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第二章:勇者ベルと三姉妹
第一話:早朝の襲撃①
しおりを挟む西地区の街は、早朝だというのに驚きと緊張の声が雑多となり喧騒といってもいいほどの騒ぎとなっていた。
俺は、通りのすみで怯えて肩を抱き合っている老夫婦に話しかけた。
「おい、いったいなんの騒ぎだ。何があった」
「お、親分さん!」
老夫婦の側に立っていた男が俺の方に軽く会釈をする。
悪華組(デモゴルゴン)を壊滅させた俺が、奴らと同じように裏稼業をしていると思っている町人も多い。
そのため、俺のことを親分と呼ぶ者が大半だ。
「いま戻ったところだ。こんな朝からこの騒ぎはなんだ」
「ええと、悪魔爪組のやつらが、夜中に街に火をつけて周り出して……
何人か死人が出たのですが、その中に自警団の団長も奴らにやられたんです」
自警団の団長は、ルッカスという男だったはず。一度、ミオンが殺された日に取り調べを受けたときに部屋にいたやつだ。
団長ともなると戦闘能力も、魔法の力も低くはない。そんな団長を倒したやつが悪魔爪組にいたことに俺は驚いた。
所詮、東地区で徒党を組み、ヒモやチンピラから金を上納させたり、娼婦からみかじめ料を集めているだけの集団だと俺は高を括っていた。
何故奴らは突然こちら側を襲撃したのか身に覚えがない。
小さな小競り合いをすることはあったが、チンピラ同士のケンカ程度で火を放ったり人を殺したりするようなことは俺がこの街に来て以来一度もなかった。
男に何か知っているかと聞いてみたが、首を振るだけだ。
俺は、怯えている老夫婦に俺がなんとかしてやる、大丈夫だと声をかけた。
老夫婦は、俺の言葉に少し冷静になれたのか、黙って頷くと逃げるように家の中に戻っていった。
男から聞いた話だけでは、経緯まではわからなかった。
被害の状況も見ておきたい。とりあえず現場に行ってみよう。何があったのかこの目で確かめたい。
ナミはきっと今ごろ情報収集しているだろう。
まさか、まだ寝ているということはないはずだ。
ナミは寝起きが悪く、起きてくるまでに時間がかかる。
女の朝はすることが多いんだから、遅刻して何が悪いんだと開き直った言い訳を今まで何度となく聞いてきた。
だが、今朝の喧騒の街の様子ではすでに行動をとっている可能性は高い。
「あのー、セイヤさん?」
俺は振り返ると、そこに肩まで伸びた銀髪に細身の女が立っていた。
武器職人のサリーの家に寝泊まりして仕事を手伝っているララだった。
資材の買い出しをしていたのか、皮で作られたエプロンをつけていた。
「お前たちは大丈夫だったのか?」
「はい、サリーさんも私も被害はないので大丈夫です。火をつけられたのは、少し離れた場所でしたから」
「時間があるか?ちょっとその場所まで案内してくれ」
俺は、ララに被害が大きかった場所へ案内させることにした。
買い出しは既に終わっているようだったので、その前にサリーの店に寄ることにした。
俺が持っている建物の一階にサリーの武器屋がある。
サリーの武器屋は、防具も扱っているが主に武器作りに力を入れていた。
看板には両手剣と片手剣をクロスさせた模様の下にサリーの名がつけられていた。
開業してひと月ほどだが、冒険者からの評判も良くなってきている。
丁寧な仕事と、女性らしい飾り彫りされていて可愛いと評判となり、女冒険者からの注文が多いそうだ。
「サリーさん、帰りましたー!」
ララの声を聞きつけ、サリーが店のカウンターの裏から顔を出す。
ララと俺が一緒に入ってきたため、うれしさを隠せない満面の笑みで迎えてくれた。
ドワーフ族だが人間の女性に近い。ただ全体的に筋肉質で髪は緑色をしている。
短めの髪型だが、とても似合っている。しかも、女性の象徴である胸の大きさは申し分ない。
「わー、セイヤだ!こんな朝早くからどうしてここへ?」
サリーは、駆け寄ってくると俺の腕にしがみついて、胸を押し付けてきた。
弾力のある瑞々しい胸だ。エプロンの上からでもはっきりと感触がわかる。
この店を貸した時から、なつかれてしまったのだが気立ての良い娘だから悪い気はしない。
「今朝の騒ぎを聞きつけてな」
それとなく、サリーの体を俺の腕から引き剥がした。
「ララを少しばかり借りて行く。店番がいなくなるがいいか」
「それはいいけど……どこに行くの、まさか二人で!」
サリーは、俺とララの顔を交互に見て、何やらいやらしい想像をしているのかニヤついている。
「ちょっと、サリーさん、変な想像はやめてください! 今朝のことでセイヤさんに案内を頼まれたんです」
ララは耳まで真っ赤にして否定している。
サリーは、赤面してうろたえているララを見て、からかい甲斐があると思ったのかムキになって否定するところが怪しいと、ララをからかった。
仲がいいのは良いのだが、のんびりじゃれあっている場合ではない。
「今朝の騒ぎだが、俺はちょうど出かけていて知らんからララに案内してくれと頼んだだけだ」
「そうですよ、サリーさん勘違いしないでくださいよー。
そりゃ、セイヤさんと二人でお出かけなんて初めてだから……」
ララはモジモジと体をくねらせて恥ずかしがっている。
「ちょっ、ララってば、マジでセイヤさんとエッチなことを想像してたりしてるの」
サリーは、ララの胸をツンツンと突っついてからかう。
ララも、ああん、と体をよじって反応する。どこまでこの漫才が続くのか。
「そろそろ、お前たちやめておけ。時間が惜しい。女同士のおしゃべりは後でやってくれ」
「ゴメンね。よし、あたいも一緒に行くよ。セイヤさん、いいよね?」
両手を合わせ、上目遣いでサリーが言う。
いつからこんな甘え上手になったのだと感心した。
一人より二人の話を聞けば何か見えてくるかもしれないと、俺は了承することにした。
「それでかまわないが、遊びに行くわけじゃないんだ」
念のために、釘を刺しておく。
「わかってるって。それに今朝はお客さんも来ないから少しくらい閉めてても大丈夫だよ」
大きな胸に拳をドンと打ち付け、ふんぞり返るサリーを見てカラダは大人だがまだガキだなと思った。
まず、火を放たれた場所と亡くなった人のところに行って状況を把握しておきたい。
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