふと、想い出す。記憶の欠片の中で僕が握っていた彼女の手も、こんな風に綺麗な指をしていただろうか、と。
その時、僕は幻覚を見た。紫紺の双眸を瞠る。
それはきっと、僕の羨望が創り出した錯覚に過ぎない。でも確かに見えた。
少女――エルウェに、ストロベリーブロンドの髪を靡かせる彼女の面影を、ハッキリと。
そして、彼女は。
天使のような微笑みを添えて、こう言ったのだ。
「私の――眷属にならない?」
訝しげな顔をこてんと横に傾けて、美少女が反芻する。
「ルイは……そう、迷宮から一緒に出てきたスライムで……僕の家族」
心ここにあらずと言った調子でポツポツと言いながら、キョロキョロと辺りを見渡して見る。けれど黄金のスライムは見当たらない。異様に目立つなりをしているくせに目につかないと言うことは、この辺にはいないのだろうか。
というか、だ。
ここどこ? まったく見覚えないんだけど。
そもそもとして僕は《荒魔の樹海》にいたはずだが、鬱蒼と茂っていた森はいつの間にか草原に変わっていた。同じようにはらはらと降りしきる雪によって白化粧が塗られているが、間違いなく大森林は脱している。
近くには流れの緩やかな川。所々に氷塊が流れてくるあたり、上流の方で起きたサイクロプスによる洪水の規模を物語っているようで。僕も川の流れに運ばれてきたのだろうかと思うと、今になってぞぞっと寒気が走る。
「家族? スライム? 迷宮? おい鎧の魔物、それってなんの迷宮だァ? なんていう迷宮から出てきたァ」
「それは――」
と、僕が馬鹿正直に答えようとしていた所で、脳に直接響く声があった。
『ストップじゃ、其方』
僕の中で眠る黄金のドラゴン――シェルちゃんだ。
なんだか物凄い懐かしい感じがする。しばらく意識を失っていただけだというのに。
(……シェルちゃん? やぁ、無事だったんだね、よかった――ってシェルちゃんは僕が無事なら無事か。心配して損した)
『あれから日を跨いでおるため、一日ぶりの再開じゃて。それに、それはこちらの台詞であろ。あの高さはいくらなんでも肝を冷やしたのじゃ……それより、我の迷宮のことは他言しない方がいいかもしれぬ』
開いていた面甲をガチャ、コン、と緩やかに閉じる。
(それはまた、何で? 確か【金龍皇シエルリヒト】って人族側についてた『善性』なるドラゴンだったじゃん。もしかして悪いことしたの? ダメだよ悪いことしたなら自首しなきゃ)
『其方なぁ……今の世の中には我に敵愾心を向ける輩も多いのじゃ。故に外からの干渉が及ばぬように迷宮を閉ざしていた。その迷宮から出てきた魔物がいると知れれば……否が応でも厄介ごとに巻き込まれるであろ』
事情を知る知り合いがいるだけで、密かにそわそわしていた心が落ち着きを取り戻す。シェルちゃんが話している間に内心で大きく深呼吸。それをわざわざ彼女に伝えたりしないが、なるほど一理あるね、と心の中で返しておいた。
美少女に夢中で、今の今までシェルちゃんの存在自体忘れていたことは秘密である。
そうと決まれば誤魔化そう。さあ誤魔化そう。
大丈夫大丈夫、僕の兜はどれだけ変顔をしようがポーカーフェイスを維持できるという、隠し事をする際に最強の効果を発揮する前代未聞の最強兵器なのだ。もはやこのフルフェイス自体がスキルと言っても過言ではない。
「えぇっ!? ぼ、ぼっ、ぼひゅっ、ぜんぜんわひゃんなぃっ」
しね。最悪。
「お前は何をそんなにキョドってるんだァ……わざとか、わざとなのかァ? 疑って欲しいのかァ? 何が目的だ言ってみろォ」
『そうじゃったのじゃぁあ……其方はそういう才能が壊滅的に終わっているのじゃった……其方に誤魔化すなどという行為を頼んだ我が悪かったのじゃぁあ……っ』
フラム先輩がべらぼうに不審を抱き、シェルちゃんがおもくそ嘆いてくる。
うるさいうるさい。ああ、だめだ。やっぱり僕はこういう自分の意志に反する行動にめっぽう弱い。誤魔化しとか不可能だ。天性のポーカーフェイスを無駄にする次元でやばい。
……好き勝手に振る舞い、放恣に過ごして笑う。自分に正直にというコンセプトを胸に掲げ、自由に生きるのが一番楽で効率的だというのに。ままならない世の中だよこんちくしょうめ。
僕の反応をどう捉えたのかは知らないが、何やら少女とフラム先輩はひそひそと二人で話し込んでいる様子。背中を向けてあからさまな姿勢をとる必要はないだろうに。何、僕を虐めたいだけだろうか。
「やはり危ないヤツだァ。今ここで殺しておくべきだろォ」とフラム先輩。「ダメよ、多少挙動が変でも、魔物で高度な知能を持ってる個体は階級も高くなるの。野生とはいえ善性の魔物だし、どのみち殺せないでしょ。連れて行くわ」と少女。
割と酷いこと言ってるって気づいてるかな?
フラム先輩にいたっては殺そうとしてるし。
「でもこいつ、主の下着を見て興奮してたぞォ」とフラム先輩。「えっ、うそ……ううん、それは気のせいよ。だって人に情欲を覚えるの魔物はオークやゴブリンの亜人種に限るわ。この子は幻想種……放浪の鎧系統なのよ」と少女。
フラム先輩め、余計なことを言いよってからに。
一応少女がローブの中身が見えないように手で抑えたのは、僕の視線に多少思うところがあったからかもしれないね。大丈夫、僕は純粋な鎧の魔物です。だから捨てないで下さいお願いしますお願いします。
その間、僕は気になっていたことをシェルちゃんに聞いてみる。
(シェルちゃん、ルイどこにいったか知らない? 多分だけどさ、同じ系統に進化してるからか『金剛化』を共有できた感触があったんだよね。だから無事だと思うんだけど……)
『……うむ。見ていたのじゃ。我の魔力を魔物に与えたこと自体初めてであるゆえ、このようなことができるなど知らなかった。素で驚いたのじゃ。それで、まぁ、ルイはのぉ、その……』
珍しく、と言うほどでもないが、言い渋るシェルちゃん。
僕は眉根を寄せる。寄せたつもり、こんな時に限って、いらんポーカーフェイスが発動しているだけ。くたばれ。
(シェルちゃんなら僕が気絶してる間に何が起こったのか知ってるんでしょ? 教えてよ)
『むぅ……言っても怒らない?』
(怒る? 怒るようなことしたのあの子は? まぁいいよ、怒らないから言ってみ)
『そのー……逃げた、のじゃ』
「はぇ?」
シェルちゃんの言葉に、僕は思わず驚きを声に出してしまった。
何事かと振り向く美少女と額に赤い宝石を持つ子猫。しばらく黙ってたら再びバレバレの会議を始めた。先に比べ、少しだけ声量が落ちている気がする。
僕はシェルちゃんの言葉を噛み砕き、どうにか理解しようとする。
逃げた。ルイが逃げたと。そりゃまた何で、と不思議に思うほど僕も鈍感ではないんだけど……。
(……思い当たる節はあるけどさ、いや思い当たりすぎて逆にわかんないけど……それにしても逃げたってどういうことさ)
『ルイは其方を川から引き上げた後、去り際に言っておった――其方の近くにいると身の危険を感じるからここでお別れする、とな。……其方が意地悪ばかりするからじゃろうて。いじくり回すだけいじくり回して、碌な食べ物も与えない……嫌になるのも頷けるのじゃ』
対になっている紫紺の輝きを、僅かに拡張する。
(そ、っか……助けてくれたのルイだったのか。でも早くない? まだ迷宮出たばっかじゃん。ここまで高速で嫌われると、逆に凄いよね。でもさぁ、あの水晶林檎は本当に貴重なもので……)
『それでも、じゃ其方。粘水族の『食欲』は魂に刻まれた種族本能に近い。其方が歩き続けなければならなかったものと同じなのじゃ。あまり酷なことをしては可哀想であろ』
(それは――や、そっか。そうだな、種族本能は気合いで逆らえるモノじゃないもんなぁ。うーん、これは僕が悪かったかもしんない……)
『其方が素直に反省するとは、そこに驚きなのじゃ……まあ大丈夫じゃろうて。大きな出会いは魂と魂に絆の糸を繋ぐ。巡り巡って、いつか謝罪の時はくるであろ』
(そうだね。その時は……ちゃんと謝ってから揉ませてもらおう……)
『……其方、ちゃんと反省してる? あれれぇ、我すごく心配になってきたのじゃぁあ……ッ』
と、僕が珍しく反省し一人落ち込んでいた時、
「そうだといいんだがなァ……」
フラム先輩の溜息交じりの言葉をささやかな号砲に、会議を終えた二人がくるりと振り返る。
一転して少女の顔に張り付いてるのは、花が綻ぶような笑顔だ。
いや、その、あの……聞こえてたから。細部まで聞こえてたからね君達。隠す気とかないよねもう。小声で話すにしてもせめてもうちょっと距離とろうよ。いじめかよ。
と、フラム先輩が諦念を吹き飛ばすように言う。
「はぁ……主がそう言うならオレはそれでいィ。まァ、『世界最強の魔物使い』を目指してるんだァ。仲間は多い方が主の助けになるしなァ」
ざわり、と僕の紫紺の瞳が波打つ。
「魔物……使い?」
《金龍の迷宮》にてシェルちゃんと話している時に話題に上がった、仕えるならばと目をつけていた人種だ。まさか、まさかまさか。運が良いってもんじゃないぞ。
半ば呆然と零した僕の言葉に、その少女は両腕を腰に当て大胆不敵に笑った。
「ええそうよ。私は魔物を眷属として使役する者――『魔物使い』。そして、世界最強の魔物使いへ与えられる至高の称号――『偉大なる一杯』を手にする(予定の)、栄光を約束された美少女」
やっぱりそうだった。
有り得ない。普通なら有り得ないのだ。
ワールドスキル『六道』の副次的な効果で幸運値が下降しているのだから。
でもこれは、きっとそういう運命にあったんだろうと自然に思えた。『人外』が『少女』に出会う――そういう、色眼鏡のかけられた、昔夢に見た物語のような運命に。
自分で美少女とかいってるし、『じぇのぐらんで』って何、予定のってすごい小声で言った、とかいろいろと突っ込みたいところはあるけれど。僕はぐっと堪えて、少女の発する言葉を待った。
きっと今だけじゃない、この瞬間を僕は待ち続けていたに違いないのだから。
「私の名前は――エルウェ・スノードロップ。……ねぇ、小さな騎士さん」
エルウェと名乗った少女は、こちらに華奢な手を差し伸べる。
ほっそりと白く、艶のある肌だ。ふと、想い出す。記憶の欠片の中で僕が握っていた彼女の手も、こんな風に綺麗な指をしていただろうか、と。
その時、僕は幻覚を見た。紫紺の双眸を瞠る。
それはきっと、僕の羨望が創り出した錯覚に過ぎない。でも確かに見えた。
少女――エルウェに、ストロベリーブロンドの髪を靡かせる彼女の面影を、ハッキリと。
そして、彼女は。
天使のような微笑みを添えて、こう言ったのだ。
「私の――眷属にならない?」
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