美しい人

志子

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それから

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「今回の滞在、随分長いわね」
「ああ」
「居心地いいのかしら?」
「どうだろうな」
「兵隊さんも調査だとか言って森に入るけど戻されちゃってるし、……魔女の機嫌が悪くならないといいわぁ」

 はぁ…とため息をつく母さんの横で俺は山羊のミルクで煮込んだ野菜スープを飲んだ。寒くなるとこういうあったかいスープが旨く感じる。

 秋に出現した魔女の塔は、冬間近になっても未だ森の中に佇んでいた。

 今までにない長期滞在に国は警戒したのか、兵隊を派遣し魔女の塔を調べようとした。だが案の定、誰一人魔女の塔に辿り着くことはできなかった。

 兵隊は村の人たちに「魔女の塔に辿りついた者は?」と聞いて周ったみたいだけど、誰一人首を縦に振るものはいなかった。もちろん俺も。
 
 ドミニク叔父さんは大丈夫だったかな? と心配した。なんせ質問する兵隊の圧が凄かったのだ。ほぼ脅しレベル。ドミニク叔父さん、気が弱いからポロっと言いそうだと思っていたらなんとか耐えたらしい。泣きそうな顔で俺に「へ、兵隊より魔女のほうが怖かったから」とこっそりと言ってきた。あれ? やっぱ魔女の塔の出来事、結構トラウマになってる?

 食事を終えた俺は食器を洗った。ひぇぇ、水が冷たすぎる! 

(こういう時、前世の文明のありがたみをひしひし感じる……)

 転生ものの小説なら前世の知識をフルに使ってバンバン革命を起こすところだが、生憎と俺には専門知識なんてこれっぽっちもないので、小説みたいな展開は起こらない。

(そもそもそういった小説って、大概主人公が貴族に転生することが多いんだよなぁ)

 やっぱ革命には金とそこそこの権力が必要だからかなぁ……。いや、貴族になったとしても専門知識がないから無理だわ。なんて考えていたら、目の前の景色が変わった。

「……ういー」
「こ、こんにちはっ!」
「……」

 俺がリビングにいる二人に軽く手を上げると、一人掛けのソファに座っている金髪……リアンが嬉しそうな声を上げ、三人掛けのソファに座っているオーウェンは視線だけを俺によこした。

(この瞬間移動はどうしても慣れない……)

 魔女の塔に来るようになって十回は超えるが、このどっきりだけは慣れない。二人に「呼ぶなら事前に知らせぐらいは欲しいと魔女に伝えてくれ」と頼んだら、この瞬間移動は魔女がやっているわけではなく、極稀に外の人間がここに迷い込んでくるらしい。なんじゃそりゃ。しかも極稀にって俺の場合はなんなんだ? と疑問を二人にぶつけたら、魔女も分からないとのこと。マジかよ。……もうあれだ、ファンタジーあるあると思うことにした。いや、あるあるでもこのどっきりは勘弁してほしい。

「きょ、今日は、あ、アルコッティーにしたんだ」

 俺が背凭れのない一人掛けの椅子に腰掛けると、リアンがいそいそとティーカップに聞き慣れない名前の紅茶を注いで俺の前に出してきた。

 貴族が平民にお茶を出すってどうよ? と思ったがリアンが楽しそうに淹れているので黙ることにした。ちなみに二人は、俺が二人が貴族だと気づいてることを知っていた。

『汚れ一つない小綺麗な恰好をしてれば一発で分かるだろ。あとオーラとか』
『オーラ? お前は他人の魔力を認識することが出来るのか?』

 驚く二人に俺は慌てて『違うっ! えっと! 雰囲気だよ! 雰囲気! こう……明らかに平民じゃない雰囲気を纏っているというか…とにかくそんな感じだっ!』と訂正した。

 この世界ではオーラ=魔力ということを意味するのかと改めて認識した。確かにゲームや漫画本にあったな。前世ではオーラ=雰囲気というニュアンスで使っていたから無意識に言ってしまった。なんか他にも認識違いがありそうでこえーな。

 オーウェンに気付かない振りをした理由を聞かれ、『な、なんとなく、触れないほうがいいかな? って思って……』と答えることしかできなかった。いや、まさかゲームや漫画本、ネット小説によくある‟訳ありキャラ„に似ていてそう思いましたー。なんて言えるわけがない!

 気付かない振りがバレた以上、タメ口はやめたほうがいいなと思い、態度を改めたら速攻で二人に「やめろ(て)」と言われた。

「たしかマヌ王国のトゥレイ遺跡だったな」
「そうそう」
 
 俺はテーブルの隅に置いてある丸められた紙を広げた。紙にはダンジョンの内部と階毎に出現するモンスターとトラップが事細かく描かれていた。遺跡探索者が作成したもののレプリカらしい。

 この世界にはダンジョンが存在している。今よりチビだった頃、その存在を知った時はテンションが上がった。……が、魔法の知識同様にダンジョンには沢山のお宝が眠っているが、恐ろしいモンスターもたくさんいるってぐらいしか情報がなかった。

『本に書かれてることでいいなら教えることはできるぞ』

 オーウェンに治療の対価として何がいいか?と聞かれ、ぽろりとダンジョンのことを言ったらオーウェンがそう答えた。思わず「お前、神か」と言いそうになって慌てて口を閉じた。

 本当は対価なんていらないのだが、オーウェンは借りを作るのが嫌みたいだ。本人はそんなこと一言も言っていないが態度に思いっきり出ていた。オーウェンは金や宝石を提示してきたが断固拒否をした。そんなもん平民の子どもが持っていたら怪しさしかない。っていうか金や宝石をさらっと提示してくるあたり二人はやっぱり貴族なんだなぁって改めて思った。

 オーウェンが膝の上に広げた本をすらすらと読んでいく。オーウェンが読んでいる本は考古学でダンジョンのことも書かれているらしい。まあそれ以外にも歴史学や産業なども読んでいるとのこと。貴族って小さい時からバリバリの英才教育するだな。大変だ。本人は剣術より好きだから苦でないらしい。ちなみにリアンも剣術は苦手らしい。二人とも似合いそうなのになぁ。なんて口にはしないが。

 以来、ここに来た時はもっぱらリアンが入れてくれるお茶を飲みながら、オーウェンのダンジョン話を聞いてる。色んなダンジョンやモンスターがいて飽きないし、オーウェンの知識も凄い。一つ聞くと、三つも四つも返ってくる。

 またこの世界にはエルフやドワーフ、魔族などの種族もいるらしい。らしいというのはこの辺にはいないという。ちょっと残念。……いや、魔物の影に怯えながら暮らすのは嫌だな。うん、やっぱいなくて正解だ。

 他に海の向こう側にある大陸にはドラゴンの血を引く一族がいるらしいが、エルフ以上に閉鎖的で深紅の髪に黄金の目という容姿をしていること以外まったく分からないらしい。謎に包まれた一族ってなんかかっこいいよなぁ。

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