美しい人

志子

文字の大きさ
24 / 31

それから

しおりを挟む
「今回の滞在、随分長いわね」
「ああ」
「居心地いいのかしら?」
「どうだろうな」
「兵隊さんも調査だとか言って森に入るけど戻されちゃってるし、……魔女の機嫌が悪くならないといいわぁ」

 はぁ…とため息をつく母さんの横で俺は山羊のミルクで煮込んだ野菜スープを飲んだ。寒くなるとこういうあったかいスープが旨く感じる。

 秋に出現した魔女の塔は、冬間近になっても未だ森の中に佇んでいた。

 今までにない長期滞在に国は警戒したのか、兵隊を派遣し魔女の塔を調べようとした。だが案の定、誰一人魔女の塔に辿り着くことはできなかった。

 兵隊は村の人たちに「魔女の塔に辿りついた者は?」と聞いて周ったみたいだけど、誰一人首を縦に振るものはいなかった。もちろん俺も。
 
 ドミニク叔父さんは大丈夫だったかな? と心配した。なんせ質問する兵隊の圧が凄かったのだ。ほぼ脅しレベル。ドミニク叔父さん、気が弱いからポロっと言いそうだと思っていたらなんとか耐えたらしい。泣きそうな顔で俺に「へ、兵隊より魔女のほうが怖かったから」とこっそりと言ってきた。あれ? やっぱ魔女の塔の出来事、結構トラウマになってる?

 食事を終えた俺は食器を洗った。ひぇぇ、水が冷たすぎる! 

(こういう時、前世の文明のありがたみをひしひし感じる……)

 転生ものの小説なら前世の知識をフルに使ってバンバン革命を起こすところだが、生憎と俺には専門知識なんてこれっぽっちもないので、小説みたいな展開は起こらない。

(そもそもそういった小説って、大概主人公が貴族に転生することが多いんだよなぁ)

 やっぱ革命には金とそこそこの権力が必要だからかなぁ……。いや、貴族になったとしても専門知識がないから無理だわ。なんて考えていたら、目の前の景色が変わった。

「……ういー」
「こ、こんにちはっ!」
「……」

 俺がリビングにいる二人に軽く手を上げると、一人掛けのソファに座っている金髪……リアンが嬉しそうな声を上げ、三人掛けのソファに座っているオーウェンは視線だけを俺によこした。

(この瞬間移動はどうしても慣れない……)

 魔女の塔に来るようになって十回は超えるが、このどっきりだけは慣れない。二人に「呼ぶなら事前に知らせぐらいは欲しいと魔女に伝えてくれ」と頼んだら、この瞬間移動は魔女がやっているわけではなく、極稀に外の人間がここに迷い込んでくるらしい。なんじゃそりゃ。しかも極稀にって俺の場合はなんなんだ? と疑問を二人にぶつけたら、魔女も分からないとのこと。マジかよ。……もうあれだ、ファンタジーあるあると思うことにした。いや、あるあるでもこのどっきりは勘弁してほしい。

「きょ、今日は、あ、アルコッティーにしたんだ」

 俺が背凭れのない一人掛けの椅子に腰掛けると、リアンがいそいそとティーカップに聞き慣れない名前の紅茶を注いで俺の前に出してきた。

 貴族が平民にお茶を出すってどうよ? と思ったがリアンが楽しそうに淹れているので黙ることにした。ちなみに二人は、俺が二人が貴族だと気づいてることを知っていた。

『汚れ一つない小綺麗な恰好をしてれば一発で分かるだろ。あとオーラとか』
『オーラ? お前は他人の魔力を認識することが出来るのか?』

 驚く二人に俺は慌てて『違うっ! えっと! 雰囲気だよ! 雰囲気! こう……明らかに平民じゃない雰囲気を纏っているというか…とにかくそんな感じだっ!』と訂正した。

 この世界ではオーラ=魔力ということを意味するのかと改めて認識した。確かにゲームや漫画本にあったな。前世ではオーラ=雰囲気というニュアンスで使っていたから無意識に言ってしまった。なんか他にも認識違いがありそうでこえーな。

 オーウェンに気付かない振りをした理由を聞かれ、『な、なんとなく、触れないほうがいいかな? って思って……』と答えることしかできなかった。いや、まさかゲームや漫画本、ネット小説によくある‟訳ありキャラ„に似ていてそう思いましたー。なんて言えるわけがない!

 気付かない振りがバレた以上、タメ口はやめたほうがいいなと思い、態度を改めたら速攻で二人に「やめろ(て)」と言われた。

「たしかマヌ王国のトゥレイ遺跡だったな」
「そうそう」
 
 俺はテーブルの隅に置いてある丸められた紙を広げた。紙にはダンジョンの内部と階毎に出現するモンスターとトラップが事細かく描かれていた。遺跡探索者が作成したもののレプリカらしい。

 この世界にはダンジョンが存在している。今よりチビだった頃、その存在を知った時はテンションが上がった。……が、魔法の知識同様にダンジョンには沢山のお宝が眠っているが、恐ろしいモンスターもたくさんいるってぐらいしか情報がなかった。

『本に書かれてることでいいなら教えることはできるぞ』

 オーウェンに治療の対価として何がいいか?と聞かれ、ぽろりとダンジョンのことを言ったらオーウェンがそう答えた。思わず「お前、神か」と言いそうになって慌てて口を閉じた。

 本当は対価なんていらないのだが、オーウェンは借りを作るのが嫌みたいだ。本人はそんなこと一言も言っていないが態度に思いっきり出ていた。オーウェンは金や宝石を提示してきたが断固拒否をした。そんなもん平民の子どもが持っていたら怪しさしかない。っていうか金や宝石をさらっと提示してくるあたり二人はやっぱり貴族なんだなぁって改めて思った。

 オーウェンが膝の上に広げた本をすらすらと読んでいく。オーウェンが読んでいる本は考古学でダンジョンのことも書かれているらしい。まあそれ以外にも歴史学や産業なども読んでいるとのこと。貴族って小さい時からバリバリの英才教育するだな。大変だ。本人は剣術より好きだから苦でないらしい。ちなみにリアンも剣術は苦手らしい。二人とも似合いそうなのになぁ。なんて口にはしないが。

 以来、ここに来た時はもっぱらリアンが入れてくれるお茶を飲みながら、オーウェンのダンジョン話を聞いてる。色んなダンジョンやモンスターがいて飽きないし、オーウェンの知識も凄い。一つ聞くと、三つも四つも返ってくる。

 またこの世界にはエルフやドワーフ、魔族などの種族もいるらしい。らしいというのはこの辺にはいないという。ちょっと残念。……いや、魔物の影に怯えながら暮らすのは嫌だな。うん、やっぱいなくて正解だ。

 他に海の向こう側にある大陸にはドラゴンの血を引く一族がいるらしいが、エルフ以上に閉鎖的で深紅の髪に黄金の目という容姿をしていること以外まったく分からないらしい。謎に包まれた一族ってなんかかっこいいよなぁ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

第2王子は断罪役を放棄します!

木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。 前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。 それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。 記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる! ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる! スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します! この話は小説家になろうにも投稿しています。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

生意気Ωは運命を信じない

羊野迷路
BL
小学生の時からかっていた同級生と、進学校(自称)である翠鳳高校で再会する。 再会した元同級生はαとなっており、美しさと男らしさを兼ね備えた極上の美形へと育っていた。 *のある話は背後注意かもしれません。 独自設定ありなので1話目のオメガバースの設定を読んでから進んでいただけると理解しやすいかと思います。 読むのが面倒という方は、 1、Ωは劣っているわけではない 2、αかΩかは2つの数値によりβから分かれる 3、Ωは高校生以上に発覚する事が多い この3つを覚えておくと、ここでは大体大丈夫だと思われます。 独自設定部分は少しいじる事があるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。 追記 受けと攻めがくっつくのはまだ先になりますので、まったりお待ちください。

処理中です...