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side:神官①
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中央神殿でヴァルアラ神の像を初めて拝見したのは五歳の時だった。
慈しむような眼差しに柔らかな微笑みを浮かべるそのお姿はまさに治癒神を象徴する女神様であった。
そのお姿に小さな私はただただ静かに涙を流した。
そして悟ったのだ。
私はヴァルアラ神に仕えるために生まれてきたのだと。
私は侯爵家の三男として生を受けた。二人の兄とは年がかなり離れていたこともあり大変可愛がられて育った。
そして七歳の時、魔力の多さと魔力属性が治癒だと判明した私は見習い神官として中央神殿に入ることになった。
母と兄たちに「寂しくなるが、ヴァルアラ神の使者という名に恥じぬよう務めよ」と激励してくれた。……その中、父は私に言った。
『与えられた言葉すべてを鵜呑みにするな。そして決して目と心を濁らせてはならない』と……。
父がなぜそう言ったのか最初は理解できなかった。……しかし神殿で過ごしていく内に父の言葉の意味を理解してしまった。
「私は常々思うのです。平民に白の儀式を行うのは無駄であると。儀式に係る費用はすべて神殿が賄うのです。その費用は馬鹿になりません」
「ええ、儀式を行ったところで魔力は微々たるもの。分かったところで一体なんの役に立つのでしょうか」
馬車に中で私の向かいに座っている二人の見習い神官の「なぜ高貴な自分たちが僻地にわざわざ足を運ばねばならないのか」という不平不満を私は耳から耳へと聞き流した。
彼らの漂わせる空気が濁っていて……あまり気分が良くない。私は小さく息を吐き出し窓の外を見た。
この国では七歳になると身分に関係なくすべての者が、魔力の属性と魔力量を神殿に登録することが義務付けられている。
本来は中央神殿に赴いて儀式を受けるのだが、僻地に住んでいる平民たちは王都までの路銀を持ち合わせていないため、代わりに神官がその地へ赴き儀式を執り行っている。
しかし僻地故、毎年足を運ぶとになると費用がかかる上、その年によって儀式を受ける子どもが一人、二人しかいない場合もある。なのである程度子どもが揃ってから村長が依頼の手紙を出し、私たちが赴くという形を取っている。………しかし手紙が来たからといってすぐに行くとは限らない。現に今回の依頼も何度も催促がきてようやく動いた……という感じだった。
(平民の登録義務は必要なのか? という声はよく聴く)
しかしそれについて上層部が真剣に議論することはなかった。話題にはするがそれだけという感じだった。
(父は神殿にとって何かしらの利点があるのだろうと言っていたが……)
馬車の小窓から滞在する辺境伯の屋敷が見え、私は思考を現実に戻した。辺境伯の屋敷に一泊した後、馬車で村に向かった。
(あの子に会えるだろうか……)
脳裏に浮かぶのは三年前の儀式で出会った一人の少年の顔だった。
三年前。
二人の先輩と共に神官として初めて僻地にあるこの村に来た。
(あれ?)
馬車から降りた私は地面から感じた魔力に首を傾げた。魔力は自然界にも存在している。しかしその魔力を感じとることができる人間は少ない。私はその数少ない者の一人だった。
(土の魔力が……それに風も……)
凄く澄んでいる。地面から私の身体に流れ込んでくる魔力がなんとも心地よかった。
(これは一体……)
体験したことのない未知の感覚に私は内心動揺しながら、村長に教会の扉の鍵を開けて貰った。
「………っ!」
扉を開けた瞬間中から清らかな空気が溢れ出し、私は言葉を失った。
(これは治癒の……魔力?)
教会の中に漂っている空気の中に微力であるがヴァルアラ神の力を感じる。
「我々は準備をしますので、儀式を受ける子ども達を連れてきてください」
「わかりました」
先輩の言葉に村長は頭を下げて少し離れた場所にある村へ戻って言った。
「………はぁ、なんともみすぼらしいですね。ヴァルアラ神への感謝の念をまったく感じられません」
中に入ってそうぼやいた先輩の言葉に私は思わず眉間に皺を寄せた。先輩の言葉に賛同するかのようにもう一人の先輩が顔を顰めた。
「埃臭くて堪りません。早く終わらせてさっさと帰りましょう」
私は唖然とした。埃臭い? 何を言っている? 隅々まで掃除が行き渡っていて清潔ではないか。そう言いそうになり、慌てて口を噤んだ。
(エルバス大神官の仰る通りだった……)
私が敬愛する大神官が僻地へ赴くことになった私にそっと言った。
”僻地へ行くと彼らの本来の姿が現れます。彼らの姿を、彼らの吐く言葉をよく覚えていなさい。……ああ、決して反論などしてはいけないよ。君は侯爵家の人間だが、ここでは身分など通用しないのだから„
私は自分を落ち着かせるように深く息を吐き出し、儀式の準備を始めた。
慈しむような眼差しに柔らかな微笑みを浮かべるそのお姿はまさに治癒神を象徴する女神様であった。
そのお姿に小さな私はただただ静かに涙を流した。
そして悟ったのだ。
私はヴァルアラ神に仕えるために生まれてきたのだと。
私は侯爵家の三男として生を受けた。二人の兄とは年がかなり離れていたこともあり大変可愛がられて育った。
そして七歳の時、魔力の多さと魔力属性が治癒だと判明した私は見習い神官として中央神殿に入ることになった。
母と兄たちに「寂しくなるが、ヴァルアラ神の使者という名に恥じぬよう務めよ」と激励してくれた。……その中、父は私に言った。
『与えられた言葉すべてを鵜呑みにするな。そして決して目と心を濁らせてはならない』と……。
父がなぜそう言ったのか最初は理解できなかった。……しかし神殿で過ごしていく内に父の言葉の意味を理解してしまった。
「私は常々思うのです。平民に白の儀式を行うのは無駄であると。儀式に係る費用はすべて神殿が賄うのです。その費用は馬鹿になりません」
「ええ、儀式を行ったところで魔力は微々たるもの。分かったところで一体なんの役に立つのでしょうか」
馬車に中で私の向かいに座っている二人の見習い神官の「なぜ高貴な自分たちが僻地にわざわざ足を運ばねばならないのか」という不平不満を私は耳から耳へと聞き流した。
彼らの漂わせる空気が濁っていて……あまり気分が良くない。私は小さく息を吐き出し窓の外を見た。
この国では七歳になると身分に関係なくすべての者が、魔力の属性と魔力量を神殿に登録することが義務付けられている。
本来は中央神殿に赴いて儀式を受けるのだが、僻地に住んでいる平民たちは王都までの路銀を持ち合わせていないため、代わりに神官がその地へ赴き儀式を執り行っている。
しかし僻地故、毎年足を運ぶとになると費用がかかる上、その年によって儀式を受ける子どもが一人、二人しかいない場合もある。なのである程度子どもが揃ってから村長が依頼の手紙を出し、私たちが赴くという形を取っている。………しかし手紙が来たからといってすぐに行くとは限らない。現に今回の依頼も何度も催促がきてようやく動いた……という感じだった。
(平民の登録義務は必要なのか? という声はよく聴く)
しかしそれについて上層部が真剣に議論することはなかった。話題にはするがそれだけという感じだった。
(父は神殿にとって何かしらの利点があるのだろうと言っていたが……)
馬車の小窓から滞在する辺境伯の屋敷が見え、私は思考を現実に戻した。辺境伯の屋敷に一泊した後、馬車で村に向かった。
(あの子に会えるだろうか……)
脳裏に浮かぶのは三年前の儀式で出会った一人の少年の顔だった。
三年前。
二人の先輩と共に神官として初めて僻地にあるこの村に来た。
(あれ?)
馬車から降りた私は地面から感じた魔力に首を傾げた。魔力は自然界にも存在している。しかしその魔力を感じとることができる人間は少ない。私はその数少ない者の一人だった。
(土の魔力が……それに風も……)
凄く澄んでいる。地面から私の身体に流れ込んでくる魔力がなんとも心地よかった。
(これは一体……)
体験したことのない未知の感覚に私は内心動揺しながら、村長に教会の扉の鍵を開けて貰った。
「………っ!」
扉を開けた瞬間中から清らかな空気が溢れ出し、私は言葉を失った。
(これは治癒の……魔力?)
教会の中に漂っている空気の中に微力であるがヴァルアラ神の力を感じる。
「我々は準備をしますので、儀式を受ける子ども達を連れてきてください」
「わかりました」
先輩の言葉に村長は頭を下げて少し離れた場所にある村へ戻って言った。
「………はぁ、なんともみすぼらしいですね。ヴァルアラ神への感謝の念をまったく感じられません」
中に入ってそうぼやいた先輩の言葉に私は思わず眉間に皺を寄せた。先輩の言葉に賛同するかのようにもう一人の先輩が顔を顰めた。
「埃臭くて堪りません。早く終わらせてさっさと帰りましょう」
私は唖然とした。埃臭い? 何を言っている? 隅々まで掃除が行き渡っていて清潔ではないか。そう言いそうになり、慌てて口を噤んだ。
(エルバス大神官の仰る通りだった……)
私が敬愛する大神官が僻地へ赴くことになった私にそっと言った。
”僻地へ行くと彼らの本来の姿が現れます。彼らの姿を、彼らの吐く言葉をよく覚えていなさい。……ああ、決して反論などしてはいけないよ。君は侯爵家の人間だが、ここでは身分など通用しないのだから„
私は自分を落ち着かせるように深く息を吐き出し、儀式の準備を始めた。
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